現代に伝える、江戸切子の輝き/すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さん

すみだ江戸切子館
代表 廣田達夫さん

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー

現代に伝える、江戸切子の輝き

「江戸切子」とは、透明ガラスに色ガラスを重ねたものに線状のカット(切子)を入れて、浮き出る文様や色の美しさ、手触りの良さを楽しむもの。「東京都指定伝統工芸品」の中から、さらに「経済産業省指定伝統工芸品」のダブル指定を受けた、数少ない工芸品のひとつである。

現在は主に江東区、墨田区、大田区で生産されているが、このうち墨田区の職人の製品を一手に束ねて展示・販売しているのが「すみだ江戸切子館」だ。店内の半分ほどは工房になっており、ガラス越しに職人の作業を見ながら、さまざまな種類の江戸切子を選ぶことができる。

今回はこの工房ショップの生みの親である、廣田達夫さんにお話を聞き、工房専属の切子職人、川井更造さんに作業を見学させていただいた。

「すみだ江戸切子館」の歴史についてお聞かせください

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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「すみだ江戸切子館」は、「廣田硝子」という会社が母体になっていまして、これはもう115年続いている会社なんですが、その中でやっていた江戸切子の部門を、2004(平成16)年に「ヒロタグラスクラフト」として分離独立させまして、切子の展示即売を始めました。それから4年後、現在のこの場所に「すみだ江戸切子館」としてオープンさせました。

元々、「廣田硝子」でやっていた頃には、切子製品は問屋さんを通して全国のデパートや専門店などに販売していたんですが、やはり、伝統工芸を受け継ぎ、生かしていくためには、自分たちで伝統工芸品のマーケットを作っていかないと、廃れてしまうと思うんです。

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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ですからここでは当社工房にも、墨田区・江東区・葛飾区にいる江戸切子職人さんの作品も並べていまして、それぞれの方が特色ある、際立った腕を持っていますので、いろいろな江戸切子に出会っていただけるかと思います。

墨田区の「すみだ3M運動」にも連携しているそうですね

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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そうですね、墨田区では「すみだ3M(スリーエム)運動」というものを推進していまして、「マイスター」、つまり伝統工芸職人の「M」、「ミュージアム」(小さな博物館)の「M」、「マニュファクチュアリングショップ」(工房ショップ)の「M」という、3つの「M」を「ものづくり」の要素と位置付けて、アピールしていこうとしているんですね。もう30年ほどやっている運動になるでしょうか。

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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その典型的なひとつのモデルとなっているのが、この「すみだ江戸切子館」なんですね。昔の伝統工芸職人は、製法や道具を自分だけの秘密にしていたものなんですが、今は「隠すのではなくて、見えるようにしていこう」ということで、工房をオープンにする流れが広がってきています。ここも工房にガラスの覗き窓を付けていますので、ショップの中からいつでも工房が見られるようになっています。

そうやって技術の難しさというものを見ていただくと、職人たちが作りだす、伝統工芸の価値を理解して頂くことができます。

江戸切子はどのように作られているのでしょうか?

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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元々、グラスなどの形に成形された「生地」と呼ばれる素材がありまして、ここにまず「割付」(墨付け)ということで、目安になる線を入れます。その後、ステンレスの円盤の周りにダイヤの粉末をまぶした円盤研削機を使って「削り」の作業に入ります。「荒摺り」(あらずり)、「二番掛け」、「三番掛け」とだんだん細かいところを削っていったら、「石掛け」で表面を滑らかにして、最後にブラシで「研磨」をして、透明にします。それで完成ですね。

「すみだ江戸切子館」の商品は、すべて工房で作られているものなのでしょうか?

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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ここの商品についても、だいたい3割ぐらいは工房の中で作られていますが、ほかは外部の職人さんの作品です。ここにある江戸切子は全て、「すみだ江戸切子館」だけの作品であり商品です。

模様としては、ひとつは、伝統的な文様をベースにしたものですが、伝統的な文様をいくら組み合わせても、やはり限度がありますので、切子の技術をベースにした、時代に即したような新しいデザインのものも作っています。

確かに伝統的なものとは違う模様やカラーのものもありますね。

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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赤と青が基本の2色ですが、色を変えて赤と黒や、青と緑の組み合わせにしてみたものもありまして、最近は全体的に、少しモダンなデザインのものを増やしています。いま墨田区が推進している事業のひとつに、地域ブランド戦略としての「すみだモダン」というものがあるんですが、墨田区PRのポスターにも、うちの製品が載っているんですよ。

これからは、江戸切子にも「新しい分野」が必要だと思いますから、もっと広く、いろいろな分野を開拓していきたいと思いますね。

ところでなぜ、江戸切子の色は青と赤なのでしょうか?

