「新虎通り」エリアの魅力を創出する/一般社団法人新虎通りエリアマネジメント(東京都)
2014年に開通した環状二号線(新橋~虎ノ門)の地上部分は、通称「新虎通り」と呼ばれ、同じ年に開業した「虎ノ門ヒルズ」とともに、虎ノ門地区の新しいシンボルなっています。 この「新虎通り」は都心に新しく作られた通りでありながら、歩道が非常に広く取られている点が特徴で、その歩道上に、店舗や自由に座ることができるチェアなどが配置され、これまでに無かった風景を作り出しています。
こういった、新虎通りの都市風景を企画し、維持管理を行い、居心地の良い沿道空間の創出のため、さまざまな仕掛けを行っている中心にいるのが、「一般社団法人新虎通りエリアマネジメント」の皆さん。同法人の事務局メンバーである4人、森ビルの朝賀繁さん、東京都道路整備保全公社の清水育子さん、UR都市機構の山田耕さんと井口菜々子さんを訪ね、「一般社団法人新虎通りエリアマネジメント」(エリマネ)の取り組みと地域の将来ビジョン、暮らす街としての虎ノ門の魅力についてお話を伺いました。
「新虎通りらしさ」の創出を目指した取り組み
――まずは、「一般社団法人新虎通りエリアマネジメント」の概要について教えてください。
清水さん:この「新虎通り」は、いわゆる「マッカーサー道路」(環状二号線)という、昭和20年に計画が決定した道路の一部で、今になってようやく開発が進み、虎ノ門の再開発事業の中で整備されてきた道路です。道路自体は2014年3月29日に開通しましたが、本線は地下のトンネルになっていますので、地上部分は歩道が非常に広く取られた特徴的道路になっています。「新虎通り」という愛称は公募でつけられました。
地上部分を整備するにあたっては、地域の方と「どんな道路にしようか」ということを一緒に検討し、今のように広い歩道に、自転車道、道路内建築、四季折々の樹木などがある通りになっています。
――歩道上に建物があるというのが、とても珍しいですね。
清水さん:そうですね。この建物については、道路が完成するちょっと前くらいの時に、東京都の建設局さんから、「歩道部分を活用して地域の活性化を図れないか」というお話があって、道路内建築を作ったり、テラスを出したりできるように、特例制度を新たに作っていただき、このような形が実現できています。
その道路内建築やテラスを作るにあたって、東京都さんから条件として出されたのが、「マネジメントの組織を作って維持管理をする」ということでしたので、「新虎通りエリアマネジメント協議会」というものを発足させ、さらにその運営を行う「一般社団法人新虎通りエリアマネジメント」も作られました。
――「一般社団法人新虎通りエリアマネジメント」では、具体的にどのような目標を持って、どのような活動をされているのですか?
山田さん:目標として「居心地の良い沿道空間を創出する」ということがありますので、基本的にはそのためのあらゆる活動を行っています。先程も話に出てきた歩道上のオープンカフェや店舗の設置とその運営管理が主な活動のひとつですね。
2点目には、新虎通りを活用したイベントの企画・運営ということもありまして、これはのちほど詳しくお話があるかと思いますが、これまでにいろいろなイベントを行っています。
3点目は、日常的な道路の維持管理の一環として、地域の皆様にも参加頂きながら、定期的に新虎通りの清掃活動を行っております。
また、新虎通りの景観に関しての取り組みも行っています。新虎通りは新しく開通した通りですから、現時点では「通りに背を向けた」建物が多いんですね。これを今後どういう景観にしていくべきか、ということが地元の課題となっていますので、地元の方と一緒に考えながら「新虎通り景観ガイドライン」を策定しました。
――「新虎通り景観ガイドライン」について、詳しくお聞かせいただけますか?
