新しきを取り入れ、古き良き教えを尊重する。幼稚園から高等学校まで一貫した教育/日出学園(千葉県)
市川市の北部、菅野駅と市川真間駅の周辺は、かつて下総国国府が置かれ、さらに前には万葉集にもその存在が触れられているという、歴史の深い土地である。この地に今からおよそ85年前、菅野地区の有志の力で誕生した「日出学園」は、最初は幼稚園と小学校から始まり、のちに高等学校までを擁する学園へと成長し、世に多くの卒業生を輩出してきた。
この学園が大きな変化に呑まれたのは、今から10年余り前のこと、外環道が学園敷地の直下を通るため、着工にともなう移転を余儀なくされた。しかし幸いに、移転先はすぐ目と鼻の先の、同じ菅野地区内に見つけられたという。
80年余りもの間、地域の見守りに支えられ、伝統の「寺子屋」風教育を実践し続けている「日出学園」。今回はこのうち「日出学園小学校」にスポットを当て、小学校に多くの卒業生を送り出している幼稚園とともに、それぞれの魅力と特徴を聞いた。
――まず、「日出学園」の歴史と沿革を教えてください。
平山校長:「日出学園」は1934(昭和9)年に創立した学園で、当初は「幼稚園と小学校の一環教育校」として創立しました。その後、終戦後の1947(昭和22)年に中学校、1950(昭和25)年に高等学校を新設し、現在に至っております。 幼稚園と小学校については、「なおく、あかるく、むつまじく」(※「なおく」とは、正しいこと正しくないこと、善いこと悪いことが判断できること)という校訓がありまして、中学校・高等学校については「誠・明・和」を校訓として、厳しくも愛情あふれる教育により、心身ともに健全な生徒の育成を目指しております。
もともとは菅野駅のすぐ近くにあった学園ですが、2008(平成20)年に、外環道の工事の関係で現在の場所に移転してきました。 創設にあたっては、もともとこの菅野地区の有志の人たちが、「世にいきいきと貢献できる人材を輩出しよう」という精神をもって、資金を集め、学校を造ってくださったということでして、「寺子屋のように、少人数で丁寧に育てていこう」ということが、建学の精神として今まで続いております。
――小学校では何名の子どもたちが学んでいるのでしょうか。
平山校長:各学年102名、全学年合わせて20クラス編成としています。1年生と2年生が4クラス、3年生以上は3クラスという内訳です。特に1、2年生については、1クラス25から26名という、少人数になっています。 このような少人数だからこそ、ひとりひとりを大事にした、きめ細かな指導ができるわけで、これが学園のいちばんの特徴になっております。子どもたちや教員が、お互いをよく知っていますので、アットホームな雰囲気の中で、のびのびと学園生活を送っている、という学校です。
――新しく広々とした校舎も魅力的ですね。小学校の建物の特徴を教えてください。
平山校長:まず、1,2年生の教室がとても広々としていることが特徴ですね。もともと、普通の小学校の1.5倍くらいの広さがある教室なのですが、クラスの人数が少ないですから、ほんとうに広々としていて、のびのびと過ごすことができます。中でも、1年生の教室は1階にありますけれども、教室から直接外に出られるようになっていて、外で気軽に遊べるような造りになっています。
また、各学年の教室の前には「コモンスペース」という、廊下に広い空間がありますので、この場所を活用して学年での集会もできるようになっています。私どもは「ウッドデッキ」と呼んでいますが、学年帯ごとに遊び場がありますので、上の階の子どもたちも、休み時間に下まで降りず、気軽に遊べるようになっています。特に5、6年生用の屋上のデッキは、高いフェンスがあるのでドッジボールなどもできまして、子ども目線に立った素晴らしい建物だなあ、ということを日々感じています。
内装についても、外から見るとコンクリートの建物に見えますけれども、中は木を中心に使っていますので、あたたかみのある雰囲気の中で、のびのびと過ごすことができるかと思います。
――幼稚園から入って、内部進学する子が多いのでしょうか?
鍜治園長:幼稚園は1学年35人ですので、7割から8割のお子さんが小学校に内部進学をされますが、割合としては小学校から入る子のほうが多いですね。
――学校全体として、授業ではどのようなことを心掛けていますか?
