校長 中野緑先生インタビュー

学校・家庭・地域が一体で子どもたちの自己肯定感を伸ばす/さいたま市立辻南小学校(埼玉県)


さいたま市の南に位置し、南区辻エリアを通学区域とする「さいたま市立辻南小学校」。都心へのアクセスに優れたJR埼京線「北戸田」駅を最寄りとする利便性もさることながら、子どもや教育に関心の高い地域性を活かした学校運営が進められている。5年生の地域防災、6年生のSDGsをテーマにした取り組みもそのひとつで、学校・家庭・地域がひとつになって子どもたちの学ぶ力を育んでいる。
今回は2020(令和2)年度に着任した中野緑校長を訪ね、同校の歩みや、さいたま市独自の教育実践、周辺地域との連携・交流などについてもお話を伺った。

「さいたま市立辻南小学校」校舎
「さいたま市立辻南小学校」校舎

2007(平成19)年に、市内101番目の小学校として誕生

―まずは学校の沿革や、現在の学級数・児童数などをご紹介いただけますでしょうか。

中野校長:「さいたま市立辻南小学校」は今年で開校16年目の市内でも比較的新しい学校です。周辺地域の人口・児童数増加などに伴い、本校から歩いて10分ほどの場所にある「さいたま市立辻小学校」から分離するかたちで2007(平成19)年に開校しました。

2023(令和5)年2月現在の児童数は474名、各学年2〜3クラスで運営しています。特別支援学級2クラスも含めて合計で18学級になります。沿革にもあるように開校当時は19学級534名とありますので児童数はやや減少していますが、昨今は学区内に新しいマンションの建設が進んでおり、今後も500名前後で推移していくものと思われます。

2020(令和2)年度に着任された中野緑校長先生
2020(令和2)年度に着任された中野緑校長先生

―校舎や設備に特色などはありますか?

中野校長:本校は“エコスクール”というコンセプトのもとで開校したのが特色のひとつで、太陽光発電や屋上緑化を取り入れており、先日照明のLED化工事も終わったところで、環境に配慮したつくりになっています。また校舎内に入るとお気づきになるかと思いますが、太陽の日差しがあちこちから入るような設計上の工夫もあり、校舎内もとても明るくて子どもたちにとって心地良い空間だと思います。

日当たりもよく明るい校舎内
日当たりもよく明るい校舎内

「すべては子どもたちのために~希望が生まれる辻南小学校」が合言葉

―普段の学校生活や授業などで大切にしていることについて教えてください。

中野校長:本校のホームページにもグランドデザインを掲載していますが、私が2020(令和2)年度に校長として着任して以来ずっと伝え続けていることがあります。

それは「すべては子どもたちのために~希望が生まれる辻南小学校」という合言葉です。子どもの自己肯定感を育むということを中心にした学校運営をしております。とにかく子どもを認め、努力を認め、褒めて、励ます。子どもの主体性も大事ですし、自分でやりたいことを見つけられる子どもにしたいという強い願いをもって一生懸命やってきたつもりです。

2021(令和3)年に開校15周年を迎えた
2021(令和3)年に開校15周年を迎えた

―具体的な取り組みについて詳しくお聞かせいただけますでしょうか?

中野校長:まず変えたのは教員の言葉かけです。子どものできないところに注目するのではなくて、子どもたちが頑張って、ちょっとでも伸びたところをとにかく教員も保護者も地域の方もみんな認めて褒めてくださいということをずっと伝え続けてきました。

すると教員もそれに応えるように子どもたちを励ますようなメッセージを掲示物で貼ってくれるようになったり、日々ちょっとずつ意識が変わってきているのを感じます。もちろん認めて褒めるためには私たち教員がそこにたどり着くための努力もさせないといけないと思いますので、子どもたちのやる気を引き出すような学習の仕方についても研究しています。

教員からのあたたかな言葉のメッセージ掲示
教員からのあたたかな言葉のメッセージ掲示

中野校長:「総合的な学習の時間」のカリキュラムも大きく変えました。5年生は“地域防災”をテーマに、地域に出て地域の方と一緒に防災施設や設備を調べたり、課題を見つけて自分たちなりに考えたことをまとめて発表するような活動をしています。

また、6年生は“SDGs”をテーマにした活動を進めていて、いまとても盛り上がっているので、すごく自慢したいことのひとつなんです。まずSDGsで掲げられた目標について子どもたちなりに咀嚼をします。自分たちの身の回りでできることは無いか、身の回りから世界を変えていこうというところから活動をスタートさせました。

