地域の多様な魅力をチカラに「3つの“つ”」を育む/横浜市立三ツ境小学校(神奈川県)
横浜市瀬谷区の行政の中心部、三ツ境地区にある「横浜市立三ツ境小学校」は、この地区の開発にともなう人口増に対応して、1956(昭和31)年に開校した小学校だ。
三ツ境は基本的には“ベッドタウン”の性質をもつ住宅地だが、周囲には小川のせせらぎや天然の森林、川沿いに広がる畑など、昔ながらの風景も比較的よく残されている。
今回はそんな「三ツ境小学校」で、2019(令和元)年の春から校長を務める遠山松雄先生を訪ね、学校の特色や地域の人々を巻き込んだ交流など、多方面にわたってお話を伺った。
「つながる」「つづける」「つくりだす」 3つの“つ”を目標に掲げる三ツ境小学校
――まずは、「三ツ境小学校」の今日までの歴史と、現在の学校概要について教えてください。
本校は1956(昭和31)年の4月に開校し、今年で65周年を迎えます。もともと、この地域の子どもたちは電車に乗り、ひとつ隣の駅にある「瀬谷小学校」まで通っていたそうですが、本校よりも少し南にある「原小学校」の三ツ境分校として1955(昭和30)年の5月にこの場所にでき、翌年に独立して三ツ境小学校」となりました。
現在の学校の規模としては、児童数は約600名、各学年3クラスと個別支援学級5クラスで、合計23クラスです。校舎については、カタカナの「コ」の字型になっているのが特徴的で、いちばん古い「A棟」は1974(昭和49)年、真ん中の「B棟」が1978(昭和53)年、職員室等がある「C棟」が翌1979(昭和54)年に完成したものです。また、校章もユニークな形をしているのですが、こちらは初代校長が考案したもので、三ツ境という地名に由来して、よく見るとひらがなの「つ」の字が3つ入っているんです。中心にある3つの「小」の字は「小学校に集まる子どもたち」、円の外に飛び出した頂点には「子どもたちの成長と街の発展」、そして3つの「つ」には「三ツ境の人々が街の発展のために力を合わせて一生懸命努力している」という意味が込められています。
――貴校の学校教育目標と、そこに込めた願いを教えてください。
本校の学校教育目標は、「つながる」「続ける」「創り出す」です。これも実は、覚えやすいように頭文字に「3つの“つ”」を使っています。こちらは2代前の校長先生のときに作られたものになります。
「つながる」は、人や自然とのつながりを積極的に持ち、関わりを楽しみながら、そこで関わる対象を大切にする態度や心を育んでいこう、「続ける」は、学習や活動を継続する、ねばり強くものごとに取り組もう、「創り出す」は、目標、思い、願いといったものに向かって活動して、新たな解決方法や自分らしい意見を生み出していける、そんな力を育てていこう、という願いをそれぞれ込めています。
ちょうど昨年度から新しい教育課程に変わりましたが、そのカリキュラムを進めていく中でも、常にこの「3つの“つ”」の学校教育目標を意識した授業展開や、行事運営に取り組むように、教職員一同で心がけています。
――授業において、「教科分担制」を積極的に取り入れているそうですね。
「教科分担制」については横浜市全体で積極的に取り組んでいるもので、本校が特別ということはありませんが、本校では4年生以上の学年で「社会」「理科」「体育」の3教科を中心に行っていて、今年で3年目になります。
この3つの教科について、担任がひとりで1学年3クラスを教えるという形をとるわけですが、この一番のメリットは、教員ひとりひとりが、学年の全ての子どもたちと直接関わることができる、より多くの目で子どもたちを見ることができるので、子どもたちを多面的に理解できる、という点にあるかと思います。
そうすると、教員の子どもたちに対するアプローチも変わってきます。自分が担任するクラスの子だけではなくて、「学年全体」という考え方が強くなり、「学年の子どもたちを、学年の教員全員で育んでいくんだ」という意識をもつことができます。また、一部の教科を教科担任に任せることで、各教員に他の取り組みに充てられるゆとりを生み出せる、という利点もあります。
子どもたちの視点から見ても、ずっとひとりの先生と関わるだけでなく、いろいろな先生に関わる機会が増えることで、多くの先生に気軽に声掛けができて、気持ちをぶつけ相談することがしやすくなる。これも「教科分担制」の大きなとメリットだと思っています。
――今年度から「GIGAスクール」として、ひとり1台のタブレットも配備されましたね。
2021(令和3)年6月から、ひとり1台ということでタブレットが配布されましたので、授業の中で使用を始めています。始まったばかりではありますが、試行錯誤をしながら、できるだけ授業の中に取り入れて活用を進めていきたいと思います。
――課外活動や校外活動について、特徴的なものを教えてください。
大きな行事としては、前期の「運動会」と後期の「学習発表会」のふたつがありますが昨年度は感染症の関係で秋に低中高の三部に分けて運動会のみ実施しました。今年は5月に全校揃って「運動会」を開催することができました。
