施設長 松久保陽子さんインタビュー

経験・体験に重きを置き、生きる力と優しさを育む/読売ランド前どろんこ保育園(神奈川県)


「読売ランド前どろんこ保育園」は、神奈川県川崎市多摩区に2020(令和2)年4月に開園しました。駅から近いにも関わらず、里山の趣さえただよう風景に溶け込む園舎からは、鳥のさえずりに混じって子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきます。園の概要にはじまり、特徴、また保育をする上で大切にしていることを中心に、施設長の松久保さんにお話を伺いました。

「読売ランド前どろんこ保育園」施設長の松久保さん
「読売ランド前どろんこ保育園」施設長の松久保さん

語りきれない程の熱い思い

――まずは、「読売ランド前どろんこ保育園」の概要から聞かせてください。

松久保さん:当園は「社会福祉法人 どろんこ会」を母体とし、2020(令和2)年4月に開園した定員90名の認可保育園です。平均的な規模ですが、里山につながる園庭を持ちながら、駅にも近いという大変恵まれた環境です。

自然に囲まれた「読売ランド前どろんこ保育園」 (画像提供:どろんこ会グループ)
自然に囲まれた「読売ランド前どろんこ保育園」 (画像提供:どろんこ会グループ)

松久保さん:当園で大切にしているのは体験と経験です。机上の学びも大切ですが、実際に触れてみたりすることで、より本質的な理解に近づくのではないかと思っています。それには環境を整える必要がありますが、この場所を提供してくれたオーナーさんが、里山の手入れ、薪ストーブの設置をしてくださったり、子どもたちのために井戸を掘ってくださったり――本当にありがたい限りです。

園庭内に堀った井戸
園庭内に堀った井戸

――日々の保育で特に大切にしていることはありますか?

松久保さん:今後さらにAIの比重が高まっていく中で、自分で考え、判断し、行動する力、つまり生きる力が求められます。子どもが困っていてもすぐに手を差し伸べるのではなく、様子を見守りながら自分自身で解決できるようにサポートするように心がけています。トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら子どもたちは成長していくものですからね。

自分で考えながら表現活動を楽しむ子どもたち (画像提供:どろんこ会グループ)
自分で考えながら表現活動を楽しむ子どもたち (画像提供:どろんこ会グループ)

松久保さん:一方で、こうした私たちの方針について、入園時からすべての保護者の方にご理解いただいているとは限りません。最初は、学校で座っていられるようにしてほしいと要望される方も中にはいらっしゃいます。しかし子ども同士の関わりや遊びや生活の中で、”自分で選択する”ことを経験してきた当園の子どもたちは今、何をするべきかを判断できるようになり、表現の幅も広いように感じます。そうした子どもたちの変化・成長を見て、考えが変わり、これまで以上に当園への理解を深めてくださる方が大勢いらっしゃるのは、私たちとしても嬉しい限りです。

――日々の保育の中で、特徴的な活動などありましたら教えてください。

松久保さん:鶏を園庭に放っているのですが、これは動物と暮らしながら、間接的に生死について学んでもらう場と捉えています。動物と一緒にいればそれこそ色々なことが起こります。餌をあげれば喜び、餌がなければ催促する――。また月日が経てば、どうしても弱っていってしまう個体も出てきます。これは避けようとしても避けられることではないですし、私たちも同じ生き物である以上は、ありのままを見せることも大切ではないかなと思います。

園庭で鶏を飼育 (画像提供:どろんこ会グループ)
園庭で鶏を飼育 (画像提供:どろんこ会グループ)

松久保さん:食育についても食器は本物の陶磁器を使うことや、素材を味わうことを大切にしていること。また、自分たちで盛り付け、食べたい時間に食べたい人と食べたい場所で食べることができるというのも特徴だと思います。選択肢を用意するのは私たち大人ですが、そのなかから選ぶのは子どもたち。自分で選ぶということはそこに責任が伴います。早い時間に食べたらそれだけお腹が減る時間も早くなりますし、反対にそれが遅ければ昼寝が遅くなり、やろうと思っていたことができなくなってしまいます。自分で選択するということを繰り返すなかで、子どもの自立心が育まれるように感じます。

給食の時間
給食の時間

――園児たちの普段の様子はいかがですか?

