初音

「水天宮」にお参りをして「下町の散歩道」と銘打たれた「甘酒横丁」界隈をそぞろ歩いた後には、今様の「スイーツ」ではなく和の甘味をお供に一息つきたい気分になるのではないでしょうか。それなら人形町通り(水天宮通り)沿いの老舗甘味処「初音」に入りましょう。

初音
初音

タイル張りと木枠のドアが懐かしいお店に足を踏み入れると、「初音」の店内は明るすぎない優しい灯りに包まれていました。入口近くの壁には大正末期の人形町の写真が飾られ、長い歴史の一端を偲ばせます。

初音
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ここ「初音」の創業は天保8年(1837年)にさかのぼり、現在のご主人は7代目にあたるとか。天保8年といえば大塩平八郎の乱が起きた年でもあり、世はまさに「幕末」。当時の甘味処は、そんなご時世でも女性や子供が安心してくつろげる、ごく限られた場所の一つだったといいます。

ちなみに、砂糖は高級品でなかなか庶民の口に入るようなものではなく、当時の甘味屋ではさつま芋などを工夫して甘い物を作っていたそうです。現代の甘味処の定番の中でいちばん古くに登場したのは「おしるこ」だったとか。「初音」の箸袋にも店名に添えて「お志る古」と変体仮名で記されています。

「初音」のおしるこは、平成17~18年には都営地下鉄線の車内ポスターで紹介されたこともある、江戸からの伝統を感じさせる名物です。名代のおしることあんみつ、どちらをいただこうか悩ましいところですが、今回は「小倉あんみつ(粒あん)」と「あべかわ」のハーフ(通常は2切れ)をお願いして、「寒天も食べたいけど、お餅も食べたい」欲張った気持ちをなだめることにしました。

訪れた日は寒かったので、品物が出てくるまでの間、お茶の湯飲みを手のひらでくるむようにして待ちます。このお茶がおいしくて、退店するまでについつい四杯もいただいてしまいました。こちらのお茶は、なんと茶釜で沸かしたお湯を使っているのです。お湯がやわらかくなり、やかんで沸かしたお湯を使うよりもお茶がまろやかになるとか。お店の奥に長火鉢があり、小ぶりの茶釜がしゅんしゅんと湯気を立てています。茶釜から竹柄杓でお湯を汲む光景を眺めるのもいいものです。

さて、あんみつ。深めの容器にこんもりと盛り上がった粒あんに、赤・緑の求肥に黄桃とチェリーが寄り添う、奇をてらわぬ「正しき」姿。「白蜜」と「黒蜜」は好みで選べます。

初音
初音

※実際には、蜜がかかった状態で供されます。

小倉あんを軽く突き崩しながら、歯ざわりの良い寒天とともに口に運びます。黒蜜の香りが最初に広がって、次にあんの優しい甘さをまとった寒天が、ホロホロと口中に散る。何さじも続けざまに食べたところで、あんと寒天の量のバランスが絶妙なことに気付かされます。どの一口も、あんと寒天の加減がちょうど良いのです。ときどき赤エンドウのほつほつとした歯ごたえが小気味よいアクセントを加えて、蜜にまみれて艶めかしく光る求肥は、上顎をねっとりと撫でるほどに柔らかい。

初音
初音

実はあんみつは意外に新しい甘味で、生まれたのは明治の頃だそうです。きっとあんみつが生まれた当時の人は「あんも寒天も求肥も昔からあったのに、なぜ今までこの取り合わせがなかったのだろう」と思ったのではないでしょうか。それぞれが組み合わさると、どうしてもこうも美味しいのか。せわしくさじを口に運びます。

聞けば「初音」で使われている北海道産の小豆は「手選小豆」と言い、機械で選別を行った後で今度は職人が「目」と「手」を使ってさらに選り分けるという、最高級のもの。寒天は新島のテングサを用いたもの。黒蜜に使う黒糖は、品質を追求した結果、沖縄諸島の特に選んだものと、すべての材料にこだわりが込められています。日本の南北からやってきた選りすぐりの材料が職人の手で丁寧に仕上げられ、一杯のあんみつになってここにあるのかと思うと、感無量です。

初音
初音

お餅が固くならないうちに、続いては「あべかわ」です。

うぐいす色の奥からほんのりと焼き色を透かし見せるお餅を箸でつまみ上げると、たっぷりのきなこがはらはらとこぼれ落ちます。一口かじると、このお餅が柔らかくのびること! 新潟から取り寄せたもち米を使い、毎朝、御影石の臼で搗いているそうです。かじるたびに現れる白い肌に、お皿にこぼれたきなこでお化粧をほどこしながら、また一口。ハーフと言わず、通常の2個を頼めば良かったと思ってしまう美味しさでした。

「初音」の店頭では、お持ち帰り用のパックもあるので、散歩の休憩だけでなく、お土産を求めるのもお勧めです。夜には2階の「お好み焼コーナー」もオープンします。いずれにせよ、人形町を訪れて「初音」に立ち寄らなかったら、ちょっと勿体ないだろうと思ってしまうのでした。

初音
所在地:東京都中央区日本橋人形町1-15-6 
電話番号:03-3666-3082
営業時間:11:00~21:00(日曜・祝日~18:00)
定休日:無休
座席:40席

メニュー例:
あんみつ…650円
小倉あんみつ(粒あん)…700円
クリームあんみつ…850円
栗あんみつ…950円
小倉しるこ…700円
ぜんざい…850円
みつ豆…650円
筑前くずきり…1,050円
あべかわ…700円(追加注文に限りハーフ350円も可)



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