人と自然が生きやすい未来へ。老舗がこだわるはちみつ作りとは/新垣養蜂園(沖縄県)
1954年の創業以来、首里ではちみつ作りを行う「新垣養蜂園」。創業当初は沖縄にまだはちみつが浸透しておらず、初代の新垣盛弘さんは「虫がつくったものを食べるなんて」といわれながら養蜂をはじめたそうです。そんな探求心旺盛な先代の血を受け継いだ3代目・新垣伝さんは「はちみつ作りにはまちづくりが欠かせない」と、養蜂のかたわら地域活動も行っています。その活動内容や新垣さんが大事にしているはちみつ作りについて伺ってきました。
手作りのはちみつはもちろん、ワークショップ、蜂針治療など多彩
――まずは新垣養蜂園がどのようなお店なのか教えてください。
新垣さん 新垣養蜂園では、沖縄県産(国産)はちみつ、プロポリス、ローヤルゼリー、ミツロウなど自社生産を中心に行っています。生産のほかにも一般家庭の蜂の駆除や、受粉用の蜂の出荷(県外へ)、企業とのコラボ商品開発、蜂針治療や小学校でのはちみつ作り体験会やワークショップなど、蜂に関するさまざまなことを行っています。
――蜂針治療はどんな効果があるのでしょうか。どれくらい痛いのかも気になります。
新垣さん 名前のとおり、蜂の針を刺す治療方法です。人が蜂に刺されると脳が異物を検知して、刺された場所を回復しようとします。その際、刺された箇所の白血球が増加するので血流が良くなり、炎症や肩こりなどを緩和させるのが蜂針治療の効果です。蜂針による刺激作用は自律神経の調整にもつながるため、自然治癒力を高めるともいわれています。養蜂家は平均寿命が長いんですが、それは蜂によく刺されているからだというデータもあるそうですよ。
痛みに関しては「チクッとする程度」という方がほとんどですが、個人差があることと、まれにアレルギー体質の方もいるので、1本2本だけテストで打てる無料体験も行っています。
――はちみつ作りのこだわりを教えてください。
新垣さん はちみつをたくさん作る方法を知っていますか?それは「砂糖水をあげること」です。ですが僕たちは砂糖水は一切あげません。理由はたくさんありますが、大量生産・大量消費や、はちみつの栄養価を下げてしまうこと、自然環境の変化に気付けなくなるのが嫌だからです。それに砂糖ではちみつを作るって、なんだか変ですよね。
あくまで自然に気づきながらはちみつを作ること、そして首里のまちづくりに参加しながら植栽をゆたかにし、ここでしか作れないはちみつをつくることにこだわっています。
――自然環境はミツバチの育ちやすさだけでなく、はちみつの味にも影響するのでしょうか。
新垣さん はちみつは採れた場所で風味が変わります。そして風味を左右するのは、蜂が食べる花。ミツバチは半径2kmの距離を飛ぶと言われていますから、飛行範囲内の植栽によって風味が変わってくるんです。珈琲のブレンドをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。ミツバチたちも、半径2kmのあらゆる植栽をブレンドしてはちみつを作っているんです。
また、風味は季節によっても変わります。沖縄だとたとえば、5月は月桃、6月からはサガリバナやゴーヤーなど。首里のはちみつは、少し酸味があって「お花の香りがする」と感想をいただくことが多いです。
――人気の商品を教えてください。
新垣さん 最近は新型コロナウイルスの影響もあり、プロポリスが人気です。プロポリスの殺菌効果の強さと、はちみつの粘膜保護効果が期待されているのだと思います。また、首里のまちづくりプロジェクト「首里ミツバチ・花いっぱいプロジェクト」がプロデュースしている首里生まれのはちみつ「首里王朝蜂蜜」も、2015年に販売開始して以来、不動の人気商品です。
養蜂の意義を見出し、名古屋から首里にUターン
――新垣さんは県外で別の仕事をしていたそうですが、沖縄に戻って継承を決めたきっかけは何ですか?