平山校長:まず一つには、「自分が発する言葉を大事にする」ということを大事にしております。論理的な思考力をつけるために、1年生から、「相手にわかるように説明する」ということは、どの教科の授業でも大事にしていますし、6年生になると小論文も書くことになりますから、その小論文の授業まで、発達段階に応じた論理的思考力を育む指導を行っています。これは日常的でも同じですね。人と会話をする時に、「単語で話す」ということは避けさせています。 また、すべての学習の基礎である、「読む、書く、計算する」という力も重視していまして、「かんじくん」「けいさんくん」といった独自の教材を作って利用していますし、補習なども必要に応じて、随時行っています。
とにかく、「わかる」ということが授業のいちばん大事なことですから、基礎をしっかりと固めて、応用力につながる学力の養成を図っているということです。
「あるものを工夫して、より良いものに磨き上げる」ICT活用の推進
――ICTの利活用に関しても、かなり先進的な取り組みをされているそうですね。
田中先生:そうですね、ICTの活用もかなり進めておりまして、今回のコロナ禍の中でも、休校になって間もない4月から、動画の配信をしましたし、アプリで課題を送り提出をする、という活用をしてきました。
新型コロナウィルスの感染拡大により、急に動画配信を行うこととなりまして、保護者の方々には大変ご協力をいただきました。何でも新しいものを導入すればいいというわけではありません。読み、書き、計算を大切にしながら、ICTを授業に織り交ぜております。
――ICTを授業の中で取り入れている、具体的な例があれば教えてください。
田中先生:昨年度は総合的な活動の一環で、6年生でオリンピック・パラリンピックの学習をしましたが、4年生に対して、ICTを使ったプレゼンテーションをしました。さらにそれを、4年生が評価をして、6年生にフィードバックをする、ということもしました。こういったやりとりで、6年生にも4年生にも、本当にいい影響があったと思うんですが、なにより、ICTを使うと、子どもたちがすごく目を輝かせて取り組むんですね。
普通の教授型の授業だと、どうしても「やらなきゃいけないな」という感覚があると思うんですが、ICTを使って「4年生に興味を持たせるにはどうすればいいんだろう」と考えるようになると、子どもたちの思考も変わってくるんですね。 そうすると自発的に、「あ、こういうふうにしたほうがいいんじゃないか」という風に議論が生まれていって、教師は本当にファシリテーターに徹することができるんです。
さらに、終わった後に結果が返ってきますから、「自分たちが意識していたところを、ちゃんと評価されてうれしい」という収穫も得られて、それがまた次のプレゼンテーションに生かされていくわけですね。
子ども達からも大人気、一生の思い出となる行事や校外学習
――行事や校外学習などの機会も多いそうですね。どのようなものがありますか?
平山校長:今年はコロナ禍でできていませんが、例年とくに盛り上がっているのは、春の運動会と、秋の学園祭で学園の2大行事です。春の運動会では、高学年の鼓笛がとても素晴らしいですね。 秋の学園祭は、幼稚園から高校まで、全学年で「ひので祭」という学園祭をやっておりまして、この時には保護者や同窓会も入ってきますし、父の会とか、サポートをしてくださる方も、私たち教員も参加しますので、年に一度の大きな行事になっています。
その中で小学校は、2日間の日程のうち1日目を「学芸会」としております。各学年の劇、合奏、合唱、そういったものを披露したり、合唱クラブやダンスクラブ、吹奏楽クラブなど、クラブ活動の発表もありますし、大人たちのコーラス部の発表もあります。 2日目は展示が中心になりまして、子どもたちの今までの作品を展示して、来場者の方に見ていただいています。大きな行事というと、この運動会と学園祭ですが、どちらも終わった後には、「やったあ」という充実感とか、自己優位感が味わえるかと思います。
――校外学習についてはいかがですか?
平山校長:本校は宿泊行事が非常に多い学校で、すべて含めるとだいたい丸1か月くらいは集団生活が体験できるようになっています。 本校には軽井沢に「日出山荘」という山荘がありますから、そちらに行ってキャンプをしたり、飯盒炊飯をしたり、といった活動をしています。この時には3、4年生が一緒に行きますので、協力して活動しています。このほか、「自然教室」というもので、それぞれ4年生で「館山」5年生で「那須」6年生で「日光」へと、2泊3日で行っています。このほかにも希望者だけの宿泊学習というのもありまして、それは、田中先生から話してもらいます。
田中先生:ひとつは、臨海学校です。これは毎年夏休みに、5、6年生から希望者を募って行っているものでして、千葉県の岩井海岸に行って、日出学園の卒業生の有志団体の方から、「神伝流」という古式泳法を教えてもらっています。
この時には、まったく泳げないような子も希望があれば連れていくんですが、そういった子もしっかり鍛えられて、泳げるようになって帰ってくるんですね。できる子は大人と一緒に、海を1時間半も泳ぐという遠泳に挑戦しています。日が合っていれば花火大会が見られたり、夜には、お楽しみ会があったり、みんなすごくいい思い出を作って帰ってきますね。真っ黒になって(笑)。これは毎回3泊4日の日程で行っていまして、毎年70名から80名ほどの参加者があります。