この「運動会」において、従来は各学年ごとに演技や競技を実施していましたが、今年度から新たに「ペアで教えあう・学びあう」ということを大切にしています。演技については、低学年(1・2年)、中学年(3・4年)、高学年(5・6年)に分け、6年生が5年生に教えながら、というように学びあいながら作り上げていく形にしました。また競技については、1年と6年、2年と4年、3年と5年という分け方をしました。これを「ペア学年」として、一緒に競技を行ったほか、運動会以外の場面でも、年間を通してさまざまな活動をしています。今後もこのような形で、ペアを大切にした形を広げていきたいと思っています。
校外活動については、近隣の学校でも同じかとは思いますが、6年生は日光への修学旅行、4年、5年生は1泊での校外学習を例年行っています。5年生は「愛川ふれあいの村」、4年生は「上郷森の家」というところに行って、一泊の宿泊学習をしています。このほか、他の学年では遠足に行っています。
心強い地域の方々との連携・交流が子どもたちの学びをサポート
――地域ボランティアの方の活動が盛んだそうですが、どのような活動・連携をされているのでしょうか?
「心結会」「緑遊会」という、地域の方が中心になり、学校の活動に参加していただいている組織があります。まず「心結会」については、特に毎年1年生の入学後に約1か月半、クラス担任を補佐して、5月中旬頃までの期間、子どもたちの日常生活の中に入ってサポートをしていただいています。このほか、授業の一環で地域を歩いて学びを深める「まちたんけん」に出かける時や、遠足に行く時などにも、付き添いをしていただいています。その名のとおり、“心を結ぶ”というあたたかな気持ちを大事にしている組織でして、本校の運営において本当に心強い存在です。
「緑遊会」については、数年前に行われていた学校の敷地内の樹木に名札を付ける活動がきっかけでスタートしたと聞いています。そちらの活動が終わってからも、「何かの形で学校の教育活動に協力ができないものか」という思いをいただき、組織化されました。
その名のとおり”緑と遊ぶ”“緑を楽しむ”といったコンセプトで、農作物の栽培などのさまざまな活動に協力していただいています。例えば、5年生の米作りでは、田植えや稲刈りの指導に来てくださり、収穫までの期間の管理もしていただいています。また、校内には学年ごとの畑のほかに「緑友会」独自の畑もあり、毎年いろいろな作物を育ててくださっています。一昨年はさつまいも、去年は里いもでしたけれども、収穫したものを給食の食材にして、子どもたちと一緒に味わうという活動も行いました。そのほか、校門の脇や職員玄関脇にある花壇に花の苗を植えたり、手入れをしたりしてくださり、子ども達や来校者を和ませてくれています。
――そのほか、地域の人々や団体、施設等との交流がありましたら教えてください。
昨年度は感染症の関係でできていませんが、近くの「横浜市二ツ橋地域ケアプラザ」との交流ですね。実際に施設に行って福祉体験をするということを、2年生が行っていました。他の学年でも福祉体験として、事前に民生委員の方に学校まで来ていただいて、認知症サポート講座を行ったり、社会福祉協議会の方に協力いただいて車いす体験などを行ったりしています。
もうひとつ大きなもとして、いま進めているのが「三ツ境小防災の日」です。従来から、本校を使って地域の方が毎年秋に拠点の防災訓練を行っていたのですが、そこに学校がタイアップして、全児童が関われる形にしたいという思いで一昨年から話し合いを進めています。感染症の関係で中断してしまって、まだ一度も連携した形での訓練はできておらず、今年はコロナ対応の関係で地域との同時開催はできませんが、学校独自で「三ツ境小防災の日」というものを設定し、地域の方の力もお借りしながら、学校全体で防災意識を高められるような、新しい取り組みを行いたいと思っています。将来的には、拠点の防災訓練と一緒にできるようにしていきたいですね。。
――子どもたちが地域に出ていく、という場面がありましたら教えてください。
地域の夏祭りなどについては、当然小学生ですから、楽しみにしている子が非常に多くて、お祭りに実際に参加して、神輿を担いだりという場面は多いですね。それから、連合町内会で行っている「社会を明るくする運動」というものがあり、本校の特別合唱クラブが例年参加し、合唱を披露しています。この合唱クラブは4年生から6年生が有志で参加しているもので、今年は50人くらいの子どもが登録しています。また、参加しているという意味も含めれば、「長屋門灯篭まつり」ですね。期間中、「三ツ境」駅から長屋門までの道路沿いにずっと、灯篭の展示が行われます。その灯篭絵は、「三ツ境小学校」の子どもたちも含め、近隣地域の小学校などから集めたものになります。
周辺の幼・保育園や、小中交流も活発
――周辺の子育て施設との交流や、小中連携についてはいかがですか?
