スペシャルインタビュー

美味しい食卓に、少しの幸せをプラス/Eme 武藤恭通さん


グリーンショップ「TRANSHIP」の中を奥へ進んでいくと、「Eme」はある
グリーンショップ「TRANSHIP」の中を奥へ進んでいくと、「Eme」はある

落ち着いた雰囲気の店内
落ち着いた雰囲気の店内

「Eme」店長 武藤シェフ
「Eme」店長 武藤シェフ

「武蔵小山」駅から南へ徒歩1、2分ほど。感じのいい個人店が点在するエリアを散策していると、ファサードが緑に覆われたショップの横を通る。看板には「TRANSHIP」と書かれているが、脇にある立て看板には「Eme」というレストランと思しき名前も。よくよく目を凝らして見ると、そのグリーンショップのずっと奥に、暖色系の灯りに照らされたレストランの入り口が見える。

ここは、知る人ぞ知る武蔵小山の新鋭ビストロ「エメ」。2018(平成30)年に開業したばかりの店舗だ。シェフの武藤恭通さんは、高級住宅街のレストランでの副料理長経験を持ち、その前にはフランスのレストランやシャルキュトリー工房でも働いていたという、多彩な料理人経験を持つ人物だ。今回は、武藤シェフにここ「武蔵小山」にお店を開いた理由とその思いについてお話を聞いた。

――まず、「Eme」の概要について教えてください。

僕は横浜で生まれ育ちまして、最初に就職したのは代官山の「タブローズ」というフランス料理レストランでした。その後は、横浜のレストラン、国を渡ってニュージーランド、台湾のレストランで働いて、日本に帰国しました。
帰国してから最初の1年間は、横浜のケーキ屋さんでフランス菓子作りを覚えました。その頃から自分の中で「フランス料理の店を開こう」という方向性に絞っていたので、その後は六本木にあるフレンチのお店に入って、フランス料理の礎(いしずえ)を築きました。
その後は、(開業前の)最後の仕上げ修業のため、フランスに渡りまして、ブルゴーニュとバスクというふたつの地域で、レストランと、「シャルキュトリー」という肉の加工品を作る工房で働きました。お店で出している(コース料理の)シャルキュトリーの皿も、そこで作られたものを取り寄せたものを使ったり、僕が自分で作ったものを入れたりしています。

フランスから日本に帰ってきてからは、代官山のレストランで副料理長として働いたり、知り合いのワインバーの立ち上げを手伝ったり、フリーで働いたりしながら、そのかたわらで物件を探して、ようやく理想的な物件にめぐり会えまして、「Eme」の開店に至りました。

こだわりの「シャルキュトリー」
こだわりの「シャルキュトリー」

世界各地のワインも味わえる
世界各地のワインも味わえる

――物件探しから3年間、かなりいろいろな街を探し回られたそうですね。「武蔵小山」に決めたのは、何が“決め手”だったのでしょうか?

入り口にグリーンショップなどの、「ライフスタイルを豊かにする店」があれば理想的だなと思っていたので、現在の物件がその条件とちょうど合致したのが大きいですね。実はそれまで、武蔵小山ってほとんど来たことがなかったんです(笑)。
代官山で働いていた時期が長かったので、最初はその周辺の代々木上原、神泉、松濤のあたり、もしくは中目黒、恵比寿のあたりを探していました。しかし、武蔵小山も実際に来てみるとすごくいい街で、暮らしやすそうですし、1本入るといい感じの住宅街があって、「ここならできそうだな」と思ったんです。近くに個人経営のお店がちょこちょこあるので、そこも魅力的だと思いましたね。

グリーンショップ「TRANSHIP」とつながっているつくりがおもしろい
グリーンショップ「TRANSHIP」とつながっているつくりがおもしろい

インテリアにもこだわりが見られる
インテリアにもこだわりが見られる

――食材の特徴、料理の特徴について教えてください。

お野菜については、契約農家さんから送っていただいているものが多いです。加工製品についても、先ほどお話したように、修行先のシャルキュトリー工房から取り寄せていたり、知り合いの方が作ったものを分けていただいたりと、「自分が辿ってきた道の、“いい仕事”をしているものを使う」ということを心がけています。もちろん、手作りできるものは全部していまして、今回お出ししたシャルキュトリーの中でも、パテ・ド・カンパーニュについては、半頭で買ってきた豚を自分で解体して作ったものです。

