玉子コロッケなど、懐かしくて新しい味の洋食

懐かしくて新しい味/「洋食やろく 本店」多田喜景さん


「住吉大社」の近くに80年以上続く老舗洋食店「やろく」がある。当店を周知させたのはジャガイモを一切使用しないで玉子をメインに揚げた名物「玉子コロッケ」だ。今や「住吉大社」のお参りに合わせ、「玉子コロッケ」を食べに全国から人が来る。今回、三代目で代表を務める多田喜景さんに、当店の歴史やお料理のこだわりに加え、住吉大社エリアの魅力についてお話を伺った。

1978(昭和53)年、突然、家業を継ぐことに

洋食やろく 本店
洋食やろく 本店

――喜景さんは三代目で、現在四代目として喜景さんのご子息、吉孝さんが継がれているそうですが、まずはお店の歴史について教えてください。

1935(昭和10)年1月1日に、私の祖父がこの地で開業しました。祖父は戦時中、海軍で料理長を務め、終戦後、結婚をきっかけに大阪にやってきました。道頓堀にある洋食店「門屋食堂」で修業後独立、開業当時から「玉子コロッケ」を販売していたといいます。店を祖父と祖母で切り盛りし、その後、父も手伝うようになり、2代目として継承。私が幼い頃はカウンターしかない、こじんまりとした店でした。

改装前の「やろく」の外観
改装前の「やろく」の外観

私が高校3年生の時に父が急逝してしまい、それまで私は家業を継ぐという意識がまだなく、大学の進学を考えていたのですが、残された祖母と母と私で生きていくために当店を継ぐことを決めました。しかし、調理法など知らない私はまさに手探り状態。その後、レシピを伝授されていた叔母夫婦や、祖父の頃に働いていた料理人にご指導いただき、当店の味を受け継ぐことができました。

初代の多田善松さんと、二代目の多田善一さん
初代の多田善松さんと、二代目の多田善一さん

周知のきっかけは新聞の掲載とデパートの催事

――カウンターしかない小さなお店が周知されていく転機について詳しく教えてください。

転機の1つは、文学者の石濱恒夫さんが産経新聞の夕刊で当店を取り上げてくれたことです。当店は祖父の頃から、升田幸三さんなどの将棋棋士や小説家の藤沢桓夫さんといった文化人が足繁く通っており、その中に石濱さんもいらっしゃいました。これらの方々は私が大変な状況で店を受け継いだことを知ってくれていて、アドバイスをいただくなど味の継承にも力添えをいただきました。石濱さんも私が必死にやっていたのを見かねて、記事にしてくれたのだと思います。

1980(昭和55)年7月31日の産経新聞の夕刊
1980(昭和55)年7月31日の産経新聞の夕刊

もう1つの転機は1990(平成2)年に「大丸 心斎橋店」の催事に出店したことです。1週間も店を休んで催事に出店するリスクは大きかったのですが、「玉子コロッケ」の味を多くの方に知ってもらいたいという気持ちが勝り、出店を決めました。その時、催事の主催者から、「玉子コロッケ以外にも何か出して欲しい」と言われ、出したのが現在、当店で出している、開いたエビをコロッケで包んだ「スペシャルコロッケ」です。実は、父の代の頃、常連さんにだけ特別に、開いたエビをコロッケに包んで揚げていたと祖母から聞いていたので、それを実現しました。「スペシャルコロッケ」はとても評判が良く、100社くらい出店している中で売り上げがベスト3に入り、この催事がきっかけで他のバイヤーさんともつながり、周知されるきっかけとなりました。

のれんに将棋棋士・升田幸三さん、文学者・石濱恒夫さん、小説家・藤沢桓夫さんのお名前が
のれんに将棋棋士・升田幸三さん、文学者・石濱恒夫さん、小説家・藤沢桓夫さんのお名前が

――「やろく」という店名の由来について教えてください。

店名は「住吉大社」で高名な占い師、髙田玄海先生に命名いただきました。「ご奉仕させていただく」という意味の南無阿弥の「弥」と、縁起の良い数字とされる「六」を合わせ、「弥六(やろく)」です。

洋食やろく本店の店内
洋食やろく本店の店内

今も変わらぬ、名物「玉子コロッケ」の味

――玉子コロッケは初代、多田善松さんのオリジナルだったのですか?