あともうひとつは、スキー合宿も行っています。これは春休みに入ってから、4年生と5年生で長野県の黒姫高原に行っていますけれども、4泊5日という日程で、こちらも人気が高いですね。
自由保育を活かしたオーダーメイドのカリキュラム
――幼稚園からの内部進学生も多いということでしたので、続いては、幼稚園についてお聞きしたいと思います。まず、園の概要をお聞かせください。
鍜治園長:幼稚園は現在3学年合わせて100名程度で、ひとクラス18名から19名という、こちらも小学校と同様に、少人数でやっています。3歳か4歳で入っていただいて、入園時はお試験もしているんですが、その際にはまず親子関係の良さや安定感ということをよく見ています。
入園後についても、3歳、4歳については、親から離れて安定して過ごせるようになって、先生と楽しく過ごせるようになってから、幼小連携のカリキュラムを意識し組み入れるようにしています。 ただ、基本的には、3年間を通して、「のびのび遊ぶ、いっぱい遊ぶ」ということが大事だと思っていますので、遊びの時間はとっても多いですね。5歳の年長になってからは、小学校の受験を考える子も出てきますので、そのための対策などもしています。
ほかの幼稚園と比べると、一斉の場面でも、別々のことをやっているということがよくあって、それが日出の特徴かなと思います。いわゆる「自由保育」の形ですね。 自由保育のいいところは、ひとりひとりのお子さんに対して、オーダーメイドのカリキュラムを作れるという点ですので、「寺子屋」のように、ひとりひとりにあった活動を担任が考えて、小学校に行ったら楽しく過ごせるように、ということを心がけています。
――園舎は平屋で広い園庭があり、贅沢な造りですね。
鍜治園長:そうですね。幼稚園も小学校と同じで、建て替えて10年ちょっとなんですけれども、平屋で、木をたっぷり使っていて、保育室も広めに作ってあります。園庭も、この辺りのほかの園と比べたらかなり広いと思います。しかも、この園庭が全部砂地なんです。
――全部が砂の園庭は珍しいですね!
鍜治園長:これは昭和9年の時からずっと伝統で続いているもので、転んでもけがをしないですし、ダイナミックに掘ったり作ったりできるので、普通の砂場ではできないダイナミックな活動を、お友達と協力しながらできるんですね。穴を掘るっていうのがすごく楽しい年代なので(笑)。
それから、「何もないところでも楽しく遊べるようになってほしい」という願いもあって、敢えて、固定遊具を多くは置いていないんです。わざと不便にして、子どもたちが考えられるように、ということで作られているんですね。 細かいところでは、トイレに和式を用意していたり、お水を出したり閉めたりというのも、ひねる蛇口で自分の力で調節するようにしていたり、大きくなってから困らないように、「古いものもわざと残している」という部分も多いです。園庭には井戸もあるんですよ。
――希望者が受けられる、課外教室もあるそうですね
鍜治園長:体操などの運動系のものから、学習系のものまで、講師は外部から来てもらっています。 このほかに、幼稚園主催の全員参加の課外教室もあって、「わくドキくらぶ」と言っていますけれども、太鼓、日本舞踊、茶道、合気道など、和のお稽古をいろいろとやっています。「わくドキくらぶ」の講師の中には、日出の卒業生もいらっしゃいます。
――小学校と幼稚園で、交流する機会も多いのでしょうか?
鍜治園長:小学校との交流では、いろいろな行事の前に招待状を持ってきてもらって、そこに見にいったりしていますし、定期的に、5、6年生のクラスとお弁当を一緒に頂くという活動もしています。それから、先生のお力を借りるということもありまして、小学校に行って、音楽、図工、理科などの体験授業をする、という活動もやっています。
平山校長:年長さんと5年生のお弁当交流、という話についてですが、これは、その年長さんが小学校1年になった時に、6年生でまたペア学年になりますから、そこでまたお世話できる、ということでそうしているんですね。
――小学校と日出中高の交流・連携についてはいかがですか?
田中先生:同じように、小学校から中高にお弁当を食べに行くということもありますし、クラブ体験会といって、中高のクラブを体験できる機会もあります。本当に、「日出学園」ということで、幼・小・中・高とやっていますので、その中で、家庭的な雰囲気を作っていく、ということを大切にしているんですね。 よく中高の教員などは、生徒に「ここは第二の家だからな」って言っているんですが、本当にそのような感じなんですよ。もちろん、途中でほかの学校に出ていく子もいますけれども、本当に「古巣」という感覚はみんな持っていますね。
――小学校と地域の方との交流について教えてください。
平山校長:ひとつは、「菅野」というこの地区は、「黒松」が有名なんですね。昔の防風林の名残がかなり残っているんです。その黒松が外環道の工事でだいぶ抜かれてしまったのですが、2003(平成15)年から、昔の景観を取り戻そうということで、菅野地区の人と小学校の子どもたちが連携をしまして、松の苗の植樹活動をいたしました。今ではすっかり大きくなり、外環の側道や菅野駅北口公園に植樹されています。
田中先生:あと、江戸川の花火大会もそうですね。この時には毎年地域の方々に声をかけて、校舎の屋上から見てもらえるような企画もしています。ちょうどきれいに見られる、いい場所なんですよ。
――最後に、地域の魅力と、おすすめのスポットを教えてください!
