Cantinetta Beato(カンティネッタ ベアート)

「根津神社」の裏にある道と本郷通りが交差する、「向丘一丁目」の交差点。このT字路に面した場所に、昔ながらの雰囲気を漂わせる、一軒の八百屋があります。しかし、ふと上に目をやると「Cantinetta Beato」と書かれたオシャレな看板が掛かっている、なんとも不思議な店です。

八百屋とレストランが同居する新しいスタイル

この八百屋の正式名称は「渋木商店」。創業から120年を超える老舗です。実は看板に書かれている「Cantinetta Beato」は、八百屋を入ったその奥にある、イタリアンレストラン。父が経営する八百屋と息子が経営するレストランが一つの建物の中に同居しているという、非常に珍しいスタイルの店です。

店主 渋木克之さん

「Cantinetta Beato」の店主 渋木克之さんは、この八百屋を実家として育ち、若い頃から美味しい野菜ばかりを口にしてきました。物心付いた時には料理人として独立する道を目指していたそうで、イタリア料理の高級店であるリストランテやトラットリアをはじめ、庶民派の店であるタベルナやバカロなど、あらゆるイタリア料理店の門下に入って腕を磨いたそうです。さらにはイタリアにも渡り、いろいろな州で、その土地ならではの料理も覚えたといいます。

彼が長い修業の日々の中で強く感じたことは、「料理は食材が重要」であること、そして「うちのオヤジの目利きは確かだった」ということでした。帰国後は、「跡継ぎもいないし、もう店を畳もうか」と思い始めていた父を引き止め、「もう少し続けてほしい。オヤジの野菜で料理を出したい」と、実家の八百屋の一部を改装し、自身の店を構えました。

かつてはレストラン部分も八百屋だったそうですが、現在、八百屋は表の部分のみ。しかし、「八百屋の中を通らないとレストランに行けない」という造りは、父への尊敬の気持ちを表現しているのでしょう。知らずに来た人に「レストランはどこですか?」と聞かれ「この奥だよ」と答えるのは、父の毎日の仕事の一部になっているそうですが、お客にとっても、この“サプライズ感”は魅力的に映るに違いありません。

八百屋の奥に広がるCantinetta Beato

奥行きのある落ち着いた空間

メニューは当然ながら野菜を多めに使用しており、ランチタイムはセットメニューのみ。パスタに前菜とデザートが付いたAランチは900円(土日祝1,080円~)、パスタをメインに置き換えたBランチは1,100円(土日祝1,580円~)、パスタとメインの両方が楽しめるCランチは1,950円(土日祝2,600円~)と、シンプルな3択になっています。ランチは主に女性客に人気で、ママ友同士の会食などでよく利用されています。

ただ、シェフの腕前を存分に堪能したい方は、ディナーに訪れてみるのが正しい選択かもしれません。ディナーはアラカルトのみで、コースは設定されていません。野菜をたっぷり使ったメニューが中心となっていますが、ランチと比べて選択肢が一気に増えるので、楽しさは倍増以上です。

前菜の一番人気は、「野菜のテリーナ」。こちらはブロッコリー、ニンジン、インゲン、ズッキーニ、パプリカの5種類の野菜を使ったテリーナで、食べ応えを持たせつつ、とてもヘルシーな仕上がりです。味付けは薄めで、ほんのりとした野菜の甘さと香りが生きています。この店の看板メニューの一つなので、訪れたら必ず食べておきたい一品です。

野菜のテリーナ

もちろん、これらの野菜については、すべて父の八百屋で仕入れたものを使っています。シェフは「特に野菜についてはこだわっていません。父におまかせです。」と話していましたが、それはシェフが全面的に父を信頼しているからこそ。目利きが素晴らしいことはもちろん、大田市場では長い付き合いのある業者から仕入れるため、一定したクオリティの食材を提供できるそうです。餅は餅屋、野菜は八百屋、料理は料理人。その徹底した姿勢が、この店のクオリティを高い水準で維持しています。

真鯛のサルサヴェルデ

メインディッシュは魚、肉それぞれ幾つか揃えているが、どれも野菜をたっぷり使った付け合わせやソースが添えられています。中でも「真鯛のサルサヴェルデ」は見た目も華やかで、ボリュームたっぷりの人気メニュー。サルサヴェルデというのは、玉ねぎとパセリをたっぷり使ったアンチョビソースのこと。香り高く作られたこのソースもシェフ渾身のものです。野菜もたっぷりで、この店の魅力を堪能できる一品と言えるでしょう。

30もの銘柄が揃うイタリアワイン

ぶどうの品種で異なるイタリアワイン

ワインはイタリアの各州から最低でも1種類はセレクトし、全部で30ほどの銘柄を揃えているといいます。「イタリアワインはほかの国のワインと比べて、とても個性が豊かなんです。その理由は、国外に出していない、または州の外に出していない、その土地だけのぶどうの品種が沢山あるから。州ごとにも全然違うので、ぜひ試していただきたいですね。」とシェフ。リーズナブルなものはボトル2,000円くらいから用意されているそうなので、気軽に試してみてはいかがでしょうか。

また、イタリアは地方が変われば、料理も変わってしまうのが面白いところ。シェフはそんな「イタリアの郷土料理」にも非常に関心があるそうで、修行時代にはいろいろな地方に赴いて、郷土料理を食べ比べしていたそうです。「残念ながら、ここ10年ほどは行けていないんですよね。」と悔しそうな表情を浮かべるシェフですが、本場で覚えた味を脚色せず皿の上に再現しているので、イタリア人のお客さんなどは、特に喜んでくれるのだといいます。それだけ本場の味に近いということでしょう。

少し変わったものでは、カラブリア地方で食べられている、シラウオの稚魚を唐辛子漬けにして発酵させた「ロザマリーナ」や、ロンバルディア州の郷土料理で「牛肉のハム」とも言える「ブレザオーラ」もお薦めです。これらは日本で入手困難な食材のため、シェフは常に手作りしています。聞き慣れないメニューについては、積極的にシェフに聞いてみると良いかもしれません。その地方ならではの気候や文化、独自の製法や食べ方など、知識を得てから食べると、美味しさも一層際立つことでしょう。

Cantinetta Beato(カンティネッタ ベアート)の名刺

シェフの腕を持ってすれば、繁華街の一等地でも十分に繁盛する店です。しかしシェフは「親を大切にし、地域を大切にしながら、長く料理人を続けていきたい。」という気持ちを優先し、ここに店を開きました。聞けば店のオープンは、大震災直後の2011(平成23)年の春。最初は大変な苦境だったはずですが、それを乗り越え、今この店は地域に根ざす、多くの常連さんを持つ店となりました。

「時々、昔の友達や、そのご家族が来てくれるんですよ。そういうのはやっぱり嬉しいですし、本当にこの辺りはお客さんがみんな温かいです。上品であり、また人情もある。なんとも言えないほどよい距離感があるんです。それがこの地域の魅力ですよね。」と、シェフは笑いながら話してくれました。

食材に徹底してこだわる渋木さん

野菜のプロと、イタリア料理のプロ。親子二人の腕が競い合い、信頼し合って完成する料理は、わざわざ遠くから通ってでも食べる価値があるもの。これを近くで、日常的に味わえる地域の人々は幸せなことでしょう。

Cantinetta Beato(カンティネッタ ベアート)
所在地:東京都文京区向丘1-13-3 
電話番号:03-3830-5100
営業時間:11:30~15:00(L.O.14:00)、17:30~22:00(L.O.21:00)17:00~21:00
※日曜日、祝日の夜は17:00~21:00(L.O.20:00)
定休日:水曜日

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