校長 苅込希先生インタビュー

ICT教育の試みや、地域との活発な交流・連携に取り組む/三鷹市立井口小学校

都内ナンバーワンの売り場面積を誇る「イトーヨーカドー 武蔵境店」東館・西館を目印に、「武蔵境」駅の南口から駅前通りをまっすぐ歩いて10分ほど、畑や戸建を中心とした住宅地の穏やかな光景の向こうに見えるのが「三鷹市立井口小学校」だ。「井口小学校」は東西に広がる三鷹市の中で、最も北西部を通学指定範囲とする小学校で、学区内には畑作地など、緑の風景も数多く残っている。 今回は、「井口小学校」で2017(平成29)年度から校長を務める苅込希先生を訪ね、学校の特徴や子どもたちの様子、地域の方々との関わり方などについて、お話を聞いた。

2017(平成29)年度から校長を務める苅込希(かりこみ のぞみ)校長先生
2017(平成29)年度から校長を務める苅込希(かりこみ のぞみ)校長先生

1972(昭和47)年創立、三鷹市内で13番目の小学校

――まずは、小学校の概要について教えてください。

苅込校長:本校は今年、令和2(2020)年で創立48年目を迎えた学校です。(三鷹市立)第二小学校の児童数が増加したことなどから、そこから分かれる形で、市内で13番目に開校したと聞いております。現在三鷹市の小学校は15校ですから、市内では比較的新しい小学校ということになりますね。
校門を入ったところにある大きなサワラの木は、開校時に植樹されたもので、48年間の歴史をずっと見てきた、本校のシンボルツリーになります。 児童数は現在650名21学級で、最近は増加傾向にありますが、まだまだ周辺には新しい家も造られていますので、さらに増えていく可能性があると思っています。

「三鷹市立井口小学校」校舎と、その前に植えられた48年前の開校時に植えられたサワラの木
「三鷹市立井口小学校」校舎と、その前に植えられた48年前の開校時に植えられたサワラの木

――通学区はどのような範囲でしょうか?

苅込校長:本校の南に「山中通り」という通りがありますが、そこから北側と、西は天文台通りより少し先、東は武蔵境通りが境になっていまして、東西に長い学区になっています。小金井市や武蔵野市と接している学区でして、比較的広範囲から児童が通ってきます。

創立以来変わらない教育目標
創立以来変わらない教育目標

――学校の教育目標について教えてください。

苅込校長:「知・徳・体」で目標が作られています。知として「進んで学ぶ」、徳として「かがやく笑顔」、体として「やりぬく強さ」という言葉で表現しています。これは創立以来変わらない本校の教育目標です。

「ICT活用推進モデル校」としての授業計画

――特に力を入れていることや特色のある教育活動などがあれば教えてください。

苅込校長:私は現在着任4年目になります。1・2年目は、東京都の教育委員会から「アクティブライフ研究実践校」の指定を受けて健康づくりと体力づくりに力を入れて研究に取り組みました。また、去年と今年は三鷹市から「ICT活用推進モデル校」の指定をいただいて、短焦点プロジェクターの全教室への設置など、他校には未だない設備を付けていただきました。それらの機器を活用して、新学習指導要領にある「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、どういった実践ができるのかということをテーマに研究を重ねています。

「ICT活用推進モデル校」として全教室に短焦点プロジェクターを設置
「ICT活用推進モデル校」として全教室に短焦点プロジェクターを設置

今年に入って最も悩ましく思っているのは、「対話的」の部分です。新型コロナ感染症の影響で、向かい合ってのグループ活動ですとか、グループディスカッションは非常に難しくなっています。今はその部分を、ICTを活用して何か工夫できないか実践を重ねているところです。
たとえば、「言葉(発話)」を使わなくても、ホワイトボードやプロジェクターを使ったり、付箋(ふせん)に自分の意見を書いて貼ったりという風に、「文字」によってできる対話もあります。図、絵、写真をプロジェクターに投影した対話もできます。もっとシンプルなものだと、「ボディランゲージ」による対話もあります。小学校では「ハンドサイン」という、指でのサインもよく使っていますが、そういったものも活用できると思っています。
それから、「対話」という言葉についても、一般的には「子ども同士の対話」というイメージがまず湧きますがこのほかに、「教員と子どもの対話」も非常に大事です。教員は、子どもの新しい疑問を引き出したり、励ましたり、動機づけをして、学習をより深め、新しい気づきを与えるというという役割があるので、それも今、全教科で取り組んでいるところです。
さらにもうひとつ、一番大事なのは、「自分自身との対話」なんです。子ども自身が、何を新しく学び、何ができて、どんな力が身に付いたのか、それを振り返るような時間がすごく大事なので、これを必ず毎時間取り入れるようにしています。

オンライン授業を視野に入れた取り組み

――今回のコロナ禍で、ICTを使ったオンライン授業などの展開はされましたか?

