知る人ぞ知る割烹を引継ぎながら、現代に合った店へ/割烹 司(山梨県)
甲府市の中心市街地、柳町の細路地にひっそりと佇む「司」(つかさ)は、昭和の高度成長期に誕生し、この街の発展とともに歩んできた老舗の割烹だ。甲府に昔から暮らしている人々の間では、非常によく名の通った名店であるという。
かつて「司」は紹介制の高級店だったそうで、今でも高級感や特別感、非日常を求めて訪れる常連客が多い。一方で現在は、予約不要のランチセットを提供するなど、新しい客層にもアプローチを試み、若い人々の支持も増やしているという。
この店の経営と料理を一手に担っているのは、初代女将から手腕を認められ、引退とともに「二代目」として店を継いだ伊藤勝久氏だ。今回はお昼の一番人気である海鮮ちらし丼セットをいただきつつ、伊藤さんにお店の特徴とこだわり、甲府の魅力についてお話を伺った。
地元の「特別な」割烹を受け継ぎ、新しい取り組みも
――創業から60年余りということですが、お店の歴史と概要についてお聞かせください。
伊藤さん:「司」は1958(昭和33)年に創業した割烹でして、おっしゃる通り、60年以上、地元の方を中心にご利用いただいているという老舗になります。ただ、私は創業者ではなくて2代目になりまして、最初は別の店からこちらに引き抜かれてお世話になっていたんですが、1994(平成6)年から料理長をさせていただいて、2008(平成20)年頃に先代の女将が引退した際に、私が経営を受け継ぎました。
「司」はもともと「水炊き割烹」ということ始まって、当初は博多風の水炊きというものが看板商品だったそうなんですが、鶏肉というものがあまり山梨県には根付かなかったということで、私が入った頃から、いわゆる“普通の割烹料理”を出すような形になりまして、特に冬にはフグ料理を看板商品として出すような形で、今もやっています。
――甲府の人なら誰でも知っている有名店と聞きました。
伊藤さん:そうですね。私も甲府市内の出身なので、この店のことは昔から知っていました。まさかここの料理長になって、ましてや経営をすることになるなんて、昔は夢にも思っていませんでしたけれど(笑)。
実はこの店、私が若い当時は、ここは「一見さんお断り」のお店だったんですよ。もちろん今は違って、お昼にはかなりリーズナブルなランチも出していますけれど。それくらい特別なお店のイメージがありましたね。
夏は鱧、冬はフグ。季節の食材を翌日のランチでも提供
――ランチタイムに出している、丼ぶりランチが人気ということですね。詳しく教えてください!
伊藤さん:お昼は基本的に丼物とお蕎麦のセットメニューを中心にやっていまして、丼物は5種類ほどございます。これにすべてお蕎麦が付いて、1,200円という形でやらせていただいています。このほか、ご予約をいただければ2,000円~5,000円までのランチの会席コースもご提供しています。
――5種類の丼は、どんな内容ですか?
伊藤さん:本日食べていただいている「海鮮ちらし」と、「鉄火丼」、「いくら丼」、「穴子丼」、「小海老と三つ葉のかき揚げ丼」の合計5種類です。冬季限定で「フグ天丼」というものもやっています。どれもセットで1,200円なので、かなりお得感はあると思いますよ。
――夜はどんなお料理を出されていますか?
伊藤さん:夜は4,000円から12,000円くらいまでの間で、それぞれ季節の食材を使った会席料理をご提供しています。夏は鱧(ハモ)を使った料理、冬はフグ料理が売りでして、フグ料理については10,000円から30,000円くらいまでの間でお出ししています。
――本日いただいた「海鮮ちらし」も、とても手の込んだ具が大盛りで大満足でした。
伊藤さん:そうですね、会席料理で使っている食材をそのまま使っていますので。やっぱり、会席料理だけでは仕入れた食材を使いきれないところがあって、それを無駄なく、ランチで使い切っている感じですね。
宣伝広告費を出す代わりに、このランチでお店の味を知っていただいて、それが夜のご予約にもつながれば、と思ってやっています。
歴史ある建物とお客様を大事にしながら、時代にあったお店づくりを
――建物もかなり歴史の重みがある、立派なものですね。これも創業当初からの建物でしょうか?
伊藤さん:実は、建物については私もよく知らないんですよ。創業以前からあった建物と聞いていますので、100年ほどは経っている建物かと思います。
建物の特徴としては、個室が沢山ある造りになっていまして、これが同時に「完全な個室でお食事を召し上がっていただける」という、お店の売りになっています。
外見からはわかりにくいと思いますけれど、小さなお部屋が4つ、10名様くらいのお部屋が1つ、20名くらい入るお部屋がひとつ、40名様くらい入るお部屋がひとつ、という感じで、けっこうな収容人数です。カウンター席もありますから、おひとり様からご家族連れ、宴会や法要などのご利用まで、幅広く対応しております。
――どんなお客さんが、どんな目的で利用されていますか?
