専務取締役 伊藤裕司さんインタビュー

徳川家に愛された伝統の和菓子を今も伝え続ける/美濃忠(愛知県)


創業から変わらず「美濃忠本店」のある場所に店を構えて168年。徳川家の筆頭菓子屋として、また、明治時代には品評会や博覧会で高い評価を得た伝統を受け継ぐ「美濃忠」は、地域の人々に愛されながら名古屋の銘菓を作り続けています。創業までの経緯、伝統を守るために今もお店で大切にされていることなどについて、「美濃忠」の専務取締役であり、七代目として当主を継承される予定の伊藤 裕司さんにお話を伺いました。

歴史と伝統ある「美濃忠」専務取締役 伊藤 裕司さん
歴史と伝統ある「美濃忠」専務取締役 伊藤 裕司さん

徳川家の筆頭菓子屋「桔梗屋」の流れを汲む老舗店

——創業168年、「美濃忠」の成り立ちと沿革について教えてください。

伊藤さん:初代尾張藩主の徳川義直公が名古屋城に入府する時、それまでひいきにしていた菓子屋の桔梗屋も一緒に名古屋城入りしました。桔梗屋と両口屋が徳川家の筆頭菓子屋となり、桔梗屋に奉公していた伊藤忠兵衛が暖簾分けされ、1854(安政元)年、現在の本店があるこの地で美濃忠を創業しました。当店の代表的なお菓子「上り羊羹」と「初かつを」は桔梗屋から受け継いだ銘菓です。

「美濃忠」の代表的なお菓子「上り羊羹」
「美濃忠」の代表的なお菓子「上り羊羹」

名古屋城周辺の古地図を見ると、ここは武士の屋敷があった場所のようです。外堀に近い場所であることから、徳川家が近くにおいておきたい武士が住んでいた界隈だったのでは、と想像できます。また、店舗の前を通る道は清洲城から名古屋城へ引っ越しをする「清洲越」に使われた道です。当時のメイン通りだったのではないでしょうか。明治時代や大正時代には「名古屋に美濃忠あり」と言っていただき、昭和時代には茶人とのつながりも深まっていきました。

このように、名古屋城のお膝元で168年間、みなさまに親しんでいただいている菓子屋です。40年ほど前に先代(五代目、伊藤さんの父)が漆塗りをふんだんに使った重厚感のある店舗を建て、現在は六代目(伊藤さんの母)と私(七代目として当主継承予定)で暖簾を守っています。

「美濃忠 本店」の外観
「美濃忠 本店」の外観

確かな味と出来栄えで、馴染みのお客様からの信頼を裏切らない菓子作り

——長い歴史の中で品評会や博覧会への出品、また、茶道の各流派から愛されていると拝見しました。そのあたりのことについて教えてください。

伊藤さん:明治44年に「第1回帝国菓子飴第品評会」、「京都記念博覧会」などに出品して高い評価をいただき、「美濃忠」の名前を名古屋のみならず、国内に広めることができました。また、お家元さん好みのお菓子が代々受け継がれてきています。各流派のお茶会に合わせて、それぞれのお家元さん独自のお菓子を謹製しています。

代々受け継がれてきた伝統銘菓
代々受け継がれてきた伝統銘菓

——和菓子作りへのこだわりや大切にされていることを教えてください。

伊藤さん:毎日変わらず、お客様に満足いただける「信頼を裏切らないお菓子作り」を大切にしています。職人まかせにするのではなく、私も毎日、製造現場に入り、自分の舌であんこの味を確かめたり出来栄えを確認したりしています。歴史がある菓子屋のため、長年、当店のお菓子に親しんでくださるお客様の期待に応えるために昔からのお菓子を作り続けています。パッケージもそのままが多いです。

変わらぬパッケージも信頼の証
変わらぬパッケージも信頼の証

——伝統の味と品質を大切にされているのですね。

伊藤さん:当店のお菓子は消費期限が短い商品が多いのですが、それは食品添加物を使っていないためです。できるだけシンプルな材料で、体にいいものを提供しています。

製法を守り続けているかと聞かれたら、大筋の作り方は変わっていないとしても、時代に合わせて少しずつ製法は変化してきていると思います。というのも、今は小豆も砂糖も品質が安定していますが、きっと、かつては店で使うための良質な素材を選別することから始めていたでしょう。

