笑育や手話を通して、コミュニケーションの力を育む/幸いづみ保育園(神奈川県)
川崎市幸区の南西端、国道1号線に沿った大きな建物の5階に入っている「幸いづみ保育園」は、特別養護老人ホームの受付をくぐり、エレベーターで5階に上がっていくという珍しい形の保育園。5階全体が保育園になっており、最上階なので半分近くのスペースが屋上の園庭になっている。空と太陽が近くに見える環境の中で、子どもたちはのびのびと過ごしている。今回はこちらで園長を務められている山田有香さんに、保育園の特徴と地域の魅力についてお話を聞いた。
――「幸いづみ保育園」は、川崎市と横浜市の連携によって共同整備された保育園ということですが、それに至った経緯を教えてください。
まず、ここは川崎市ですが、歩いて1分か2分で横浜市に入るという場所になります。この園ができる前に、横浜市と川崎市に共働き世帯が増えて、就労の形態の多様化などで保育のニーズが高まりました。待機児童も増えてきたという事情に対応するために、川崎市と横浜市の2市共同で整備を行い、平成28(2016)年に開園しました。2市連携で設立した、第1号の園になります。
それまで、市境付近に住んでいると、「横浜市民だから川崎市の保育園には通えない」とか、逆に「川崎市民だから横浜市の保育園には通えない」ということがありましたが、「家の近くの保育園に通えるように」ということを重視した結果、この保育園が生まれました。
――それに加えて、特養(特別養護老人ホーム)と同居する形も珍しいですね。なぜこのような形になったのでしょうか?
特養と保育園が、同じ法人「社会福祉法人 三篠会(みささかい)」で運営されていまして、先にできていた特養の建物の5階に、新しく保育園が併設されたということになります。エレベーターも共用になっていて、日頃からお年寄りの方々との交流を持つことができるのが特徴のひとつです。
――保育理念をお聞かせください。
お子さんたちが安定した気持ちで生活が過ごせるように、ひとりひとりの子どもの気持ちを受け止めて、興味関心に合った保育をする、ということを大事にしています。そのためには、職員も子ども同士でも、「待つ」ということが大事になってくるので、そういうところも心がけていますね。もうひとつは、「明るく楽しいコミュニケーション力を育てる」という部分で、友達や大人との関わりの中で、自分を表現したり、相手に共感したりして、感情をコントロールできるような関係づくりを目指しています。
――手話、英語、笑育(わらいく)といった、珍しい取り組みもされていますね。
そうですね。手話、英語、笑育に取り組みながら、「明るく楽しくコミュニケーション力を育てる」というところにも力を入れています。
まず、手話に関しては、当法人の本部がある広島の保育園でも、関東の保育園でも、同じように保育に取り入れています。私どもの法人で運営している老人ホーム内に耳が聞こえない職員がいまして、その方たちが先生になって、職員向けに手話教室を開き、法人全体で手話に取り組んでいます。
「幸いづみ保育園」では4歳児と5歳児が手話に取り組んでいます。子どもたちも、「耳が聞こえない人のおはなしの方法」をしっかり理解してくれています。今年度は手話ができる保育士も入職しましたので、その先生がゲームを取り入れたりして工夫したレッスンを行っていて、今まで以上に、子どもたちも楽しくやっていますね。
英語教室については、外部の講師の方に毎月3回来ていただき、0歳児から5歳児まで、全クラスで取り組んでいます。英語も手話も、「子どもたちにとって楽しい時間になる」ということを目標にしています。英語がペラペラになってほしいとか、手話で会話ができるように、という感じではなく、大人になった時に「ちっちゃい時にこんなことしてたな」と少しでも記憶に残っていたらいいなと思っています。職員も全力で、楽しみながら参加しています。
――中でも「笑育」はとても珍しいですね。
そうですよね。これは年長児対象のプログラムで、子どもたちに、笑いを通して、人を引きつける力、コミュニケーション力をつけてほしいという事で始めました。毎月1回、松竹芸能の方に来ていただき、子どもたちに漫才を見せていただいたり、お笑いの技術を教えていただいたりしています。いろいろなゲームなどをしながら、年長さんたちはみんな「ボケとツッコミ」を覚えていって、最終的には漫才に挑戦します。
――なぜ、「笑育」の活動を始めたのでしょうか?
