地域に見守られ育てられる、子どもの”できるようになりたい”を育む/「三鷹市立北野小学校」清水校長先生
「東三鷹学園」として小・中一貫カリキュラムを採用する「三鷹市立北野小学校」は、地域の方々の協力の下、児童と保護者で行う「じゃがいも掘り大会」や「学校農園」、200キロ以上のもち米をつく「餅つき大会」など、地域資源の豊かさを活かした教育活動を行っている。また子どもの弱点を補う補習や体力向上の取り組みなど、子ども一人ひとりに合った丁寧かつ根気強い指導も大きな特徴だ。そんな「三鷹市立北野小学校」の日々の活動や取り組みについて、清水校長先生にお話を伺った。
地域の人々の思いに支えられ、自然の豊かさを体験できる9年間
――「三鷹市立北野小学校」の沿革や教育目標をお教えください
清水校長先生:本校は1970(昭和45)年4月1日に創立しました。2008(平成20)年には「三鷹市立第一小学校」と「三鷹市立第六中学校」との小中一貫カリキュラムを採用した「東三鷹学園」が開園し、2018(平成30)年に10周年を迎えました。
「豊かな心をもち、たくましく生きる児童に育てる」を合言葉に、「健康な子ども・考える子ども・思いやりのある子ども」を教育目標に掲げています。未来を担う子どもたちが、生き生きと元気になれるように。心身ともに健康で、自分の考えをしっかりもつ人に育つように。そして相手を思いやれる、人間関係をきちんと構築できる人に成長できるように。その基礎となる部分を小学校で身に付けさせたいと、教職員一同で力を合わせて日々の教育活動を行っています。
――小・中一貫教育では、どのような取り組みや連携を行なっていますか?
清水校長先生:三鷹市の小・中一貫教育は、既存の小中学校を存続させた形で児童・生徒は現在の小中学校に在籍しながら、小中学校間の強固な連携と交流を図ること。そして地域ぐるみで教育を支援する「コミュニティ・スクール」を推進することを、大きな特色としています。「東三鷹学園」を設置してから、2019(令和元)年に11年目を迎え、安定した活動になってきたと自負しています。
たとえば、6年生が中学校体験として「三鷹市立第六中学校」に行き、修学旅行中だった3年生の教室をお借りして授業を受けてきました。1~2年生の授業を見学し、部活動紹介も行いました。これから部活動体験もあり、先輩方と一緒に練習する貴重な機会になります。昨年度までを見ても、先輩方が部活に真剣に取り組む姿や、授業を受けているところを目の当たりにして、刺激を受けた児童も多かったようです。 このほかにも、児童会生徒会の交流TEH(ザ・イースト・ホークス)やふれあい活動、音楽交流会、中学生によるボランティア活動などがあります。
小学校同士の交流が中1ギャップの解消にもつながる
――同じ「東三鷹学園」の「三鷹市立第一小学校」との交流もあるそうですね
清水校長先生:6年生の宿泊行事である自然教室は合同で行い、現地の活動を両校が同じグループになって取り組むようにしています。また、6年生の水泳大会も一緒に開催し、小中だけでなく小小同士の交流も積極的に行っています。
教員たちも「何が子どもにとってよい活動なのか」、「何がプラスになるのか」を考え、一過性ではなく長く続けられる活動を一歩一歩進めています。
同じ中学校区の6年生がお互い顔見知りになれば、中学入学後の新しい環境になっても安心できるでしょう。少しでも中1ギャップをなくせるよう、小学校同士の交流は今後も続けていきたいと思っています。
――”東三鷹スタンダード”とはどのような取り組みなのでしょうか?
清水校長先生:「東三鷹学園コミュニティ・スクール(CS)委員会」のみなさんと学校が「育てていきたい子ども像」や「何が子どもたちに必要か」を相互に意見交換しながら考えて、子どもたちが「自分で目標を決め、取り組む習慣を身に付けること」をテーマに2014(平成26)年から実施しているものです。
学期はじめに「学習面・生活面・コミュニケーション面」での各自の目標を専用のシートに書き入れ、学期終わりには、ふりかえりや家庭からの励ましの言葉を書き入れて、1年間で1枚のシートを完成させます。
2019(令和元)年から各自に保存ファイルを配布し、小学1年から中学3年まで9枚のシートを保管できるようにしました。つまりそのファイルには、9年間の自分の変化や成長の過程がすべて詰まっている、考え方によっては通知表よりも自分の成長を感じられる記録になっている訳です。
この取り組みの開始時には、CS委員会の皆さんが資料を作成して保護者会で丁寧に説明してくださいました。保護者の皆さんの理解を得ることで、家庭でも”東三鷹スタンダード”の取り組みの考え方を共有でき、学校とも協力しながら子どもたちを見守り・励ましていかれると思います。
それぞれの子どもの弱点を見極めて指導することが学校の役目
―学力向上の取り組みについてもお教えください
清水校長先生:担任が各児童のサポートが必要な教科に関して、長期休暇や毎月1回の放課後30分を利用して補習授業を行う「ジャンプアップ」、教員ではなく地域の学生さんや一般の方々による補習で、希望者を募って行う「みたか地域未来塾」、保護者や地域の方々によるサポート隊に授業に入ってもらい、よりきめ細かな算数指導を行う「算数サポート」などがあります。
何の勉強に困っているのか、どの部分につまづいているのかは、一人ひとりそれぞれ違います。例えば逆上がりができない原因は、腕が伸びているからかもしれないし、蹴り上げの力が弱いからかもしれない。それぞれの子どもの弱点を見付けて、その子に合った指導をしなければ、できるようにはなりません。
―先生方は子どもがつまづいている点を見極めなければいけないということですね?
