校長 鳥居利至先生インタビュー

制服もチャイムもない、「自治の精神」の伝統を受け継ぎ実践する/杉並区立宮前中学校(東京都)


五日市街道から少し北に入り、地名の由来にもなった地域の鎮守「春日神社」の隣に位置する「杉並区立宮前中学校」。主に近隣の「杉並区立荻窪小学校」、「杉並区立久我山小学校」が出身校となり、2022(令和4)年4月時点の生徒数は326名。学業に力を入れる、学力水準の高い公立中学としても知られている。

そして「杉並区立宮前中学校」の一番の特徴は、区内では珍しくないが公立校では数少ない「制服が無い学校」という点だろう。実は制服のみならず、授業開始・終了のチャイムや、髪型などに関する校則もなく、その裁量は生徒に委ねられている。この背景にあるのは、宮前中伝統の「自治の精神」だという。今回は同校に脈々と受け継がれている「自治の精神」の話題を中心に、2019(平成31)年から着任されている鳥居利至校長先生にお話を伺った。

お話を伺った「杉並区立宮前中学校」鳥居利至 校長先生
お話を伺った「杉並区立宮前中学校」鳥居利至 校長先生

2022(令和4)年に開校75周年を迎えた「杉並区立宮前中学校」

――まずは、今日までの貴校の沿革についてお聞かせください。

鳥居校長先生:本校は1947(昭和22)年に開校し、2022(令和4)年で開校75周年を迎えました。創立時は近くの「都立西高等学校」の敷地を間借りして始まったと伝え聞いています。現在地に移ったのは開校3年目、1949(昭和24)年のことです。

2022(令和4)年に開校75周年を迎えた「杉並区立宮前中学校」
2022(令和4)年に開校75周年を迎えた「杉並区立宮前中学校」

開校当初は都立第十中学校(現都立西高等学校)から教室と体育館を借用し、その他施設も全面的に借用しのびのびと日々を過ごしていたようです。当時を知る同窓生は今も兄弟校のように親しみをもって本校に接してくださる方もいます。

また学力は、杉並区自体が都内公立中学校の中でも高い区として知られていますが、その区内でも本校は平均以上の水準を維持しています。

知・德・体をバランスよく育む「自治の精神」

――まず、学校の教育目標に掲げておられ、貴校の特色ともいえる「自治の精神」に込めた思いを詳しくお聞かせください。

鳥居校長先生:「自治」というのは、言葉だけ見ると「自治体」とか「自治会」とか、そういったイメージが湧くかと思いますが、本校で行っている「自治」とは「自治の精神」になります。学校目標には「人権尊重の精神を踏まえ『自治の精神』を貴び、知・德・体をバランスよく育む」という言葉を掲げています。この「自治の精神」とはつまり、「何事も生徒が主体的に考え、実施する」という、「自主 自律」の精神です。生徒会や委員会活動はもとより、学校行事でもそれを具現化しており、学校生活の活気につながっています。

これらの活動については、基本的には先生が管理をするのではなく、何か課題や問題が生まれたら、生徒同士で話し合って解決策を探したり、決定したりしています。本校の伝統として引き継がれているものであり、一番の特徴ですね。

知・德・体をバランスよく育む「自治の精神」
知・德・体をバランスよく育む「自治の精神」

ここで言う「自治」は、ただの自由とは違い、真の自由には必ず「律する」ことが伴います。その意味を本校の生徒たちはしっかりと理解していて、非常にバランスよくやってくれています。大人の目線で見ていても、「いいところに落とし込んでいるな」と感心しています。

――具体的にどのような例がありますか。

鳥居校長先生:たとえば、子どもたちの自由な発想で決めていくと、「髪型や髪色は何色でもいい」とか、「ピアスOK」とか、そういう方向になりがちだと思いますが、そのようにはなりません。その時代に合った、中学生らしい本当に絶妙なところに収まります。服装に関しても、何か校則で決まっているわけではありませんが、生徒が自ら良し悪しを判断し、程よいところに収まります。

「杉並区立宮前中学校」 校内の様子
「杉並区立宮前中学校」 校内の様子

――制服がない、しかもチャイムも鳴らない、という中学校は珍しいのではないでしょうか?

鳥居校長先生:杉並区には私服の中学校は数校あるのですが、チャイムもないというのは本校だけだと思います。チャイムをなくした狙いもやはり、子どもたちの「自主 自律」を促すためなんです。本校のノーチャイムは朝の登校時と午後の授業始まりの予鈴だけ鳴り、そのほかのチャイムがありません。チャイムが鳴らない各授業の前も、だいたい2、3分前には全員が席に座っています。

生徒総会も非常に特徴的です。自分たちで意見を拾って、話しあって決めていくわけですが、ステージ上に上がる委員会の生徒たちは本人たちの中の“制服っぽい服装”を「正装」として、自分たちで用意をして、それっぽくやるんですよ。そんな姿もほほえましく見ています。

自分たちで考えた“正装”に着替え委員会の生徒たちが臨む生徒総会
自分たちで考えた“正装”に着替え委員会の生徒たちが臨む生徒総会

ICTも活かしつつ、生の授業の響き合いも大切にする

――生徒総会には、全員がPCやタブレットを持って参加しているんですね。ICTの活用に積極的に取り組まれている学校でもあると伺いました。

鳥居先生:昨年度初めにようやく各自1台のタブレットを配ることができたので、今まさに活用しようと模索しているところで、ほとんどの授業でタブレットを使いながら授業を展開できるまでになっています。

