代表理事/ヨコハマ経済新聞 編集長 杉浦裕樹さんインタビュー

新しいものにオープンで地域資源が豊かな関内/横浜コミュニティデザイン・ラボ(神奈川県)


今回インタビュー取材にご協力いただいた杉浦さん
今回インタビュー取材にご協力いただいた杉浦さん

まちづくりのフィールドなら横浜で。関内を拠点に、都市の豊かな地域資源を発信する事業を展開

――まずは、杉浦様と横浜・関内との関わりについて教えて頂けますでしょうか。

杉浦さん:私自身の出身地は異なりますが、母方の祖母やいとこの家があったため、小さい頃から縁があり横浜を訪れていました。また、私はもともと舞台監督だったのですが、横浜は特にジャズ系の現場などがいっぱいあり、そうした舞台の仕事でよく来る機会がありました。
その後、今の活動を始める直前は、渋谷の「神宮前ドットオルグ」という団体で地域事業に関わっていたのですが、自分でNPOを立ち上げて地域をフィールドとしてやっていくのであれば、横浜がいいと思いました。特にこの関内エリアは、古い歴史があって、ちょっと行けば海もあり、みなとみらいなども近く、古いものと新しいものが存在する街の雰囲気などを含め、この街で活動したいと思ったんです。

「横浜コミュニティデザイン・ラボ」の拠点でもあるシェアオフィス「さくらWORKS<関内>」
「横浜コミュニティデザイン・ラボ」の拠点でもあるシェアオフィス「さくらWORKS<関内>」

現在は、「NPO法人 横浜コミュニティデザイン・ラボ」をこの「さくらWORKS<関内>」に置き、自分自身も関内に住みながら、NPOの活動と、「関内まちづくり振興会」や地元の町内会に参加するなど、さまざまな形で地域に関わっています。
舞台監督の仕事は、舞台に上がる人と、その周りにいろいろな人がいて、関わり合いながらさまざまな調整や段取りなどをして作り上げます。まちづくりも、いろいろな人たちが地域で活躍をするために、さまざまな調整をして、という部分で似たようなところがあるんです。

――「横浜コミュニティデザイン・ラボ」の具体的な事業内容などもご紹介頂けますか?

杉浦さん:横浜の地域をフィールドに「コミュニティデザイン」をキーワードとした非営利のラボ(研究機関)です。2001年くらいから仲間と活動をはじめ、2003年に法人を登記して正式に立ち上げ、現在はこの「さくらWORKS<関内>」と「ことぶき協働スペース」の2か所に拠点を置き25名程の組織になっています。
具体的な事業としては、2004年から続けている横浜都心臨海部のインターネットメディア「ヨコハマ経済新聞」、「LOCAL GOOD YOKOHAMA」というWEBプラットホーム、シェアオフィスの「さくらWORKS」、市民のためのものづくり工房「ファブラボ関内」、発達障がいのある子どもたちの支援拠点「アンブレラ関内」などを運営しています。また、フォーラムやシンポジウムなど学びと連携の場づくりや、横浜市などと協同プロジェクトも行ってきました。

設立から横浜都心部をフィールドに、さまざまなまちづくりを実践している
設立から横浜都心部をフィールドに、さまざまなまちづくりを実践している

設立時がちょうど90年代後半からインターネットが広がり、使う人もかなり増えてきていた時期だったこともあり、僕たちの活動は、まちづくりの中でも、情報コミュニケーション、IT、ICTをひとつの柱としてきました。

「地域資源」というと、いわゆる景観や観光、農業の特産品などももちろんですが、横浜のような「都市型の地域資源」といった場合、図書館や美術館などいろいろな施設があることや、例えば子育てをするお母さんたちのコミュニティや子育て支援団体、地域の人たちが集うコミュニティカフェなど、いろいろな“人の活動”があることも、地域の価値ある資源です。そういったものをもっと多くの人が知って、活用できるようにしていくというのが立ち上げ期からの僕らのミッションです。

“もののはじめ”の街・関内。開港から受け継がれる、オープンでチャレンジ精神旺盛な地域性

――さまざまなプロジェクトや場を通じて街や人と関わっている杉浦さんの視点から、「関内」の街の独自性や魅力とはどのような点でしょうか?

