校長 宮島章先生インタビュー

“街の母校”として地域と共に歩んできた教育活動とは/横浜市立日下小学校(神奈川県)


横浜市の主要な環状道路のひとつ、環状2号線の打越交差点近くの高台にある『横浜市立日下小学校』は、100年以上もの間、変わらず同じ場所に建っている、港南エリア屈指の伝統校です。横浜地域に暮らす人々の多くがここを母校としており、地域住民から学校に対する愛着も、ひときわ強いといいます。今回は、同校で2014年から校長を務められている宮島章先生を訪ね、同校ならではの特徴や、子どもたちの様子、地域との関わり、横浜地域の魅力などについて伺いました。

宮島章校長先生
宮島章校長先生

100年以上の歴史を誇る伝統校

昔の学校の写真
昔の学校の写真

――明治36年(1903年)創立・110年以上の歴史ある学校と伺っております。今日までの歩みと、伝統校ならではの特色を教えてください

宮島先生:創立から今年(2021年)で、114年目を迎えた、港南区内で創立100年を超える4校のうちの1校です。長い歴史があることから、本校の卒業生という地域の方も非常に多くいらっしゃいます。

校内には『郷土資料室』があり、授業参観日や土曜日の学校公開日などに開放してご覧いただけるようになっています。資料室では昔の教科書など、実際に学校で使っていたものを展示していますが、そういったものを見ても、歴史が非常に古い学校なんだと感じられます。

昔使用されていた教科書の展示も
昔使用されていた教科書の展示も

――教育目標について教えてください。

宮島先生:横浜市立の小学校には共通の目標である“知・徳・体・公・開”という5つの柱があります。本校の目標もそれに沿った形で決めていますが、言葉を並べていくと「何か変だな?」と感じる部分があるかと思います。実は、これは校歌から抜き出している言葉なんです。

前任の校長先生の時代に作られた目標なんですが、校歌から文面を抜き出した目標というのは珍しいのではないでしょうか。目標と言ってもなかなかすらっと言えないと思いますが、校歌はみんな知っていますから、本校の子どもたちは、目標をよく覚えてくれています。

目標は校歌を使用している
目標は校歌を使用している

――この教育目標に沿って、具体的にどのような実践をされているのでしょうか?

宮島先生:一番特徴的なものとしては、『ペア活動』があります。異なる学年の児童がペアとなって活動することはよく行われていますが、本校では、さらにそこから個人同士でペアを組み活動を行っています。例えば6年1組と1年1組がペア学年になり、そこからクラスの子ども同士がペアを組みます。機械的にペアを組ませるのではなく、担任同士がよく話し合いながら、子ども同士の相性も考えて、組み合わせを考えています。

このペアで最初に取り組んでいくのが運動会です。運動会は5月の末に行いますが、この時ペア学年で同じ演技をするようにしています。例えば1年生と6年生は『ソーラン節』を踊りますが、入学して間もない1年生に対して、6年生が手とり足とり、丁寧に優しく、マンツーマンで教えてあげています。運動会の本番でも一緒に踊るという活動ですので、非常に意義のあるものだと感じています。3、5年は組体操、2、4年はエイサーを行うのが定番となっています。ほかにも、『ペア学年コンサート』を秋に行っています。もちろん1年生、6年生がそれぞれの曲も発表しますが、ペア学年が一緒の曲を歌うという部分もあります。

そういった、メインとなる『ペア活動』が年に何回かあり、それ以外にも、日常的に集会の中でペアで何かを競い合ったり、集会に参加する時に上の学年の子が下の学年の子を迎えに行ったり、6年生が1年生に読み聞かせをしたりと、日常的な交流・活動もあります。ですから、6年生が卒業する時には、1年生が泣いて悲しむような、そんな関係にまでなっているんです。最近は兄弟がいない家庭も増えていますが、学校内で兄弟関係のようなものができていますので、特に入学したての1年生にとって、また保護者の方にとっても、安心感につながっているのではないかと思います。

教室の様子
教室の様子

――ペア活動を通じて、中学年、高学年の子にはどんな変化が見られますか?

宮島先生:ちょうど4年生から、ペアとしては上の学年になるのですが、それまで自分が面倒を見てもらったことを、今度は「下の子の面倒を見るためにしっかりしなきゃ」という意識に変わっていきます。特に6年生に関しては、卒業する前に6年生が5年生にバトンタッチをしていくための集会があるのですが、その中で、1年生に対してどう接したらよいか、ということをレクチャーするような場面もあります。6年生自身も、自分が1年生の時にしてもらったことを覚えており、「今度は自分がする番だ」という意識が自然に出てくるようです。

他校でも「縦割り活動」は行っていますが、年に数回一緒に遊んだり給食を食べたりするだけで、どうしても、よそよそしい感じになってしまうことが多いんです。ところが、本校では日頃から接していますので、異学年がすごく自然な形で交流できていると思います。あとはやはり、下の学年の子はそれを見て育ちますので、それがいろいろな面でいい影響を及ぼしていると思います。

――ペア活動以外で特色ある学校行事や、課外活動、クラブ活動はありますか?

