子どもたちの「生きる力」をはぐくむ/東村山子育て支援ネットワークすずめ(東京都)
「東村山」駅から徒歩数分の場所にある「つばさ保育園」と「幼児教室すずめ」は、「つばさ」が0歳児から5歳児を受け入れている認可保育園、「すずめ」が2歳から5歳までを対象とした認可外保育施設・定期利用保育施設。そしてこれらを運営しているのは、この2園を主軸としながら、市の子育て支援拠点「ころころの森」の指定管理と、園近くの一時預かり施設「たんたんのおうち」の運営もしている「特定非営利活動(NPO)法人 東村山子育て支援ネットワークすずめ」。
今回は、東村山のママたちの力で育てられてきたというこれらの施設と、その運営のポリシーについて、同法人の副理事長である千葉瑞枝さんと、「幼児教室すずめ」の園長を長く務めている小林幸代さんのお二人を訪ね、お話を聞いた。
ママたちの思いから生まれた「すずめ保育」
――まずは、「幼児教室すずめ」の始まりと、NPOとしての沿革を教えてください。
千葉さん: もともとは1963(昭和38)年に、同じ東村山市内にある久米川団地(現グリーンタウン美住)の中で、お母さんたちが預かりの保育をしたことが始まりになります。最初は家でやっていたわけですけれども、子どもの数が増えてきて狭くなったので、団地の集会所を借りるようになり、当初は、3歳の子どもだけを預かる形で保育をしていたそうです。「すずめ」という名前もこの団地時代に生まれたものです。最初は「すずめの学校」という名前でした。
そこから、卒園生のママたちが保育士の資格を取ったりして、規模も大きくなって、団地のほとんどの子が来ているという感じになり、そのまま十数年続いていたのですが、そのうちに4、5歳も預かってほしいというニーズが高くなって、4・5歳も預かるようになりました。そして今から20年くらい前のことになりますが、団地の建て替えで集会所を取り壊さなければならなくなったんですね。
その時、「すずめ保育をこれからも続けてほしい」という声をたくさん頂きまして、団地は建て替えになってしまうので、どこかほかの場所を探そうということで、NPO法人格を取って場所探しを始めたんです。
当時、先生たちは「すずめ」のかたわらで「こどものいえ」という小さな保育室も運営していましたので、移転を機にこれも認可保育園にしようということになって、認可を取った「つばさ保育園」と、今までのように自由な保育を行う「幼児教室すずめ」の両方を、ここに移転してきたんですね。それが2005(平成17)年のことになります。
だからここは、「すずめでやってきた保育をずっと続けてほしい」という、保育者とお母さん・お父さんたちの思いが詰まったところなんです。
ここに来てから新しい事業も始めまして、ひとつは、「ころころの森」という東村山市の子育て支援施設の指定管理と、もうひとつは、園のすぐ向かいにある「たんたんのおうち」という一時預かりの施設の運営です。大きく言うとこの4つが、NPO法人としての「すずめ」の事業の柱になっています。そのほかに「ころころたまご」という、利用者支援事業も市役所の1階で行っています。
共通するのは「生きる力」をはぐくむ保育
――事業全体に共通する、「すずめのポリシー」のようなものがあれば教えてください。
小林園長: 全体的には、「生きる力」を持たせるということで運営していて、特徴かと思っています。子どもを真ん中にして、お母さん・お父さんと保育者が手をつないで一緒に子育てをする、というイメージです。
保育園や幼児教室はあくまでも「集団」なので、「集団ではこのようにするけれど、おうちではこんなふうにしてみたら」といった話をして、一緒に子育てをしていくというのが、特色になっていると思います。
――「生きる力」を育てるために、親と園がタッグを組んで子どもに向き合う。それは「つばさ」も「すずめ」も同じですか?