幼保については、「まこと幼稚園」「三ツ境幼稚園」「二ツ橋あいりん幼稚園」「鳩の森愛の詩瀬谷保育園」の4つの園と、本校1年生が交流しています。幼稚園に行って何かを発表するような交流もあれば、逆に、幼稚園の子に本校に来てもらって、「小学校ってこういうところだよ」ということを紹介したりしています。ただ、昨年度は通常の交流ができなかったので、1年生が4つの園の子たちに手紙を書くという形で交流活動を行いました。
小中連携については、ここは「原中ブロック」ということで、ブロック内の「横浜市立原中学校」と「横浜市立原小学校」と本校の3校で交流を行っています。例年ですと、夏休みにプールの活動の中で、中学生の水泳部の生徒に来てもらったり、陸上部の子に来てもらって、市の体育大会に出る小学生の子どもたちに指導をしてもらったり、ということなどを行ってきました。また、中学校で行われる合唱コンクールで、3年生の最優秀学級と優秀学級の生徒たちが、毎年入れ替わりで原小学校と本校に来てくれて、合唱を披露してくれる、という交流も恒例になっています。今後の連携については、新たに相談をしていくことになると思います。
教員についても、年に3回の交流の日を設けています。そのうち1回は、中学校に集まって合同の研修会を行い、ほかの2回については、小中それぞれの授業を互いに見学するなどして、どのように「小中のつながり」を持つことができるかなどを話し合っています。こうした活動をもう10年以上やっていますので、小中の関係は密になってきていると思います。
また、本校の児童の放課後の活動の場としては、本校の施設を活用した「三ツ境小学校放課後キッズクラブ」や地域にある「放課後学童クラブ」、「放課後デイサービス」などを多くの児童が利用しています。
街の景色も住んでいる世代も多様性のある三ツ境エリア
――最後に、三ツ境の街の魅力を教えてください。
三ツ境は瀬谷区の中心になる街ですから、区役所があり、公的機関も近く、警察も消防署もあって、周辺に商店街もあり、とても便利で活気のある街だと思います。住宅街についても、閑静な戸建ての住宅街もあり、一部には団地などもあり、さまざまな住宅が混在する、多様性のある地域かと思います。
一方で、横浜市内としては自然もよく残っている地域で、学校の西側には「和泉川」という川が流れていますし、そこにある「宮沢ふれあいの水辺」などはとても魅力的だと思います。学校の授業の中でも、「まちたんけん」、あるいは「生き物さがし」ということでよく出かけていますし、川沿いに遊歩道もありますので、地域の方にとっても、癒しの場になっているかと思います。さらにそこを越えて行きますと、「宮沢ふれあい樹林」という、手入れをされたちょっとした森がありますし、東側にも「長屋門公園」があったりと、自然とともに、文化も豊かな地域ですね。
にぎやかな場所もあり、自然も歴史もあって、長く暮らしている方も新しい方も住んでいる街ですから、子どもたちにもいろんな経験をさせてあげることができ、子育てをするという意味では、非常に素晴らしい場所ではないかと思います。
横浜市立三ツ境小学校
校長 遠山松雄先生
住所:神奈川県横浜市瀬谷区三ツ境157
TEL:045-391-5068
URL:https://www.edu.city.yokohama…
※この情報は2021(令和3)年8月時点のものです。
地域の多様な魅力をチカラに「3つの“つ”」を育む/横浜市立三ツ境小学校(神奈川県)
所在地:神奈川県横浜市瀬谷区三ツ境157
電話番号:045-391-5068
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