園長 曽根基先生インタビュー

“教育は芸術”。家庭的な雰囲気の中で子どもたちが自ら育つ力をはぐくむ/こどものくに幼稚園(東京都)


1956(昭和31)年の開園より60余年の歴史を有する私立幼稚園「こどものくに幼稚園」。JR中央線「武蔵小金井」駅より徒歩10分ほどの住宅地に囲まれた環境で、園内に一歩足を踏み入れると武蔵野の面影を感じられる豊かな自然であふれている。 家庭的な雰囲気の中でのびのびと子どもたちを育てている雰囲気にファンも多く、これからの時代を生き抜く子どもたちにとって何が大切か、あらためて考えさせてくれるきっかけに出会えるかも知れない。今回は2代目園長であり、音楽家、”教育芸術家”としての一面ももつ曽根基先生に、現在の園の取り組みについてお話を伺った。

「こどものくに幼稚園」園長 曽根基先生
「こどものくに幼稚園」園長 曽根基先生

1956(昭和31)年に開園した私立幼稚園「こどものくに幼稚園」

――まず「こどものくに幼稚園」の沿革、概要について教えてください。

曽根先生:当園は1956(昭和31)年9月16日に開園いたしました。もともと母方の父がこの辺りに住んでいたこともあり、ここに幼稚園を立ち上げることになったと聞いています。父は牧師で当時はキリスト教の幼稚園としてキリスト教の教えを柱にした保育を行っていましたが、私の代になってからは特定の宗教というものから離れて自由にやっています。ただし、宗教的なことは大切だと思っていますので、キリスト教の教育の理念というものが自然とベースになっていると思いますね。

手作りの遊具(2017年撮影)
手作りの遊具(2017年撮影)

園内をご覧いただくとお気づきになるかと思いますが、遊具のほとんどは手作りで、しかも先生と子どもたちが共同作業で作ったものが多いんです。子どもたちがノコギリで木を切ったり、かなづちで釘を打ったり、毎年何かしらの遊具を作っています。

子ども達も一緒になって園内の遊具をつくっている(2017年撮影)
子ども達も一緒になって園内の遊具をつくっている(2017年撮影)

また園舎も真ん中の部分が膨らんでいてちょっと変わった形をしています。霞が関ビルの設計にも携わった建築家の池田武邦先生に設計していただいたのですが、子どもたちの感性を刺激するような工夫が盛り込まれています。例えば扉の一枚一枚が異なる形になっていたり、天窓に和紙を貼って優しい光が入るようにしていたり、教室も四角ではなく弧を描くような形になっています。

私の代になってから工夫した点と言えば、園舎の中に光があまり入らないようにしました。もともとは採光性が高い作りでしたが、園舎に明と暗のリズムを作りたかったので、あえて暗い部分を作ったのです。

「明暗のリズム」を意識した園舎内の造り(2017年撮影)
「明暗のリズム」を意識した園舎内の造り(2017年撮影)

「環」の教育を実践して、子どもたち自身が自ら育つのを目指す

――園の運営や教育活動において大切にされていることは?

曽根先生:私は、教育は「芸術」だと考えています。自分自身、高校生の時分から音楽が好きで、音楽や読書に没頭していましたが、その頃に出会った一冊の本の内容から、「教育は最高に神秘的な芸術である」という発想に至りました。

私はそこで「教育芸術」という概念に出会い、「教育がもっと丁寧になれば、芸術になるのでは」と考えました。子どもには無限大の可能性があるのだから、クリエイティブで無限の未来が広がる「教育芸術」によって真実を伝えたい、と思ったわけです。

当園の教育理念をあらわすキーワードの一つに「環(わ)」というものがあります。例えばカブトムシを見つければ子どもたちは一列に並んでではなく、環になって見ますよね。そういう自然にできたルールや自然の法則みたいなものが人間の中にもあります。それを感じるには芸術が一番ではと。そこで私は教育を「芸術」と捉え、「環」の教育を実践して「無いものから創りだしていく」ことを求めていきたいと思っています。

