店主 永塚祐士さんインタビュー

地元・八王子で先代から変わらぬコーヒーの味と、新たな施策でファンを増やす/珈琲倶楽部 田(DEN)(東京都)


JR「八王子」駅の駅前大通りと旧甲州街道の交差点角にある「珈琲倶楽部 田(DEN)」。かつては駅ビル「そごう八王子店」の中にあったいわゆる“純喫茶”で、2012(平成24)年「そごう」閉館後は後継の「セレオ八王子」内に支店を残しつつ本店をこの場所に移し、こだわりのコーヒーを提供し続けている。今回はそんな「田(DEN)」の2代目マスターである永塚祐士さんを訪ね、お店や地元・八王子に対する思いなどお話を伺った。

「珈琲倶楽部 田(DEN)」2代目マスター 永塚祐士さん
「珈琲倶楽部 田(DEN)」2代目マスター 永塚祐士さん

プロドラマーから「珈琲倶楽部 田(DEN)」のマスターへ転身

――まずは、「珈琲倶楽部 田(DEN)」の創業から今までの歴史をお聞かせください。

永塚さん:お店の創業は1983(昭和58)年にさかのぼります。当時、駅ビルに「そごう」さんが開業されることになり、その中に入るお店のひとつとして「珈琲倶楽部 田(DEN)」を開店しました。創業したのは私の叔父になります。私は今から23年程前、25歳の時にこの店に入りました。

実はそれまで飲食店をやろうという気持ちはまったく無く、当時はプロのドラマーとしてそれなりに食べられるくらいに活動していました。しかし、なかなかドラム一本では厳しいなと思っていた時に、ちょうど叔父が体調を崩してしまったことから、いずれお店を引き継ぐということで店に立つことになったんです。

「珈琲倶楽部 田(DEN)」入り口
「珈琲倶楽部 田(DEN)」入り口

その後、2008(平成20)年からは私が代表となり、叔父は相談役という形で営んでいましたが、2010(平成22)年に叔父が他界し、私が完全に経営するようになりました。

ただ、経営を引き継いですぐに東日本大震災がありました。そして、2012(平成24)年の1月には八王子から「そごう」さんが撤退されまして、当時、店は8階から4階に移転したばかりで、借金を抱えてのスタートになってしまったんです。

――そのような苦難を乗り越えて、経営を持ち直して店舗を増やし、改装もされたんですね。

永塚さん:そうですね。そうした経験もあり、さまざまな経営の勉強会などにも参加しました。やはり時代の変遷もあり、喫茶店も厳しい状況が続いていますから、なんとか旧体質の喫茶店を脱却して、新しい形にしていこうといろいろ試行錯誤してきました。

多くの苦難をさまざまな試行錯誤で乗り越えてきた、永塚さん
多くの苦難をさまざまな試行錯誤で乗り越えてきた、永塚さん

2017(平成29)年には、この本店の改装をしました。大きく変えたのは、完全分煙にしたことですね。それまでは全席喫煙可としていましたが、お客様からも禁煙の席が欲しいというリクエストが増えていた時期でもありました。スペース的に、単純に席を分けることが難しかったため、改修時に東京都の助成金を利用させていただいて、完全分煙という形に変えました。

大好きな音楽をもとに、新しい「田」の魅力を作り上げる

――先代の時代から受け継がれているポリシー、逆に、店を引き継いで新たに変えられた部分などがありましたらお聞かせください。

永塚さん:まず、私の代になって考えたのは、いうなれば“殿様商売”という形から、脱却をすることでした。いろいろと試行錯誤しましたが、ひとつはやはり、私自身が音楽が大好きで、これまでも何度も音楽に助けられたこともあったため、「音楽を生かしていこう」と考えました。昔から店内にピアノを置いてありましたので、ジャズのコンサートや、シャンソン、フラダンス、クラシックなどのコンサートを始めました。今でもとても好評をいただいていますね。

