町田市と東急電鉄が官民連携で取り組む「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」/町田市役所都市づくり部都市政策課 辻野真貴子さん(左)・杉田恵さん(右)
東急田園都市線「南町田」駅の南側には、かつて「グランベリーモール」が広がり、町田エリアを代表する郊外型ショッピング施設となっていた。しかし、この施設は2017(平成29)年2月に一旦閉鎖され、その後3年をかけて大規模な建て替えを行うことが発表された。
この大規模なリニューアルが目標としているのは、「新しい暮らしの拠点づくり」。プロジェクト全体を「南町田拠点創出まちづくり」と銘打ち、町田市と東急電鉄が共同事業者となって事業を行うという、全国的にも珍しい手法を取っている。従来と変わるのはショッピングゾーンだけではない。駅や公園など、エリア内のあらゆる点が改良され、さらに魅力ある街へと変貌するという。
南町田はこれから、どのように変わっていくのか。今回は町田市で事業を担当する辻野真貴子さん、杉田恵さんにお話を伺った。
官民が連携して行う「新しい暮らしの拠点」づくり
――プロジェクトの経緯を教えてください。
「南町田」駅周辺では東急田園都市線の開通とともに街が誕生し、2000(平成12)年に「グランベリーモール」がオープンしました。当初から、このモールは10年程度の暫定的な施設として作られていたため、東急電鉄と町田市ではオープンから10年が経過した2010(平成22)年頃から、今後の方針について検討してきました。
「グランベリーモール」に隣接して「鶴間公園」があり、その先には境川が流れています。近年「南町田」駅の周辺では、国道16号の立体化工事が完了して慢性的な渋滞が改善され、「南町田」駅北口で駅前広場の整備が行われるなど、都市施設が充実してきました。一方で、南口と北口のアクセスが貧弱であることなど、まだまだ課題も残っています。そこで、今回の事業では単にショッピング施設をリニューアルするだけでなく、東急電鉄と町田市が協定を結び、「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」として、総合的にまちづくりを行うことになりました。
大きなコンセプトとしては「新しい暮らしの拠点を作る」ということを掲げています。これからは人口減少社会になりますから、「より暮らしやすい場所を選んで住む」ということがトレンドになっていくと思います。そういった流れの中で、南町田という街を選んでもらうためには、行政として、または鉄道事業者として、何を仕掛けていく必要があるのだろう、ということが、この開発の根本になっています。今回の事業は、「この場所があるから住もう」と思ってくれるような、魅力的な暮らしの拠点を作るという開発です。幸いにも、南町田には商業施設と公園が隣接するという立地条件がありますので、その魅力を最大限に引き出すことを念頭に事業を進めています。
――町田市と東急電鉄の役割分担はどのようになっているのでしょうか。
近年は全国各地で官民連携の開発事業が行われていますが、今回のプロジェクトでは東急電鉄と町田市が「共同事業者」となって事業を進めていきます。事業についての情報も二者が連名で発信していますので、従来の「官民連携」と比べても、さらに一歩踏み込んだ関係といえます。
役割分担については、駅舎とショッピングモールについては東急電鉄、公園ついては町田市というのが基本的な分担です。地型を整えたり、道路を作り替えたり、造成をしたり、という「基盤整備」の部分については、町田市と東急電鉄が両者で費用を出し合って進めています。その基盤整備のもとに、東急電鉄は商業施設と駅を作り、町田市は公園の整備を、それぞれ進めていくという形です。
――各ゾーンの整備の概要について教えてください。
まず駅についてですが、駅舎は現状のものから大きく変わる予定です。現在は掘割に作られた簡素な駅舎で、線路を渡るためには下駄状の細い橋しかないのですが、新しい駅舎では南北を結ぶ広い自由通路を作り、その真ん中に改札を配置し、改札からはどちらのホームにも降りていけるような構造になります。南北の高低差もほとんど無い、バリアフリーの自由通路ができますので、動線が大きく改善され格段に便利になると思います。
また、「駅を降りた瞬間から“公園”を感じられる作りにしよう」という考えのもと、緑をふんだんに配したデザインを考えています。南口には放射状に大階段を作り、緑を配して公園のイメージを印象づけるとともに、自由通路までを大きな屋根で覆って、傘を使わずに駅南北を移動できるようにする計画です。
「南町田」駅北口の駅前広場については、ほとんどの工事が完了しており、2017(平成29)年4月から利用が始まっています。広いバス乗り場が新設され、2017(平成29)年7月からは「羽田空港」や「成田空港」などに向かうバスのほか、新宿から本厚木へ向かう深夜急行バスも停まるようになりました。新たなバス路線の拠点として、便利にお使いいただけるかと思います。今後はバス乗り場に屋根を付ける工事も予定しています。
「鶴間公園」については、従来から公園として使われていた部分はそのまま継続しながら、ショッピングモールとの境界にあった道路を廃止し、そこを埋め戻して、元の地形を生かした、駅からモールを通ってそのままつながる空間として整備していきます。また、線路側に沿って新しい道路を作る工事も行っています。これによってモールと公園の分断が無くなり、ひとつの大きな塊(かたまり)のような形に見直されることになります。
また、公園の南側にあったグラウンド部分については、従来は市の中学校の予定地をスポーツ広場として活用していた土地だったのですが、改めて公園として整備しようということで進んでいます。この部分だけでも1ヘクタール以上あり、モールとの接続部分もありますので、機能の充実が期待できます。隣の調整池として使われていた部分についても、調整池を地下化し、表面の部分をスポーツコートと公園用の駐車場とするという計画で、現在その工事が進んでいるところです。
ショッピングモール部分については、今までほぼ一層だった建物が全体的に二層になります。その分床面積も広がり、店舗数も多くなる予定ですし、駐車場の台数も増えます。引き続き「オープンモール型」と呼ばれる形をとり、大きな箱を作るのではなく、街なかを歩いているような施設になります。
ただし、全体の形は大きく変わります。今までは中央にストリートがあって、その両側に建物が並ぶという形でしたが、新しいモールでは中央の駐車場の周りを店舗と道路が囲むような形になり、公園と一体化した大きな“塊”を巡るような、非常に広々とした通路が整備される予定です。いつの間にか公園に入っていて、いつの間にかまた戻ってきて、という具合に、大きな回遊を生み出すような設計です。
入居するテナントについては、現在東急電鉄側が交渉中の段階ですが、シネコンの建物は以前のまま残していますので、映画館の機能は残っていくかと思います。
従来の自然を活かしつつ、より「居心地の良い」空間へ
――町田市は特に公園部分の事業主体かと思いますが、公園の整備内容について詳しく教えてください。また、新しく市民活動の拠点なども生まれるのでしょうか?