山田さん:もともと港区で定められている景観条例・景観計画に加え、さらに踏み込んだものとして「新虎通り景観ガイドライン」というものを地元の方々と一緒に検討しました。具体的な内容としては、屋外広告物や新しく建てる建築物に関しての景観上の取り決めを定めています。策定後は、新虎通りらしい景観を実現できるよう、各事業者さんと話し合いを重ねています。
――新虎通りが目指している将来像とは、どのようなものでしょうか。
山田さん:地域の方々と「新虎通りエリアビジョン」というものを策定しており、その中で「人々の多様な交流により、新しいアイデアや多彩な文化・経済活動が創造される『国際新都心』を形成し、東京の未来を牽引していく」ということをテーマに掲げています。
現在、エリアビジョンの策定から5年以上が経ったことや、コロナ禍による社会情勢の変化に対応していくため、将来像の見直しを検討しているところです。
パンデミック以前の取り組みと今後の計画
――これまで、コロナ禍の前には多くのイベントも実施されたそうですね。どんなものが行われてきたのでしょうか?
朝賀さん:いちばん大きなものは、2016年に開催した、リオオリンピックのメダリストパレードですね。新虎通りから銀座まで行ったパレードで、この時に初めて、車道も活用してイベントを行いました。その後にも、「東京新虎祭り」ということで、東北の6つの大きなお祭りを集めたものを、やはり車道を止めて行いまして、この時も通りをねぶたが走ったり、かなり大勢の方が集まりました。
また、こうしたイベントを通じていろいろな地方都市とのネットワークができたので、「いっぴんいち」という、道路内建築を使って地方都市の特産品を並べた店を展開するイベントも生まれました。ただ、最近はコロナ禍でこういったイベントも自粛になってしまっています。
また、先ほどお話に出た「背を向けたビルが多い」ことを逆手にとって、大きな壁面に壁画を描くという取り組みも行ってきました。
――2020年以降、コロナ禍によってイベントの展開も難しくなっているかと思いますが、今後に向けた仕込みなどもされているのでしょうか?
朝賀さん:実は2年前から、車道上での自転車のレースをやろうと考えていて、2020年の5月に開催予定だったのですが2度延期になってしまいまして、これを何とか2021年の秋ごろにはやりたいと思い、調整しているところです。
井口さん:コロナ禍に関連して、一時的に道路占用制度が緩和されています。それを受け、新虎通りでも新たに5か所の道路占用許可を取りました。今までテラスを出していなかった場所にも、新しくテラス席ができています。
朝賀さん:今は「屋外空間をもっと居心地を良くしていく」ということが港区さんと我々の共通の課題になっていまして、官民の連携をとりながら、例えば「南桜(なんおう)公園」に、オフィスワーカーの方がお仕事できるようなファニチャーを置いたらどうか、といった検討もしているところです。
新虎通りは今後どう変わっていくか
――通りが開通して間もなく6年が経ちますが、その間にどのような変化が見られましたか?
清水さん:街並みについては、完成した当初からあまり変わらず「新しい景観」という印象です。今後変わっていくとすれば、先ほどお話しした、通りに背中を向けているビルの建て替えが中心になっていくと思います。この5年で建て替えられたのは1棟だけですが、ほかにも建て替えの話が出ているので、徐々に変わっていくかと思います。
井口さん:建物を建て替える際には、先ほどお話した「新虎通り景観ガイドライン」に沿って、地元の皆さんと話し合いながら作っていくことになっているので、今後、景観はよりよく変わっていくと思います。
――建物が建て替わると、具体的にどのように景色が変わるのでしょうか?
井口さん:ガイドラインの中に、「通り側にはガラス面をとってください」とか、「1階と2階には店舗等の施設を入れてください」という内容がありますので、まずは、通り沿いに店舗が増えていくと思います。
朝賀さん:新虎通りではこれに加えてなるべく駐車場を集約して、車の出入りを通りに向けないというお願いもしており、これが実現していけば、歩道の分断も少なくなっていきます。
――今後、どのような活性化策に取り組んでいきたいとお考えですか?
山田さん:やはり、コロナ禍もあり単純なにぎわい創出が難しくなっていて、今後は屋外空間の活用を下支えしていくことがエリマネとしては重要だと思いますので、そういった仕掛けを中心に取り組んでいきたいと思っています。先ほどの南桜公園の例もそうですけれども、道路以外の空間に関しても、活用を検討していきたいですね。ただ、それも一朝一夕にできるようなものではないですから、今はまだ、手探りでやっているという感じです。
――新虎通りに関する新着情報は、どこでキャッチできますか?