小林園長: そうですね、「つばさ」も保護者との関係づくりを大切にしています。「すずめ」はもともと保育者と保護者の自主運営から始まった園なので、保護者さんたちが保育に興味を持っています。保育時間が短く、幼稚園のように運営していたころは、私達が「こんなところに困っている」と言えば、「じゃあ、ここはサポートしましょう」といろいろな場面で協力してくれていました。とても保護者とのつながりが強かったんですね。保育時間が長くなり、仕事をもつお母さんが大多数を占めるようになった今でもお父さん、お母さんたちとの関係をとても大切にしています。社会情勢や環境が変わっていっても、保護者と一緒に子どもに向きあっていきたいと思っています。
生きる力の基本は「身体づくり」
――「幼児教室すずめ」の保育の特色を教えてください。
小林園長: ざっくり言えば、幼稚園の教育要領と、保育園の保育指針を合体して、その「いいとこどり」をしています。いちばん大きな特色は「身体づくり」です。お散歩によく行き、遠くの公園にも歩いて行き、園の中でも、体育あそび、リズム遊び、リトミックなど、身体を使うものをたくさん取り入れています。
コロナの前までは、月に1回くらい、電車に乗っていろんなところに出掛けたりもしていて、早い子は2歳の後半から電車に乗ります。4、5歳になるとホームで騒ぐこともなくて、ちゃんと待っているんですよ。
――2歳から電車でお出かけですか!たくましいですね。
小林園長: さすがに2歳だと、上の子と一緒ですけれどね。4・5歳児になると、コロナの前は新宿まで行っていたんですよ。「新宿」駅の南口側に「プーク劇場」という人形劇の劇場があるんですけれど、「西武新宿」駅から大ガードの交差点を渡って、ずうっと歩いていくんですね。
これが、通行人の方が驚くくらい、すっごく上手に歩いていくんですよ。最初は2列で歩いていって、横断歩道にさしかかるとその時だけ4列になって、渡り終わるとまた2列になって。これも「先生たちがこうしなさい」って言っているわけじゃなくて、子どもたちの間で代々伝わっているんです。新宿の人たちも子どもたちを見て、「おおっ!」と驚かれますよ(笑)
「つばさ」も「すずめ」も、「北山公園」などの遠い公園でも歩いて行っているので、歩く能力はかなり高いと思います。親御さんも時々びっくりされるみたいですね。「ほかの園に通っている年上の子よりも、うちの子のほうがすごく歩ける」と。
かまど体験も身体づくりも、同じ思いのもとで取り組まれる
――身体づくり以外にもユニークな取り組みが多いそうですね。
小林園長: もうひとつ特徴的なのは「調理」ですね。「すずめ」に入った2歳から調理をおこなって、食材を自分たちで買い物に行って、味噌汁を作ったりということはしょっちゅうやっていますし、5歳はかまどでカレーを作ったりもします。最後にマシュマロを焼くのが一番のお目当てなんですけれど(笑)。
――5歳児ですでに、かまどでご飯炊きですか?
小林園長: そうなんですよ。2歳はキャベツをちぎってみそ汁に入れるなどですが、3歳になるとかまどの練習を始めて、まきをくべて、マシュマロを焼いたりもします。4歳くらいの時には、まきをくべるのがすごく上手になって。5歳になるとみんな、かまどで飯ごうのご飯を炊くのが上手なんですよ。昔、これをNHKに取材されたこともあったくらいですね。
ただ、火をつけるのは先生がおこなって、まきをくべるところから子どもたちがやっています。やっぱり、火の怖さも教えないといけないので。
――「つばさ」でも身体づくりと調理が二本柱なのですか?
小林園長: そうですね。「つばさ」も同じように調理と身体づくりをやっています。
千葉さん: 基本的には同じ法人でやっていますので、子どもたちに願うこととか、やっていることは同じなんですね。ただ、「すずめ」の場合は認可外の保育施設なので、直接「すずめ」に申し込んだ方が来ているわけですけれども、「つばさ」の場合は認可保育園なので、希望する方すべてが入園できるわけではありません。
「つばさ」でも同じようにかまどを体験し、身体づくりもして、お散歩もたくさん行って、キャンプに関しては、「すずめ」と合同で行っているので、認可保育園という中で見たら「つばさ」は異色かもしれないです。
――認可と認可外では、ほかにどんな違いがありますか?
小林園長: やはり認可外の「すずめ」は、希望して入ってくる方がほとんどですので、そこがいちばん違うところですね。「すずめ」の保育方針を知って来てくださっているので、かなり踏み込んだこともできるわけです。自由度も高いですね。
保育時間も違って、「つばさ」は朝の7時から夜の7時までなんですが、「すずめ」はそれよりちょっと短くて、年齢も、「すずめ」は2歳から5歳、「つばさ」は0歳から5歳というのも大きな違いです。
――最初は「つばさ」に入って、2歳から「すずめ」に移る方も多いのでしょうか?
千葉さん: 「すずめ」は直接契約なので、希望すればもちろん可能です。逆に「すずめ」に入ってから「つばさ」に行く方もいるし、兄弟でそれぞれ「つばさ」と「すずめ」に入っている方もいらっしゃいました。
――ママがフルタイム勤務の方は「つばさ」、パートタイムの場合は「すずめ」という感じの住み分けになっているのでしょうか?
千葉さん: 必ずしもそうではなく、「すずめ」では「定期利用保育事業」という東京都の事業をやっているので、昔の「すずめ」は幼稚園のような感覚で来ている方が多かったんですが、最近は「すずめ」のほうもフルタイムでお仕事をされている方が多くなっています。
自己有用感をはぐくむ、異年齢保育
――異年齢保育にも取り組んでいるそうですが、どのようなメリットがあるとお考えですか?