町田市としても、市民といろんな対話をしていく中で、「鶴間公園」への強い思いを感じており、その思いにできるだけ応えていきたいと考えています。たとえば、公園の中央には緑の森がありますが、ここは昔から里山林だった部分ということで、「この風景を残していきたい」という意見が多くありました。ですので、2つの樹林を活かし、健全な状態を保ちながら、より居心地の良い場所として活用できるよう、ベンチの整備などを進めていく予定です。
芝生がある「さわやか広場」についても、木に囲まれた広場という環境を残しながら、縁の辺りには腰掛けられるようなスペースを新たに整備しまして、居心地の良さを創出していきたいと考えています。公園西側の入り口などは、植栽を行うなどして、公園の入口としてふさわしい演出を考えています。
中学校予定地だった部分は「スポーツゾーン」として、主に身体を動かせるような場所として整備する予定です。全体的に「居心地の良さ」をキーワードにしていまして、ほかにも、子どもたちが安心して楽しく遊べるようなスペースを、森の中にも、スポーツゾーンにも、幾つも作るという計画です。
また、地域の方が活動する場所ということでは、もともと境川沿いにあった「せせらぎ広場」というスペースを、公園と一体化して、より活用しやすい場所として整備していきます。ここは従来から、子どもたちが水辺の動植物に気軽に触れられる場所ということで、さまざまな取り組みをやってこられた場所ですので、そういった取り組みを継続できるような形にしたいと思っています。
――先日は市が主催者となって、「鶴間公園のがっこう」という企画が行われたそうですね。これはどのようなものだったのでしょうか。
これは2017(平成29)年の6月から11月にかけて、4回にわたって、市民参画の企画として行ったもので、市民から「公園でやってみたいこと」を募集し、2019年の「まちびらき」に向けてそれを実際に公園でやってみようという試みです。先日ちょうど最終回が行われ、市民がそれぞれ自分たちで練ってきた企画を実践し、利用者の方にお客さんとして遊びに来ていただくというイベントを開催しました。
焚き火で調理をしたり、自然の素材を使って木工や楽器づくりをやったり、公園を巡るクイズラリーをやったりと、様々な企画が行われ、沢山の方に来ていただきました。本当に良い雰囲気でできましたので、新しい公園になってもこのような形で市民参画型のイベントを続けていきたいと考えています。そのための方法を、組織の作り方なども含め、現在検討しているところです。
――現在、工事の進捗状況はいかがでしょうか。
今回の計画については、2016(平成28)年の11月から着工し、東急電鉄と共同で行っている区画整理事業では調整池の地下化や道路の再整備、造成工事などを行っているところです。全体の4割くらいの進捗です。東急電鉄側の商業施設部分も、基礎の工事が終わりまして、建物部分にかかり始めているところです。公園もショッピングモールも、2019年度のオープンを目指していますので、これから徐々にできあがっていくかと思います。
――駅の利用者数も増えると思いますが、急行が停車するといった話もありますか?
町田市としては、町田市の南の拠点と言っている場所ですし、これだけ大きな商業核を持つ駅ですから、急行停車というのはこれまでもずっと要望してきました。今回の開発が一番の良いきっかけになると思いますから、そういった期待はしています。ただ、東急さんが判断することですので、市としては何とも言えませんね。
――南町田エリアの魅力を教えてください。
駅からダイレクトにつながる屋外型のショッピングモールがあり、そこから公園までオープンスペースが広がっているという構造は、田園都市線のほかの街にも無い魅力です。町田市としてもこうした立地を活かして、住みたい街、将来にわたって元気さを維持できる街にしていきたいと考えています。
町田市役所 都市づくり部 都市政策課
都市計画係長 辻野真貴子さん(左)、主事 杉田恵さん(右)
所在地:東京都町田市森野2-2-22
南町田拠点創出まちづくりプロジェクト URL:http://minami-machida.town/
※この情報は2017(平成29)年11月時点のものです。
町田市と東急電鉄が官民連携で取り組む「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」/町田市役所都市づくり部都市政策課 辻野真貴子さん(左)・杉田恵さん(右)
所在地:東京都町田市森野2-2-22
電話番号:042-722-3111
窓口受付時間:8:30~17:00 ※第2・4日曜日に一部窓口を開庁
閉庁日:土曜日、第1・3・5日曜日、祝日、年末年始(12/29~1/3)
https://www.city.machida.tokyo.jp/