副園長 山田有希子先生

教員を養成する大学の附属幼稚園として保護者とともに幼児教育の推進に寄与する/東京学芸大学附属幼稚園(東京都)


東京学芸大学、東京農業大学、法政大学のキャンパスがそろい、文教都市としての特性を持つ小金井市。JR「新宿」駅から「武蔵小金井」駅まで約20分でアクセスできる利便性と「小金井公園」に象徴される豊かな自然環境に恵まれた魅力あるエリア。

教員をはじめ、多方面に優秀な人材を輩出する「東京学芸大学」も小金井市に拠点を置く大学のひとつで、幼稚園、小学校、中学校と一体となった教育活動が行われている。

今回は「東京学芸大学附属幼稚園 小金井園舎」を訪ね、歴史や概要、特色ある教育活動についてお話を伺った。

園児・保護者・先生による合作タペストリー
園児・保護者・先生による合作タペストリー

1957(昭和32)年の開設より65年を迎える「東京学芸大学附属幼稚園 小金井園舎」

――「東京学芸大学附属幼稚園 小金井園舎」の沿革および現在の概要(園児数、学級数など)について教えてください。

山田先生 小金井園舎は1957(昭和32)年の開設より65年になります。もともと文京区小石川に附属幼稚園がありましたが、東京学芸大学が小金井へ移転統合される際に開設されたのがはじまりです。

幼児教育を専門とする大学の先生方が、学生のために地域の子どもたちを集めたことが始まりと聞いています。創立間もない頃からいわゆるインクルーシブ教育が行われてきたのが大きな特徴です。多様性を尊重しながら子どもたち一人一人の教育的ニーズを把握し、共に学べる教育活動を行っています。

また教員を養成する大学の附属幼稚園ということで、幼稚園教育、教育実習、教育研究・教員研修、社会貢献という4つの使命を根幹としています。

「東京学芸大学附属幼稚園」の教育目標
「東京学芸大学附属幼稚園」の教育目標

1学級は定員25名で3歳児、4歳児、5歳児それぞれ2学級ずつ、約150名の子どもたちが一緒に生活しています。

幼稚園での生活は毎朝8時50分に登園してから13時30分まで(水曜日は~11時30分降園)、学級全体の活動と、個人の遊びを大切にしています。興味と遊びを結びつける工夫をしており、個性を尊重した遊びを通して「豊かな感性」「想像力」「主体性」「思いやり」などたくさんのことを学びます。

近年の時流の変化は目まぐるしく、いつの時代にも増して、人間らしい「豊かな感性」と、自ら考えて行動することができる「主体性」のある人材が求められていると感じます。幼児期では脳などの中枢神経系の約8割が完成すると言われており、整った環境と自由な雰囲気の中で、子どもたちの個性を尊重したのびのびとした教育は、これらを身につける土台として非常に重要だと考えています。

子どもたちの個性に合わせた教育体制への意識

――教育目標や特に力を入れて取り組んでいる教育活動について教えてください。

山田先生:教育目標に、「感動する子ども」「考える子ども」「行動する子ども」の3つを掲げています。一人一人の個性を活かしながら育てていくことを大事にしており、園の運営としては学年を基本としながらも、全教員が学年や学級を越え全園児をみるということを意識しています。

5歳児の学級は「つき」組と「ほし」組
5歳児の学級は「つき」組と「ほし」組

子どもたちのことはもちろん、保護者の方のこと、また先生同士のことも含めて常に情報共有することで、子ども一人一人に合わせた柔軟なフォローができるような体制づくりを心がけています。また、本園は「体験」を通して学ぶことを大事にしており、とくに「遊びの体験」を通して人やものに自ら興味を持ち、関わる力を育てています。

大学の先生や幼稚園の教員を目指す学生との関わりも

――大学の敷地内に幼稚園があることの利点や大学と協力して行っている取り組みがあれば教えてください。

山田先生 まず緑豊かな環境が身近にあることは良い点です。四季折々の自然だけでなく大学の敷地内には農場もあるので、農場を活用した教育活動にも取り組んでおり、農場の方に園まで来ていただいて農作物を育てたり、稲作などにも力を入れています。

特に、年長では一年を通してこの稲作に取り組む課程があり、先日行われた稲刈りでは2〜3kgのお米を収穫しました。また今の時期は畑に大根が植えられていますが、季節によってミニトマトやオクラ、ピーマン、ナス、じゃがいもなどさまざまな野菜を育てています。園内には小鳥やウサギ、アヒル、ニワトリといった動物もおり、動物の飼育や農作物の栽培を経験することも学びにつながっています。

年長の一年を通して取り組む稲作
年長の一年を通して取り組む稲作

また本園には、教員を目指している学生や大学の先生の出入りがあります。幼児教育コースを専攻する学生は、実習期間だけではなく大学4年間を通して教員養成をしていくことを大事にしており、授業や自主的な来園、実習、卒論の協力などの場面で関わりがあります。また、大学の先生と共同研究を行うこともあります。私たち教員にとっても新しい知見や情報を得る機会が多い点は他にはない特徴だと思います。※幼稚園と大学との連携による研究は、本園のホームページでも一部ご紹介しております。※

大学と協同し、教育と真摯に向き合っている東京学芸大学附属の質の高い教育力と、長年にわたる研究の蓄積、そして優秀な教員と、四季の移ろいを全身で感じることのできる緑豊かなキャンパスというこの上ない環境を最大限に活かせる点が、本園の大きな利点です。

