人と人、人と地域を繋ぐサードプレイス「船橋北口みらい図書館」/NPO法人情報ステーション 成瀬麦彦さん
船橋エリアでは今、街角のあちらこちらに「民間図書館」が急増中。今日までに25館が開設されている。中でも「船橋」駅から徒歩3分にある「船橋北口みらい図書館」は蔵書数が6,000冊以上と多く、市民大学「船橋みらい大学」の会場としても活況を呈している。取材に伺ったこの日は、現役司書を講師に『学校図書館って、どんなところ?』と題した講座の真っ最中。子どもを含む14人の参加者が、司書の役割や学校図書館の活用法について、和気あいあいと学んでいた。今回は、船橋夏見を含む「船橋」駅北口エリアの地域コミュニティの場となっている「船橋北口みらい図書館」を中心に、運営団体「NPO法人情報ステーション」の成瀬麦彦さんに船橋で広がる民間図書館についてお話を伺った。
本をきっかけにいろいろな人が出会える、手づくりの交流施設
「民間図書館」というのは、市民のみなさんから読み終えた本を寄贈してもらい、運営はボランティアが交代で担いながら誰でも無料で本を借りられるという、パブリックな“民設民営”の図書館です。船橋は人口62万人に対し公立図書館は4つなので、1館で15万人以上を抱えるかたちになっています。小さくても近所に図書館があれば、みんながもっと気軽に本を読めるのではないかという想いから、こうした民間図書館を作ろうということになりました。
運営している私たち「NPO法人情報ステーション」は、まちづくり全般に幅広く取り組んでいる団体で、民間図書館の運営を柱として、その他に地域のお祭りなどのイベントのサポート、市民大学の主催、クラウドファンディングのサイト運営の計4事業を展開しています。
目指せ小学校と同じ数!「船橋まるごと図書館プロジェクト」を展開
高齢化社会であることや子育てのしやすさを考えると、お年寄りも若い人も、遠くの大きな図書館にわざわざ通うよりも、近くの小さな図書館へ通う方が便利です。しかし、どこの自治体も図書館を増やすにも財政面が厳しいという問題があります。そこから、自分たちがボランティアベースで小さな図書館を作って点在させていけば、船橋のどこに住んでいても、みんなが歩いて図書館へ行ける街になる、という発想が生まれました。
当初、船橋市内に民間図書館を中学校の数と同じ30館つくるという目標を立て、これまでにマンションや高齢者施設、クリニック、シェアオフィス、車販売店などに既に25館を開設しました。現在は、市内中心ではなく、小学校区に1つずつ、計50~60館作ることを目指しています。公立図書館は図書館ごとに蔵書を持っていますが、民間図書館は全館で持つという考え方で、互いに本を融通し合っています。そのため、本をどこで借りてどこへ返すのも自由です。蔵書は、一般的によく流通している本が寄贈されるので、市民のみなさんが気軽に読みたくなるような本、特に小説が多いです。地元の方が書いた自費出版本なども置いています。
地域の人々と共に育てる、誰もが利用しやすい空間
民間図書館が増えた理由としては、読書や図書館に対するニーズがあり、さらに通常の公立図書館にはない、BGMやラジオが流れ、おしゃべりしても構わない、柔らかい雰囲気が民間図書館にあることが理由に挙げられます。実際、ここへ来ても本は読まず、立ち話だけして帰る人もいるほどです。
3号店となった「船橋北口みらい図書館」のオープンまでの経緯は、1号店の「ふなばし駅前図書館」が非常に狭く、寄贈された本を所蔵するために倉庫を借りていたのですが、倉庫に眠らせておくのであれば、人に見られる所に配架した方がいいと場所を探し、たまたま空き店舗になっていたこの場所を貸して頂けることになりました。
スペースに余裕もあったので、図書館と公民館の要素を合わせ持ったような施設を目指すことになり、壁際に本棚を設置して中央にスペースを設け、人が集まって活動しやすい造りにしています。また、みんなが集まって何か催し物を開催する際にレンタルスペースなどを借りるには、それなりの費用がかかります。そこで、そのような催しもできる公民館的な要素を内包した図書館にしようと、運営費を捻出するためにネーミングライツを募集しました。それにより、「船橋北口図書館」から「船橋北口みらい図書館」へと名称が変わったのです。
民間図書館の貸出しは1人2冊2週間までとしています。「船橋北口みらい図書館」の貸出しは月間にして200冊ぐらいでしょうか。この辺りは戸建て住宅に昔から住む地元民と、新しくできたマンションの住民が住んでいる街です。利用者も主には60代から、ベビーカーを押してくる世代まで来られます。開館は朝11時から夕方5時までで、火曜日と日曜・祝日が休みです。ボランティアには約20人が登録しています。定期的に関わっている方だけでなく、夏休みや冬休みだけという方もいて、みなさん無理なく協力してくれています。店番をしながら読書やおしゃべりをしたり、他の図書館から回ってきた本の中から自分の好みの本を選んで棚に並べたりと自由な雰囲気です。以前、“今度フィリピン旅行へ行くから”と自ら特集コーナーを作った方もいました。