苅込校長:休校期間中は、ICTモデル校といいながら、オンライン授業のようなICTの活用はできていません。というのも、タブレット端末の数がまだ、1人1台という体制で整備できていなかったのと、情報セキュリティ面の部分がクリアできなかったからです。2021(令和3)年1月に市内の全小、中学校にタブレットが1人1台配備されると聞いています。現在「オンライン授業開発チーム」を校内で作り、オンライン授業をどのように実施できるのかを、本夏から検討し始めています。 ただ、「オンライン授業」と一言に言っても、「同期型」「非同期型」といろいろな形がありますし、対面型の授業の良さ、オンラインの良さというのもそれぞれありますから、多面的な視点で検討をしているところです。

光の差し込む廊下
光の差し込む廊下

「非同期型」はコンテンツをあらかじめ作ってオンラインで発信するというもので、このメリットは、「いつでもどこでも再生ができる」「何人でも対象にできる」という部分です。 逆にデメリットとして、本当に指導力の高い教員が、時間をかけて、ひとつの番組を作るようにして作らなければいけないので、手間も時間もお金もかかります。 一方、いま話題になっている「同期型」は、相手の顔が見えて安心感が得られますが、一度に40人を相手にやり取りをするのは難しいし、通信トラブルが原因で途切れてしまうことも多いです。お互いに顔が見えるので、ある程度信頼関係も必須です。こういったメリット、デメリットを今から判断したうえで、授業づくりをしていかなければと思っているところです。

三鷹市立井口小学校
三鷹市立井口小学校

この状況下だからこそ。子どもたちを主体に企画する運動会や学芸会

――ユニークな行事や課外活動があれば教えてください。

苅込校長:学校行事についても、今年は従来通りにはできないと考えています。そこで、現在本校では、「あたらしい生活様式を生かしてどんな運動会が実現できるか」を子どもたちに考えさせ、企画させています。中心になって取り組む6年生には「君たちが5年間学んできたことを、小学校生活最後の年に、君たちの力で、君たちのアイディアで、作り上げてほしい」と伝えました。ただ、新しいものを作り上げるには時間が必要なので、運動会は例年通りの9月ではなく、10月の後半に1か月延ばしました。また、本校は文化活動の発表の場として「展覧会」と「学芸会」を毎年交互に行っており、今年は展覧会の年ですが、こちらも「どんな風にできるか」児童たちに考えさせているところです。

――昨年結成された「合唱団」も、いろいろな場面で活躍しているそうですね。

苅込校長:有志合唱団については、昨年の秋に新たに立ち上げました。希望者を募って、放課後の時間や昼休みを使って練習をしています。昨年の11月にはオーケストラのコンサートに参加して、総勢600名を超えるコンサートに参加して、総勢600名を超えるオーケストラと大合唱団の一員として、演奏を披露しました。このことは、子どもたちにもたいへん貴重な経験になったと思います。このほか、12月にも、本校の近くの老人ホームを訪問して、手作りの小物とクリスマスソングのプレゼントをしました。 今は感染症予防の関連で合唱団も活動休止の状態ですけれども、落ち着いてきたら、近くの幼稚園などにも行きたいと思っていますし、将来的には本校だけではなく、「にしみたか学園」の全体に広げていきたいと思っています。

地域のサポートでできるさまざまな体験

――こういった行事や活動に、地域の方もすごく協力してくださっているそうですね。

苅込校長:そうなんです。「井口フレンド(三鷹市が実施している地域子どもクラブ事業)」と、ほかにも「井口小ダディーズ(井口小の行事や地域活動に取り組む「おやじ」たちのボランティアグループ)」やPTA組織などが、いろんな行事に熱心に協力をしてくださっていて、そこは本当に、本校の一番の強みだと思っています。 運動会や学芸会はもちろんですが、日常の放課後プログラムにも、「井口フレンド」の方がさまざまな企画を用意して、水遊びをしたり、消しゴムはんこを作ったり、ダンス教室をしたり、子どもたちもいろいろな体験をさせてもらっています。

――地域のスポーツクラブとのコラボ企画もあると聞きました。

苅込校長:これは昨年から進めているものですが、本校のすぐ近くに「レアレア」という民間のスポーツクラブがあり、本校の子どもたちも、保護者の方も、かなりの数の方が会員として利用しています。そこで地域スポーツ、生涯スポーツを推進するため何かコラボができないか声をかけまして、何回か検討する機会を重ねています。ただ、今年は新型コロナの影響で様々予定していた企画が中止になってしまって…。具体的には来年以降からの実施になるかと思います。

民間のスポーツ施設「レアレア 三鷹店」ともコラボレーション
民間のスポーツ施設「レアレア 三鷹店」ともコラボレーション

――ほかにも、地域の方々や保護者との連携がありましたら教えてください。

苅込校長:交通対(交通安全対策地区委員会)、青少対(青少年対策地区委員会)の皆さんが、さまざまな学校の教育活動に協力してくださっています。交通安全週間の地域の見守りや、警察と連携した安全教室には、交通対、青少対とも、毎回多くの皆様にご協力をいただいています。 また、本校の職員玄関に、「今日もお越しいただきありがとうございます」という掲示があったかと思いますが、本校では三鷹市のボランティア募集システムを使って、保護者の方に幅広く、授業サポートに入ってもらっています。このほか、毎週火曜の放課後には、市の「みたか地域未来塾」という施策の一環として、希望する子どもたちが、地域の方から学習の支援を受けるという取組も行っています。

地域の人々との繋がりも強い
地域の人々との繋がりも強い

――お父さんたちの組織である「井口小ダディーズ」についてもお聞きできますか?

