会長 笹原さん、役員 関さんインタビュー

新しい町並みのルーツは同じ「多摩平団地」にあり/多摩平の森自治会(東京都)


竣工当時、国内最大規模を誇った「多摩平団地」。時代・社会への適応という観点から建て替えが始まったのは1997年のことだ。途中、4期・5期を残した段階で計画が変更。さらには住民の意を酌み、日野市、旧・日本住宅公団(現・都市再生機構)との異なる立場での話し合いには様々な苦労もあったことだろう。自治会の笹原会長と関さんにお時間をさいていただき、お話をうかがってきた。

お話をうかがった自治会長の笹原さん
お話をうかがった自治会長の笹原さん

時代の変化に伴っての建て替え

――さっそくですが、「多摩平団地」の歴史と沿革から聞かせていただけますか?

笹原さん:「多摩平団地」の竣工は1958年です。当時のキャッチフレーズは、“明るく開放的で緑にあふれた団地”。40万坪・2,800世帯という規模もさることながら国内初となるテラスハウスや、植生を活かした開発など当時としては珍しく、注目を集めたプロジェクトでした。

その「多摩平団地」の建て替えが始まったのは1997年のことです。躯体の老朽化が理由ではなく、居住空間が社会に合わなくなったのです。洗濯機や冷蔵庫が普及する前の建物ですから、それらを設置するスペースがありませんでした。建て替えの決定後、日野市、旧・日本住宅公団(現・都市再生機構)、そして我々自治会による合意形成を経て事務局会議を開催。その後、三者勉強会が立ち上がったのです。

――三者三様の異なる立場での勉強会。住民の代表者としてのプレッシャーは、相当なものだったと思います。

笹原さん:住民のなかでも意見は異なるので、それをひとつにまとめ上げるというのは簡単ではありません。自治会側のメンバーは固定されていたので、住民の考えを聞くと同時に、理解・納得してもらうために「戻り住宅ワークショップ」、「緑のワークショップ」、「街づくりワークショップ」を開きました。例えば間取りについては、旧・日本住宅公団から7タイプが提案されたものの、主婦の考えを聞き、9タイプへの変更を伝えました。しかし51回も図面を書き換えてくれた設計課長から、“要望は要望として聞くけれども、現実問題として家賃を維持するのであれば予算内での提案をしてほしい”と言われたのです。我々としては、その後も住み続ける・住み続けたいと思ってもらえる建て替えを目指していたので、設計課長の言葉は本質を突いていました。結果的に7割の住民が残ってくれたわけですが、一般的には5割を切るケースが多いとのことなので、7割というのはかなりいい数字ではないかと思います。

関さん:ワークショップには、高齢者も含めて多くの方が参加してくれました。アイデアや要望が“ここに反映されている”と伝えると、これまで以上に関心を持ってくれるようになりました。話し合いの第一線にいたのは私たちですが、色々な人たちに支えらました。

自治会に所属する関さんも丁寧にお話を聞かせてくださいました
自治会に所属する関さんも丁寧にお話を聞かせてくださいました

新しい街へ

――2004年が節目の年だったと聞いています。

笹原さん:旧・日本住宅公団から都市再生機構となり、4期・5期の建て替えから撤退。都市基盤整理に特化することになったのです。それに伴い、周辺の使わない土地を民間に売却することになりました。

――本業を抱えての自治会活動ですから、色々と大変なこともあったでしょう。どのような思いで街を守ってこられたのですか?

笹原さん:建て替えに当たっては、住民の意を酌み、引き続き住みたいと思ってもらえる建て替えにすること。それと2004年以降の想いとしては、「イオン」をはじめ、様々な建物がかつての「多摩平団地」にできました。お互い知らない者同士かもしれませんが、もともとは「多摩平団地」の敷地内。それをキーワードに“親戚づきあい”をしてもらえたらなと思います。

関さん:若い人もいますが、高齢者も一定数います。私としては、高齢者に喜んでもらえる建て替えがしたいと思っていました。ある方は、それまでの住まいを処分して移ってきました。駅が近く、周りには商業施設や飲食店もある。さらには病院も近くにあることから“こんなに住みやすいところとは思わなかった”と言われました。新しく移ってきた人を孤立させないというのは大きなテーマですね。これまで高齢者の住みやすさを追求してきましたが、それが結果的に、若い人にとっての住みやすさにもつながるのだなと思うようになりました。

「さくら喫茶」は、自治会が中心となって進めている取り組みのひとつ
「さくら喫茶」は、自治会が中心となって進めている取り組みのひとつ

――周辺の好きなスポットを教えてください。

笹原さん:周りから“自然が残っている”と言われることもありますが、雪が2メートル近くも積もる田舎育ちの私にしてみれば、あえて取り上げるほどのことではありません(笑)。ですから私としては、「イオン」の本屋にある読書室がいいですね。

――最後になりますが、新しく多摩平に住まれる方にメッセージをいただけますか?

笹原さん:ぜひ、色々なところを散歩してください。「多摩平団地」は建て替えにより、色々なものに姿が変わりました。住居だけでなく商業施設、コンビニエンスストア、病院――。その大本となる姿なき「多摩平団地」を感じていただけると、我々としては嬉しく思います。それと、分からないことや悩みなどあれば気兼ねなく来てください。

関さん:月に一度、集会室で食事会を開いています。誰でも参加できるので、ぜひ顔を出していただければと思います。

多摩平の森自治会がある、さくら集会所
多摩平の森自治会がある、さくら集会所

笹原さん
笹原さん

多摩平の森自治会

会長 笹原さん、役員 関さん
所在地 :東京都日野市多摩平2-6-1 さくら集会所内
電話番号:042-581-7318
※この情報は2021(令和3)年7月時点のものです。

新しい町並みのルーツは同じ「多摩平団地」にあり/多摩平の森自治会(東京都)
所在地:東京都日野市