「環(わ)」になって遊ぶ子どもたち
「環(わ)」になって遊ぶ子どもたち

もちろん理想をもって教育活動を進めていくには相当の精神力がいるし技も磨かなきゃいけないですから、先生方も毎日が真剣勝負です。そういった先生方の姿を見て「私も先生みたいな大人になりたい」と思ってもらえればこれはもう立派な教育ではないでしょうか。当園の教育は「教える」とか「授かる」といった一方通行ではなく「環」の形をしているので、先生と子どもがお互いに影響し合い、子どもたち自身が自ら育っていくことを目指しています。

また私たちは園を「大きなおうち」と呼んでいるのですが、家庭的な雰囲気も大切にしています。今はひとりっ子が多い時代ですから、ここで過ごす中で、お世話をされて、お世話をして、という経験をして兄弟のような関係をつくって欲しいと思っています。従って、クラスは3~6歳までの縦割りクラスにしています。

外遊びを楽しむ子ども達の様子
外遊びを楽しむ子ども達の様子

先ほど教室を暗くするという話をしましたが、これも当園の教育の考え方につながっています。私は、今までの教育は「まぶしすぎる」と感じていて、子どもの「内なる光」が見えにくくなっていいるのでは、と危惧しています。ですから、私が先生方に目指して欲しいのは、保育士ではなく「教育芸術家」なのです。ひとつひとつの音を美しく出して素晴らしい音楽を奏でていくように、子どもが持つほのかな光を感じながら、それを紡いで教育という芸術を奏でてほしい。そうすれば、子どもたちは自然と育っていくと思っています。

困難は知恵の見せどころ。どんな時でも工夫して、今できる最大限のことを。

――近年は社会状況の変化やコロナ禍など子どもたちを取り巻く環境も大きく変化しているかと思いますが、教育活動において変わった点、変わらない点などいかがでしょうか?

曽根先生:そうですね、変わったと言えば変わったこともあるでしょうけれど、基本的には何も変わらないですね。自然の成り行きとも言いますか、最初に緊急事態宣言が出たときは少しの間だけお休みしましたが、その後すぐに園の活動を再開しました。
まだどうしたら良いかわからなかった頃は、まず両極端なやり方に振ってみて、そうするとちょうど良いところ、園の中ではマスクをつけようとか、屋外にいるときは外してみようとか、これが自然かなというところが見えてきて、今のところ何事もなく元気にやってこられています。

園内の消毒作業をする先生
園内の消毒作業をする先生

行事も毎年10月に行っている「おやまのおまつり」や卒園旅行など、年間を通じてさまざまな取り組みがありますが中止にしたものは無かったと思います。部分的に行ったり、人数を分散させてやってみたり、無いものねだりはしないで、今できること、あるものを最大限に活かすという工夫をしてやって来ました。いつでもどんな時でも工夫すればなんとかなるよと。むしろ知恵の見せどころですかね。

コロナ禍で変わった点としては、感染症対策のために機械を導入しました。もともと人工的なものはなるべく避けようという方針でやって来た園ですが、子どもたちやご家族、先生方の健康を第一に考えて外気導入型のエアコンを設置したり、空気清浄機を各部屋に設置したりしました。

明・暗、動・静の組み合わせを交互に繰り返すメリハリのある1日

――1日の流れについて教えてください。

曽根先生:まず9時頃に登園して、室内遊びをして過ごします。絵を書いたり、ごっこ遊びをしたり、好きな遊びをしています。片付けをしたら「ライゲン」の時間、これは総合芸術のようなものです。人間と自然との関わりをテーマに、詩を読んだり歌を歌ったり、体を使った表現をしたりします。

芸術的な遊びも楽しんでいる(2017年撮影)
芸術的な遊びも楽しんでいる(2017年撮影)

それから小さなお祈りをして外遊び、その後は「歌の時間」ということで、歌いながらお弁当の準備をします。お弁当が終わったら、また外遊びをして、歌を歌いながら小さな礼拝をして「メルヘン」の時間になります。ろうそくを点けた暗い空間で昔話を聞くのですが、それが終わると13時30分頃になって降園となります。

