四季を感じ、味わえる。創業60年余、地域から愛される和菓子屋

小田急線「千歳船橋」駅の出口を出て右手を見ると、商店街の中ほどに「秘伝の銘菓千歳虎屋」と書かれた看板が目に入る。ここは1954(昭和29)年に開業した、この界隈では最も古い歴史をもつ和菓子店。千歳船橋駅の開業が1952年なので、駅前に街ができ始めた頃から、この街の成長を見守ってきたという店だ。

現在、この店の代表をされているのは創業者の長女にあたる金子珠美氏。2016(平成28)年まではニューヨークに長く住んでおり、現地では画家として、また座禅道場の当主として活躍されていたが、先代が亡くなってからはこの店の舵取りを任され、一昨年帰国されたのだそう。従業員からは「たまみさん」と呼ばれて慕われている。

この地に生まれ育ち、海外を経て帰ってきた「たまみさん」は、いまどのような思いで、店を継いでいるのだろうか。店への思い、地域への思いについてお話を聞いた。

金子珠美さん
金子珠美さん

――まずは、お店のことについて教えてください。

金子さん:この「千歳虎屋」というお店は、1954(昭和29)年に私の父と母が作ったお店で、最初はこの道沿いの、3軒奥のところにあったそうです。六畳一間を間借りして、本当に仮店舗のような小さな小さなお店から始めたそうなんですね。この時、まだ父は20そこそこの歳だったと思いますけれども、阿佐ヶ谷の「とらや椿山」というお店で修行をしまして、独立の許可を得て、仮店舗から始めたと聞いています。

父はどちらかと言えば職人というよりも、自分で経営するのが得意だった人でしたから、人を雇って、従業員に作ってもらうっていう形で、最初からやっていたようです。当時はまだまだ世田谷も、畑とか田んぼが、いっぱいあった時代でして、私が子どもの頃には、店の裏のほうに行くと畑が広がっていました。

そのうち、父は「ナポリ」という、虎屋とはまた別の洋菓子店を立ち上げまして、その店舗がいまの「千歳虎屋」の店舗の場所にありました。「ナポリ」は洋菓子店でもあり、喫茶店でもあったのですが、当時、ここから裏のほうに6、7分行ったところに森繁久彌氏が住んでおりました。その森繁邸の横に、松竹のスタジオもあり、いろんな映画の撮影をしていたんですね。

その関係もあって、「ナポリ」には森繁さんはもちろん、監督さんや有名な俳優さんなどもたくさん来られていたんですが、時代が変わって、撮影所も無くなりましたので、うちも洋菓子・喫茶部門をやめまして、そこに和菓子の店を移転しまして、いまの形になっております。

――和菓子作りのこだわりを教えてください。

金子さん:今の時代は防腐剤とか、保存料を使うところが増えていますけれども、うちの店ではそういったものを極力使わないようにしています。「着色料を一切使っていない」かと言われればそうではなく、多少、紅白饅頭の紅などは昔から使っておりますが、それはしっかり安全が確認されたものを使っていますし、父も私も「極力使わない」という方向でやってきました。父は10年前に亡くなりましたけれども、その思いは私が継ぎましたし、今後も変わることはないと思います。

ですので、お客様からは「日持ちがしなくて贈答に使いにくい」などと苦言を頂くこともありますし、商売としても非常に効率が悪いのですが、やはりそれでも、「安心・安全」という部分がまず第一だと思いますので、2代、3代で来ていただいている方の信頼に応えるためにも、「安心・安全、かつ美味しい」という部分は、はずさないようにしています。

「千歳虎屋」外観
「千歳虎屋」外観

「千歳虎屋」店内
「千歳虎屋」店内

――看板菓子がありましたらご紹介ください。

金子さん:一番よく出るのは、「こみち」というお菓子ですね。ここから5分から10分ほど行ったところに、「小径」(こみち)と呼ばれている遊歩道がありまして、そこはもともと湿地だったところなので、いろんな植物が生育しているのですが、そちらでボランティアをされている「船橋小径の会」の方から、「小径のお菓子を作ってほしい」と言われて、このお菓子が生まれました。中は栗きんつばが入っていて、「中花種」(ちゅうかだね)という、どら焼きの皮のようなものでぐるっと巻いて、その上に、四季折々の焼き印を押しています。

一年中置いてあるお菓子ですけれども、デザインは季節ごとに変わりまして、今はもみじの印になっていますが、春夏にはまた違った印になりますし、包みのデザインも変わります。千歳船橋の四季を感じていただけるようなお菓子になっているかと思います。

もうひとつ定番になっているのは「森繁通り饅頭」です。さきほどお話したとおり、この奥のほうに森繁邸がありまして、そこに至る通りが「森繁通り」と言われておりますが、久彌氏が亡くなられた後に、森繁久彌氏の次男さんにお願いされて作ったのが、こちらの饅頭です。

こちらには酒饅頭と黒糖饅頭の2色がありますけれども、特に酒饅頭については、森繁久彌氏が青森の尾崎酒造というところに行った際に、「神の座」というお酒を命名されておりまして、そのお酒を使った饅頭となっています。

そのほかのお菓子は、それはもう四季折々です。年間を通したら100種類以上のお菓子をお出ししています。

――どのようなお客さんが来店されているのでしょうか?

