いきなりだが、中華街で食事をするときなどは、できるだけ化学調味料を使わない店を探すようにしている。化学調味料を悪者扱いするつもりはないが、あの半透明の粉を使わずにどこまで料理をおいしくしてくれるのか、言い換えれば、どこまで素材の味を引き出してくれるのかを試してみたいという気持ちがあるからだ。
中華街ならば中華料理店の数もたくさんあるので、いくつかはそうした店が見つかるはず。そんな望みを持ち、行く前に下調べに励むことが多かった。
このように一生懸命探していた店が、まさかこの阿佐ヶ谷でも見つかるとは思わなかった。店名は「希須林 小澤」。阿佐ヶ谷駅南口を出て、中杉通りから少し入ったところにある、コンクリートの打ちっ放しの外観がしゃれた中国料理店だ。
店に入る前は、そのスタイリッシュな見た目からして、中華をベースにしたよくある創作系の料理を出す店かも、という懸念があった。しかし「化学調味料を極力使用せず、体と心に優しい極上の中国家庭料理を提供」との謳(うた)い文句を目にしたら、やはりこれは試してみないわけにはいかない。

店内に入ると、果たして外観に負けず劣らずのスタイリッシュな雰囲気。1階にはシンプルな木製の卓と椅子がいくつか並んでいるだけ。強いて“装飾”と言えば、壁の部分にすだれが飾られているくらいだ。
余分なものをそぎ落としたかのようなテイストの内装と、店に期待している料理とがシンクロしてきて、ジワジワと楽しみが増してくる。

注文したのは、店でも特に人気のものばかり。前菜の「小澤さらだ」、海鮮料理の「大海老のマヨネーズソース」、そして肉料理の「人気の酢豚」だ。
出されたジャスミン茶をすすりながら待っていると、やがて店の一押しの一品という「小澤さらだ」がやってくる。

新鮮な刺身が入っており「この店に来たら、何はなくとも」と多くの人が注文するという小澤さらだ。思っていたよりも量が多い。ゆうに4人前はあるだろう。入っている食材も種類豊富。新鮮な刺身(本日はイナダ;ブリの成長途中の魚)、クレソン、タマネギ、トマト、トレビス、香草、ラディッシュ、白髪ネギ。中には海ブドウなどという変わりダネもある。これに、ごくごくシンプルな醤油ベースの軽いドレッシングがかかっており、サッと揚げたカシューナッツの砕いたものと、パリパリに揚げたワンタンの皮を乗せ、よく混ぜてから食べる。
ドレッシング自体の味はとてもさっぱり。トッピングの油分が適度なまろやかさを与え、とてもおいしい。よく味わって食べたくなる、やさしい味だ。クレソンをはじめとする野菜の味もしっかり感じることができ、体に良い料理を食べていることを実感できる。
また、切り口が大きいので、なおさら野菜をたっぷり食べている気にさせてくれる。それに、刺身のこの大きさはどうだろう。もはやサラダの具ではなく、一品料理の域だ。
見た目はおしゃれだが、こうしたダイナミックさは、さすが中国料理といったところだ。

次は「大海老のマヨネーズソース」。2匹入っているのだが、これがまた大ぶりだ。アスパラガスを抱き込んで揚げられており、エビの身のプリプリ感とアスパラのシャキシャキ感、異なるデュエットが楽しめる、食べごたえある一品だ。
自家製であるらしいマヨネーズは、まろやかで爽やか。レモンの酸味がほどよく効き、揚げものにありがちなしつこさをまったく感じさせない。これまた期待どおりの味だ。

これまで出てきた2品にももちろん満足したが、個人的には肉料理「人気の酢豚」のインパクトが一番強かった。酢豚というと、家庭で作られ、中華料理の弁当のおかずとしても定番の、最もポピュラーなメニューのひとつ。それが「酢豚ってこんなにおいしかったっけ?」と目からウロコが落ちたのだ。
入っているのは、主役の豚肉(を揚げたもの)に、エリンギ、ズッキーニ、パプリカ、タマネギなど。やはり具が大きく、皿の上でゴロゴロしている。ことにエリンギなどは、真剣で試し切りされた竹のように、豪快にスパッと斜めに切られている。それでいて雑に感じられないのは、この店のセンスがなせる技という一言に尽きるだろう。

見た目にも驚かされたが、それ以上に釘付けになったのは味付けだ。
これまでの知り合いに酢豚が苦手な人が何人かいたが、彼らは決まってこう言い、首を横に振っていた。
「……酢豚は甘ったるいからなぁ」
希須林 小澤の酢豚は、こんな人たちにこそ食べてほしい。甘さがないわけではないが、それほど主張も激しくない。酸味もないわけではないが、ツンとした刺激はまったく感じられない。甘さと酸味のバランスが最高なのだ。メニュー名に“人気の”とついていることに大きくうなずける。
サラダとエビ料理でかなり満腹に近かったのに、おいしさのあまり、あっという間に完食してしまった。一般に“重ための味”にカテゴライズされるあの酢豚を、だ。
これは、これまで食べた酢豚の中でナンバーワンだ。

希須林 小澤は杏仁豆腐やフローズンデザートもおいしいらしいが、酢豚で満足しきってしまったので、今回はここで打ち止め。化学調味料を使っていずともここまでおいしいものを食べさせてくれることが嬉しく、大満足だ。2階には座敷もあるそうなので、今度はほかの誰かを連れてきて驚かせたい。

それには「スタンダードコース」(5,040円)がよいかもしれない。時期によってメニューが微妙に異なるが、今日の3品が盛り込まれていることが多い。特に、小澤さらだと海老のマヨネーズソースはたいてい入っているようだ。
一品料理だと、好きなメニューであり、店の一押しでもある「酸辣湯麺」を食べてみたい。酸味と辛味が複雑に混じった、ほかの麺類よりもスープが主役となる麺。きっと希須林 小澤ならではの酸辣スープを食べさせてくれることだろう。
あと、今度はワインをオーダーしてみたい。小澤さらだを一口食べて「これは白ワインに合いそうだ」と思ったのだが、レジへ行く途中になってワインセラーを見つけてしまった。
中国料理店なのにあえてセラーを設置しているということは、きっとマッチングを楽しめるようなものを置いているに違いない。

ほかに食べたいものを考え出すと、きりがない。日を改め、お腹を空かせて出直すことにしよう。
希須林 小澤
所在地:東京都杉並区阿佐谷南3-32-1
電話番号:03-3391-4138
営業時間:11:00~15:00(L.O.14:30)、17:00~23:00(L.O.22:00)
定休日:月曜日(祝日の場合はその翌日)
メニュー例:
小澤さらだ…1,890円
大海老のマヨネーズソース…1,260円
人気の酢豚…1,470円
ランチ…1,050円~
http://www.kisurin.com/