清水校長先生:もちろんです。それが教員の腕の見せどころでもあります。子どもは勉強が分からなくなると、目をそらしたりそっぽを向いたりしがちです。でも心の底の方では「理解したい」、「分かるようになりたい」と思っているもの。その気持ちを引き出し、こちらを向かせるのが教員の力です。
学力は知識だけでなく、学びに向かう気持ちや力のことです。できる・できないは結果なので仕方ないですが、「やろうとする子ども」、「根気よく最後まで諦めない気持ち」を育てるのが学校の仕事です。学びに向かう気持ちと力を育むことが、文科省が提唱する「主体的で対話的で深い学び」だと、私は考えています。
―体力向上のための活動も盛んだとお聞きしました
清水校長先生:長縄・短縄週間や持久走週間の「北野RUNRUNRUN」といった短期間の取り組みもありますが、大切にしているのは毎日の体を動かす習慣です。本校の校庭は全面芝なのですが、中休みは全校児童に校庭に出て遊びましょうと指導をしています。子どもたちは元気いっぱい遊んでいますし、教員は一緒になって走り回ってます。
体力をつけるには、体育の時間だけでなく普段から体を動かすことが大切です。教員が率先して体を動かす遊びを取り入れて、インドア派の子どもたちも一緒に校庭に連れ出すようにしているようです。
―卒業後の進学先についてもお聞きしたいのですが
清水校長先生:その年によって変動しますが、約8割は学区である「三鷹市立第六中学校」に、約2割は私立や国公立の中学へ進学します。
「子どもたちのためなら」と集まってくれる地域の方々
―地域の方々が学校活動に非常に協力的だとお聞きしました
清水校長先生:北野地区は三鷹有数の農業地帯であり、地域資源が豊かな場所です。学校に対しての思いも強く、「学校のため、子どもたちのために」と協力してくださる姿勢を強く感じます。
たとえば、学校のすぐ横に学校農園をお借りしているのですが、2年生のサツマイモ、3年生の大根、5年生の麦など、各学年の学びに大切な農作物を育てるお手伝いもしてくださっています。
5年生が植えたじゃがいもを、児童と保護者で収穫する「じゃがいも掘り大会」も、毎年6月に行っています。2019(令和元)年度は1トンもの収穫があり、親子で掘ったじゃがいもを地域や保護者の方々と共に6年生男子が運び、6年生女子が袋詰めをしました。地域の方々が掘りたてを茹でてくださり、そのじゃがいもをみんなで食べて、最後は袋詰めされたお土産を持ち帰る一大イベントでした。
12月には200キロ以上のもち米を使って、地域の方々が杵と臼を持ち寄って、全校児童が餅つき体験をする「餅つき大会」もあります。近年はこの餅つきができる学校が減っていると聞きますが、本校ではまだまだ続けられそうです。
―子どもたちへの深い愛情を感じますね
清水校長先生:こんなに愛情深く関わってもらって、子どもたちは幸せだと思います。先日も近隣の畑の方が子どもたちのためにひまわりで迷路を作ってくださり、「今年もつくったよ」と学校に知らせてくれました。同じ学園の「三鷹市立第一小学校」にも声を掛けて、本校では1~4年生の子どもたちが訪れて楽しんできたところです。
夏休みの終わりに通学路や学校周辺の枝切りがありましたが、地域の方々が軽トラを何台も出してくださり、駐在さんや地域の交通対の方々、PTAも集まって、教員も一緒になってきれいにしました。
その他にも、カブトムシをどっさり学校に届けてくださったり、中学1年では職業体験として30軒の農家で実際に農作業をお手伝いさせてもらったりしました。ここには紹介し切れないほど、いろいろとご協力いただいています。
素晴らしいのは、お手伝いしてくださる人がパッと瞬時に集まってくださる点。そんな風に地域の方々が気持ちよくお手伝いくださるおかげで、教員たちも嬉々として集まり一緒に働いています。学校と地域の連携が取れている環境だからこそ、日々の教育活動もしっかり安定して行えていると実感しています。
――周辺の環境について、どのようにお感じになられますか?
清水校長先生:学校周辺は三鷹のなかでも特に自然が多く残っている地域で、環境がとてもよいですね。三鷹産野菜を売りにしたレストランなども多いようですが、その多くは小学校周辺で採れたものだと思います。
また現在、学校のすぐ近くで外環道のジャンクションを建設中で、長らく工事が行われています。実はこの工事のために、本校学区では約300世帯が立ち退いたこともあり、三鷹市内の他の小学校では児童数が増えているなか、「三鷹市立北野小学校」ではやや減少傾向にあります。
地域住民の方々はこの工事に関して関係各所と常に話し合いを行い、子どもたちの安全をどう守るかを最優先に考えてくださっています。先日はトンネルの中に子どもたちを招待してくださり、現場を見せてくれました。これも地域の方々が子どもたちのことを一番に考えてくださっているから実現したことです。三鷹市では人こそが財産という意味で「人財」という言葉をよく使うのですが、その文字通りの気持ちの温かい地域性だと思っています。
三鷹市立北野小学校
清水晃校長先生
所在地:東京都三鷹市北野3-1-5
電話番号:0422-47-0551
URL:http://www.mitaka-schools.jp/kitano-es/
※この情報は2019(令和元)年9月時点のものです。
地域に見守られ育てられる、子どもの”できるようになりたい”を育む/「三鷹市立北野小学校」清水校長先生
所在地:東京都三鷹市北野3-1-5
電話番号:0422-47-0551
http://www.mitaka-schools.jp/kitano-es/