金子さん:もちろん、「お客様が明日来るから」っていうことで、沢山買っていらっしゃる方も多いですし、日々のお菓子ということで買われる方、進物用として買われる方など、いろんな方がいらっしゃいますが、この近くには大きな会社の社長さんなども多く住まわれていらっしゃいますので、まとめて注文される方も多いですし、2代、3代にわたって利用してくださる方が多いですね。あとは、近隣の成城大学や恵泉さん(恵泉女学園)の茶道部さんにも、毎月使っていただいています。

それから、うちでは「7の日の謝恩サービス」というものを、毎月7、17、27の日に行っておりまして、この日は特別に、創作菓子をお出ししています。ちょうど今日もやっていますけれども、ふだん、店頭には並んでいないような創作菓子を3種類から4種類ほど店の外に出して売っておりまして、価格もかなり抑えております。利益は出ないですけれども、みなさまが召し上がっていただいて喜んでいただければ、という、本当に「謝恩サービス」なんですね。これも毎回、楽しみに来て下さる方が多いです。

看板菓子の「こみち」
看板菓子の「こみち」

定番の「森繁通り饅頭」
定番の「森繁通り饅頭」

――季節のイベントに対応して、いろんな企画もされているそうですね!

金子さん:そうですね、うちは特に「うちから季節のイベントを取ったら何も残らないんじゃないか」というぐらい、一生懸命やっていると思います。クリスマスの時には、オレゴンから輸入した本物のモミの木でクリスマスツリーを立てて、そこにオーナメントを飾り付けて、っていうことをやっています

ハロウィンもそうですね。今年のハロウィンの時なんて、お子さんたちが400人以上も見えましたからね。それ用にお菓子を入れたバッグを用意してプレゼントしたら、みんな嬉しそうな顔をして、「ありがとう!」って言ってくれるわけですから、私達のほうが楽しんでいる感じです。

ほかにも、5月の子どもの日の時にも、お子様用にプレゼントを差し上げています。たいしたものではないんですが、おもちゃをプレゼントすると、キラキラ目を輝かせて「持っていっていいんですか?」って言ってくれるんですよ。七夕様の時にも、短冊に願いを書いてもらって、店の前に作った笹の葉にゆわえてもらう、ってことをやっていまして、みなさん、楽しんでいただいています。

それから、そういうイベントの時には、その時だけの上生菓子を、ものすごく手間をかけて作っていまして、これもひとつ300円くらいで売っていまして、大人気商品になっています。大変すぎて儲けは全然出ていないんですけれども(笑)、皆さんに少しでも楽しんでもらえればいいな、と思って続けているものです。

クリスマス仕様のお菓子
クリスマス仕様のお菓子

豊富な種類のお菓子が陳列されている
豊富な種類のお菓子が陳列されている

――経堂・千歳船橋エリアの魅力を教えてください。

金子さん:やっぱり、自然がまだまだ、あっちこっちに残っていることでしょうか。特にお子さんがいる方などは、自然のふところに抱かれながらお子さんを育てられる環境があって、すごくいいと思いますね。それから、ゆったりしていますよね。東京都ではあるんですが、せかせかした感じがしない場所だと思います。

――お気に入りスポットなどはありますか?

金子さん:やはり先ほどお話した「船橋小径」などは散歩をしてもいいですし、お店だと、森繁通りにある「堀口珈琲」さんなどは、いいものを出していらっしゃると思いますね。私が良く行くのは、「オーランデ・ヴー」さんというレストランです。本当にしょっちゅう行っていますけれども、美味しくて、常連さんに面白い方も多くって。そういうのも楽しいですね。あと、最近は線路の向こう側(南側)に、バルとかレストランがけっこうできていて、「美味しかった」って話もよく聞きます。

――最後に、これからこのエリアに住みたい方にメッセージをお願いします!

金子さん:ここはとても「安全な街」だと思うので、そこがまず、暮らす場所としておすすめしたい点ですね。また、学校も、塾も、いろいろ充実していますし、子どもたちの学力水準も高い地域なので、そういう意味でも、お子さんを育てながらお住みになりたいという方には、すごくいいところだと思います。ここ数年を見ても、ずっと人口が増え続けているということは、世田谷にそれだけ魅力がある、ということなのだと思います。

ショーケースに並ぶお菓子
ショーケースに並ぶお菓子

金子珠美さん
金子珠美さん

 

今回、お話を聞いた人

千歳虎屋

代表取締役 金子珠美さん

※掲載の情報は2018(平成30)年12月のものになります。

四季を感じ、味わえる。創業60年余、地域から愛される和菓子屋
所在地:東京都世田谷区船橋1-9-22 
電話番号:03-3420-6221
営業時間:9:00~20:00
休日:火曜日、月2回不定休
http://www.chitosetoraya.com