小林園長: たとえば、上の子に関しては、年下の子と一緒に居る時にはすごく自信をもって話をしていたりするんですね。すごく、自己有用感を得られるんです。反対に下の子たちは、自分のクラスの中ではなかなか吸収できないことを、お兄さんお姉さんから教えてもらうことで吸収できることがあって、メリットは大きいと感じているので、異年齢保育にはかなり力を入れています。
さっきの横断歩道の話もそうですが、普段の散歩の時も、誰が教えたわけでもなく、年長者が車道側を歩くという事が代々、子どもたちの間で伝わっていて、子どもたちの中で声をかけあってやっていますね。
子育て中のファミリーを支援する事業も
――「ころころの森」について簡単に教えていただけますか?
千葉さん: 「ころころの森」は、東村山が誇る子育て支援センターということで、1000平米以上ある広い施設です。実は私がそこのセンター長なので、本当はいくらでもお話をしたいくらいなんですけれど…(笑)。
簡単にお話しすると、基本的には、「親子で来て、ゆったりと過ごして、自由に遊ぶ」という施設になります。利用料は無料で、年間の利用者がのべ3万人くらい、1日あたり200から300人くらいの親子が来られるような施設です。
その中で、いろいろなプログラムを行ったり、地域の方との交流なども行い、小中学生のジュニアサポーターの方たちと一緒に遊んだり、地域のお年寄りの方に昔遊びを教えていただいたり、ということもやっています。プログラムは本当に多彩にあって、ほとんど毎日行われています。
――特に人気のプログラム、初めての方におすすめのものなどを教えてください。
千葉さん: 始めての方には、オリエンテーリングみたいなものを、職員が1名ついてやっていますので、これを受けていただければ次からは抵抗なく来られると思いますし、「パパママ講座」や「赤ちゃんプログラム」といったものも初めての方に人気ですね。
特に「赤ちゃんプログラム」は月齢ですごく細かく区切っているので、同じ年代のお友達づくりにはすごくおすすめです。申込制ですが、あっという間に埋まるくらいの人気です。
あと、最近はやっぱり外遊びのプログラムが人気で、公園に直接集合して、一緒に遊びをする、といったものもたくさんあります。
――「たんたんのおうち」について、教えてください。
千葉さん: 「たんたんのおうち」は、園のすぐ向かいにある1歳から3歳までの一時預かりの施設です。定員は1日8名で、これは理由を問わない預かりなので、面接をして登録をしていただければ、いつでも使うことができます。午前中は9時から12時、3時間1,000円でお預かりしています。午後も13時から16時まで、同様に3時間1,000円で、午前については延長もできますので、13時まで延長してランチを楽しまれるお母さんもいらっしゃいます。買い物に行ったり、お掃除をしたり、美容室に行ったり、いろんな使い方ができると思います。
午前と午後を続けて、15時までのお預かりもできて、その場合は合計2,500円くらいになりますけれども、これは市の一時預かりよりもほんの少し高いだけなので、1か月前までに予約が必要な市の施設よりも「使い勝手がいい」ということで利用される方も多いです。「たんたん」の場合は前日でも当日でも、空いていれば受け入れていますので。月に10日まで使えるという点もご好評をいただいています。
一時預かりなので毎日子どものメンバーは違うわけですけれども、お散歩にも行ったり、普通の保育園とよく似た過ごし方をしていて、そこを気に入ってくださっているお母さんも多いですね。
――このほか、相談業務もされているそうですね。
千葉さん: そうですね。それがさっき少し触れた「ころころたまご」ですが、これは市役所の1階でやっていまして、毎日10時から16時まで、子育てに関わるいろんな相談を受けているもので、内容に応じたところへ繋いでいく、というものになります。
幼稚園や保育園の相談はもちろん、子どもの発達のこと、離乳食のこと、ご家庭のいろいろな問題など、幅広く受けていて、必要があればほかの相談機関もご紹介しています。「ころころの森」でも、簡単な相談であれば同様の対応をしています。
地域支援、地域連携も使命のひとつ
――地域の方との連携や交流について教えてください。
千葉さん: 最近始めたものだと、農家の方との交流がありますね。東村山には農家さんも多いので、子どもたちが畑に行って、大根を抜かせていただいたり、えんどう豆を収穫したり、いろんな体験をさせていただいています。
今はコロナで中断していますが、「おはなしくまさん」という、お母さん方が行う出張紙芝居屋さんと一緒に老人福祉施設にうかがって、お遊戯を見せて、お年寄りと交流をするということも行っていました。今の子どもたちは日常的に高齢者の方と交流する子も少ないと思うので、すごくいい時間を過ごせていたのかな、と思います。