今年の6年生は2クラス75名で、4〜5名ずつ合計16チームをつくり、戦争、自然、ファッション、環境、労働とお金、教育、議会、食品ロス、海、スポーツ、アート、地球温暖化、差別、生き物、木材、音楽と、それぞれのテーマについての活動を行いました。

例えば、学校でよくある落とし物について。世界にはなかなか買えない子どももいるのに、なぜ学校にはこんなにも多くの落とし物があるんだろうといった課題意識を持つところから始めました。どうしたら落とし物が無くなるか、落とし物を捨てずに活用する方法は無いかなど話し合いを重ね、落とし物やいらなくなった服などを集めて服の交換会を実施してみることになりました。いらなくなった服を寄付してくれた人が服の交換会に参加できる仕組みにして、リユースやリサイクルといったことを体験として学びます。しかし、交換会をしてもなお残ってしまったものがあり、それをどうするか新しい課題が見つかりました。

生徒たちのSDGs活動
生徒たちのSDGs活動

そこで、「ファッション」をテーマとしたチームは、いらなくなった服を引き取って世界に届けてくれる団体があるというヒントをもとに、子どもたちはパソコンを使ってそういう取り組みをしている企業や団体が無いかを調べました。

「辻南小学校6年SDGsファッションチームです。〇〇という取り組みで服が余っているのですが、お引き受けいただけないでしょうか?」と直接電話で問い合わせなども行い、説明と交渉はすべて子どもたちが行いました。実際に引き受けてくれる企業や団体を見つけるのはなかなか難しかったのですが、最終的に近くの武蔵浦和エリアで引き受けてくれる団体が見つかり、放課後に子どもたちと一緒に服を届けに行きました。

―他のチームの取り組みについても教えていただけますでしょうか?

中野校長:戦争をテーマにしたチームからは「地域の方に戦争のお話を聞きたいのでチラシを作って配っても良いですか」と相談がありました。そこで私はまず自治会長に相談してみるのが良いだろうと思い、自治会長に電話をし、「私たちは学校でSDGsをテーマに取り組みをしていまして、子どもたちが考えていることがあるので直接お話を聞いていただけませんでしょうか?」と電話の取り次ぎだけを行いました。

「ファッションチーム」が行った企業や団体への電話もそうですが、あくまで主体は子どもたちなので私たち大人は子どもたちの考えや思いをかたちにするための調整であったり、応援したりすることに徹しました。

児童たちの活動の発表があちこちに
児童たちの活動の発表があちこちに

自治会長をはじめ電話を受けた方々は、学校から電話がかかって来て子どもたちから直接相談があったときはびっくりされたかと思いますが、この活動を通して子どもたちがどんどん地域や社会、時には遠くの学校の子どもたちともつながりをもち、地域のゴミ拾い活動や、テーマに関連するセミナーに参加したりとどんどん広がりを見せています。とにかく子どもたちがすごいんです!

「木材チーム」が行った、鉛筆を短くなるまで使った子に拍手をする、「短い鉛筆コンテスト」も良かったですね。取り組んでいるのは決して難しい内容ばかりではなくて、子どもたちなりの素朴な発想から生まれたものもあり、面白かったです。おそらくこうしたことが今の時代に求められている教育なんだろうと感じています。1~4年生では地道に基礎的な学びを、5、6年生で花開くような実践的なカリキュラムを作って取り組んでいるところです。

校内の風景
校内の風景

―学校の外にまで取り組みが広がっていることに驚きますが、今後の展望などはございますか?

中野校長:そうですね。こうした取り組みは今年で3年目。1~2年目は校内での発表まででしたが、当時の6年生が地域の方々を発表の場に招き、それを見ていた5年生が6年生になった今年、さらに地域や外に活動の場を広げてかたちにしてくれたと感じます。

子どもたちが自分たちの計画したことを「〇〇チームです。こういうことをやりたいです」というようにプレゼンをしくれて、それを受けて教員からも今後心配になりそうなことや気づいたことを「これはどうするの?」と子どもたちに投げかけるというやりとりを繰り返し、内容を精査しながら活動を進めました。電話ひとつをとってみても、子どもにとっては大人と喋るのは緊張するし勇気のいることです。またはじめて電話するところに自分たちの取り組みを分かってもらうためには内容や話し方も工夫が必要です。そうしたところを私たち大人が調整したり、応援したりすることによって、子どもたち自ら学びを進めて行くのを後押ししてきました。

3年目で私の理想としていたかたちが実現したので、今後は毎年の6年生たちのこの姿が見られれば良いなと思いますね。やればできる、話せば相手にきっと分かってもらえるというエネルギーのもとになるのは自己肯定感だと思っているので、合言葉を通して伝え続けたことが実践されているのだと思います。

新たな時代に求められる力を育むさいたま市独自の教育プログラム

―さいたま市独自の教育として「グローバル・スタディ」や「さいたまSTEAMS教育」について、実際にどのような取り組みか簡単にお教えいただけますでしょうか?