昔から置いてあるピアノを活用して、多彩なコンサートが行われている
昔から置いてあるピアノを活用して、多彩なコンサートが行われている

当店に来られるお客様は、比較的高齢の方が多く、なかなか都内まで足を運んでコンサートを観に行くのは難しいこともあるかと思います。ただ八王子は、音楽を好きな方がすごく多いんです。ですので、当店ではひとつのジャンルに固定せず、さまざまなジャンルのコンサートを企画し、お客様に楽しんでいただくようにしています。目標としては、ミニチュア版の「ブルーノート」みたいなイメージで続けていけるといいなと思っています。

地域の方々の作品展示や発表の場としても活用されている
地域の方々の作品展示や発表の場としても活用されている

それに加えて、お店をハブにした地元のコミュニティを作っていけたらいいな、とも思っています。お店の入り口の近くのデッドスペースになっている部分にテーブルを置いて、例えばものづくりをされている方のために場所提供も始めました。物販だけではなくて、作品の発表の場としても使っていただいています。

昔から変わらない、コーヒーの鮮度と質へのこだわり

――伝統として変えていない部分はいかがでしょうか?

永塚さん:変えていない部分は、コーヒーの味ですね。叔父の時代から同じ豆を仕入れて、同じようにドリップしています。

当店の豆の特徴は、ガスではなく炭で焙煎した豆を使っているということですね。炭火焙煎のコーヒーは、冷めてしまっても淹れたての時とほとんど味が変わらないことが特徴です。これは言葉ではなかなか表現できないと思いますので、ぜひ一度、実際に飲みに来て味わっていただければと思います。

先代から続くこだわり、その美味しい一杯をぜひ味わってみて欲しい
先代から続くこだわり、その美味しい一杯をぜひ味わってみて欲しい

ただ、炭火焙煎はモクモクと煙を上げながら焙煎するため、どこでもできるわけではありません。当店では、昔からお願いしている神戸の海沿いにある業者さんに焙煎していただいて、それを1週間ごとに送ってもらっています。店では1週間で必ず売り切るという形にし、発注はとてもシビアに見ています。そのため、途中で一部が品切れになってしまうこともあるのですが、叔父の代から続く、鮮度・質へのこだわりは変えていません。

炭火焙煎されたコーヒーは冷めても味が変わらないという
炭火焙煎されたコーヒーは冷めても味が変わらないという

ただ私は、自分たちのコーヒーが一番だとは一切思っていません。自分たちが飲んで美味しいと思っても、隣の人はそう思わないかもしれない、それがコーヒーですから。うちはすこし香りが強いため、さらっと飲むコーヒーが好きな人には合わないかもしれません。ただありがたいことに「この味じゃないと」と言ってくださる常連さんも多く、先代からも「この味だけは変えないでくれ」と言われていたため、コーヒーの味は変えずに守り続けています。

香りが強く、常連さんも多い「珈琲倶楽部 田(DEN)」のコーヒー
香りが強く、常連さんも多い「珈琲倶楽部 田(DEN)」のコーヒー

――お客さんはどんな方が多いですか?

永塚さん:客層は、コロナ禍もあり大きく変わってきていますね。以前はご高齢の常連のお客様がほとんどで、午後のティータイムの利用も多かったのですが、コロナ以降はほぼランチタイムのお客様がメインになっています。今は9割くらいがランチでいらっしゃるお客様でしょうか。そして最近では新規のお客様も多くいらっしゃいますね。私がYouTube動画でいろいろと情報発信をしていたり、メディアなどでご紹介いただいたりしているからだと思うのですが、特に週末には新規のお客様も多く来られます。

ランチの時間帯には多くのお客さんでにぎわいをみせる
ランチの時間帯には多くのお客さんでにぎわいをみせる

――ランチのおすすめメニューは何ですか?