祖母からそう聞きました。実は、私が当店を受け継いでから、祖父がかつて修業していた「かど屋食堂」で一緒に働いていた同僚が開いた「とく兵衛」というお店に食べに行ったことがあるのですが、当店で出しているタンシチューやハンバーグと同じ味でした。しかし、「とく兵衛」では「玉子コロッケ」というメニューがなく、祖父オリジナルのメニューであったことを改めて知りました。海軍で料理長を務めるなど優秀な人だったので、発想も秀逸だったんだと思います。

当店一番人気の「やろく盛り合わせ (玉子コロッケとビーフカツ)」
当店一番人気の「やろく盛り合わせ (玉子コロッケとビーフカツ)」

――当店では「玉子コロッケ」を始め、長年提供しているメニューも多いかと思います。オススメとこだわりについてお聞かせください。

オススメは「玉子コロッケとビーフカツ」のサラダ・ライス・味噌汁のセットです。あと、タンシチューは文学者の石濱さんが「日本で一番おいしい」と表現してくれています。こだわりはやはり、初代から受け継いだ味と調理法を手を抜かず真面目に守ってきたということです。

今回、インタビューに答えていただいた三代目の多田喜景さん
今回、インタビューに答えていただいた三代目の多田喜景さん

あと、日頃から心がけているのは店内を清潔に常に保つということです。昼と夜の間の休憩でも油を新しく入れ替え、キッチン周り、店内をきれいに清掃して、お客様をお迎えします。もう1つ、こだわりといえば、店内に流れるBGMです。オープンリールのジャズ音源をヴィンテージスピーカーで流しています。耳ざわりの良い音楽を楽しんでいただければと思います。

懐かしのオープンリール
懐かしのオープンリール

地元住民と住吉大社の参拝客に支えられ、今に至る

――喜景さんにとって、一番の喜びは何でしょう?

「おいしい」と言っていただけることは当然うれしいのですが、「やろく」という店名と「玉子コロッケ」という商品名を周知していただくことが何よりの喜びです。

――「住吉大社」とも長い付き合いだそうですが、どのような関係性なのでしょうか。

「住吉大社」には創業時から出前に行かせていただいております。また、正月は社務所へ、初辰まいりの時はその場所に、コロッケをお届けさせていただいております。そのことがきっかけとなり、今なお7月31日の住吉例大祭では獅子舞が店に来ておはらいをしてくださいます。

住吉大社
住吉大社

――来店される方は参拝客が多いのですか?

もちろん地元のお客様も多いですし、参拝客もたくさん来ていただけます。中には毎年、決まった時期に来てくださる方がいて、子どもの頃に来ていた人が子どもを連れてくるなど、この地でやり続けてきたという実感と喜びをいただいております。

――今後の展望について教えてください。

数年前からテイクアウトのお店を本店の近くで始めました。4代目の吉孝がやっているのですが、手軽に購入できるとあって、多くの方にご利用いただいています。本店同様、受け継がれるお店になれるように真面目に取り組んで行きたいと思います。

お持ち帰りのお店
お持ち帰りのお店

四代目の多田吉孝さん
四代目の多田吉孝さん

住吉大社近辺は緑が豊富で住みやすい環境

――最後に、住吉大社周辺の街の魅力を教えてください!

この辺りは少し路地に入ると昔ながらの家が残っていたり、駅前に緑が豊富な「住吉公園」もあるなど、住環境としては落ち着いた良い街です。また、住吉大社では四季折々の情景を楽しむことができますし、特に朝日が差し込む時間帯は本当に美しい景色ですよ。

広々とした住吉公園
広々とした住吉公園

三代目の多田喜景さん
三代目の多田喜景さん

洋食やろく 本店

三代目 多田喜景さん
所在地:大阪府大阪市住吉区東粉浜3-31-21
電話番号:06-6671-5080
URL:https://www.yaroku-tamagocorokke.jp/
※この情報は2018(平成30)年8月時点のものです。

懐かしくて新しい味/「洋食やろく 本店」多田喜景さん
所在地:大阪府大阪市住吉区東粉浜3-30-16 
電話番号:06-6671-5080
営業時間:11:00〜13:30、16:30〜19:30(売り切れ次第閉店)
定休日:水曜日・第4火曜日(ランチは営業)
http://www.yaroku-tamagocorokke.jp/