昭島の小学校跡に完成した、新たな教育文化拠点/アキシマエンシス(東京都)
2020(令和2)年3月、JR青梅線「昭島」駅と「中神」駅のちょうど中ほどの線路沿い北側、かつて「つつじが丘南小学校」だった場所に完成した「アキシマエンシス」。この施設は旧来の建物を改装した「校舎棟」の部分と、校庭だった場所に建てた「新築棟」に分かれている、昭島市の教育・文化・福祉の拠点機能を詰め込んだ次世代型の公共施設である。
特に、電車の車内からも見える新築棟は各方面で話題を集めており、ガラス張りになったエントランスホールには昭島市のシンボル「アキシマクジラ」の全身骨格が浮いている。夜間にはライトアップされるので「何ができたのだろう?」と気になっている人も多いはずだ。
今回はこの新たな「知の拠点」の見どころとおすすめの利用法について、市教育委員会の磯村義人さんと伊藤雅彦さん、施設の指定管理者であり図書館館長を務める小田龍文さんの3名の方に同席いただき、話を伺った。
――まず、「アキシマエンシス」の概要について教えてください。
磯村さん:この「アキシマエンシス」という施設についてですが、2012(平成24)年に「昭島市社会教育複合施設建設計画基本方針」というものが策定されまして、「つなぐ、広がる、見つける、育(はぐく)む知の拠点」をコンセプトに、昭島市の昭和町1丁目、ここから見て、線路を挟んだ反対側辺りに、旧庁舎の跡地がありましたので、そちらに建設をするという計画で始まりました。
その後、2014(平成26)年の6月に、建設場所を現在の「つつじが丘の南小学校跡地」に変更することが決まり、その際同時に、児童発達支援担当と福祉関連施設も敷地内に整備することといたしましたので、名称が「(仮称)教育福祉総合センター」ということに変更されまして、建築計画がスタートしました。基本設計の段階では、市民ワークショップを3回、子どもワークショップを1回開きまして、市民の皆さんのいろいろな考え方をお聞きして、基本設計に反映しています。
工事自体は2017(平成29)年10月の着工、2020(令和2)年2月20日の竣工でして、3月28日に開館いたしましたが、市民図書館と郷土資料室の部分については、開館と同時に新型コロナの関係で休館になりまして、2020(令和2)年6月9日に改めて開館した、という次第です。
――特に図書館がある新棟は、デザインも内装も非常に凝っていますね。施設の配置や、ハード部分の特徴を教えてください。
磯村さん:この、図書館と郷土資料室が入っている部分は「新築棟」または「国際交流教養文化棟」と言っていまして、図書館と郷土資料室のほか、子どもの一時預かり室、ライブラリーカフェなどが入っています。
また、新築等以外の部分は、ここは学校の跡地ですから、そのまま校舎を生かした作りになっていまして、校舎棟のほうには教育センター、児童発達支援担当、子育て広場、男女共同参画センター、郷土資料展示室等が入っています。会議室、音楽室、理科・家庭科室、体育館については、貸室として、さまざまな活動に使っていただけるようになっています。
体育館に関しては、移動式の客席を設置していますので、普段は体育館として使いながら、204席を展開することができますので、ホール的な活用もできるようになっております。あと、地域の方々に親しまれてきた学校なので、校門や一部の樹木をそのまま残しているのも、特徴かなと思います。
――基本的には、これまで市内各地に点在していた公共施設を集めて新築した、という位置づけですか?
磯村さん:そうですね。図書館は移転して大きくなり、郷土資料室は当初の建設予定地にありましたが、こちらに移って、よりインタラクティブな、ICT(情報通信技術)を活用した展示内容になりました。ほかも同様で、これまであったものが、ただ集まっただけではなく、刷新されたという感じですね。
――ほかの公共施設と比較して、「アキシマエンシス」ならではの特徴は何でしょうか?
