伝統校が新たな教育の最先端をゆく/所沢市立松井小学校 中村隆校長先生
所沢市立松井小学校
中村隆校長先生
伝統校が新たな教育の最先端をゆく
創立から140年余りもの年月を経て、地域の人々の心のよりどころとなっている「所沢市立松井小学校」。いまこの学校は、地域で最も古い歴史を持つとともに、最も先進的な取り組みを進める学校としても注目を集めている。今回はこちらで校長を務め4年目になる、中村隆先生にお話をうかがった。
創立141年目の伝統校
本校は1874(明治7)年の開校で、2015(平成27)年で創立141年目を迎える小学校です。歴史上、1873(明治6)年に開校した小学校が最も古いのですが、本校はそれに遅れることわずか1年で開校しています。創立140年目を迎えたのが2014(平成26)年なので、歴史上で言えば創立してから約半分の年数が民主主義の時代にあった学校とも言えます。
校舎については、130周年を機に11年前に建て替えられ、「多様な教育活動ができること」そして、「地域に開かれた学校であること」というふたつの理念のもと、新しい校舎が造られました。
この「多様な教育活動」を支えるために、本校の教室はさまざまな工夫がされています。たとえば、普通教室は「オープン教室」と言って、4面ある壁の内、廊下側の1面を無くして隣の教室とつながった造りとなっており、必要に応じてロッカーなども移動できるので、広い空間を確保することができます。また、特別教室についても、多様な教育活動を支える工夫が随所に凝らされています。
もうひとつの理念、「地域に開かれた学校」についても、たとえば学校図書館は地域開放型の学校図書館とし、学校の外側にも入り口を作り、地域の幼児から小学生が使えるようになっています。また、現在、試行段階ですが、中学生にも開放することも検討しております。
図書館以外についても、「学校開放委員会」が主体になり、多目的室、家庭科室、音楽室、図工室、コンピューター室、アリーナ(体育館)などを、平日の夜間と休日に、地域の方々に開放しています。本校では体育館を「アリーナ」と呼んでいますが、これはアリーナという言葉がもつもうひとつの意味、「人が集まる場所」ということを意味しています。
このようにして、平日は「子どもたちが集い学ぶ学校」ですが、平日の夜や休日は、地域の方々が集い、自己実現を図るという、地域の文化の核としての学校になっています。
子どもたちの自信を育てる学校に
昨今の先の見通せない複雑な社会に伴い、本校では「豊かな心」そして「意欲と自信を持つこと」が、将来を生き抜くための大切な力につながると考えています。そこで、学校の授業の中で、これらを育てる授業を推進しようと、先生方が力を合わせているところです。授業以外のさまざまな行事についても同様に考えています。
「豊かな心」を育むための講演会としては、「エンジン01(ゼロワン)」という文化団体の協力を得て、講師の方を派遣していただき、子どもたちの授業に役立てています。これは私が着任してからここ3年間の取り組みですが、講師には、エジブト学者の吉村作治先生や、先日訃報が入りました川島なお美さん、パティシエの鎧塚俊彦さん、宙組のトップスターだった姿月あさとさん、フリーアナウンサーの中井美穂さんなど、さまざまな方に特別授業で本校にいらしていただいています。
また、課外活動としましては、地域の方々の畑を借りて、さつまいも掘りやお茶摘みの体験を行っていますし、所沢名物のお団子を、後援会の方々に教えてもらいながら作るという勉強もしています。このような活動を通じて、豊かな心を育てたいと考えています。
「意欲、自信を育てる」という面では、「アクティブラーニング」というものがあります。これはいま、教育界では今後の教育方法として注目されているものですが、本校でもこれを取り入れた授業を、2014(平成26)年から進めています。この取り組みについては市内でもまだ取り組んでいる学校は少ないと思いますが、本校では「東京大学」の「CoREF(コレフ)」という組織から指導者をお招きして、先生方も研修を受けながら、取り組みを始めているところです。
地域でも学校でも受け継がれてゆく伝統行事
「地域に開かれた学校」としての取り組みについては、校舎を建て替える前から行われています。先ほどお話した、さつまいも畑での取り組みや、お団子作りは数十年続いている活動ですね。
これを含め、地域との交流については昔からさかんに行われており、私も子どもたちには、「地域活動に進んで参加するように」と呼びかけています。地域で行われるお祭り、地域の行事などには、本校からも(個人的に)数多くの子どもたちが参加していますし、先生方も数多く参加しています。
一例を挙げますと、「安松神社」のお祭りでは、本校の綱をお貸しして綱引きを開催していますが、その時には本校の先生方も行って、町内会ごとに分かれている子どもたちに交じって、一緒に綱引きをしています。
また、学区内を流れる柳瀬川の清掃なども伝統的な取り組みの一つですね。こちらも町内会が主催しているものですが、本校の子どもたちも先生方も、数多く参加しています。地域の方と関わるという場面は、とても多いと思います。
柳瀬川に関しては、毎年8月に「川まつり」が行われるのですが、この時には子どもたちがカヌーを体験したり、川で鮎が釣れますので、それを塩焼きにして食べたりと、楽しんでいます。
街と共に成長した軌跡
また、本校は街と共に成長してきた学校とも言えます。現在は「所沢市立松井小学校」ですが、70年前は「松井村立松井小学校」という名称でした。昔からお住まいの方にとっては、本校は「おらが村の学校」として認識されている方も多く、地域の方々は学校にたいへん思い入れを持っておられると思います。