基本的にはメリハリを付けて、明・暗、動・静という組み合わせを交互に繰り返しています。このようなリズムある生活をすることで、子どもは注意や指示を受けずに、静かな時間と活発に遊ぶ時間を両方楽しむようになります。「教える」教育からの脱却です。

親子で一緒に楽しめる行事も多く、1年を通じて行われる多彩な取り組み

――年間行事についても教えてください。

曽根基先生:コロナ以前のお話にはなりますが、春は遠足で近くの湧水地に行って川遊びをします。夏にはお父さんたちと一緒に「秋川渓谷」にデイキャンプへ。食事をお父さんたちに作ってもらって、子どもたちは川で泳いだり遊んだりして自然を満喫します。

近くの「武蔵野公園」で園の行事を開催
近くの「武蔵野公園」で園の行事を開催

秋は1年でいちばん大きなイベントのひとつ「おやまのおまつり」があります。例年は「武蔵野公園」の「くじら山」で、身体を使ったいろいろな遊びをして楽しみます。森の中を走り回ったり、ダンスをしたり、弓矢をしたり、楽器の演奏をしたりという感じで、親子一緒にやるものも多く、毎年とても盛り上がっています。

他にも「山登り」という行事があって、これもユニークだと思います。子どもたちには「おやまのぼうけん」と言っていますが、お父さんたちにも協力してもらって、登山道ではなく、道の無いような急な斜面をどろんこになって登っていくのです。普通なら15分で登れてしまうような小山を登ったり下りたり、2時間くらいかけて冒険し、最後にはサプライズの仕掛けを準備しています。

さまざまな楽器に触れ、生の音楽を知る
さまざまな楽器に触れ、生の音楽を知る

音楽に関しては、「世界でひとつの音楽祭」という行事があります。先生たちがオリジナルの曲を作って、子どもたちと一緒に演奏します。音楽祭の曲は、「ペンタトニック」という技法を用いて5~6曲ほど作るのですが、それを年長が演奏し、小さな子は鈴を鳴らしたり、踊ったりして一緒に楽しみます。「クリスマス・ページェント」も音楽を中心にしたイベントで、親子が一緒に楽しめるものにしています。

また日本の歳時記に合わせたおもちつきや豆まき、ひな祭りと言った季節の行事も毎年行っています。

自然が多く残っていて、緑も多く、清水が湧き、野鳥もいる恵まれた武蔵小金井

――武蔵小金井エリアの魅力についてお聞かせください。

曽根先生:園の周りということでは、地形的に言うと「はけ」という崖のような場所にありますので、眺めが良くて、風がさわやかで、緑も多くて、武蔵野台地の雰囲気がすごく感じられると思います。晴れると富士山も見えますし、駅から近く大通りがある割には、交通量は少なめで、静かな雰囲気が残っている地域ですね。

晴れた日に見える富士山
晴れた日に見える富士山

広く小金井地域ということでは、「はけ」の下の「野川公園」や「武蔵野公園」も含まれると思いますが、やはり自然が多く残っていて、緑も多く、清水が湧き、いい環境だと思います。お休みの日なんかは、わざわざ遠くに出かけなくても、家のすぐ近くにいい遊び場が沢山ありますから、子育て中の方には特に嬉しいでしょうね。野鳥も沢山いて、毎朝、鳥のさえずる声も聞こえます。

これからのキーワードは「手作り文化」と「共感」のある幼稚園

――これから入園をご検討されている方へメッセージをお願いします。

曽根園長先生:コロナ禍でなかなか人前でお話する機会も無く、入園説明会なども限られた時間の中で行っているためこれからお話する内容はご存知ない方もいらっしゃるかとは思いますが、私も67歳になりもうしばらくすると代替わりの時期を迎えます。そこで今は自分が園を引っ張ることよりも園を育てて行くお手伝いをしています。