今回お出ししているのはランチコースからのいくつかのお皿でして、僕は「フレンチタパス」と呼んでいます。フレンチのお惣菜の盛り合わせと、バスク地方の伝統的なスープ「ガルビュール」、メインはフランスの古典料理のひとつである「バロティーヌ」というお料理です。軍鶏(シャモ)の肉を開いて、その中にたたいた海老を詰めたお料理になります。コースの内容はほぼ毎日変わりますけれども、このようなテイストで作っています。

ワインについては、自分がフランスのブルゴーニュという地域で働いていましたから、その地域のワインと、フランスの他地域のワインと、オセアニアのワインと、その他世界各地のワインということで、4つのグループに分けまして、4分の1ずつ置いています。

コース料理はフランスの郷土料理がメイン
コース料理はフランスの郷土料理がメイン

今回いただいたランチコースのデザート
今回いただいたランチコースのデザート

世界各国を渡り歩いた武藤シェフの腕が光る
世界各国を渡り歩いた武藤シェフの腕が光る

――インテリアや食器類も非常に凝っていますね。どのような思いがあるのでしょうか?

「居心地のいい、落ち着くような場所」ということをテーマにしていますので、緑を取り入れたり、木のものを多く置いていたり、ヨーロッパのアンティークなど、「古き良きもの」をできるだけ取り入れるようにしています。カウンター上にあるランプも、日本で使われていた本物のアンティークですし、楢の木のチェストもそうです。

お皿やカトラリーに関しても、「ノリタケ」とか「たち吉」といった国内のメーカーが、昭和の中頃に作った、肉厚で“本当にいいもの”を、あえて使っています。棚に並んでいるグラスや、シャルキュトリーを盛りつけたお皿は、フランスの蚤の市で見つけて、日本に持って帰ってきたものです。

――武藤シェフが感じられている、武蔵小山の魅力とは何でしょう?

やはり、「都心に近いけれども、すごく住みやすい」と思いますね。あとは、「人がいい」ということでしょうね。なんというか、「ほどよい地元感」があるんです。収入の高い方も多いと思うんですが、お高くとまっていないというか。うちのお客さんは特にそうなのかもしれないですけれど、とにかく「人がいい」ですね。

それから、住んでいる世代が幅広い街だとも思います。おじいさんおばあさんも、バリバリ仕事をしている人も、みんな一緒に共存していて、活気があって。だから住みやすいと感じるんでしょうね。個人経営のお店の中にも、いいお店がいっぱいありますから、買い物も楽しい街です。

――武藤シェフが思い描いている、「Eme」の将来のビジョンを教えてください。

「Eme」に関しては、レストランに留まらない、「食を中心とした新しい提案」をしていけるお店にしていきたいですね。いわゆる「中食」ですとか、ケータリング、物販、ワークショップ、出張料理など、とにかく「食の豊かさを提案する」ことに関わることは、なんでもやってみたいと思っています。武蔵小山はまだまだ、これからそういう需要が増えていく街だと思っていますので、楽しみですね。

「TRANSHIP」の奥に広がる「Eme」
「TRANSHIP」の奥に広がる「Eme」

――これから武蔵小山に暮らしたいという方に向けて、メッセージをお願いします。

武蔵小山はまだまだこれから街が大きく変化していく地域だと思います。僕はそういう場所には、必ずいい感性をもった人たちが新しいコミュニティを作っていくと思っています。僕らのような個人店の店主が横につながって、一緒に関わって、盛り上げていければいいな、と思っていまして、今実際に活動を始めようとしているところです。新しい街でどんなことができるのか、僕らも楽しみにしていますので、新しく住まわれる皆さんも、ぜひ僕らと一緒に、街を盛り上げていただければと思います。

「Eme」入り口
「Eme」入り口

今回お話を聞いた人:Eme(エメ)店主 武藤恭通(むとう やすゆき)さん

美味しい食卓に、少しの幸せをプラス/Eme 武藤恭通さん
所在地:東京都品川区小山3-11-2 1F
電話番号:03-5751-7636
営業時間:11:30~ 16:00 (L.O.14:30)、18:00~23:00
定休日:月曜、不定休あり
http://eme-table.jp/