1月の末には毎年、「はるまちまつり」というお祭りも開催していまして、この時には園舎全体を使って、たくさんの地域の方に来ていただいています。「すずめ」や「つばさ」のお母さんたちも自分たちでお店を出したりして、すごく盛り上がるイベントだったんですね。これもコロナで2年開催できなかったので、来年こそは復活させたいなと思っています。
地域全体をもっと子育てしやすい街に
――今後の「すずめ」の展望について教えてください。
千葉さん: もともと、すずめが久米川で始まった時は高度成長期で、児童館も地域の方と協力をしてこれから作っていくという段階でした。みんなの力でいろいろなことが実現していった時代です。それが今、少子化という流れになって、さらにコロナで人と人との結びつきが難しい状況になってしまったので、改めて初心に戻って、「地域全体がもっと子育てしやすい街になるように」という最初の目標を見つめなおしたいと思っています。
もちろん、今の事業もきちんと継続していくわけですけれども、その中で、もっともっと、地域連携ができるはずだと思って模索しているところですね。
小林園長: いまの時代は、つながりが乏しくなってきていて、ひとりぼっちの子たちが増えていると思っているんですね。大人もそうだと思います。なので、私達がそこに何かを投げかけるというか、「すずめ」がみんなをつながられるような存在になっていければいいなあ、と思っています。
緑があふれる、生活しやすい街
――東村山の地域の魅力について教えてください。
千葉さん: 私もここでずっと子育てをしてきましたけれども、緑が多いところがいちばんの魅力だと思っています。農家もたくさんありますし、いろんな公園があって、子どもと一緒に遊びに行けるところもたくさんあると思います。それから、空が広くて、きれいなんですね。私は都心で生まれ育ったので、そこにすごく感動しました。
「若い世代の方がマンションや戸建てを買って住む」という流れが高度成長期以降ずっと続いていて、今も、ほかの市と比べても子どもの割合は高いと思います。「つばさ」ができたのは18年前で、当時は「これが最後の保育園」と言われていたんですけれども、実際にはそのあとにもいくつもの保育園ができました。小学校と中学校も面白い教育をしてくれている印象がありますし、子育て環境は素晴らしいと思います。
小林園長: 私は東村山で生まれ育ちまして、住みやすいと思うし、大きくなっても他の地域に行かない人が多くて、当園でもお父さんお母さんも東村山出身という方がすごく多いんですね。それって、住みやすいから離れないってことだと思うんです。
コンパクトにいろんなものが集まっているので、ふだんの買い物には困らないし、クルマでちょっと行けば、大きなホームセンターやコストコとかイケアとかにも簡単に行けちゃうので、便利ですよね。
千葉さん: そうそう。買い物するにはすごく便利なんですよ。広くて使いやすいスーパーがちょうどよく点在していて、自分の家から自転車で行ける範囲に、いくつもスーパーがあるような感じなので、選択肢も多いですね。
それに加えて、「ころころの森」をはじめ、子育て支援のための施設も揃っているし、外で遊べる場所もたくさんあって、保育園や幼稚園もあって、家賃も控えめで。いろんな意味でバランスがいいところだと思います。
――これから東村山に住みたいという方に向けて、ひとことお願いします。
千葉さん: 子育て中の方だと、いちばん心配なのはママ友とか、交友関係かもしれないんですが、東村山には「ころころの森」をはじめとして、ちょっと手を伸ばせば仲間づくりができる環境がすごくあると思うんですね。そして私達も含め、そういう方を支えたいと思っている人もたくさんいますので、ぜひ、そこは心配しないで来てください。
小林園長: 東村山は小さな公園から大きな公園まで、本当に緑や公園がたくさんあって、子育てが楽しいところだと思います。ちょっと足を伸ばせば、大人も子どもも一緒に自然の中で過ごせるような場所もあって、休日もゆっくり楽しめると思います。私もずっとここに暮らしてきて、東村山っていいところだよなーって思っているので、ぜひいらしてください。
NPO法人 東村山子育て支援ネットワークすずめ
副理事長・事務局長 千葉瑞枝さん(右)
幼児教室すずめ 園長 小林幸代さん(左)
所在地:東京都東村山市本町2-22-3
電話番号:042-395-2506
URL:https://nposuzume.com/
※この情報は2022(令和4)年1月時点のものです。
子どもたちの「生きる力」をはぐくむ/東村山子育て支援ネットワークすずめ(東京都)
所在地:東京都東村山市本町2-22-3
電話番号:042-395-2506
https://nposuzume.com/