本当にここ2、3年で大きく変わりました。今では資料を提示したり、提出物を集めたり、意見を出し合って集約したり、テストの残り時間を表示したり、あらゆることにICTを活用しています。

プロジェクターなども使用しながら、ICTを取り入れた授業を行う
プロジェクターなども使用しながら、ICTを取り入れた授業を行う

――コロナ禍を機に、ICT化が一気に進んだのでしょうか。

鳥居先生:それはありますね。ただ、ICTも良いところだけではありません。もちろん弊害もあって、たとえば「リモート授業」が流行りましたけれど、私はこれを、あまり良いものだとは思いません。

やはり、「生の授業」でしか得られないものは多いと思います。周りの影響を受けながら、生身の生徒や、先生から、いろんなことを五感で吸収できる機会というのは、非常に大切なもので、そこが「学校」というものの一番の良さだと思います。ICTはそれを合理化するための道具にすぎず、「ICTを駆使しつつ、生の授業のクオリティを上げていく」ということが、ベストな流れであると思っています。

コロナ禍の間、本校でも朝礼ができなかったのですが、本校は3年生がとくに素晴らしいですから、1年生2年生をなるべく上級生と交わらせたいとずっと思っていました。子どもたちは授業だけではなくて、朝礼や集会でも、先輩たちの動きをしっかり見て、いろんなことを吸収しているんです。そうした時間が、「自治」の伝統にもつながっていると思います。

生徒と先生、生徒たち同士の交わりを生む学校運営が「自治」の伝統にもつながっている
生徒と先生、生徒たち同士の交わりを生む学校運営が「自治」の伝統にもつながっている

大いに盛り上がる2大イベント「体育祭」と「合唱祭」

――主な学校行事についてもご紹介いただけますか。

鳥居校長先生:本校は「体育祭」と「合唱祭」が2大イベントで、どちらもみんな、非常に一生懸命取り組んでいます。「体育祭」は学年別、クラス対抗で優勝クラスを競っているわけですけれども、開催前はクラスでの団結が深まり、必死になって練習しています。その一生懸命に取り組む姿というのは、教員から見ても感動的なものです。

「合唱祭」についても、同じように学年の中で優勝クラスを決める形で行っていますが、合唱は全てのクラスが合唱を行うので、体育祭よりも学年間の差が良くわかります。もちろん、どの学年も一生懸命に練習して本番に臨んでいるので、どの学年どのクラスも素晴らしいのですが、1年生よりも2年生、2年生よりも3年生というはっきりした成長を感じられることがとても嬉しいです。下級生は上級生の演奏を見て、「僕らもああいう風になろう」と、すごくいい刺激を得ていると思います。

エントランスに掲示されている授業で作成された優秀作品
エントランスに掲示されている授業で作成された優秀作品

地域や近隣小学校との交流・連携

――地域との交流や連携、小中の連携などについてお聞かせください。

鳥居校長先生:この辺りは閑静な住宅街で、自治会や地域活動というのは少ない地域ですが、「春日神社」の境内の落ち葉掃きをお手伝いしたり、同神社のお祭りで本校の吹奏楽部が演奏をしたり、といったことをしています。

小中連携については、本校の校区の「杉並区立荻窪小学校」と「杉並区立久我山小学校」の両校との交流・連携を行っています。毎年秋口には両方の小学生から6年生を呼んで体験授業をしていたり、「合唱祭」の3年生の優勝チームをそれぞれの小学校に派遣して、合唱を披露したりしています。これは、小学校の先生方もすごく楽しみにしてくださっていますね。

教室内の様子
教室内の様子

――地域資源を活用して、学習の題材とするような機会はありますか?

鳥居校長先生:地域人材の活用というのは以前から行っています。「地域支援本部」という組織があるのですが、そこを通じて地域の方を紹介していただいて、たとえば、特別支援学級栽培している「学校農園」の指導を地域の農家の方にお願いしたり、職場体験の前の段階の「働く人の話を聞く」という会に地域の異業種の方々に何名か来ていただいて、それぞれのブースを子どもたちが回ってお話を聞くということもやっています。その後の、職場体験についても、地域の方の協力をいただいて実施しています。

安心して落ち着いた環境で学べる杉並区宮前

――最後に、鳥居校長先生が感じられている杉並区宮前の魅力、子どもたちに願うことについて教えてください。

鳥居校長生:この地域は、閑静な住宅街で、どこに行っても静かで、安心、安全。そこが一番の魅力ですね。子どもたちの健全育成にはとても適している思います。大人が落ち着いているから、子どもたちも落ち着いて暮らせているし、学習に対する意欲が高い子どもたちが多いのだと思います。

本校の「自治の精神」をもった子どもたちが巣立っていって、いずれまたこの地域に戻って、自ら考え、判断して、地域をかたちづくっていってくれたら良いなと思います。「宮前中学校」がその時、地域づくりの中心にいられたら嬉しいですね。

杉並区立宮前中学校

鳥居利至 校長先生
所在地:東京都杉並区宮前2-12-1
電話番号:03-3333-8728
URL:https://www.suginami-school.ed.jp/miyamaechu/
※この情報は2022(令和4)年12月時点のものです。

制服もチャイムもない、「自治の精神」の伝統を受け継ぎ実践する/杉並区立宮前中学校(東京都)
所在地:東京都杉並区宮前2-12-1 
電話番号:03-3333-8728
http://www.suginami-school.ed.jp/miyamae..