販売主任 住吉大樹さんインタビュー

「金具」から始まった、手仕事の温かさを届ける店/ギャラリーショップKANAGU(東京都)


東京都港区、新橋四丁目交差点近くのビル1階にある「KANAGU」。ガラス越しに中を見れば、素敵な器やカトラリーがちらほら見えますが、雑貨店なのか、ギャラリーなのかは分かりません。気になって足を踏み入れても、多くの人はまず「ここは何のお店?」と聞くことになります。

この問いに答えてくれたのは、ショップの販売主任をされている住吉大樹さん。2008年にこの店の経営母体である「アトムリビンテック」に入社し、ショップの立ち上げから携わってきた方です。

住吉さん:「弊社は内装用の金具、たとえばドアの取っ手や丁番(蝶つがい)、引き戸のレールや戸車などを建築業界に卸しているメーカーでして、このビルも自社ビルなのですが、1階はもともとショールームで、以前はお得意先様とか、建築業界の方だけが来るような場所だったんです。」

住吉さん:「でも、それだけじゃもったいないということで、2010年に、伝統工芸やインテリア雑貨を取り扱うショップを始めました。“KANAGU”という名前はもちろん金具が由来でして、創業者がもともと、台東区の入谷でふいごを吹いて錺(かざり)金物を手作りしたところからスタートしたので、“手仕事”をキーワードにしながら、いろんな職人さんと交流をもちながら、販売をしています。」

会社のマインドを形として表現したものが「KANAGU」ということですが、店で扱っているのは金属製品だけではありません。陶磁器、ガラス製品、紙や布製品などであっても、血の通った「手仕事」の品であれば、幅広く扱っているといいます。

住吉さん:「工芸品って人が作るものですから、結局は“ご縁”なんです。だからうちは、職人さんの人柄をすごく重視しています。やっぱりモノが良くても、作っている人と考え方が合わなければ、私たちも、お客様におすすめをしにくい。職人さんの考えを代弁するのが我々の仕事ですので。」

なるほど、人間関係を大切にする、無機質な金属の印象とは真逆にも見えるポリシーが興味深いですね。金属は冷たく無機質なものですが、手にするとほんのり温まり、やがて手のぬくもりと同化します。それに似た温かさが、この店の根底には息づいていると思います。

売れ筋の品を聞くと、次々と饒舌に、商品の魅力を語り始めた住吉さん。錫(すず)の板をハンマーで打って槌目を作り、皿状に仕立てた一品は、錫の柔らかい特性を生かして手で自由に曲げて使える。錫の猪口なども、定番人気の品。

住吉さん:「錫は日本酒との相性が抜群に良いんですが、なぜかと言うと、それは、よく分かっていないんですね。ある研究で、味が変わったことは立証できたけれど、なぜ変わったのかは分からなかったという話もあります。ちなみにこのお皿の槌目は、お寺の“おりん”や磬子(けいす)を作る技を使っているんですよ。」

そのほかにも、氷が一日溶けないチタンのグラス、軽量を極めた燕三条製のステンレス水筒、光の当たり方で波文様が変化するガラス文鎮、透けるほど薄い波佐見焼の器に、福岡でわずかに残る曲げわっぱのカバーを合わせたカップ、銅の抗菌効果を利用した吊革グリップなど、メッセージの強い魅力的な商品が並んでいます。ぱっと見ただけでは通り過ぎてしまうような品も、熱の入った商品説明を聞けば、俄然購入意欲が湧いてくるから不思議です。

店の奥には、もうひとつギャラリー風のスペースがあり、壁材、床材、表札等のほか、掛け時計や名刺ケースなどの雑貨も置いています。ここに並ぶのは「モメンタムファクトリーOrii」という工房の製品で、真鍮の板に特殊な工程を経て緑青を“発色”させた商品をはじめ、金属の特性を生かした自然な色あい、風合いの商品を展開しています。発色方法を尋ねれば、住吉さんは意気揚々と工程を語ってくれます。目を寄せてみるほどに、金属のもつ風合いの精緻を感じる逸品揃い。

住吉さん:「天然のものだから、色合いもムラもひとつひとつ違っていて、すべてが、世界にひとつだけの商品なんです。それが手仕事の面白いところですよね」と住吉さん。近年は新橋周辺の企業からの引き合いも多く、取引先や訪問先への贈答に頻繁に用いられれるという。ラッピングひとつに関しても、金沢の水引工房に特注した水引を使うなどこだわり抜いている。

十数年この場所に通い続けているという住吉さん。近年の周辺の変化と新橋・虎ノ門について、どのように感じているのでしょうか。

住吉さん:「新橋も虎ノ門も、街自体が大きく変わって、10年前とはまったく違う風景になりました。新虎通りができて、新しいビルが建って、大きな企業が入って、整備された公園が増えて。すごく綺麗になったんですけれど、一方では、新橋らしい昭和のたたずまいもまだ残っているし、もっと遡れば、江戸時代の屋敷跡などいろんな史跡もありますし。そういう、最新とノスタルジックの両方が共存しているところが面白いというか、“飽きない街”だと思いますね。これから新しく住む人も増えていくと思いますが、そういった方がまた、新しい街の魅力を作っていくと思うので、私も楽しみにしています。」

故きを温ねて新しきを知る。歴史や伝統工芸を大切に思い、見つめ直すことで、未来のあるべき姿も見えてくる。「KANAGU」という店を通してそんな街が育まれていけばと、期待せずにはいられません。

ギャラリーショップKANAGU

所在地:東京都港区新橋4-31-5 アトムCSタワー1F
電話番号:03-3437-7750
URL:https://kanagu-store.com/
※この情報は2021(令和3)年3月時点のものです。

「金具」から始まった、手仕事の温かさを届ける店/ギャラリーショップKANAGU(東京都)
所在地:東京都港区新橋4-31-5 アトムCSタワー1F 
電話番号:03-3437-7750
営業時間:11:00~17:00(予約無し入館可)
定休日:月・土・日曜日、祝日
https://kanagu-store.com/