子どもたちと話す曽根先生
子どもたちと話す曽根先生

先日も先生方に少しお話しましたが、園長の僕がいなくなると余計に元通りやろうと、マニュアル化してしっかりやろうという考えが出てくるので、それはちょっと待ってねと。もともとこの園は父と母が立ち上げてキリスト教の教えを柱に運営してきましたが、僕の代になってからは特定の宗教から離れて自由にやってきました。教育の内容はと言えば、僕が子どもの頃に家庭の中でやっていたことを自然な形で取り入れて、手作りでものを作ったり、山に行ったり、海に行ってみたり。毎日が冒険みたいなことを、幼稚園というちょっと大きな家庭でやってきたのが今の「こどものくに幼稚園」です。

大きな家庭のような園のかたちで得られる、マニュアルではできない体験
大きな家庭のような園のかたちで得られる、マニュアルではできない体験

僕にとってこの場所は、いつもおいしい水が自然と湧き出していてほしい場なので、それを大切にしていけば良いんじゃないかなと。清水というのは言い換えると「手作り文化」というもので、これからの当園にとってひとつのキーワードになると思います。大切なのは何かを維持することじゃなくて、「手作り文化」を一人ひとりが作り出してくれれば良いと思っています。

今日一日、自分のやったことを通して子どもたちに何か物語ることができたのか。また子どもたち一人ひとりの物語はどんな物語なのかなということをちょっと静かになって考えたり、そういったものを感じ取れたりすることが大切なのかなと。

日々を一緒に過ごす中で自然と「共感」が生まれる
日々を一緒に過ごす中で自然と「共感」が生まれる

もうひとつのキーワードは「共感」ですね。花が綺麗だなとか、自然って良いなとか、ちっぽけな自分という存在を離れておたがいに喜ぶことができるタイミングというのが大切にすべきことなんじゃないかなと思います。 今の教育は「共感」では無く、「反感」でものを教えようとする傾向があります。

一般的には疑うこと(反感)から始まって「考える」という順番になりますが、むしろ幼児期は、感じて感動するところから「これはどうしてこうなんだろう」と考え始めることの方が大切なのではないでしょうか。企業と同じように教育もマニュアル化されていて能率良くということがひとつのポイントになっているかと思いますが、そもそも人はモノじゃありません。マニュアル化した教育というのはどうしても知識優先になりますので、教えよう、教えようとなります。しかし、教育というのは一方通行で何かを教えるのではなくて、子どもたちの自分育ての手伝いをする場なんですね。

「自己教育」という言葉もありますけど、教育というのは「自分育て」の手伝いをしていくことであり、僕自身も命が無くなるまでできれば「自分育て」をやりたいなと思っています。そうしたら、そこから物語が生まれるじゃないですか。命の世界ってそんなものかなと。実はこれをキチッとできると大いなるものに育てられているんだということに気づく、感づくはずですね。

園児たちは、園内で多くの事を感じ取り過ごしている
園児たちは、園内で多くの事を感じ取り過ごしている

「感じること」をこの幼稚園でも大事にしていることですが、「感じること」と「考えること」のバランスが大切で、今は考えろ、考えろって言われることが多いと思うので、むしろ感じることが足りないんじゃないかなと思っています。だからこそ当園のような「手作り文化」のある幼稚園がこれからも残っていって良いのかなと思います。

入園をご検討している方には「プレ幼稚園」や「入園説明会」といった機会もありますので、実際に来ていただいて雰囲気を味わっていただくのがよろしいかと思います。やはり雰囲気って大事ですよね。2021年度の「プレ幼稚園」、「入園説明会」はそれぞれ終了していますが、このような状況でもありますので、入園をご希望の方は気軽にお問い合わせいただければと思います。

こどものくに幼稚園

園長 曽根基先生
所在地 :東京都小金井市前原町3-35-11
電話番号:042-381-1701
URL:https://www.kodomokoganei.com/
※この情報は2022(令和4)年1月時点のものです。

“教育は芸術”。家庭的な雰囲気の中で子どもたちが自ら育つ力をはぐくむ/こどものくに幼稚園(東京都)
所在地:東京都小金井市前原町3-35-11 
電話番号:050-1086-4827
https://www.kodomokoganei.com/