中野校長:まず「グローバル・スタディ(G・S)」ですが、さいたま市では2016(平成28)年度からすべての市立小中学校で独自の英語教育を実践しています。本校では専科の教員が配置されていますので、専科教員を中心に充実した英語の授業が行われています。低学年はALTの先生と一緒に担任が授業をしていますし、高学年になるとほぼオールイングリッシュで授業が行われています。

また「さいたまSTEAMS教育」については、<ScienceTechnology><Engineering><Art><Mathematics>の頭文字をとった「STEAM」にさいたま市独自の<Sports>の「S」を加わえた独自の教育事業で、教科横断的な学びや課題解決学習をねらいとして、今年度からスタートしました。

本校では「総合的な学習の時間」と組み合わせて取り組んでいます。先ほど5年生の地域防災についてお話をさせていただきましたが、災害に強い家の模型を作ろうという活動を行いました。まずは地震や水害に強い家をどうつくるのかというのを調べ、地震に強い家、水害に強い家を子どもたちが自分たちで設計をして紙で実際に作りました。そして実際に模型を揺らしたり、水をかけたりしてみて、どの家が災害に強かったかをコンテストにしました。

学校・家庭・地域が連携して子どもたちを育むコミュニティ―スクール

―学校HPで紹介されている「辻南っ子サイクル」の内容についてもお教えいただけますでしょうか?

中野校長:本校は2021(令和3)年度にコミュニティスクールとしての運営が始まり、学校・家庭・地域が一体となって取り組みが進められています。「辻南っ子サイクル」はその仕組みをわかりやすくまとめたものです。

中野校長:これはもともと私が着任する前まで取り組んでいた基礎学力向上を目的とした校内研究を一部改変したもので、ポイントは3つあります。学力をつけること、体力をつけること、コミュニケーションを大切にすることです。学校運営協議会のなかでも子どもたちに身につけて欲しい力として話に挙がっているものです。

地域からの願い、また保護者からの願いも踏まえて学校ではこんなことをやっています、またやりますということを明記したものです。これもとても大事なことですね。

2021(令和3)年度からコミュニティースクールとして地域・保護者との連携に取り組む
2021(令和3)年度からコミュニティースクールとして地域・保護者との連携に取り組む

―地域や保護者との交流・つながりについてもお聞かせください。

中野校長:本校には「局ねっと(つぼねっと)」という保護者のボランティア組織があります。ミシン学習の時にお手伝いに来てくださったり、生活科のまち探検など校外に出るような活動のときもお手伝いをしてくれます。

「局ねっと」は登録制ですが、登録される方以外にも、大掃除の時などPTAの方からお知らせを受けて単発ボランティアとして参加してくださる方も多くいらっしゃいます。特にコロナ禍は授業参観もできなかったので、少しでも学校に関わりたい、授業の様子を見たいという保護者の方がお手伝いに来てくださいました。

地域の方とのつながりは、5年生の地域防災もそうですし、SDGsの取り組みの時も快くいろいろとご協力をいただいてとてもあたたかい地域だというのを感じます。「ポスターを貼らせてください」と電話でお願いしたら、「じゃあ、一緒に掲示板まわろうか」と言ってくださって、子どもたちと一緒に掲示板にポスターを貼ってくださったこともありました。

学校で取り組んでいることが子どもたちを通して地域に広がって行くのを実感できる瞬間で、好循環を生んでいるなと思います。

 保護者のボランティア組織「局っと」の掲示
保護者のボランティア組織「局っと」の掲示

中野校長:また学校の隣に「スカイフラワーパーク」という公園がありますが、こちらは自治会の方が管理している土地で、普段はグラウンド・ゴルフのような地域の活動に使われている場所があります。公園内にはお花畑や菜園もあって、その一部を学校菜園としてお借りしています。

学校菜園に行くときに子どもたちもよく出入りをしますし、公園の真ん中には東屋があって、おしゃべりができるようなベンチもあり、グラウンド・ゴルフをしに集まっている地域の方も多くいるので、自然とそこで交流が生まれます。「キャベツが大きくなってるけど、そろそろ採らないの?」なんて会話もあったり、地域とのゆるやかなつながりを感じます。

隣接する公園「スカイフラワーパーク」
隣接する公園「スカイフラワーパーク」

―近隣の小中校との連携はいかがでしょうか?