杉浦さん:もともと横浜は、旧東海道沿いは人が住んでいましたが、その下側はほとんど人が住んでいない寒村で、関内周辺は、「大岡川」と「中村川」の2つの川に囲まれた入り江のようになっていて、江戸時代に「吉田新田」の干拓事業として埋め立てられて陸地になった場所です。
その後ペリーがやってきて開国を要求され、江戸幕府が港を作ろうということで、1859年に開港して横浜ができたというわけです。

江戸時代の開港時の「関内」の通称が定着し、現在の駅名にもなっている
江戸時代の開港時の「関内」の通称が定着し、現在の駅名にもなっている

今では関内駅周辺一帯を関内エリアと呼ぶこともありますが、正確には当時外国人居留者との区分のために設けられた関所の門の内側(現在のJR関内駅付近より海側)を「関内」、外側を「関外」と呼びました。関内という住所は無いのですが、その通称が今も残っているんです。

開港以降、新しい人やものが入ることで築かれた、オープンで挑戦的雰囲気が街の魅力
開港以降、新しい人やものが入ることで築かれた、オープンで挑戦的雰囲気が街の魅力

そうして港ができ、鎖国が解けて国が開いて交易の拠点になり、どんどん新しいものや人が入ってきてできたのがこの街です。昔から住んでいるといっても、ほとんどがその時代に外から来た人たち、言っていれば、みんなニューカマー。「3日住めばハマっ子」とも言いますが、そういった意味ではみんな何かにチャレンジしにやって来て、そこで商いや暮らしをはじめた場所なんですよね。関内・関外エリアには、「もののはじめ」の場所がたくさんあります。クリーニング屋、歯医者、新聞、床屋、写真館の発祥地などなど、街中にもその歴史を伝える碑がいろいろな場所にありますよ。

“ものはじめ”の歴史を伝える記念碑が点在 (出典元:横浜市「よこはま中区の歴史を碑もとく絵地図」※クリックして拡大)
“ものはじめ”の歴史を伝える記念碑が点在 (出典元:横浜市「よこはま中区の歴史を碑もとく絵地図」※クリックして拡大)

そういった新しいものが始まったり、交易の要だったということが、よく「はまっこ気質」と言われるように、今の地元愛やシビックプライドとして脈々と続いているのではないかと思いますね。初めから異文化というものが街にあったことで、新しいことやものに対してある種のオープンさが街に根付いていると感じます。僕たちも作るプロセスで市民の方々とワークショップをやったりもしたのですが、10年前に開港150周年に横浜市が定めた新しいシンボルロゴ「OPEN YOKOHAMA」も、そうした街の空気を活かした横浜の未来像を表現しています。

商業も自然もエンターテイメントも。多様な地域資源・都市空間が徒歩・自転車圏で楽しめる街

――暮らしの場としての魅力や、楽しみ方はいかがでしょう?

杉浦さん:ひとつの魅力としては、地域資源が豊かなことですね。買い物、学び、福祉、子育て、いろいろな市民活動があり、また、みなとみらいのメジャーな観光スポットも身近だし、元町中華街や伊勢佐木町をぶらりとしたり、生活の場と観光地が、みんな徒歩圏・自転車圏にある。昼間はある種の景観のエンターテイメントと言いますか、密集した建物ばかりでなく「山下公園」、「野毛山動物園」、「大通り公園」のような、大きな公園や都市空間を楽しめるし、今飲み屋街として人気の野毛エリアなんかも近くて夜は夜で面白い。いろいろなライフステージ、ライフスタイルの人ごとに、豊富な選択肢があります。