新垣さん 最初は継ぐつもりはなくて、大学進学のタイミングで名古屋に引っ越して、法学を学んでいました。法律の道は違うかもしれないと思い始めた頃、祖父(初代)の体調が悪くなったことを機に介護を学び、ヘルパーの資格を取った後、教育にも目覚めて教員免許を取りました。
教育者としてやっていきたいと思っていたちょうどその頃に、父から「蜂箱が重い」と、遠回しに継承を促すメールが来るようになりまして(笑)。同じ時期、ミツバチの減少が世界的に問題になっていたので軽い気持ちで調べてみると、蜂の受粉が僕たちの食糧を支えていることを知りました。そこでやっと「尊い仕事をしているんだな」と、養蜂への意識が変わったんです。
そのとき、ふと思いました。小さい頃から蜂の近くにいた僕も蜂の生態を知らなかったのだから、教育の需要があるのではないか。首里に帰って子どもたちに蜂のことを教えながら家業を継ぐことができれば、自分の夢も継承も果たせるんじゃないかと。その思いをモチベーションに、首里に帰ってきました。
街づくりと教育のため、ワークショップやプロジェクトを企画
――今やっていることは、新垣さんの人生の集大成のようなところがあるんですね。具体的にワークショップや教育はどのようなことをされているのでしょうか。
新垣さん ワークショップは、キャンドルやミツロウクリーム作り、養蜂講座などをやっています。教育は、毎年近所の小学校の「4年生」を対象に、はちみつ作り体験を教えています。実際に全員分のはちみつを作ってもらい、それを新垣養蜂園で販売します。ちょっとした職業体験にもなりますし、蜂を通して子どもたちに自然を守ることの意義を伝えていければと思っています。ちなみにPTAの方が、小学校の運動会で子どもたちのはちみつを販売したところ、即完売したそうですよ。
―「首里ミツバチ・花いっぱいプロジェクト」についても教えてください。
新垣さん 首里のまちに今よりもっと花を咲かせましょう、という活動をしています。花と緑、きれいな水が豊かな場所でこそ、ミツバチは安心して飛び回れます。地域に季節の花が咲き、花の蜜をミツバチが集めることで受粉して草木の実がなり、今度は鳥が公園や街路樹、庭先を訪れます。ミツバチが安心して活動できる場所は、イコール鳥や蝶にもやさしい環境で、それはつまり人にもやさしい環境だといえます。
先ほどご紹介した「首里王朝蜂蜜」のプロデュースも活動の一環で、ほかにも他県の先進例について講師を招いてお話しいただくシンポジウムの開催や、採蜜体験、首里をミツバチの目線で散歩する「ミツバチさんぽ」なども行っています。
首里は歴史があり、景観が保たれる貴重なまち
――首里は新垣さんにとってどんな街ですか?
新垣さん 小さい頃は、ここ以外知らなかったのでなにも思いませんでしたが、県外から戻ってきてたときは歴史があってすごくいい街だと思いました。昔は泡盛も織物も首里で作っていたので、沖縄の伝統のルーツであることを誇らしく思います。一方で、歴史がありながら戦火で失ったものも多いので、戦争の悲惨さを伝えてくれる場所でもあります。
――この街の魅力はどのような点にあると感じますか?
新垣さん 景観条例があるので、綺麗な景観が保たれていますし、住んでいる人たちも地域に経緯がある人が多いと感じます。お庭で花を植えている人も多いですよ。祭りごとやコミュニティが多いのも特徴で、幼稚園や学校の数も多いので、子育てにも向いていると思います。坂が多いのが難点ですが、その分まちはとても綺麗なので、歩くのは楽しいと思いますよ。
――中でも好きな場所や風景はありますか?
新垣さん 首里全体でいうと石畳がたくさんあって、洗練されていて美しいなと思います。個人的に好きなスポットは「首里崎山公園」です。公園内に展望台のようなところがあって、そこから那覇が一望できるのでぜひ足を運んでみてください。夜になると夜景も綺麗です。
――このまちにとって、どんなお店でありたいと思いますか?
新垣さん まず養蜂園は、まちの自然なくしては成り立ちません。自然の恩恵を受けるばかりで何もしないというのは良くありません。うちの蜂が首里の花の蜜を吸っている分、感謝を返せていると思ってもらいたいです。そのためにがんばります。
――最後に、これから新しく街に住む方々に向けて一言お願いします!
新垣さん 首里はこれからもっともっと綺麗なまちになります。まちの変化を楽しみつつ、歴史通になってもらえるとうれしいです。今は新型コロナウイルスの影響で軒並み中止になっていますが、本来はお祭りごとも多く、また僕たちがやっているようなプロジェクトも多く発足している地域でもあります。移住した方でも、まちの人と関りながら楽しく暮らしていける環境なので、ぜひ首里にお住いの際は、どんどんまちに関わっていただけたらうれしいです!
※この情報は2021(令和3)年9月時点のものです。
新垣養蜂園
所在地:沖縄県那覇市首里金城町1-29
電話番号:098-884-0814
URL:http://www.aaa888.org/
※この情報は2021(令和3)年9月時点のものです。
人と自然が生きやすい未来へ。老舗がこだわるはちみつ作りとは/新垣養蜂園(沖縄県)
所在地:沖縄県那覇市首里金城町1-29
電話番号:098-884-0814
営業時間:9:00~18:00
定休日:日曜日
http://www.aaa888.org/