講師にも参加者にもなれる、幅広いテーマが魅力の「船橋みらい大学」
図書の貸し出し以外にも、月に10回程度、「船橋みらい大学」という市民大学を主催しています。行政が行う市民大学は年配者向けに日中開催のものが多いですが、「船橋みらい大学」は現役世代が参加しやすいように平日夜間や土日に開催しています。誰でも気軽に講師・参加者になることができ、絵本研究や整体、神社仏閣での作法など幅広いテーマを扱っています。
本の読み聞かせや絵本づくり、ペットボトルを使った工作教室など、親子向けの講座もあります。みらい大学の講師が書いた本、あるいはおススメの本は、展示コーナーも作っています。この他にも、月に5回ほど、個人や他団体が主催する催しに場所を提供しています。読書会やパソコン教室をはじめ、打ち合わせやお酒の会等で使われることもよくあります。
「世界の童話図書館」や「ふなばし駅前図書館」も身近に
「船橋」駅前には、私たちが運営する「ふなばし駅前図書館」や、世界童話普及会運営の「世界の童話図書館」があります。「ふなばし駅前図書館」は蔵書数約400冊。利用者は30代の女性がメインで、それに続いて50代男性の利用も多いです。JR線と京成線の駅の乗り換え地点にあるため、通勤通学の乗り換えで立ち寄ってくれる方も多いです。取り扱っている本は、手に取りやすい文庫本がメインで、「船橋市立図書館」の本も、こちらで返却することが可能です。
「世界の童話図書館」は、絵本や童話に気軽に触れられる図書館です。こちらは貸出しはしていませんが、同じ絵本が数カ国語分所蔵されていて、靴を脱いでゆったりと本を読むことができます。
会社でも学校でも家でもない居場所“サードプレイス”であり続けたい
今後の展望としては、やはり船橋市内のエリアに万遍なく民間図書館を作りたいと考えています。また、「船橋北口みらい図書館」としては、ふらりと立ち寄れば毎日何かイベントを開催しているような図書館にしたいです。「船橋みらい大学」についても、ここに来れば誰かに会えて、面白いことを行っている場所でありたいと思っています。いずれも、会社でも学校でも家でもない居場所、“サードプレイス”であり続けたいです。
船橋には街のために何かをやりたいという熱い想いを抱いている人がたくさんいます。20~30代で起業した方たちがフェイスブックを通じて仲良くなり、市内のあらゆる所でイベントが頻発している。その傍ら、太宰治が逗留して本を書いていたという家が住宅街の中に残っていて、地元の人でも知らないような文化的な側面もある。「船橋みらい大学」ではそういう地域の魅力を発掘して、いろいろな人たちの出会いにつなげていきたいです。郷土史や伝統行事など地元の人たちが生活の中で蓄えてきた知識や経験をもっと話してもらいたい、伝え続けてほしいとも思います。資料をアーカイブして後世へ伝えていくという図書館としての役割もきちんと果たしていきたいです。
~「船橋みらい大学」の参加者に聞きました!~
●ここに来ればいろいろな人と出会えて、リアルにつながる感じが魅力です。老若男女が集うので、年代が結構離れている方とも話ができます。イベント後に参加者でお酒を飲むこともありますし、ボランティアにも面白い方がたくさんいますよ。普段は仕事から帰ってきたら寝るだけなので船橋市民という自覚があまりないのですが、ここは唯一そういう気持ちが持てる場所です。船橋は気取りがなく、いろいろな要素が混在しているところがいいですね。歩いてみると面白い街です。(船橋市民、50代 男性)
●「船橋みらい大学」は内容もいろいろなテーマがあるので、見識が広がって勉強になります。子どもが一緒でも参加しやすいですよ。アットホームなので、一般的な講習会と違って、互いに意見を交わし合えるところがいいですね。こうした場所がもっと増えてほしいと思います。船橋は多様な方たちが住んでいるのが魅力的な街。特にリタイアした方の職業経験が幅広く、退職後も力を発揮されています。(船橋在勤、30代 女性)
船橋北口みらい図書館
○NPO法人情報ステーション
事務局長 成瀬麦彦さん
URL:http://www.infosta.org/
○船橋北口みらい図書館
住所:千葉県船橋市海神2-8-14
開館時間:11:00~17:00
休館日:火曜日、日曜・祝日
問い合わせ:047-419-4377
URL:http://www.librarylife.net/library/detail/0003
※この情報は2015(平成27)年11月時点のものです。