また、地域で1番古い学校ですので、ここから昭和40年代から50年代にかけて次々に学校が分かれて、近くに小中合わせて7校の兄弟学校があります。学区が変わって40年以上経ちましたが、親子とも兄弟学校に通っていたという方や、おじいちゃんは「松井小学校」に通っていたなど、親子三代に亘って本校を卒業されているご家庭もあります。今でも、松井小学校で開催される行事には、学区外からも大勢の方が来てくれていますね。
学校という枠を超え、地域と共に楽しむ
毎年恒例のイベントとしては、「PTAバザー」があります。開催当初は、PTAが品物を集めて行っている、どこにでもあるようなバザーだったのですが、これが、ここ数年で内容が変わってきました。「名前を変えたほうが良いのではないか」という声も聞かれるくらいです。
どのような内容に変化したのかと言うと、本校には多くの学校開放団体(ダンス、女子サッカー、太極拳、空手、なぎなた、剣道など)という団体があるのですが、このような色々な団体の方が、バザーの時に演武を見せてくれるようになりました。すると、演武を目当てに来る方、演舞する方のご家族の方など、バザーとは直接関係の無い方も沢山来られるようになり、今は「PTAバザー」というよりは、「地域フェスティバル」のような感じになってきました。
実はバザー以外にも、こういった開放団体の方が本校に関わっている部分があり、所沢市の一部の学校で取り組んでいる「放課後見守り活動 ほうかごところ」に携わってくれています。これは「子どもたちが安心して過ごせる場所として、学校施設を開放する」というものですね。
本校の「ほうかごところ」には、開放団体の方が、「無料体験教室」を開いてくれるというのが、ここ数年の流れになっており、放課後になると沢山の子どもたちが集まり楽しく活動しています。剣道、野球、サッカー、インディアカなど色々な種目があり、それぞれの団体が年間に1~2回ずつ開催しています。
このような活動は、「習うまではいかなくても、気軽に体験してみたい」という子どもたちにピッタリの活動で、とても人気があります。開放団体以外の方でも、「早稲田大学」のスポーツチャンバラのグループも体験会を開いてくれていますし、先日、「早稲田大学」のトランポリンのグループの方からも「体験教室を開きたい」という申し出がありました。トランポリンを運ぶだめの算段が付けば、これも実現できるかと思います。
このように、校内だけのコミュニティに納まるのではなく、地域の団体や大学の方々も関わってくださるのは、大変嬉しいことです。こういった取り組みは子どもたちにとって、いろいろなものを体験する素晴らしい機会だと思っているので、今後も積極的に進めていきたいと考えています。
給食で子どもたちの健康面もサポート
「松井小学校の給食が日本一おいしい」という子も多いくらい、地域でも評判の給食です。理由のひとつは、献立を考える栄養士の方々がとても熱心だということです。献立コンクールでも入賞するような方々が、本校の栄養士を担当してくださっており、所沢市特産の里芋やほうれん草など、地場の野菜も取り入れながら、本当に味を工夫してくれています。
たとえばラーメンを出す時などは、スープから校内で手作りしており、カレーライスも小麦をバターで捏ねるところから始めますし、香辛料も粉のものを調合して作っています。私はレストランでボルシチを食べたことが無いのですが、給食では食べたことがあります。それぐらいメニューの豊富さも素晴らしいのです。地場のものを豊かに、栄養のことを考えた給食を作ってくれていますので、子どもたちは、常に美味しい給食を頂くことができます。
もうひとつの校内調理については、調理を外部に委託しているという点が挙げられます。レシピと食材を栄養士が用意して、専門の業者の方が調理をするという仕組みになっており、その業者の方はプロの調理師の方ですので、美味しい給食にとても貢献してくださっています。所沢市内でも自校給食は増えてきていますが、給食センターで調理している学校もまだ4分の3くらいありますので、本校は恵まれていると思います。また、校内にはランチルームもあり、普段は教室で給食を食べますが、時々、ランチルームで学年単位に給食を楽しんでします。
新たに住みはじめる方にとっても
住み心地の良い街
このエリアは地域の方々が、子育てや学校教育にとても理解のある地域です。たとえばお年寄りの方々には、朝、ボランティア活動の中で子どもたちの登校の見守りをしてくださる方が沢山いらっしゃいますし、地域行事にも、数多くの方が参加してくださっています。
また、今は新しい住民と、昔からの住民の割合が半々ぐらいになっているので、新しく引っ越されてきた方々も、地域にすぐ溶け込めるような、馴染みやすい地域だと思います。
近くには緑豊かな原っぱもありますし、柳瀬川のきれいな流れもあります。あのスタジオジブリの作品の舞台になった場所も近くに幾つもあり、自然の中で子育てをしたいという方にとっても、たいへん魅力あふれる地域かと思います。
今回お話を聞いた人
所沢市立松井小学校 校長 中村 隆 先生
住所:埼玉県所沢市上安松895番地
TEL : 04-2992-2782
URL :http://www.tokorozawa-stm.ed.jp/matui-eh/
※この情報は2015(平成27)年10月時点のものです。
伝統校が新たな教育の最先端をゆく/所沢市立松井小学校 中村隆校長先生
所在地:埼玉県所沢市上安松895
電話番号:04-2992-2782
http://www.tokorozawa-stm.ed.jp/matui-eh..