磯村さん:「ここならでは」ということですと、「ML連携」でしょうか。郷土資料室(ミュージアム)と図書館(ライブラリ)が連携しておりますので、図書館のスペースにも郷土資料の展示をしていたり、両方が融合したような形で展示ができているという部分が、大きな特徴になっています。
あと、システムの自動化ですね。貸出、返却、席や部屋の予約はほぼすべて、自動化しています。図書の予約や、これまでに借りた図書の名前を、通帳のようなものに記帳するような仕組みもあります。返却が24時間、ポストの投函できる点も便利だと思いますし、投函された書籍を回収する設備にも、かなり力を入れてありますので、十分な回収能力があります。
この自動化で何が良いかと言えば、ひとつは職員の省力化、合理化という部分ですけれども、それ以上に、借りる方の立場として、「誰にも知られずに借りられる」ということが大きいと思うんですね。今まで借りられなかったような本が、ぐっと借りやすくなった、これは非常に大きな変更だと、私どもとしては思っております。
――エントランスの「アキシマクジラ」が印象的ですね。この施設とクジラの関連について教えてください。
伊藤さん:そもそも「アキシマクジラ」というのは、今から58年前に、多摩川の河川敷で、体長13.5mのクジラの化石がほぼ9割方見つかった、ということがあって、それが世界でもまれな事例でしたので、それ以来、昭島のシンボルであり、市民の自慢になっているものですが、これが今から3年ほど前に、新種のクジラであったということが判明したんですね。
その時、アキシマクジラに「エスクリクティウス アキシマエンシス」という学名が付きまして、当然、この施設を建てるにあたって名称の市民公募をしたわけですが、その結果、施設の名前がアキシマクジラの学名である、「アキシマエンシス」に決まった、というわけです。
――現在の図書館、郷土資料室の利用者層について教えてください。
小田さん:以前と比べて特に増えたのは、学生さんの利用です。理由としてはやはり、学習席ですとか、子どもたちが集まって、話しながら勉強や調べものができるような場所が増えたということがあると思います。毎日、本当に夕方の閉館ぎりぎりまで、みなさん勉強されている姿を見ますね。
休日についてはちょっと来館者層が変わってきまして、親子連れの利用者さんがかなり多くいらっしゃっています。従来だと「お母さま+お子様」という感じが多かったのですが、新しい図書館になってからは、ご家族全員で来られる方が増えたと思います。そういった意味では、今までの利用者層とは違った層の方が、たくさん来館されているな、ということは日々感じています。
――市外に住んでいても利用できますか?
小田さん:入館については制限がないので、どなたでも入っていただけます。図書の貸し出しについては、市内在住、在学、在勤の方と、近隣の相互利用提携を結んでいる自治体、具体的には立川市、福生市、あきる野市、武蔵村山市の市民の方のみとなります。
――おすすめの利用方法があればご紹介ください。
伊藤さん:館内でも、キャップ付きであれば飲み物を飲んでいただけるので、自分が持ってきた飲み物を片手に、外にはテラス席もありますから、そういったところに座って、お気に入りの本をめくっていただくのもいいのかな、と思います。
あと、ここは比較的にぎわいのある図書館なので、親子で一緒に楽しみやすい雰囲気がありますし、お子さんが郷土資料室を見ている間、お母さんたちは本を読んでいたり、そういった利用もできるかと思います。
小田さん:学習席についても、個人で区切られている席のほかに、グループで議論できる席もあるので、いろんな方に、いろんな使い方で使っていただければ、図書館としては非常にありがたいな、と思っています。
――広くて快適で、一日過ごしても飽きることがなさそうな施設ですね!