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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江戸切子はもともと江戸時代後期に、ビードロ(ガラス)問屋を営む「加賀屋久兵衛」がガラスにカット(切子)を入れて売ったことが始まりと言われていまして、当初は、江戸切子を言えば透明なガラスにカット模様が入った、無色のものだったそうです。ここに当時の引き札(カタログ)がありますけれど、確かに、そこには透明の切子が書かれているんですよ。

その後、薩摩では色付きの切子が作られるようになったんですが、明治ごろからは江戸でも色を被せる切子が普及してきまして、1985(昭和60)年に東京都の伝統工芸に指定される時に、色をかぶせて作ったガラス素材をベースとし、それが、赤と青だったんです。

薩摩の切子も有名ですが、江戸切子とはどんな点が違うのでしょうか?

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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薩摩切子はもともと、薩摩の島津家が輸入や輸出に熱心で、特にヨーロッパから入ってきたガラス製品について、自分の藩でも作りたいということで、江戸からビードロ職人を連れてきて作り始めたんですね。その時の製法が、イギリスのカットガラスを手本にしたもので、ヨーロッパスタイルの製法でしたから、色のかぶせ方が江戸切子とはちょっと違うんです。

そのために薩摩切子は色ガラスの層が厚くて、カットのデザインも深く大胆になっています。「ぼかし」と言われるグラデーションも特徴的ですね。一方で、江戸切子は色ガラスの層が薄いので、もっと繊細なカットもできますし、色目もくっきりとしています。

江戸切子は墨田区を中心に作られているのでしょうか?

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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切子はもともと、長崎の出島に持ち込まれて、長崎、山口、大阪と経て、江戸に入ってきたんです。実は大阪でも昔は切子作りをやっていたそうなんですが、最終的には市場の大きさもあって、江戸だけが残って発達しました。薩摩切子が生まれたのは、それよりも後になっての話ですね。

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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江戸時代からこの辺りに職人さんが多くいたそうですが、墨田区では、うちを含めて現在3軒のみになっています。江東区のほうが職人の数としては多くて、50人以上はいらっしゃいますね。ただ、こうした展示即売をやっている横で、職人が作業しているのを見られるのは、うちだけだと思います。これだけの種類の切子を揃えているのもうちだけでしょう。

切子の魅力とは何でしょうか?

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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ガラス自体も非常に神秘的なものだと思うんですが、そこにカットを入れることで、さらにいろいろな表現や味わい、作り手の思いなどが表現できます。まさに、「キャンバスに絵を書く」というような感じですよね。そういったところが、切子の面白さだと思います。

実際に使ってみても、カットガラスの独特の肌触りを楽しみながら、飲み物を味わえるというのは、とても気持ちがいいですよね。 うちでは実際に販売しているものと同じ生地(未加工グラス)を使った切子体験もやっています。本格的切子作りを、3500円から4000円くらいの間で体験していただけますので、これもぜひ体験してみてください。

今後の新展開、新商品などの予定がありましたらお聞かせください

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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今まで、切子と言えばお酒やウイスキーなど、男性的な飲み物に使われることが多かったのですが、これからは女性にも買って頂けるような、魅力ある品物づくりをしていきたいですね。

実際には、9割以上のお客さまが女性なんです。ほとんどの方は自分で使うというよりも、ギフトで使われる方が多いですね。でもこれからは、女性が自分で使いたくなるような江戸切子を、たとえばインテリアにも生かせるようものを作っていきたいです。

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー

実際のところ、そうやって時代にニーズに合わせて展開しないと、技術というのは廃れてしまうと思うんですね。今、全国各地で「伝統工芸」が廃れてしまっているのは、昔の技術をそのままやっているか、もしくは、「作家」の道に傾いていると思うんです。「江戸切子の裾野を拡げていき、時代に合わせて改良し、「時代に合わせて変わり、市場が欲しがるものを作り続けていく」ということが、これからの時代、伝統工芸が生きる残るための道だと思いますね。

最後に、錦糸町エリアの魅力についてお聞かせください

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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スカイツリーができてから、この辺りもメデイアや雑誌など様々な場面で注目されるようになりまして、脚光を浴びるようになりました。昔からつないできたお店、技術、そういったものが、ようやく生かされる時代になってきたのだな、と感じています。

下町の良さとというのは、食べ物にしても技術にしても、「なじみがいい」ことだと思います。あまり気取らない、人情味があるようなもの、とも言えるでしょうか。もちろん江戸切子もそのひとつだと思いますが、ほかにも昔からの「良いもの」が沢山残っている地域だと思います。

すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さんインタビュー
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今回、話を聞いた人

すみだ江戸切子館
代表者 廣田達夫さん
実演 江戸切子士 川井更造さん

住所:東京都墨田区太平2-10-9
電話番号:03-3623-4148
営業時間:10:00~18:00
定休日:日曜日、祝日
http://www.edokiriko.net

※記事内容は2014(平成26)年4月時点の情報です。

現代に伝える、江戸切子の輝き/すみだ江戸切子館 代表 廣田達夫さん
所在地:東京都墨田区太平2-10-9 
電話番号:03-3623-4148
http://www.edokiriko.net