中野校長:沿革でもお話した通り、本校は「辻小学校」から分離独立するかたちで開校したのですが、当時、学区を分ける際に色々な話し合いがあったようで、「辻小学校」と「辻南小学校」で地域が分断されてはいけないという意識が開校当時から根強くあるようです。さらにこの2校に加え、「南浦和中学校」、「内谷中学校」、「浦和南高等学校」も近くにありますので、小中高連携で地域の行事をいつも一緒にやるというのが特色です。地域がガッチリ連携をしているので、なんでも一緒にやっていこうという頼もしい地域ですね。

ちょうど2023年2月14日に、学校に植えられている河津桜が咲いたんですけど、その河津桜は当時の「辻小学校」、「南浦和小学校」、「文蔵小学校」の校長先生から寄贈されたもので、そういったところからも地域の思いというのを感じますね。

近くに建つ「さいたま市立浦和南高等学校」
近くに建つ「さいたま市立浦和南高等学校」

エコスクールの取り組みが評価され、「埼玉県学校緑化コンクール」で入選

―その他にも学校の魅力やアピールポイントがあれば教えてください。

中野校長:いっぱい自慢したいことがあるのですが、ひとつは「令和4年度 埼玉県学校緑化コンクール」で入選し、優良校として賞をいただいたことです。エコスクールについては先ほど触れましたが、敷地内に緑が多いこともそうですし、「スカイフラワーパーク」の学校菜園での取り組み、また今年はヨーロッパ野菜を育てて給食で食べるといった取り組みもあり評価いただきました。他にも子どもたちがタブレットを活用して学習できるように、QRコードを付けた樹名板を整備する予定で、校内に木の観察コースを作りたいなと計画しているところです。

もうひとつ自慢したいのは、本校には子ども発信のキャンペーンというかたちで休み時間にいろいろなイベントが行われていることです。例えば児童会で「全校鬼ごっこをしよう!」という企画が立ち上がり、全校470人全員では危ないので、「にこにこ学級」という縦割り班を活用して人数を絞って取り組むことになりました。6年生から1年生まで一緒に鬼ごっこをするキャンペーンが行われているところです。

また運動委員会では「玉入れキャンペーン」が行われています。コロナ禍で実施できなかった運動会の種目のひとつで、「玉入れがしたい」という子どもたちの声をひろった運動委員会が体育館で「玉入れ大会」をすることにしました。自由参加ですがほとんどのクラスの子どもたちが参加しています。

他にも「長縄キャンペーン」、「サッカーキャンペーン」、今は「逆上がりキャンペーンが始まるところで、6年生が逆上がりの苦手な低学年の子どもに教えてあげるそうです。休み時間は子どもたちのものなので、外遊びが盛り上がっていけば良いなと応援しているところです。

子どもたちののびのびとした活動の場となる校庭
子どもたちののびのびとした活動の場となる校庭

地域も保護者も、子どもや教育に関心をもち、あたたかな街

―最後に、周辺地域の子育て・教育における環境の魅力について教えてください。

中野校長:私が着任して感じたのは地域があたたかくて、保護者もあったかい。子どもや教育に関心があるということを感じました。そこはすごく子育てがしやすい環境といえるでしょうね。

何かあると地域の方々がすぐに声をかけてくれるというのも安心感がありますし、先ほどのボランティアの話でも、職員の手が足りなくて協力を仰ぐと保護者の方も来てくださいますし、学校運営が非常にやりやすいと感じています。地域も保護者も子どもたちに関心があるというのが私にとって心の支えになっています。

生活環境としても程良いと思います。JR「北戸田」駅の近くですから都心にも行きやすいし、近くには大きなショッピングセンターもあって買い物にも便利です。また都会的でありながら子どもたちには素朴ところもあって、自然も残っています。学校にタヌキが出たのにはびっくりしました。

さまざまなことにチャレンジさせてもらえるのは学校としてとても有り難いことです。先日の学校運営協議会でも本当に良い取り組みを行っている評価していただけましたし、学校としてもありがとうございますとお伝えしましたが、学校・家庭・地域がそういった関係性のあたたかい街ですよ。

JR埼京線「北戸田」駅周辺
JR埼京線「北戸田」駅周辺

エコスクールとしての特色を生かして学校・家庭・地域がつながる「辻南小学校」インタビュー
エコスクールとしての特色を生かして学校・家庭・地域がつながる「辻南小学校」インタビュー

さいたま市立辻南小学校

中野緑校長先生
所在地:埼玉県さいたま市南区辻8-7-32
電話番号:048-839-3001
URL:https://tsujiminami-e.saitama-city.ed.jp/
※この情報は2023(令和5)年3月時点のものです。

 

学校・家庭・地域が一体で子どもたちの自己肯定感を伸ばす/さいたま市立辻南小学校(埼玉県)
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