宮島先生:農業に関する体験が豊富にある点も特徴です。2年生では学校農園で『いも掘り』を行います。本当は植えたり育てたりできれば良いのですが、地域の方が栽培をしてくれたものを、収穫体験する、ということを行っています。ほかにも、玉ねぎや落花生など、普段あまり経験できないようなものの収穫体験も、地域の方の協力のもとで行っています。

クラブ活動については『早朝特別クラブ』があり、今年はマーチングバンドクラブが週3日間活動しています。ほかにも季節的なもので、タグラグビーの早朝クラブなどもあります。授業の中で行われるクラブですと、地域のボランティアの方が指導に参加してくれているという点が特徴になっています。野球クラブについては、地域の少年野球チームを教えていた方が指導してくださっていますし、和楽器クラブの琴の指導や、港南区独特の『ファジーバレー』というスポーツのクラブにも、地域の方が参加してくださっています。ファジーバレークラブは、先日の区大会に本校から2つのチームが出場しましたが、ともに優勝、準優勝という成績を収めています。これだけ多くの方がクラブ活動の指導に参加してくださっている学校というのは、珍しいかもしれません。

校庭
校庭

――学習面において、特色ある授業方法や、学力向上のための工夫などがありましたら教えてください

宮島先生:以前は『授業力向上推進校』ということで、横浜市から指定を受けていましたが、指定が終了した現在でも、子どもたちの学力の向上を図るという基本的な姿勢は変わっていません。これに関連して、昨年と一昨年は算数の研究を進めましたが、来年度は区の道徳教育重点推進校に指定される予定ですので、道徳教育にはすでに今年から積極的に取り組んでいます。そのほかの教科に関しても、「まずは授業ありき」という方針で、授業を改善していく中で学力向上につなげていく、ということが基本的な考え方になっています。

校内の様子
校内の様子

中1ギャップをなくすための小中連携

――「横浜市立笹下中学校」との小中一貫教育に関連する取り組みについて教えてください

宮島先生:笹下中学校区は本校と、南台小学校、上大岡小学校の1中3小という構成になりますが、小中一貫教育のカリキュラムについては、まず、中学校の先生が小学校に来て、6年生に授業をするということを年2回行っています。 中学校の先生は教科ごとに分かれて、まとまって来られるのですが、今年は数学の先生に来てもらい、グループごとに1人先生が付くような、贅沢な授業が行われたということもありました。

こういった取り組みを通して、「中学校に行くと、実際にこういう先生に会えるんだな」「こういう授業をするんだな」ということが、感覚的に理解でき親しみを持てる、という部分があるのではないかと思います。

じつは子どもたち以上に影響が大きいのが、先生同士の交流が生まれることかもしれません。授業の後には、必ず小中の先生が一緒に振り返りをしていますし、逆に小学校の先生が中学校の授業を見に行き、見学の後、各教科ごとに分かれて、小中一貫教育のカリキュラムについて話し合いを行ったりしています。教員同士が懇意になることで、たとえば、「あの子が心配だったんだけれども、中学校に行ってどうだったのかな?」ということも、気軽に中学校の先生に聞くことができますし、そういう関係が作れているというのが、一番大きな効果かと思っています。

もちろん、小学校の先生から中学校の先生へ、子どもの情報をしっかり引き継ぐようにしています。小学校だけ、中学校だけ、というわけではなくて、小学校と中学校が繋がった中で、その子の成長を見守っていくという方針です。ですので最近は、“中1ギャップ”と言われるような問題はほとんど聞かなくなりました。そういった意味でも、本校と笹下中学校の一貫教育というのは、うまくいっていると思います。

校舎と校庭
校舎と校庭

街の学校として地域とともに子どもを育てる

――地域の方との交流、連携について教えてください

宮島先生:子どもたちと地域ということですと、クラブ活動や学校農園、登下校時の『見守り隊』が主な連携になります。学校と地域とのつながりということですと、『日下地域づくり会議』という、街で活動されている方が、月に1回集まる会があります。ここ数年は、『日下地域づくり会議』に学校として参加する形をとっています。これを通して、地域と情報交換をしたり、学校の考えを伝えたり、という連携もしています。

また、横浜市には『はまっ子』と呼ばれている放課後児童クラブ(日下小学校では「キッズクラブ」)がありますが、こちらの卒業生が『SKY』というボランティア組織を作っており、地域のクリーンアップをしたり、地域のお祭りに太鼓で参加したり、ということもしています。小学校を出てしまえば、それっきりになってしまうことが多いですが、卒業後も地域のために活動しようという子がたくさんいるのは、うれしいことですね。

地域の大人の方も、やはり歴史的に古い学校ですので学校と関わりのある方が多く、非常に協力的ですし、『街の学校』として好意的に見ていただいているというのは、常日頃から感じています。

サンモール洋光台
サンモール洋光台

――最後に、周辺の街の魅力についてお聞かせください

宮島先生:やはり、昔からある地域ということで、地域の方々が温かい目で子どもたち見てくださっているという点が、一番の魅力です。もっと広い地域で見れば、比較的自然環境も豊かですので、子どもを育てる環境としては良いと思います。

また最近、学区内で縄文時代頃の遺跡が発見されました。そういった観点からも、この地域は大昔から、暮らしやすい環境、安全な環境があったのかな、とも感じています。今と違ってどこを選んでもいい時代に、「ここはいい場所だ」と感じて、暮らしたんでしょうから。ですから、住む環境としては、申し分のない場所なのではないでしょうか。

まとめ

いかがだったでしょうか。令和の時代を過ごす子どもたちにも、明治時代から残る貴重な郷土資料など、世代を越えた背景を持ちつつ、伝統と現代的なシステムを取り入れた教育を実現している『横浜市立日下小学校』。地域一環となった見守りや情報交換を通じた地元住民との交流も、現代教育には重要な経験といえます。横浜エリアは観光だけでなく、美術館や博物館など、文化施設も豊富。これから横浜への移住と、子どもの教育を考える際の参考にしていただければ幸いです。

宮島章先生
宮島章先生

横浜市立日下小学校

校長 宮島章先生
所在地:横浜市港南区笹下3-9-1
TEL:045-843-7838
URL:http://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/hishita/
※この情報は2016(平成28)年11月時点のものです。

“街の母校”として地域と共に歩んできた教育活動とは/横浜市立日下小学校(神奈川県)
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