苅込校長:毎年夏の時期に「サマースクールキャンプ」という、学校を使って宿泊をともなう避難所体験をするという企画を実施しています。子どもたちが楽しめるように、ドラム缶のお風呂を設置したり、カレーライスやカンガルードッグを一緒に作って食べたり、夜は肝試しをしたり、子どもたちも非常に楽しみにしている行事になっています。残念ながらこれも今年は中止になりましたが、来年以降は再開できるといいと思います。

また今年は感染症対策においてもダディーズの皆さんには大変に力をお借りしました。分散登校中は、子供たちが下校した後に、校舎内の階段、手すり、トイレ、各教室の机などを、ダディーズのお父さんたちが毎日入れ替わりで来て、消毒をしてくださったりもしました。

図書室の様子
図書室の様子

「にしみたかの子ども」という意識

―三鷹市立第二小学校、第二中学校で構成されている小中連携「にしみたか学園」の、学園内連携について教えてください。

苅込校長:例年は二小(三鷹市立第二小学校)と井口小と合同で「自然教室」を実施しています。毎年6年生が3泊4日で長野県の川上村に出かけて、現地での活動の大部分を合同で実施しています。私は、毎年3学期になると6年生に対して「卒業面接」というものをやっていて、その時に、「6年間でいちばん楽しかった思い出は何ですか」と聞くと、一番多い回答が、この「自然教室」なんです。 その理由を聞くと、「協力することの大切さを学んだ」多くの子どもがそう答えます。二小と井口小では、3年生から毎年少しずつ交流する機会を設けていますが、一時的な交流なので、一緒に自然教室に行って生活を共にすると、最初はかなりの子どもが、不安を抱いて参加するわけです。

でも実際川上村を訪れ、一緒に調理をしたり、かまどを作ったり、ハイキングをしたりしているうちに、声をかけ合わないといけないような状況が出てきて、自然と打ち解けていきます。自分が勇気を出して声を掛けたことで、それが相手にも伝わって、とてもいいコミュニケーションができたと。それが、成就感や達成感となりいい思い出に変わって、「自然教室が一番思い出に残った」という言葉につながっているんですね。 最初からうまくいっているわけではなくて、最初に辛い思いなどもし、それがきっかけで自分で努力工夫をし、その結果、いい思い出ができる。そのプロセスがやっぱり、すごく印象に残るんだと思います。 共通の思いをもった同士が、同じ仲間として二中(三鷹市立第二中学校)に進学をしますので、「にしみたかの子ども」という意識を強める点でも、この行事は意味の大きいものだと感じます。

小中連携で「三鷹市立第二中学校」にも安心して進学できる
小中連携で「三鷹市立第二中学校」にも安心して進学できる

――先生方が子どもたちと向き合う中で、とくに気を配っている点があれば教えてください。

苅込校長:本校の子どもたちは、たいへん素直で、勉強もよくするのですが、よりチャレンジする心を育んでほしいなと思っています。主体的に課題を見つけて解決していくような機会を、意図的に設定していこうということを、全校で意識しながら取り組んでいます。 先ほどお話した行事のこともそうですし、そのほかにも、いろんなことを決めるにあたって、教員はできるだけファシリテーターという立場になり、「教える」というよりは、「学びを掘り起こす」というようイメージで、声がけや関わりを持つように心がけています。

人が温かな街で学べること

――最後に、周辺地域の魅力について教えてください。

苅込校長:この近辺は自然もあり農業がさかんな地区なので、本校でも深大寺地区にある井上さんという農家の方にご協力をいただいて、各学年でそれぞれ、実際に種や苗を植えたり、収穫をしたりという農業体験もさせていただいています。

収穫したものは家に持ち帰って、家庭で調理をしたり頂いてみたりと、非常に貴重な体験ができています。こうしたことができるのも、この地区ならではの特徴だと思っています。 また、体験を通して、食に対する興味や、環境保護の大切さなども考えることができると思いますし、「自分たちの学習は地域のいろいろな方の力で成り立っている」という感謝の気持ちを育てることにも繋がっています。 街の魅力を一言で言うとすれば、やっぱり「人」ですね。地域の人の温かさ。これに尽きるんじゃないかと思います。

苅込 希(かりこみ のぞみ)校長先生
苅込 希(かりこみ のぞみ)校長先生

三鷹市立井口小学校

苅込 希(かりこみ のぞみ)校長先生
所在地 :東京都三鷹市井口3-7-11
電話番号:0422-31-5521
URL:http://www.mitaka-schools.jp/iguchi-es/
※この情報は2020(令和2)年8月時点のものです。
※感染予防対策に配慮して取材を実施しています。

ICT教育の試みや、地域との活発な交流・連携に取り組む/三鷹市立井口小学校
所在地:東京都三鷹市井口3-7-11
電話番号:0422-31-5521
http://www.mitaka-schools.jp/iguchi-es/