最近の子どもたちはとてもまじめなので、言われたことを全部真に受けてしまうという面があるんですね。「冗談」ということもあるんだよ、と理解してもらって、笑いを含めたゆたかな人間関係を築いてもらえるように行っています。この「笑育」については、私たちの法人の園の中でも、「幸いづみ」だけの特徴ですね。ほかの園では、運動を特色にしていたりするんですけれども、うちは「笑い」でいこうということで。
――さまざまなコミュニケーションの一環として、施設内の高齢者の方と交流をされているそうですね。コロナ前にはどのような交流をされていましたか?
以前は年長さんのお泊り保育や、すいか割りの時にお呼びして応援をしてもらって、一緒にすいかを食べるなどといった交流をしていましたし、敬老の日が近づいてくれば、下のフロアにお邪魔して、肩たたきをしたり、手遊びを一緒にしたりという交流もしていました。今年は、大きな模造紙に子どもたちの手形で花束を描いて送ったり、年長さんはお手紙を書いたりしました。
今はおじいちゃんおばあちゃんが近くにいないという子も多いので、お年寄りの方を身近に感じてもらって、思いやる心を育んでいってもらえたらな、と思っています。
――保育園では育児相談もされているそうですね。どんな利用があるのでしょうか?
育児相談については、いちばん利用されているのは在園家庭の方ですね。朝や帰りの送迎の時などに、「うちの子こうなんですけれど、大丈夫でしょうか?」と軽くご相談を受けることが多いです。一時保育や園庭開放で来られた在園以外の方からもご相談いただくことがあります。
職員はいろいろな事例集をもとに、園内研修で勉強をしています。職員同士でも相談し合いながら力をつけていますので、少しでも保護者の方の悩みに寄り添って、お力になれればいいな、と思っています。
――地域の方々との交流や連携について、何か事例があれば教えてください。
新型コロナウィルス流行前は、保育園の夏祭りの時に、地域の方をお呼びしたりしていました。園のすぐ向かい側に大きな公園(「南河原公園」)があるんですけれども、そこにお神輿を持っていって、子どもたちが「わっしょい!わっしょい!」と言いながらチラシを配って、お祭りにお呼びしたりしていましたね。
ほかにも、地域のおじいちゃんおばあちゃんをお呼びして、昔遊びを教えてもらうような交流もやっていました。地域にお住まいの小さなお子さんをもつ方に対しては、夏場にプールの開放を行っていまして、これも非常に好評をいただいていました。
――最後に、この幸区神明町エリアの魅力について教えてください!
とりあえず間違いなく言えるのは、「川崎」駅が近いということですよね。「川崎」駅まで自転車や徒歩で気軽に行ける距離なので、とても便利な場所だと思います。おすすめのスポットは、目の前にある「南河原公園」です。広くて緑もあって、遊具も充実していて、子どもたちに大人気の公園ですね。
この辺りには子育て世代の方がすごく多いので、友達を作りやすい、仲間が多い、という声はよく聞きます。子ども関連の施設も多いし小学校の数も多いので、そういった点でも、子育てがしやすい地域だと思います。
幸いづみ保育園
園長 山田有香さん
所在地: 神奈川県川崎市幸区南幸町3丁目149-3特別養護老人ホーム南さいわい5階
電話番号: 044-542-5696
URL:https://www.misasakai.or.jp/shisetsu/minamisaiwai.php
※この情報は2021(令和3)年9月時点のものです。
笑育や手話を通して、コミュニケーションの力を育む/幸いづみ保育園(神奈川県)
所在地:神奈川県川崎市幸区南幸町3丁目149-3 特別養護老人ホーム南さいわい5階
電話番号:044-542-5696
https://www.misasakai.or.jp/shisetsu/min..