受け継がれ続ける銘菓「初かつを」
受け継がれ続ける銘菓「初かつを」

羊羹を蒸す時も、今はボイラーで簡単に温度を調整できますが、昔は薪で火力を調整していました。それを思うと、今と昔では製法が異なる、と言えてしまうのではないでしょうか。できることなら、300年、400年前に遡って当時の職人がどのように作っていたのか知りたいと思っています。

とは言っても、今も気候、気温、湿度、職人や私の体調も毎日変わります。同じ品質の商品を作り続けることは大切なことですが、お菓子も生き物だと感じています。

時代に合わせ製法を調整しながら守られる伝統の味
時代に合わせ製法を調整しながら守られる伝統の味

名家家庭でのお茶請けに、お土産にも喜ばれる

——一般のお客様にはどのようなお菓子が好まれていますか。

伊藤さん:創業時から伝わる「上り羊羹」や先代が開発した「ごっさま」、また、二十四節気で季節の移ろいを感じていただける上生菓子です。

「上り羊羹」は創業時から伝わる蒸し羊羹で、なめらかな舌触りで口に入れると溶けていくような食感を持ち、優しく上品な甘さに仕上げています。夏の間は製造しておらず、秋の訪れと共にその年の製造が始まります。

なめらかで品の良い甘みを感じられる「上り羊羹」
なめらかで品の良い甘みを感じられる「上り羊羹」

「ごっさま」はもちもちっとしたカステラ風生地の中に、しっとりとしたこしあんを入れたお菓子です。“ごっさま”は“おくさま”の意味で、徳川義直公の夫人、春姫に由来しています。JALの「新JAPAN PROJECT 愛知」では国内線ファーストクラスの茶菓に選んでいただきました。「上り羊羹」も「ごっさま」もなめらかさを出すために水分を多く使っているので、早めに召し上がっていただくことをお勧めしています。

先代が開発し国内線ファーストクラスの茶菓に選ばれた「ごっさま」
先代が開発し国内線ファーストクラスの茶菓に選ばれた「ごっさま」

上生菓子以外にも季節によってさまざまなお菓子を作っています。春は伝統銘菓「初がつを」、冬は「栗ぜんざい」、慶事や弔事、お祝い事にも対応しています。

季節ごとに多彩な上生菓子が並ぶ
季節ごとに多彩な上生菓子が並ぶ

多様な風景が周辺に広がる丸の内エリアについて

——丸の内エリア周辺の魅力やお好きなスポットについてお聞かせください。

伊藤さん:当店の西を流れる堀川を渡ると西区になりますが、円頓寺商店街や四間道エリアがあり、古民家を改装して食事ができるお店など、近年、飲食店の出店が多く、今最も熱いエリアではないかと感じています。私は小さな頃からここに住んでいますが、円頓寺商店街は下町らしさがあり、好きな場所です。

小学生の頃、自転車で遊びに行っていた栄は今、「久屋大通公園」が緑いっぱいの「ヒサヤオオドオリパーク」として新しいお店や散策スポットとなっています。「名古屋」駅も近いですし、さまざま名古屋を体感できるエリアだと思います。

また、名古屋大空襲でも丸の内エリアは全焼しなかった、伊勢湾台風の被害もすくなかったそうですが、名古屋城下町として、徳川家に守られているエリアでもあると感じています。

美濃忠 本店
美濃忠 本店

美濃忠 本店

専務取締役 伊藤 裕司 さん
所在地:愛知県名古屋市中区丸ノ内1-5-31
電話番号:052-231-3904
URL:https://minochu.jp/
※この情報は2022(令和4)年11月時点のものです。

徳川家に愛された伝統の和菓子を今も伝え続ける/美濃忠(愛知県)
所在地:愛知県名古屋市中区丸の内1-5-31 
電話番号:052-231-3904
営業時間:9:00~18:00
定休日:年中無休(元日を除く)
https://minochu.jp