日々の観察や保護活動を通して街の誇りを守る

桜の木を通して、思いやりを育み、 自分たちの街をもっと好きに。/「くにたち桜守」代表 大谷和彦さん


くにたち桜守
代表 大谷和彦さん

桜の木を通して、思いやりを育み、
自分たちの街をもっと好きに。

JR「国立」駅からまっすぐ南に伸びる大学通りは、東京でも有数の桜の名所。そんな国立の桜並木を、市民の力によって守ろうと活動しているのが「くにたち桜守」だ。代表の大谷和彦さんは「桜をきっかけに自分たちの街をもっと好きになってほしい」と話す。大谷さんに「くにたち桜守」の活動や、国立の桜や街に対する思いについて詳しくお話を伺った。

「くにたち桜守」を始めたきっかけや経緯を教えてください。

大谷さん
大谷さん

きっかけは桜通りを歩いている時に、たまたま桜の木を見上げたら、皮がベロンと1メートル以上剥けていたんです。よく見たら、他にも傷ついている木が何本かあった。このままではいけないと感じて、当時「くにたちさくらフェスティバル」に関わっている知人に、電話して相談しました。そしたら「それは気が付いた君がやるべきじゃないか」と言われて、翌年「くにたちさくらフェスティバル」の実行委員会に入ったんです。

桜の木
桜の木

ほとんどの人が、桜は当たり前に咲いていると思っていますから、誰がいつ植えたのかといった歴史がわかれば関心を持ってもらえるのではないかと思って、まず調べました。大学通りの桜は、今の天皇陛下が生まれたのを記念して1934(昭和9)年頃に谷保村の人が植えたそうです。当時を知る植木屋の親父は、「自分の腕くらいの太さの桜を植えたら、今は俺のおなかより大きくなって嬉しい」と話していましたね。当時の植樹に携わった方々の写真を大きくプリントして「国立桜物語第1章、桜を植えた男たちと」いうタイトルで展示しました。その横に「桜の木はつらいよ」と題して、傷んだ桜の写真を飾ったんです。

絵

一回きりの活動で終わるものではないと思い、2年目の第2章は「桜づくし」と題して、桜の短歌や桜の花飾りを募集して展示。3年目の第3章は、アクションを起こそうと思ってポストカードを作り、300円で売った収益とカンパを集めました。そして花が終わった5月に薬を塗ったり、肥料をあげたりという桜の保全活動に取り組み、この年は33人の方が参加してくれました。第4章は桜の地図を作って販売。そして前年同様5月に保全活動をしたところ、50人以上の方が参加。翌年、第5章の活動ではついに100人を超える方々が参加してくれたんです。

桜

そして、第6章となる2000(平成12)年、嬉しいことに行政が2ヶ年の計画で桜の保全事業を行うと言ってくれたんです。最初は少数だった活動に、少しずついろんな方が参加してくれるようになり、6年目になってようやく行政も動いてくれたんです。この年に、市民ボランティア団体「くにたち桜守」が正式に誕生しました。

普段どのような活動をしているのですか?

ボランティア
ボランティア

毎月第3日曜日が作業日です。今月(4月)の作業は、菜の花の周りの雑草取り。先月は、桜についてのポスターを飾る準備をしました。一回の作業の参加者は、10人から15人くらいです。40代から60代で、比較的時間に余裕のある方が多いですね。

どのような思いで活動をされていますか?

桜と大谷さん
桜と大谷さん

私は桜の木だけが大事なわけではないと思っているんです。桜の木を通して、自分たちの街を自慢できる街にしていきたい。家族や友達が病気だったら元気になってほしいと思う気持ちは、桜の木や他の植物が傷んでいても同じのはずです。例えば、そういう思いやりの気持ちを育てることで自分たちの街をもっと好きになってほしい、というのが桜守の目標です。桜守だからといって、桜の木ばかりを見ているわけじゃないんです。

大谷さん
大谷さん

私にとっては、桜をきっかけに色んな人と出会うことができて、それが一番の財産なのかなと思います。取り組みのなかで、小学生や中高校生と話す機会も多いですし、先日は江戸川区に行って桜のお話をさせて頂いたりと、桜をきっかけに色んな出会いが広がることがとてもありがたいですね。自分だけでなく、桜守に入っているとそういった楽しい出会いがたくさんあることも伝えていきたいですね。

子どもたちと一緒に行っている活動も多いのですね。

小学生
小学生

小学生から高校生まで、多くの子どもたちが桜守に関わっています。桜を守る活動にこれだけ多くの子どもが参加しているというのは、全国でも一番だと思います。主には、小学生から高校生を対象に桜についての授業をしています。それも一回きりではなくて継続的に授業を行うことで、桜の木を通して国立を自慢できる街にしていく、自分たちの街を好きになることを目的にしています。そして環境への考え方や、思いやる気持ちを育むユニークな授業です。

