「素材の持ち味を引き出す」ことにこだわる料理人と 「味の違いがわかる人々」が織りなす、四季折々の美食

「美食家が好んで住まう街」と言えば、世田谷区の名前を挙げる人も多いだろう。その世田谷区を横断する小田急線沿線には、腕に覚えのある料理人が営む“小さな名店”が多く存在している。そのひとつが今回ご紹介する「和shoku。の水」である。 この店があるのは経堂駅の北口からわずか1分ほどの好立地。和食一筋の野水店主が営む小料理屋で、開業から十数年もの間変わらない「丁寧な仕事」で評判を集め、食にうるさい人々を中心に愛され続けている。元々はこの地に縁もゆかりも無かったという野水店主だが、今は「ここを離れるつもりはない」と話すほど、経堂の地に惚れ込んでいる。その理由は何なのだろうか。

――まず、お店の歴史を教えてください。

野水さん:私自身は、福島県のいわき市の出身で、ここに来る前は人形町の割烹で15年間、料理長をさせていただいていました。人形町に行くまでの間も、料亭などいろんな店で、20年近く修行しましたし、実家が寿司屋だったので、そこでも少しやっていました。そんな中で「そろそろ独立しよう」と思って物件を探し始めまして、最初は恵比寿、青山、南青山、下北沢、自由が丘などを中心に、1年くらい探し回っていたんですが、1階の路面店では、なかなかいい物件には出会えなかったんですね。 そんな時、たまたま経堂まで来まして、たまたま、ここが空いているのが見えて。そこで内見させていただいたら、広さも希望どおりでしたし、駅からもすぐ近くでしたので、即決しました。運命的な出会いでしたね。経堂にはそれまでほとんど来たことがなかったので、物件を決めてから、まわりのことを初めて調査した、という感じでしたね。

「和shoku。の水」店主・野水さん
「和shoku。の水」店主・野水さん

――なぜ、独立して開業しようと思われたのですか?

野水さん:美味しい料理を提供したいのですが料理長と言っても、結局は会社員です。当然ですが原価の制限が大きいのでそれが自分のやりたいこと、自分が作りたいものの制限になってしまっていたので、お客様のために「自分が作りたいものを出す」には、自分の店を持たなくてはと思いました。

――お店のポリシーを教えてください。

野水さん:この店は2003年から15年以上やっていますが、一貫して守っているポリシーは「美味しい」「魚は天然物」というのは当たり前で、更に「健康にいいもの、からだに優しいもの」を提供するということです。うちでは砂糖も一切使いませんし、もちろん添加物の入ったものも使いません。作れるものはすべて手づくりです。

――「砂糖を使わない」というのは、和食店でも非常に珍しいですね。

野水さん:そうでしょうね。多くのお客様が驚きます。ただ、私は以前から「鰹節と昆布だけでも十分美味しいのに、なぜ、ここにまだ砂糖を足すのかな」とつねに疑問でした。「砂糖は素材本来の味を壊すもの」だと思っているんです。素材の甘みが消されてしまうだけでなくからだにもストレスを与えると思っていたので、「自分でやるなら、絶対に使わないでやろう」と思って、今もずっと使っていません。

――お薦めのメニューを教えてください。

野水さん:初めて来られたお客様には「の水会席コース」という、5000円ほどのコースをお薦めしています。あとは、季節のコースが人気ですね。冬ならふぐ、あんこうなどのコースもありますし、食材の旬ごとに、鱧(はも)、あわび、鯛しゃぶなどのコースもありますし、夏にはすっぽんもよく出ます。コースだけだと足りないという方が、ほかに単品も頼まれて、お酒を飲まれて楽しむ、というご利用が多いです。 慣れた方は単品だけで組み合わせられる方も多いので、一品料理も人気でして、日々手書きで、おすすめのメニューを書いてご紹介しています。今回お出ししたのは、コースの中から酒菜の一皿と、単品メニューから「本日の造り盛り合わせ」です。造りはファンの方が多いですね。

――食材のこだわり、調理のこだわりを教えてください。

野水さん:仕入れは、もちろん豊洲で自分で買い付けたものがメインですが、ものによっては産地から直送でもらっています。例えばふぐは宮崎、あわびは北茨城から取っていますね。 あと、こだわっているといえば、燻製ですね。肉はもちろん、漬物なども燻製して香り付けをしていて、ご好評をいただいています。ほかにも、からすみやいかの塩辛など、とにかく作れるものは全部手作りしています。

こだわりと技術が詰まっている
こだわりと技術が詰まっている

鮮やかで美しいひと皿
鮮やかで美しいひと皿

――どのようなシーンで利用されるお客さんが多いですか?

野水さん:もちろん、接待などもでもよく使っていただいていますし、ご夫婦、カップル、女性同士など、本当にいろいろな利用があります。年代としては、30代後半くらいからが中心ですね。リピーターのお客様が非常に多いです。

敢えて傾向を言えば、「健康志向」の方が多いと思います。私としても、そういった方に来ていただければ、うちの良さをわかっていただけるのかな、と思っています。

――経堂で15年余りご商売をされていて、この街にどのような印象をお持ちですか?

野水さん:いちばん驚いたのは、「食通の方が多い」ということですね。燻り加減とか、微妙な違いをわかるお客様が多いのも嬉しい驚きでした。お客様がおっしゃるには「ここは高級住宅地で、都心で仕事をしていて、接待を受けているから舌は肥えている」とのことでした。そういうお客様が、お休みの日に、「の水」に来ていただいている感じなので、そういう違いもわかっていただけているようです。 でも、開店当初は、(経堂に)全然知り合いもいなかったので、「100日間無休」で精進しましたが「経堂の飲食店で禁煙の店は×」「経堂では安価な店でなければ×」と言われ、軌道に乗るまで我慢の時期がありましたね。でも、一度来ていただければ、その方の口コミでまた広げていただけて、今は本当に素晴らしいお客様に恵まれていますね。

店内の様子
店内の様子

 

テーブル席も用意されている
テーブル席も用意されている

――経堂の「おすすめのスポット」を教えてください。

野水さん:すずらん商店街の「ミートコンパニオン」さんはおすすめですね。とてもこだわっている精肉屋さんですよ。あと、私自身は、この辺りのほかの飲食店にはほとんど行かないんですけれども、「経堂には美味しい飲食店が多い」と、お客様はよくおっしゃっているので、そういう街なんだろうな、とは思っています。

――経堂の魅力とは何でしょうか?

野水さん:「ゆとりがある街」ですよね。新宿、青山にも近いのに昔からの住宅街、飲食店、学校関係も多く治安もよくゆったりと安心して暮らせますので、芸能関係の方も多いですね。うちは決して安いお店ではないんですが、味のわかるお客様に恵まれて有り難いです。経堂には「美味しい飲食店」が揃っていますので、さまざまな世代の方が、美味しいものに出会える街だと思います。

お品書きにも味がある
お品書きにも味がある

お店の外観
お店の外観

今回お話を聞いた方

「和shoku。の水」

店主 野水貞博さん

「素材の持ち味を引き出す」ことにこだわる料理人と 「味の違いがわかる人々」が織りなす、四季折々の美食
所在地:東京都世田谷区宮坂3-12-17  ワタナベビル1F
電話番号:03-5799-3124
営業時間 17:30~(L.O 22:00)
定休日 月曜日(祝日の場合は営業)・月曜祝日の翌日
http://www.ne.jp/asahi/n/mz/