東三鷹学園 三鷹市第一小学校インタビュー

地域の人々が一丸となって学校をつくる、三鷹で最も歴史ある小学校/東三鷹学園 三鷹市第一小学校 岡田 実 先生


人見街道近くにある「東三鷹学園 三鷹市第一小学校」は、かつてまだこの界隈が畑ばかりだった時代、街道筋に住まう人々や、周囲の農家の子弟を集めて学ばせていた「時習校」「仙流校」「明月校」という3つの寺子屋を母体に作られた。当初の名前は「東三鷹尋常小学校」。それから1世紀以上を経る間に、「東三鷹尋常高等学校」、「三鷹第一国民学校」と名前を変え、戦後「三鷹市立第一小学校」となった。その校名の通り、三鷹市で最も歴史のある小学校である。
今回はこちらで2009(平成21)年から校長を務められている岡田実先生を訪ね、学校の歴史や特徴、地域の魅力などについて、お話をうかがった。

三鷹市内でいちばん歴史のある小学校

「三鷹市立第一小学校」外観
「三鷹市立第一小学校」外観

―まず、学校の沿革・概要について教えてください

岡田校長:本校は「三鷹市立“第一小学校”」という名前の通り、三鷹市内では一番古い学校となります。創立は1892(明治25)年です。
もともとは、この辺りに3つあった寺子屋が一つになって、尋常小学校ができたということです。最初は「古判塚」という場所にあったそうですが、これは、今でも近くに「古判塚公園」という公園がありますので、その辺りのことかと思います。現在の場所に移ったのは1904(明治37)年のことです。

インタビューに応じてくださった岡田校長先生
インタビューに応じてくださった岡田校長先生

それだけ長い歴史のある学校ですから、学校周辺の地域の方は、ほとんどが本校の卒業生です。3代、4代にわたってこの地域に住み、本校に通われている家庭も多いです。児童数は現在630名くらいで、1学年は3、4クラスほどです。規模としては三鷹市内でも大きいほうでして、第二小学校、第六小学校に次いで、人数が多い小学校かと思います。

―現在「東三鷹学園」として、「第六中学校」と「北野小学校」と共に小中一貫教育を行っていますね。第一小としての目標と、学園全体としての目標、その実現に向けた取り組みなどを教えてください。

岡田校長:本校の教育目標としては、「ゆたかな心をもつ子ども すすんで学ぶ子ども 健康でたくましい子ども」を掲げ、これは昔からずっと変えておりません。いわゆる「知徳体」に沿った目標ですね。

学園目標
学園目標

一方で、「東三鷹学園」全体としての目標は、「豊かな心をもち、地域と共に生き、人間力・社会力にあふれ、国際社会に貢献する児童生徒の育成を目指す学力、人間力、社会力をはぐくむ」ということで、より細かなところまで踏み込み、時代に見合ったものにしています。

三鷹市では、この「人間力」と「社会力」ということについて、市内全校の共通した目標にしておりますが、本校では、さらに「学力」を加えている点が特徴です。また、この目標の中にはありませんが、「人権」も大切にしておりまして、これは(同じ学園の)北野小も第六中も、生活指導の根幹として共有しています。

今は学校と保護者、地域が一体となって、この目標に向けて邁進しているところです。

三鷹市が取り組む小中一貫教育のメリットと、「東三鷹学園」の特色

―「東三鷹学園」の一貫教育の特徴とはどのような点でしょうか?、

岡田校長:三鷹市は、ほかの市区とは違い、「同じ小学校の子どもは全員同じ中学校に進学する」という原則がありますので、中学校区ごとに「施設分離型」の「学園」、つまり「施設分離型小中一貫教育校」を作っておりまして、その中で、「カリキュラム連携」を行っています。「東三鷹学園」は、本校のほか、北野小学校と第六中学校で構成されています。

校内風景
校内風景

この学園の中では、小学校の教員が中学校に行き、中学校でTT(チームティーチング)をすることもできるように、また、その逆もできるように、制度が作られており、それが一つの特徴になっています。

たとえば本校からは、週に10時間程度、元6年生の担任教師等が第六中に足を運んで、中1の数学の授業に入っています。逆に中学校からは、北野小と本校でそれぞれ週に5時間、合計が10時間になるように、体育の先生が来て、体育の授業に入ってくれています。これは三鷹市内の小中一貫教育において共通の特色ですね。

―教員だけではなく、子どもたち同士の連携や、共同活動などもあるのでしょうか?