永塚さん:一番人気はオムライスです。これも昔から変わらない味で、もともとは祖母が作っていた味を引き継いで作っています。ちなみに今、調理担当は私の母なのですが、母の実家が蕎麦屋を営んでいたこともあり、夏限定の蕎麦もすごく人気です。長野で製麺した蕎麦を送ってもらい、安曇野産の花わさびと一緒にお出ししています。コーヒーと蕎麦という変わった組み合わせですが、美味しいので時期になったらぜひこちらもお試しください。

夏限定のお蕎麦ランチも人気メニューの一つ
夏限定のお蕎麦ランチも人気メニューの一つ

――お店の入り口では、数多くのドリップコーヒーを販売していましたね。

永塚さん:先代の時には完全に喫茶店一本でしたが、経営の安定には物販を強くしていかないといけないと思い、物販にも力を入れて展開しています。実はあのドリップコーヒー(一杯取りのパックコーヒー)は全部、お店で手で詰めて作っているんですよ。手間はかかりますが、今では年間で5万パックくらい売れる人気商品になっています。

さまざまなコラボも生まれている、ドリップコーヒー
さまざまなコラボも生まれている、ドリップコーヒー

最近はこのパックコーヒーから、音楽ブランドやアウトドアブランド、芸能人の方やミュージシャンの方とコラボしながら、さまざまな商品展開を進めています。ドリップコーヒーに加工することで豆のロスも無くせる、というメリットもあるんですよ。

とにかく便利でありながら、穏やかな住環境が広がる八王子市横山町

――永塚さんは生まれも育ちも八王子ということですが、横山町付近の魅力はどのような点だと思われますか?

永塚さん:私の生まれは、浅川の北側にある大和田というところですが、横山町周辺の魅力というと、ひとつは神社仏閣もあり、穏やかなところがあげられますかね。この辺りの氏神様は「子安神社」ですが、とても静かでいい神社だと思います。

落ち着いた空気が広がる「子安神社」
落ち着いた空気が広がる「子安神社」

実は当店でも「子安神社」さんとコラボをして、毎月1日と10日に、貴重な御神水を頂いて作る「御神水珈琲」をお出ししています。ほかにも、当店のすぐ向かいに「大鳥神社」があったり、少し歩けば浅川にも出られる。駅から近いのに静かで落ち着いていて、自然もあっていい場所だと思います。

私がこどものころと比べると様変わりしていますが、昔から続く元気なお店もありますし、「八王子まつり」の時にはこの辺りがメイン会場になるため、地元イベントを楽しめるという事も魅力かと思います。歩いて行ける範囲に「西放射線ユーロード」などの繁華街もありますから、いろいろな楽しみが近くにある街だと思います。

八王子駅北口の街並み
八王子駅北口の街並み

――最後に、この辺りに暮らしたいという方に向けてメッセージをお願いします。

永塚さん:この辺りはとにかく便利だと感じます。都心に行くときにも、JRと京王線が選べて、座っていきたい時には京王線、急いでいきたい時にはJRといった選択もできます。また、「八王子」駅と「京王八王子」駅の間に「東京たま未来メッセ」という展示会場がオープンしました。さらに将来的にも発展が見込める地域だと思いますので、私からもぜひおすすめさせてください。

最後に、個人的なことになってしまいますが、私自身が「八王子ジャーニー」という情報サイトのライターをしています。その中で、八王子の経営者同士を数珠繋ぎで紹介する「ハチオウジのWA!」という企画と、八王子のスペシャリストを紹介する「八王子の匠」という2本を担当して、ユーチューブ動画として公開しています。八王子の多彩な魅力を感じられると思いますので、こちらもぜひ見ていただければ嬉しいです!

珈琲倶楽部 田

店主 永塚祐士さん
所在地: 東京都八王子市横山町2-7 石川ビル2F
電話番号: 042-646-6932
URL:https://coffee-den.amebaownd.com/
https://www.coffeeclub-den.com/
※この情報は2022(令和4)年12月時点のものです。

地元・八王子で先代から変わらぬコーヒーの味と、新たな施策でファンを増やす/珈琲倶楽部 田(DEN)(東京都)
所在地:東京都八王子市横山町2-7 石川ビル2F
電話番号:042-646-6932
https://coffee-den.amebaownd.com/
https://www.coffeeclub-den.com/