松久保さん:恵まれた環境の中でいつも元気に遊び回っています(笑)。里山の崖を登ったり、「よみうりランド」まで続く遊歩道を散策したり、幼児になると1時間以上歩くこともあり、足腰は強くなっています。里山ならではの虫や鳥、草花を見つけ、散歩から戻ってくると毎日いろいろな話を聞かせてくれます。

緑豊かな環境でのびのび育つ子どもたち (画像提供:どろんこ会グループ)
緑豊かな環境でのびのび育つ子どもたち (画像提供:どろんこ会グループ)

困難な社会情勢でも、やれることはやる

――コロナ禍という困難ななかでの開園でしたが、イベントなどはどうされたのでしょうか。

松久保さん:厚生労働省の指示の元で対応していますが、入園式も懇談会も実施できませんでした。当初はしばらくしたら収束すると思っていたのですが、運動会もできないとなったとき、このままだと何も行事がない1年になってしまうなと。そこで屋外での活動や普段の遊びを録画したものを保護者に観てもらったりし、一人ひとりの日々の様子の写真や記録を収めたポートフォリオを展示し、子どもの成長を実感してもらう機会を設けました。

子どもたちが野菜を育てている畑 (画像提供:どろんこ会グループ)
子どもたちが野菜を育てている畑 (画像提供:どろんこ会グループ)

――地域子育て支援カフェ「ちきんえっぐ」を併設しているそうですね。

松久保さん:「ちきんえっぐ」は、子育てに関するイベントの開催をはじめ、地域で子育てする方々に利用していただく場所です。平常時であればどなたでも利用できます。コロナ禍で外出を控え、家でストレスを抱えたお母さんは多いと思ったので、人数を制限しつつ、育児や保育の相談、また離乳食作りや家でもできる遊びを紹介しました。コロナウィルス感染状況が落ち着いたら、子どもたちが育てた野菜の入ったスープを、オーナーさんが拵えてくれた薪ストーブで温め、地域の多くの方に振る舞えたらなと思っています。

銭湯背景絵師が描いた絵が飾られている「ちきんえっぐ」のスペース
銭湯背景絵師が描いた絵が飾られている「ちきんえっぐ」のスペース

園内に設置された薪ストーブ (画像提供:どろんこ会グループ)
園内に設置された薪ストーブ (画像提供:どろんこ会グループ)

――地域との関わりについてはいかがでしょうか。

松久保さん:近くの系列園からも子どもたちが遊びにきます。これだけ恵まれた環境を一園で独占するというのはもったいないですからね。コロナ禍が収束したらそれ以外の保育園ともぜひ交流したいですね。今は週一回、商店街ツアーを行い、いろいろなお店に行って、交流をしています。月一回の銭湯も落ち着いたら行く予定です。高齢者の方も多い地域ですので異世代交流もしていけたらと思っています。

園庭の改良に協力する保護者の皆さん (画像提供:どろんこ会グループ)
園庭の改良に協力する保護者の皆さん (画像提供:どろんこ会グループ)

――最後に、この街の魅力について聞かせていただけますか?

松久保さん:自然に恵まれ、遊歩道がいたるところにあります。「読売ランド前」駅は大きな駅ではないですが、だからこその穏やかさと、落ち着いた日常のある街です。子どもたちと商店街を歩いているときも笑顔で気さくに話しかけてくださる方が多く、こうした地域の温かい目があるということも、この街の魅力のひとつではないかなと思います。

「読売ランド前どろんこ保育園」外観 (画像提供:どろんこ会グループ)
「読売ランド前どろんこ保育園」外観 (画像提供:どろんこ会グループ)

施設長
施設長

読売ランド前どろんこ保育園
松久保 陽子さん

所在地 :神奈川県川崎市多摩区西生田1-7-1
電話番号:044-299-6561
URL:https://www.doronko.jp/facilities/doronko-yomiurilandmae/
※この情報は2021(令和3)年6月時点のものです。

経験・体験に重きを置き、生きる力と優しさを育む/読売ランド前どろんこ保育園(神奈川県)
所在地:神奈川県川崎市多摩区西生田1-7-1 
電話番号:044-299-6561
https://www.doronko.jp/facilities/doronk..