朝賀さん:エリマネのホームページがありますので、まずはそこで見ていただければと思いますが、イベントを行うときには、イベントごとにSNSを使った情報発信もしています。
「暮らす街」としての新虎通りの魅力、利便性
――生活する環境として、新橋・虎ノ門地区という街にはどのような魅力があると思われますか?
清水さん:虎ノ門って、「ビジネスの街」とか「新しい街」というイメージが強いですけれど、老舗が集まった「芝百年会」があるように実は古いものもかなり残っていて、地域の人に大事にされているので、新旧がミックスされた面白い街だと思います。
ビジネスの街としての落ち着いた側面もあって、一方では、新橋の飲み屋街のような混沌とした状態もあって、その対比が面白いですよね。いろんな軸を求める人にとって、住みやすい場所なんじゃないかな、と思います。
――2020年に日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅ができましたね。新駅の利便性はいかがですか?
井口さん:私は日比谷線のユーザーなので、利便性は感じています。今まで虎ノ門駅や新橋駅から新虎通りまで歩いていましたが、今は新駅から来ることができるのでより便利になりました。
――晴海と虎ノ門を結ぶBRT(バス・ラピッド・トランジット)も2020年から運行を開始しましたね。こちらはいかがですか?
朝賀さん:BRTはやはり、「晴海フラッグ」(オリンピック選手村)に人が住むようになると利用者もどんどん増えてくると思います。本格的に活用されるのはこれからだと思いますが、コースも運行本数も、今後は増えていくようですね。
清水さん:実は私、今日そのBRTに乗ってここまで来たのですが、空いているし、速いし、すごく快適でした。勝どき辺りに住んで、新橋や虎ノ門周辺で働いている人にとっては今でもすごく便利な路線だと思いますので、使ってみていただきたいです。
新虎通り周辺のおすすめスポット
――新虎通り周辺のおすすめのスポットをご紹介いただけますか?
井口さん:私は先ほど話題にもあがった「南桜公園」がおすすめです。春には桜も咲きますし、お昼時には周辺のワーカーの方が休憩したりしていて、素敵な公園です。あと、キーコーヒー本社ビル1階の「KEY’S CAFÉ -CLASSE-」前のテラスもおすすめですね。
清水さん:あそこのテラス席はいいですよね。フリースペースなので、散歩の途中にいつでも休めるし、コーヒーを買って飲んでもいいし。外国の方が座っていたりすると、写真を撮りたいくらい絵になりますよね。
井口さん:通りを散歩するなら、夕方がおすすめです。日が暮れる少し前あたり、新虎通りの照明と夕日があいまってすごくきれいなんですよ。
山田さん:あと、土日あたりはけっこうドラマなんかの撮影もしているので、散歩をしていたら、そんな場面に出くわすことも多いと思います。
――最後に、これから新橋・虎ノ門エリアに暮らしたいという方に向けて、メッセージをお願いします。
朝賀さん:ここは「イノベーションが起きる街」ですので、ぜひ、多様な価値観をお持ちの方々と一緒に街を盛り上げていければと思っています。
清水さん:私も、この街は古いものと新しいものが同居していて、どんどんブラッシュアップしていく街だと思っていて、多分、「一緒に作り上げていく楽しさ」を感じていただけると思うんですね。ですからそういう前向きな気持ちを持った方が住まわれると、より楽しめる街なのかなと思います。
山田さん:都心の利便性と、ちょっと落ち着いた暮らしの両方が感じられるような、「いいとこどり」ができる街だと思っています
井口さん:ここは都心なんですけれども、緑や花が多くあって四季を感じられる街だと思います。沿道の散歩を楽しむにはいい街なんじゃないかなと思っていいます。おいしいお店もたくさんあるので、食べ歩きをしても楽しいと思います。
新虎通りエリアマネジメント
山田耕さん 所属:UR都市機構(独立行政法人都市再生機構)
朝賀繁さん 所属:森ビル株式会社
清水育子さん 所属:公益財団法人東京都道路整備保全公社
井口菜々子さん 所属:UR都市機構
URL:https://shintora-am.jp/
※この情報は2021(令和3)年3月時点のものです。