説明中
説明中

小学1年生には、「ミミズはかわいい」という授業で、「桜さんの固い土にミミズさんがいて土を食べてくれれば、だんだん隙間ができて水や空気が入って、桜さんが元気になるみたいだ。ミミズさんって素敵だね」という話をします。2年生になると、「桜さんとお話したことがあるのかな?」と問いかけます。桜の木に耳をつけて、幹を木づちで叩くんです。2本の桜を叩くと違う音がして、一方は「桜さんが僕はまだ元気だよ」っていう音、もう一方は「中が傷んでいて病気だよ」っていう合図なんですね。

草むら
草むら

3、4年生では、「ママ下の湧水」に行って水の中に入る授業もしています。湧水は年間を通して水温が変わらないので、冬の寒い日に水に足を浸けると温かく感じるんですね。また、多摩川でバードウオッチングをすることもあります。この地域の春の鳥、夏の鳥を調べて、自分で見て、声を聴いて、どういう場所に住んでいるかを自分で確認する授業です。好奇心が強くて感受性の豊かな時に、そういう季節感を五感で感じる体験をしておくことがとても大事だと思います。

土堀り
土堀り

中学生や高校生には、肥料を作ったり、桜の健康診断をしたりといった活動をしてもらいます。グループ毎に作業内容を変えて、学校に戻ってから「なぜその作業が必要なのか」を話し合ってもらいます。一番大事なのは、その理由を自分たちで考えてはっきりさせることです。

看板
看板

こうしてたくさんの子どもに関わっていると、嬉しい話が届くこともあります。先日は、小学校の時にお世話になったという子が成人式の前に連絡をくれて、「今は大学で環境学を学んでいますから、大谷さん、先々は大丈夫ですよ」と話してくれました。新聞社に就職したという方が、取材の勉強で「桜守のことをもう一回教えてほしい」と電話がかかってきたこともあります。先日、新潟県上越市の「さくらフォーラム in上越」で講演に呼ばれ、「100年先の桜を語ろう」というテーマでしたので、国立の子どもたちの活動を紹介してきましたよ。

「くにたちさくらフェスティバル」や「桜コンシェルジェ展」について教えてください。

桜

「くにたちさくらフェスティバル」に合わせて、国立と立川の観光協会が「桜ウォーキング」というイベントやっているので、今年はそちらに協力させて頂きました。イベント参加者の多くは桜の種類や樹齢、桜の病気のことなどは知らないので、コースの途中でそうした桜の案内をしました。そういう説明を聞くと、見る目がまた違ってくると思うんですよ。

コンシェルジュ
コンシェルジュ

「桜コンシェルジェ展」は、毎年桜の時期に「国営昭和記念公園」で「くにたちの桜並木が東京で一番見事な秘密公開します」というタイトルでやっています。国立のいろいろな学校の生徒さんの桜に関する作品を展示したり、紙で作った大きな桜の木に生徒さんたちのメッセージを書いた花を貼って飾ったりします。メッセージを読むと、「桜をもっと大事にしてほしい」とか、「ミミズが大事だ」とか、子どもたちが自分で考えて書いてくれています。一回だけの体験ではなく、こういった学びを積み重ねていくことが、将来に繋がっていくのかなと思います。

改めて、国立という街の魅力を教えてください。

風景
風景

国立は、街を歩いているといろんな季節感を感じます。春の桜だけでなく、夏は木々が濃い緑になり、秋は赤やオレンジに色づいたグラデーションの中から虫の声がたくさん聞こえます。葉が落ちた冬木立を見上げればオリオン座が見えます。お父さんが仕事に行くときに、お母さんが買い物に行くときに、子ども達が学校に行くときに、これだけの桜や緑に囲まれた街は他にないと思うんです。東京で一番素敵な街なんだよ、って私は言っています。

チューリップ
チューリップ

一番のおすすめは、やはり大学通りですね。夏は桜が咲いていないからつまんないねって言われるかもしれないけれど、緑の木陰になるので歩いているだけで気持ちいいですよ。素敵な緑がたくさんあることで、夏も涼しくホコリを防いでくれる。そうして葉っぱに養分を蓄えて翌年またきれいな花が咲くんです。また甲州街道を渡っていくと青柳崖線があり、その近くの「ママ下の湧水」は夏に行くとひんやりしてとってもいい所です。さらに行くと、多摩川もあって広い空も満喫できますね。

INTERVIEW: くにたち桜守 大谷和彦さん
INTERVIEW: くにたち桜守 大谷和彦さん

今回、話を聞いた人

くにたち桜守

代表 大谷和彦さん

URL:http://www005.upp.so-net.ne.jp/k-sakuramori/

※2015(平成27)年4月実施の取材にもとづいた内容です。 記載している情報については、今後変わる場合がございます。

桜の木を通して、思いやりを育み、 自分たちの街をもっと好きに。/「くにたち桜守」代表 大谷和彦さん
所在地:東京都国立市中、東の一部 
https://k-sakuramori.sakura.ne.jp/