磯村さん:そう言っていただけると嬉しいです。ここを設計した当初から、一日ここに居ていただけるようにということで設計をしていますので、座席も多彩に用意していますし、快適に過ごしていただくための工夫を、いろんなところにしています。
カフェでお昼も食べられますけれど、このカフェのサンドイッチ屋さんが、すごくおいしいんですよ。渋谷にある「アンペア」というサンドイッチ屋さんに入っていただいています。
――電子書籍での図書サービスもあるそうですね。
磯村さん:そうですね。今は新型コロナの関係で外出を控えられている方も多いと思いますが、電子書籍なら、一度登録をしていただければ、自宅から閲覧することができますので、活用していただければと思います。現在は1000冊あまりですが、年度内には5000冊を超える数をご提供できると思います。
――小さなお子さんに向けての配慮があれば教えてください。
小田さん:図書館の一番奥には児童コーナーがありますし、基本的に館内もにぎやかな感じですから、親子で本を選びあっていただけるような雰囲気は、もともとある館なのかな、と思います。もちろん、授乳室やおむつ交換台もありますし、ベビーカーの置き場も確保しておりますので、是非、お子さんと一緒に来られて、ゆっくり本を選んでいただければと思います。
伊藤さん:あと、今はまだやっていませんが、子どもの一時預かりも始める予定です。1時間までですが、有資格者がいて、図書館の中で預かってくれるというサービスですね。
――図書館と自由に行き来できる「郷土資料室」について、展示内容と特徴を教えてください。
伊藤さん:郷土資料室に関しては、コンセプトとしてはまず、お子様を対象にした施設になっています。なので、見るだけではなく、触ってそれが成果として見えるようなものを多く取り入れていて、画面をタッチしていくと、昭島のことが詳しくわかるようなモニターであったり、画面上で化石探しをして、ある化石を見つけると動画が始まったり、いろんな仕掛けをしてあります。お母さんが「早く帰ろう」って言っても、なかなか帰らないような子もたくさんいますね。
あとは、極力レプリカを置かないようにしています。土器や化石の展示についても、基本的に本物を置いてあります。
――クジラ以外には、どんな化石が展示されているのでしょうか?
伊藤さん:昭島は200万年前くらいには半分が海、半分が陸地という場所でしたから、アキシマクジラが出ている一方で、「アケボノゾウ」という象の化石や、シカの仲間の角の部分も出ていたりするんですね。ですので、そういった化石についても、もちろん本物を展示しています。
――本物を目の前で見られるのは素晴らしいですね。発掘体験などのイベントも予定されていますか?
伊藤さん:以前は小中学生を対象に「化石採集教室」という形でやっていたので、今年はまだコロナの影響でできていませんけれど、冬ぐらいになって多摩川の水位が下がったら、やってみたいな、と思っています。
――今後計画しているイベントや、将来的な展開について教えてください。
磯村さん:イベントについては、新型コロナの関係もありまして、今のところ何も決まっていないという状況です。これが収束した際には、まだできていない開館記念式典も含めて、なにかしら大きなイベントを実施したいと思っていますし、もちろん、それ以外にも多くの企画を考えていきたいと思います。今後、ホームページや広報などにも公開していきますので、そちらをチェックしていただければと思います。
――昭島市の生活環境や教育環境について、魅力を教えてください。
伊藤さん:私は生まれも育ちもここですが、昭島の一番の魅力は「水」ですね。北が玉川上水、南が多摩川ということで、非常にきれいな水に囲まれているうえに、200mほど地下には、秩父山系と丹沢山系から来た地下水がありまして、これを水道水にしているんです。汲んでから出すまで、約5時間と言われています。
市ではよく「水道からミネラルウォーターが出る」って言い方をしていますけれど、まさにそんな感じです。地下水は水温が年中変わらないので、夏は冷たくて、冬はあったかいんですよ。
もちろん交通も便利です。新宿まで40分くらい、東京でも1時間くらいですし。水が美味しくて、緑の多い住環境があって、通勤もよし、という市です。
磯村さん:私からは、市立会館(=公民館)をご紹介したいですね。昭島は小さな市なんですけれども、市立会館が11館あって、それぞれに自習室もありますので、そこで自由に学習をしていただくことができます。ほぼ徒歩圏内に会館がある形ですので、学習環境にはかなり恵まれている市だと思います。
交通に関しては、市内に駅が5駅あるというのも珍しいと思います。西の端の「拝島」駅では、西武線と八高線に接続していますし、バス停くらいの感じで駅があるので、どこに住んでも使いやすいと思います。
――街の変化について、特に地元っ子の伊藤さんから、印象をお聞かせいただけますか?