伊藤さん:お客様はやはり、ご高齢の方が多いですね。創業当時からのおなじみのお客様が、今もけっこういらっしゃっています。中には90歳後半のご年配の方もいらっしゃいますね。
ほかは、接待などの会社関係のご利用が多いです。このあたりは「柳町」という商業地で、以前は甲府市、山梨県の中心地として栄えていたところなので、そういった需要は昔から多いですね。
若い方もランチには多く、この辺りにお勤めの会社員の方などがいらっしゃいます。お休みの日はご家族での利用も多いです。
――お店を経営するにあたって、大切にしていることを教えてください。
伊藤さん:お料理に関しては、「食材を無駄にせず、つねに鮮度のいいものをお客様に提供する」ということを大切にしています。2日3日経ってから使うということは、一切していません。さっきお話したように、会席用に多めに仕込んで、使いきれなかった分はランチに回して、夜にはまた新しいものをお出しする、というサイクルでやっています。
接客についても、ご年配のお客様が多いお店ですから、いろいろな配慮をしていますけれども、私としては、「こだわっている」というよりは、「当たり前のことを当たり前にやっている」という感じです。
――今後どのようなお店でありたいとお考えですか?
伊藤さん:「今と同じ」ではなく、「つねに新しく」ということを考えていますので、今までの形も大事にしながら、それを少しずつ変えて、時代に合った、より良い方向に変えていきたいな、と思っています。具体的に何が、ということは言えないですけれど、ランチもその一つですね。
伊藤さんの考える甲府の魅力
――伊藤さん自身も甲府の生まれ育ちということですが、甲府市の魅力について教えてください。
伊藤さん:よく言われるところだと、「東京までのアクセスがいい」という点ですが、これは確かにいいですね。私自身はあまり東京には行かないですけれど、高速道路でも、電車でも、1時間半もあれば新宿に出られますから、そこはかなり便利だと思います。
ただ、この辺りの中心市街地については、正直なところ、最近はお店の数も減ってしまっています。それでも、うちのような料理屋も幾つか頑張っていますし、デパートもあるし、飲み屋さんもあるし、市役所もあるし、山梨では数少ない、「車を使わなくてもすべてが揃う」というところなので、それを生かしながら、便利に暮らしていただければな、と思っています。
あと、やっぱり古い街ですから、歴史があるのがいいですね。ちょっと裏の路地に行けば、歴史を感じるようなものが残っていますし、昔ながらのスナックもあるし、散策して楽しい街だと思います。
――山梨と言えば、ぶどうや桃などの果物と「甲州ワイン」が有名ですね。食材も美味しいものが多いのではないですか?
そうですね、今はいろいろ美味しいものも増えてきているんですよ。最近は「甲州牛」とか「ワインビーフ」とか、「ワイン豚」なんかがけっこう話題になっていますね。
私はこの「ワインビーフ」が好きで、お店でも出していますが、ワイン、日本酒、焼酎などにも県内産でいいものが増えているので、ぜひ、うちで召し上がっていただければと思います。
――甲府人の気質についてはいかがですか?他県から引っ越して来た人も、馴染みやすい雰囲気はありますか?
確かに、ちょっと田舎のほうに行くと、外から来た人に冷ややかなところもあると思うんですが、甲府の特にこの辺りに関しては、山梨の中ではいちばんの“都会”ですから、外から来た人に対しても、あたたかく迎えてくれる雰囲気があると思います。そこは全然、心配ないと思いますよ。
――最後に、これから住みたいという方にメッセージをお願いします!
甲府はここ最近新しいマンションなども建ってきていますから、これから暮らす人がまた増えて、街に活気が戻ってきたらいいな、と期待しています。
実際に暮らしてみれば、いろんな良さが見えてくる街だと思っていますので、ぜひ一度、甲府の街を見に来ていただければと思います。
割烹 司(つかさ)
代表 伊藤勝久さん
所在地 :山梨県甲府市中央2-13-9
電話番号:055-233-3131
※この情報は2020(令和2)年9月時点のものです。
知る人ぞ知る割烹を引継ぎながら、現代に合った店へ/割烹 司(山梨県)
所在地:山梨県甲府市中央2-13-9
電話番号:055-233-3131
営業時間:11:30~14:00、17:00~20:00
定休日:日曜・祝日(※定休日でも事前に予約すれば対応可能)