行事は日常の延長という考え方を大事にした取り組みの姿勢

――一年を通して行われる活動や行事についてご紹介ください。

山田先生 大きな行事としては入園式から始まって、年長さんによる田植え、夏季保育。2学期になると運動会、稲刈り、表現の会があって、3学期の卒園式を迎えます。園外保育や避難訓練・安全指導などは定期的に行っています。

行事では「行事は日常の延長」という考え方を大事にしています。単発のイベントごとで終わらないように、子どもたちの日常の生活とつながりを意識しています。

例えば、運動会の年長の種目にリレーを入れていますが、目的を走ることや勝負に終始せず、「抜かすときには外側から」などのリレーのルールの理解も狙いとしていました。このように各年度の子どもたちに応じて、年齢に合わせた注意点やルールを守り、友達とのつながりの中で「体験」を重ねることを大切にしています。

園外保育では「小金井公園」や「井の頭自然文化園」などによく行きます。特定の場所に行くことや行事をすることが目的ではなく、行事を通してどういった教育活動を行うかが大切なので、その年の状況に合わせて新しい要素を取り入れたり、内容を変更したり、工夫しながら実施しています。

様々な遊び方をわかりやすいイラストで伝える
様々な遊び方をわかりやすいイラストで伝える

保護者向けの参観日では、特別なことをするのではなく、できるだけ普段どおりの日常を見てもらうようにしています。参観日というよりは小学校でいうところの学校公開日に近いです。学年によっては時間を限定せずいつ来園いただいても構わないようにしており、普段のお子さんの様子を見てもらっています。

行事というのは当日の様子ももちろん大事ですが、それまでの取り組みがどうだったかということも保護者の方には伝えます。このように、その後にもつながっていく「日常の延長」を大事にしてもらいたいと考えております。

一人一人をみることと集団としてみることのバランスが大事

――先生が子どもたちと接するうえで大切にされていることや想いをお聞かせください。

山田先生 一人一人をみることと集団としてみることのバランスです。育ち、個性、発達もそれぞれ異なるので、その子に応じた取り組み方であったり、表し方を大事にしています。

また集団においては、学級や学年の一員として過ごすなかでの心地良さや安心感、自信を感じる経験は子どもたちの成長に強くつながるため、子どもたちのどんなに小さな体験も見逃さないことを大事にしています。こういった思いは教員だけではなく、保護者の方とも共有・共感している部分だと感じています。

園内には木造のユニークな遊具も
園内には木造のユニークな遊具も

園の考えや取り組みを共有・共感する保護者の社会貢献

――幼稚園の考えや取り組みに対して保護者の方の理解も浸透しているようですが、保護者との関わりはいかがでしょうか?

山田先生 日本の幼児教育に貢献し、保育の質がを保つために、本園が文部科学省のお仕事をしていたり雑誌に論文を寄稿するなどの取り組みができているのはまさに保護者の方の理解、協力があってのことです。そういう意味でも保護者の方には有形無形の貢献を常にしていただいています。

保護者の方々によって植えられたお花
保護者の方々によって植えられたお花

「論文」などのお話となると、少々ハードルの高さを感じますが、あくまで私たちは一教員であり、一般人です。できないところはできないと言い、他の人に頼って助けを求めるなど、教員も保護者の方もそうあるべきだと思っています。

私たち教員も、子どもたちに対して常にこうあるべきという固定観念を持つのではなく、「子どもが子どもでいられる時間を保障する」ことを軸とし、臨機応変に行動する。それこそ、子どもたちとお互いを尊重し合える関係に繋がっていくと考えております。

子どもたちの作品を載せた「幼稚園要覧」
子どもたちの作品を載せた「幼稚園要覧」

公園も多く緑に恵まれた環境。公共交通機関も充実

――最後に周辺の子育て・教育環境について教えてください。

山田先生 このあたりは公園や緑も多く、子育てをするのに過ごしやすい環境だと思います。本園にお子さんを通わせている保護者の方の中には学生さんによる活動やイベント、ワークショップなどに参加されている方もいらっしゃいますし、大学の中で子どもも保護者も過ごせるのはとても良いことじゃないかと思います。

生活環境としてみた場合は駅も近いですし、バスもたくさんありますので生活に困ることは無いと思います。JR線と西武線がそれぞれ使える環境なので都心方面にも立川、多摩方面へもいろんな場所に行くことができる点も魅力の1つだと思います。

東京学芸大学附属幼稚園小金井園舎
東京学芸大学附属幼稚園小金井園舎

東京学芸大学附属幼稚園 小金井園舎

副園長 山田有希子先生
所在地:東京都小金井市貫井北町4-1-1
電話番号:042-329-7812
URL:http://www.u-gakugei.ac.jp/~kinder/
※この情報は2022(令和4)年10月時点のものです。

教員を養成する大学の附属幼稚園として保護者とともに幼児教育の推進に寄与する/東京学芸大学附属幼稚園(東京都)
所在地:東京都小金井市貫井北町4-1-1 
・幼稚園
電話番号:042-329-7812
https://www.u-gakugei.ac.jp/~kinder/
・小学校
電話番号:042-329-7823
https://www.u-gakugei.ac.jp/~kanesyo/
・中学校
電話番号:042-329-7833
https://www.u-gakugei.ac.jp/~gkoganei/