伊藤さん:まず昭島という街の歴史についてお話をさせていただくと、まず、明治大正のころに奥多摩街道の周りの、水を得やすいところに家ができて、そこから新田開墾が進んできたことによって、この辺り(市域の北エリア)には桑畑が広がっていたそうです。明治時代には製糸工場もあったそうです。
それから、戦争が始まる前くらいの段階で立川に陸軍の基地ができて、そこが一杯になったから今度は「横田飛行場」を作ることになって、これらを結ぶ青梅線が通ったんですね。
電車が通れば駅の周りに人が住む環境ができるので、線路の南に昭島の町ができたわけですけれども、要は戦前の昭島は、基地に挟まれたような街だったんですね。線路の北側には、基地と基地関連施設しかなかった、という場所でした。
これが、終戦を迎えて米軍に接収されまして、のちに立川基地が返還されて「昭和記念公園」や「立川ファーレ」などになったわけですが、昭島についても、「昭島」駅の北口に昭和飛行機の工場と基地がありましたので、その土地が返還された昭和40年代以降、昭和飛行機が昭島市民のためにいろいろな道を提供してくれたり、さまざまな施設を作ってくれたりして、今のような街になっています。私としては、昔は一切立ち入れなかった場所が、ずいぶんと変化をしたなあ、というのが、正直な感想ですね。
あと、これから開発が進む部分に関しては、東中神の線路北の地区です。これも立川基地の跡地の一部ですが、ここの広大な土地をこれから再開発して、いろいろな商業施設や、住環境を整えていくという計画がありますので、ここが今後大きく変わっていく場所かと思っていて、私もワクワクしながら見ています。
――最後に、これから昭島に住む方に向けて、それぞれメッセージをお願いします。
磯村さん:昭島は都心からも遠くなく、住環境、学習環境、すべてがそろった市だと思いますので、ぜひ住んでいただいて、この「アキシマエンシス」にもお越しいただいて、多くの方に昭島の良さを実感していただければと思っております。
小田さん:私どもが目標にしているのは、「アキシマエンシスがあるので、昭島に住み始めた」とか、「アキシマエンシスがあるから、ずっと住み続けたい」という風に言っていただけることなので、この施設を中心に、人々が集まって、にぎわいを創出していただいて、昭島に住み続けるためのモチベーションになっていければ、私どもとしては本望だと思っております。
伊藤さん:私はやっぱり「水道の蛇口からミネラルウォーターが出る」ってところをアピールしたいですね。これは本当にすごいことだと思うんです。お子さんを育てるうえでも、自分たちの健康のためにも。あと、歴史と緑が豊かなところなので、それを継承しながら、住みたい、住み続けたい、生業を続けたいと思っていただける市にしたいと考えています。
今回お話を聞いた人
左 昭島市教育委員会生涯学習部 社会教育課長 伊藤雅彦さん
中 株式会社図書流通センター 昭島市民図書館・郷土資料室館長 小田龍文さん
右 昭島市教育委員会事務局生涯学習部 市民図書館管理課長 磯村義人さん
アキシマエンシス
所在地:東京都昭島市つつじが丘3-3-15
電話番号:042-543-1523
URL:https://www.akishimaensis.jp/
※この情報は2020(令和2)年7月時点のものです。
アキシマエンシス
昭島の小学校跡に完成した、新たな教育文化拠点/アキシマエンシス(東京都)
所在地:東京都昭島市つつじが丘3-3-15
電話番号:042-543-1523(FAX:042-542-8002)
■図書館・郷土資料室・ライブラリーカフェ(国際交流教養文化棟)
開館時間:10:00~20:00(土・日曜日、祝日~18:00)
休館日:月曜日(休日の場合は次の平日)、年末年始、特別整理期間
■シアター、講習・研修室(国際交流教養文化棟)
開館時間:9:00~22:00
休館日:年末年始
■体育館、校舎棟会議室等
開館時間:9:00~21:00
休館日:年末年始
https://www.akishimaensis.jp/