平山校長:私はもう40年くらいここに居ますので、市川を「第2の故郷」と思っているんですが、本当に、市川のことは大好きです。その中で一つご紹介したいのは、桜の時期のお散歩コースですね。
まず、学園の北も通っている「真間川」に、「真間の桜土手」というのがありますので、その土手を通っていって、北に行くと須和田公園の桜が見られます。また「芳澤ガーデンギャラリー」という、お庭の大変素晴らしい美術館がありますので、そこでお庭を拝見するのもいいですね。それから「手児奈(てこな)霊堂」という、万葉集の中に手児奈姫にまつわるお堂に寄って、「真間山弘法寺(ぐほうじ)」の階段を上がります。 弘法寺は大変大きなお寺で、樹齢400年以上の「伏姫桜」という桜がありますので、これは是非見ていただきたいです。
そこから裏に行けば「千葉商科大」があって、そこの桜も素晴らしいです。スポーツセンターに抜けていく道が特にきれいですね。スポーツセンターからは、国府台の道路を渡って「里見公園」桜の名所の公園に行ってゴールと。春限定になりますけれども、とっておきのコースです。
――想像するだけでもワクワクする散歩コースですね。子育てや生活の環境としてはいかがですか?
平山校長:ひとつは、「安全な街」だということですね。治安もそうですが、防災の面でも安心感があります。市内には「大洲防災公園」という、たいへん広い公園もありますし、公園というのはそもそも、防災のためという意味合いもありますから、あちこちに大きな公園がある市川は、災害の時にも安心できる、安全な街だと思います。
――田中先生、鍜治園長はいかがですか?
田中先生:この辺りは都内と違って、ちょっと足を伸ばせば山があったり、川があったり、公園や動植物園があったりしますし、買い物に行こうと思えばすぐ隣が東京ですし、何をするにも手が届きやすい街なのかな、と思います。もちろん交通の便はすごくいいですね。電車の便はもちろんですが、車があれば、大型のショッピングセンターなどもあちこちにあるので、家族で出かけるにも便利なところだと思います。
鍜治園長:地元が大好き、という方が多いところですよね。「市川が大好き」とか、「日出が大好き」と言ってくださる方がすごく多くいらっしゃって、いつも嬉しいなって思っています。 幼稚園の子どもたちを見ていても、すごく穏やかで、おっとりとしたお子さんが多いんですけれども、これはやっぱりご家庭でお子様を大事に育てているからだと思うんです。そういった愛情にあふれた、教育にご熱心なご家庭が多い地域なのかな、と思っています。
ひとりひとりを丁寧に見て、生きる力を与えていく
――最後に、日出学園を志望されている方に向けて、メッセージをお願いします。
平山校長:日出学園では「不易と流行」という言葉をよく使っていますが、この「不易」というのは、最初に申し上げた建学の精神の部分、「少人数で、寺子屋のように、ひとりひとりを丁寧に見て、生きる力を与えていく」という部分です。ここは今後も変わらない、絶対に譲れないという部分になります。
一方で、世の中は絶えず変わっていきますので、「流行」という部分も大事にしていまして、たとえばICT、英語、プログラミングといった、新しいものは積極的に取り入れていきます。ただ、それがメインになるのではなく、そういったものを「ツール」として自分の中に取り入れて、世の中に出た時に自分らしい生き方ができるということが大事だと考えています。
歴史の古い学園ですので、中身も旧来のままで堅苦しいのではといった憶測を持たれる方もいらっしゃるようですが、全然そんなことはありません。時代に合わせて、いろいろな変革をしてきていますし、共働きのご家庭でもサポートできる体制を整えています。 ですので「敷居が高い」というイメージは捨てていただいて、一度、学園の雰囲気を見にいらしていただければ幸いです。
日出学園小学校
左から、日出学園小学校入試広報部長 田中秀明さん
日出学園小学校 校長 平山淳子さん
日出学園幼稚園 園長 鍜治礼子さん
所在地 :千葉県市川市菅野3-23-1
電話番号:047-323-3000
URL:http://www.hinode.ed.jp/
※この情報は2020(令和2)年9月時点のものです。
新しきを取り入れ、古き良き教えを尊重する。幼稚園から高等学校まで一貫した教育/日出学園(千葉県)
所在地:千葉県市川市菅野3-23-1
電話番号:047-323-3000(学園業務部)
https://www.hinode.ed.jp/