岡田校長:もちろん、子どもたち同士の、「小・小」の交流や、「小・中」の交流の機会も多く持っています。たとえば、「自然教室」では通常、それぞれの学校単位で実施していると思いますが、「東三鷹学園」では、本校と北野小の子どもたちが一緒に、2校の子どもが混ざった混成グループを作って活動しています。こういった「小・小」の連携については、4・5・6年生で主に行っています。

学園全体での掲示
学園全体での掲示

3年生以下については、「ふれあい学習」と称しまして、第六中の生徒に小学校に来てもらい、「ミニ先生」というものを行っています。中学1・2年生が5、6人程、各クラスに入って、半日間、小学生の勉強を見てあげたり、丸つけしてあげたり、一緒に遊んだりという形で、授業や生活のお手伝いをしながら過ごしてくれます。これは小学生の子どもたちが、中学生を身近に感じられる機会になっていると思います。

―小中一貫教育実施校になって、どのような変化を感じらますか?

岡田校長:まずは(公立小から公立中の)進学率ですね。これについて、三鷹市では8割を目指しているのですが、本校は今年度8割を超えました。これは連携の効果が大きく出ている部分ではないでしょうか。

授業風景
授業風景

それから、「中1での不登校の出現率がほぼゼロになった」というのも、この連携の効果だと思っています。教員同士の連携でいろいろな情報が交換されるようになったことや、中学1年のクラス分けの際に小学校の教員が参加して、然るべき配慮を行うなど、小・中の教員が一丸となって対策を講じてきたからでしょう。連携を取るようになって、子どもにとってのデメリットは無いです。大人は大変な部分もありますけれど、まず大事なのは子どもたちですからね。

―「東三鷹学園」では「ユニバーサルデザイン」を積極的に取り入れているそうですね?

岡田校長:昨今は「学力」の基本として「言語能力」がとても大事にされてきている風潮ですが、実はこの「言語能力」というのはすごく幅広く、かつ漠然としたものですから、何かやろうと思っても、なかなか手がつけにくいものです。ですから、それをもっと根本のところに絞ってみようということで考えたのが「ユニバーサルデザイン」の導入です。

「ユニバーサルデザイン」とはそもそも何かと言えば、「差異や障害を持った人が、そういうことを関係なく快適に暮らせる社会」ということです。これを学校に置き換えれば、「いろんな子どもたちがいるけれど、どの子どもたちでも暮らしやすい、参加しやすい学校」ということだと思うんです。そしてそういう学校は、「どんな子にとってもいい学校」になります。この考え方が根本です。

どちら側を通るべきか、が一目でわかる
どちら側を通るべきか、が一目でわかる

たとえば「右側通行」と言葉だけで伝えてもなかなかできないですが、階段に矢印を貼ると、自然とできるようになります。駅などの階段と同じですね。物の置き場についても、棚に「ここに何を何個置く」ということを写真付きで書いて貼れば、子どもたちは自然とそこに置くようになります。

授業に関しても、初めに黒板を見ると「今日やること」が書いてあって、最後には「今日わかったこと」が書いてある。そういう授業は、誰にでも分かりやすい授業になるはずです。また、黒板にいろいろなものを貼ると集中力が削がれてしまうので、掲示物は教室のサイド側に貼るなど、そうした細かいところも工夫しています。そうすることで、子どもはすごく集中して取り組むことができます。

こうした「ユニバーサルデザイン」の考え方を、生活や授業の場面はもちろん、学校行事などにも取り入れながら、改善しています。

文字情報だけでなく写真付きのインデックス
文字情報だけでなく写真付きのインデックス

―第一小学校“ならでは”の魅力だと思うのはどのようなところですか?

岡田校長:本校の最大の特徴は、「大人がたくさん入っている」ということです。保護者も、地域の方も含めてです。昨年は授業のサポート、読み聞かせのボランティア、行事のお手伝いなど、合わせてのべ1,400人ぐらいの大人に関わっていただきました。これは他校と比べてもかなり多い数字です。また、これ以外にも、課外クラブなどで多くの方に関わっていただいています。

校内風景
校内風景

学校の廊下を教職員以外の大人が歩いているというのも本校ではよくある光景です。これは私の考えですが、「子どもの安全のためには、大人の目が多いほうが良い」ということを常々思っていまして、セキュリティ云々よりも、とにかく多くの大人の目で、子どもを見守ることを大切にしています。ですから学校もオープンにして、色々な大人に入ってきてもらえるようにしています。

―施設など、ハードの面で何か特徴はありますか?

岡田校長:本校ならではということですと、芝生が校庭に入っているのが自慢でしょうか。校庭の周りの部分に、千平米くらい天然芝が入っていまして、子どもたちはそこで寝転がったり、遊んだり、いろいろしています。これで怪我等もだいぶ減りましたね。

芝生を保護するための様々な取り組みや掲示物がある
芝生を保護するための様々な取り組みや掲示物がある

芝生がある学校は三鷹市内で9校ですが、東三鷹学園はそのうちの3校でして、中でも本校は市内で最初に芝生が入った学校です。私も実は、「芝生の親方」ということで、東京都の認定を受けているんですよ。

たくさんの大人が関わり、子どもたちの成長を見守る環境

―課外活動として「一小スマイルクラブ」が人気ということですが、これはどのようなものでしょうか?