オフィスや観光施設だけでなく、自然豊かな公園も共存する都市空間(写真は「大通り公園」)
オフィスや観光施設だけでなく、自然豊かな公園も共存する都市空間(写真は「大通り公園」)

レトロな下町風情が残り“ハシゴ酒”が楽しめる街として、近年賑わいが再燃している野毛エリア
レトロな下町風情が残り“ハシゴ酒”が楽しめる街として、近年賑わいが再燃している野毛エリア

また、この辺りは15~20年近く前から、アーティスト・クリエイターの集積があります。もともと横浜には建築家やデザイナーなどが多く居ましたが、横浜市としても2004年から「文化芸術創造都市(クリエイティブ・シティ)横浜」を掲げて、制作活動をする人たちのサポートや育成をしてきたこともあり、関内・関外エリアにも、アーティスト・クリエイター同士の交流の場や、リノベーションしたおしゃれなバーなど、そうした人たちの好奇心を満たすようなスポットも増えてきています。また、市民との接点を生む仕掛けとして、毎年11月の文化の日周辺に「関内外OPEN!」という多彩なアートを体験して楽しむ街なかフェスを開催(12回目となる2020年はオンラインで開催予定)したりしています。

"過去実施「関内外OPEN!10」の、街中空間を利用した「道路のパークフェス」の様子(写真:ヨコハマ経済新聞より)
"過去実施「関内外OPEN!10」の、街中空間を利用した「道路のパークフェス」の様子(写真:ヨコハマ経済新聞より)

拠点再整備による街の変化にも期待。暮らしを豊かにする「関内リビングラボ」など新たなプロジェクトも始動。

――関内エリアにおける今後のまちづくりについてもお聞かせください。

杉浦さん:横浜市庁舎移転に伴い、「関内」駅前には三菱地所と三井不動産によるツインタワーが建ち、
星野リゾートのホテルが出来たり、近くには関東学院大学の新しいキャンパスも建設されるなど、景観も含めかなり街が変わっていきますね。そうした再開発事業などについては肯定的に期待していますよ。

NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事/ヨコハマ経済新聞 編集長 杉浦 裕樹さん
NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事/ヨコハマ経済新聞 編集長 杉浦 裕樹さん

また、大都市である横浜全体としても、関内の街としても、「人」が大きな地域の資源です。昔から脈々と続くボトムアップのコミュニティ活動などがたくさんあり、いろいろな人が集まって多彩なことを行っています。ただ、必ずしもみんなが街と接点を持っているわけではなく、そうした情報を知る機会がない人たちがいるのも実際です。
僕たち「横浜コミュニティデザイン・ラボ」のミッションでもありますが、街の開発で新しい場や人が増えていく街の変化にも期待しながら、もっともっと接点を増やしたり、知る場をつくる、人がアクションを起こすためのきっかけをつくるための活動を増やしていきたいと思います。

現在発足準備中の「関内リビングラボ」
現在発足準備中の「関内リビングラボ」

また、このウィズコロナ時代に、市民や企業、大学、行政が連携して取り組む、“たすけあいのプラットフォーム”「おたがいハマ」を立ち上げました。さらに、横浜市役所と僕たちNPOが中心となり、現在「関内リビングラボ」というものの発足準備を行っています。(リビングラボ=住民や企業、自治体、大学など様々な主体が協働し、暮らしを豊かにするためのモノやサービスを生み出したり、より良いものにしていくための活動のこと。)2020年中に正式に立ち上げイベントなども企画中です。今後のまちづくりに向けて、新しいプロジェクトもいろいろと動いていますよ!

横浜コミュニティデザイン・ラボ 杉浦裕樹さん
横浜コミュニティデザイン・ラボ 杉浦裕樹さん

NPO法人 横浜コミュニティデザイン・ラボ

代表理事/ヨコハマ経済新聞 編集長 杉浦 裕樹さん
所在地:神奈川県横浜市中区相生町3-61 泰生ビル2階
電話番号:045-664-9009
URL:https://yokohamalab.jp/
※この情報は2020(令和2)年10月時点のものです。