岡田校長:これは、三鷹市が「地域子どもクラブ」と言っているものの一つで、「放課後の子どもたちの居場所を作る」という国の方針に沿って各学校に設置されているものです。学校ではなく地域の方やPTAが主体になって「地域子どもクラブ実施委員会」を組織して、そこが、いろいろな取り組みを行っているものです。

スマイルクラブの竹工作教室での作品
スマイルクラブの竹工作教室での作品

具体的な内容としては、校庭開放を行ったり、スマイルクラブが運営するクラブ活動ということで、ソフトバレーボール、星空探検隊、科学教室、空手、囲碁、生け花、読み聞かせ、ブックトーク、俳句、書道、ストリートダンス、以前からあった「一小スポーツクラブ」など、本当にいろいろなクラブが行われていて、本校の大きな特色になっています。スマイルクラブには年間でのべ3万人の子どもたちが参加していますので、かなり盛んと言っていいでしょう。

もともと校庭開放しか行われていなかった状態から、5・6年かけて作ってきたものです。保護者と地域の方が運営し、コーディネーターの方と一緒に、講師の方とつないで頂いています。講師は保護者、地域の方、大学の先生、その道のプロの方やプロの“卵”の方など、さまざまな方にいらして頂いています。もちろん、指導者以外に安全管理者も付いていますので、(保護者の引率など無くても)子どもだけでも安心して参加できるようになっています。

―「おやじの会」の活動も非常に活発ということですね

岡田校長:そうですね。いわゆる「おやじの会」をうちでは「ダディ・ベアの会」と言っていまして、この会には「大人が楽しむ部分」と、「子どもを楽しませる部分」があるわけですけれども、このうち「子どもを楽しませる部分」を、スマイルクラブに属しています。

2015(平成27)年夏に行われた「学校にとまろう」行事の記念写真
2015(平成27)年夏に行われた「学校にとまろう」行事の記念写真

「ダディ・ベアの会」でやっているスマイルクラブの取り組みでは、「みたかキャンドルナイト」というのが最も大きなものです。これはキャンドルを3,500個ぐらい校庭に並べて絵を描き、最後は花火を上げて楽しむ、というもので、2009(平成21)年から始めて、今では冬の恒例行事として、たくさんの地域の方にも来ていただく大きなイベントになりました。このほかにも、親子でうどんを作る会や、護身術を体験する会、夏休みに学校の校庭でキャンプをする「学校に泊まろう!」などのイベントも行っています。

みたかキャンドルナイトの様子
みたかキャンドルナイトの様子

一方で、「おやじ同士が楽しむ機会」というのも多くて、仲良くしている祖師ヶ谷のおやじさんたちと一緒になって、お祭りに露店を出して軍資金集めをしたり、「新川宿町会」と提携して、町会のさまざまなお手伝いもしています。その代わりに公会堂をお借りして、ダディ同士の親睦会を開いたり。とても楽しく活動しているようです。

昼間は働きに出ていて希薄になりがちな町会との接点を、ダディの会の活動を通して町会に参加・貢献でき、町会としても、会が若返って活性化されますから、とても良い形だと思うんです。こういうおやじの会というのは、全国的にも珍しいのではないでしょうか。

―最後に、ここ三鷹市新川地域の魅力について教えてください

魅力ということですと、まず、「緑が多い」ということが第一ですね。決して駅から近くはない地域なんですが、その分、仙川の周りに行けば豊かな緑あったり、複数の公園もあったり。子どもたちが遊ぶ場所には困らないですね。

教育環境としても、本校があり、六中もすぐ側にあります。「東京都立三鷹中等教育学校」などもあるので選択肢になるでしょう。安価で質の高い公教育が受けられる地域ということでは、申し分無いんじゃないでしょうか。近くを歩けば農産物の自動販売機などもありますし、「杏林大学医学部付属病院」や「野村病院」などの大きな病院も近くにあって医療面も良く整っていますね。

三鷹の農産物に関する掲示物
三鷹の農産物に関する掲示物

そして、地域連携が非常に進んでいるので、子どもたちを、地域が温かく見守ってくれているということ。これは本当に大きな魅力だと思います。地域の目が行き届いている中で、安心して子育てができる。そんな地域だと思っています。

岡田 実 先生
岡田 実 先生

今回お話を聞いた人

三鷹市立第一小学校校長/東三鷹学園学園長
岡田 実 先生

三鷹市立第一小学校

所在地:東京都三鷹市新川6-4-32
電話番号:0422-43-1177
URL:http://mitaka-schools.jp/ichisho-es/
※この情報は2016(平成28)年2月時点のものです。

地域の人々が一丸となって学校をつくる、三鷹で最も歴史ある小学校/東三鷹学園 三鷹市第一小学校 岡田 実 先生
所在地:東京都三鷹市新川6-4-32 
電話番号:0422-43-1177
http://www.mitaka-schools.jp/ichisho-es/