伝統を育む街で新しい懐石スタイルを。/「露庵 菊乃井 木屋町店」代表 村田喜治さん
創業は1926(大正元)年と90年の歴史を育む京都の老舗料亭「菊乃井」。「菊乃井」の名は、豊臣秀吉の妻・北政所が茶の湯に用いたとされる東山の懐に湧く名水「菊水の井」を、代々守ってきたことに因んで屋号に用いられたことに由来している。創業以来、現在で三代目となる料亭「菊乃井」。現在の社長の弟である村田喜治さんが暖簾分けを引き継いだ「露庵 菊乃井 木屋町店」に訪れた。同じ「菊乃井」であっても東山の本店とは、少し趣の違うカジュアルなスタイルで楽しめる本格懐石をコンセプトとしている。「露庵 菊乃井」代表の村田喜治さんに店と京の街についてお話を伺った。
大正元年創業から受け継がれる京都の伝統
――まず、お店の沿革からお話をお聞かせください。
元々は東山で1926(大正元)年に創業した京都の老舗料亭「菊乃井」から始まっています。現在の「露庵 菊乃井」があるこの土地で、当初は「寿司菊」という寿司屋、「三橋楼」というすき焼き屋、「菊亭」というおでん屋をやっていましたが、1976(昭和51)年に私の兄が修行から帰ってきたのを機に「菊乃井 木屋町店」として懐石料理を始めました。2011(平成23)年に、この木屋町店を暖簾分けという形で、兄から私が受け継ぎまして、それが現在の「露庵 菊乃井」となっています。
木屋町で懐石料理を楽しむという日常
――お店のコンセプトを教えて頂けますか。
本店は全室個室の料亭になっていますが、この木屋町の「露庵 菊乃井」は、かしこまり過ぎずに、もっとカジュアルに懐石料理を楽しんでもらおうというのがコンセプトになっています。座敷でなくカウンターで本格的な懐石料亭を楽しめる、その先駆けのような存在です。
――店名「露庵」という茶室があるとお聞きしていますが。
京都の一流料理店では茶室が作るのが”夢”であり、また、ひとつのステータスのようになっております。この「露庵 菊乃井」を作るにあたって、数奇屋大工の第一人者として有名な中村外二さんに茶室や内装を手掛けていただきました。店内の一階にはカウンター席、二階には個室と茶室を設けております。
――食材や料理のこだわりを聞かせてください。
食材に関しては地産地消で、野菜は契約農家から仕入れた、美味しい新鮮なものを使用しています。魚は毎日、淡路から瀬戸内の魚を届けてもらっています。当店の料理に合うように伏見の日本酒を「菊乃井」オリジナルで作っていただいています。料理へのこだわりは”情・才・気”と、「菊乃井」創業以来のコンセプトとなっている言葉があります。これは「愛情があって。技術を使って。パワーのある料理」という意味があります。これが代々引き継がれてきた「菊乃井」の料理へのこだわりです。
またお客様に対して「Noと言わない」。どんなリクエストにも応えるようにし、また応えられる努力をする、ということを心がけています。外国人のお客様も多いですし、最近ではアレルギー関連に体が敏感なお客様もいらっしゃいます。そうしたお客様の事情に配慮して、料理を組み立てさせていただいています。
地元を愛する心と、新しい価値を見据えて
――お店に来られるお客様は、どのような方が多いですか。
カジュアルに懐石料理を楽しんでもらうという店のコンセプトで、カウンター席も用意させていただいておりますので、若いお客様にもよく御利用していただいておりますし、外国人のお客様も多いです。四条に近い立地で若者も多いことに加えて京阪、阪急の駅からも近いですので、気軽に御利用していただいております。
――地元の方との繋がりはいかがでしょうか。
やはり地元の食材を使用していますので、店同士の繋がりに限らず、そこから回っていろんな方と繋がっていきます。例えば、食材を提供していただいている向こう様から、「露庵 菊乃井」を紹介していただいたり、当店で食事をしていただくお客様から、お味噌や野菜やお漬け物のことを尋ねられたりもします。どこの包丁を使っているか、なんてこともお客様から尋ねられたりもしますが、そういう食事だけに留まらないお話をすることで、地元と地元以外の方ともどんどん繋がりが広がっていきます。地元・京都のものだけを使うから狭い付き合いなのではなくて、地元・京都を大切にするからこそ、より多くの人との繋がりが広がっていくのだと思います。
――伝統ある京都の街でお店を続けていく思いと、また京都においてどのようなお店でありたいと考えておられますか。
新しいことも取り入れなくてはならないとは考えていますが、見せかけだけの流行りには流されないようにしたいと考えています。お客様からはカジュアルに利用していただいていても、料理は先代から継承してきたことをしっかりと土台に据え、一本筋は通していきたいと思います。
逆に言いますと、伝統の中にも「菊乃井」らしい新しさを提案できる店でありたいと、そういう努力を店の皆と行っていきたいと考えています。
――最後にお店の周辺の魅力を教えてください。
四条通りの歩道が拡幅されて以来、観光に来られる方も動きやすくなって、街並みもより魅力的になってきました。四条は若者も多くて活気のある賑やかな観光地という雰囲気ですが、少し離れて五条に行けば、落ち着いた雰囲気になり、先斗町では伝統のあるお店と、この周辺ではいろんな京都の街の顔を見ることができると思います。また、京都の人は、案外、考え方が硬くないです。老舗の店でも、若者に合わせて新しいものを作っていくような柔軟なところもあります。伝統の中にも新しさがあるのは、そんな柔軟な考え方があるためだと思います。そういった革新的な部分は、五条から四条、そして先斗町にかけた地域の魅力だと思います。
露庵 菊乃井 木屋町店
代表 村田喜治さん
所在地 :京都市下京区木屋町通四条下ル斉藤町118
TEL :075-361-5580
URL:http://kikunoi.jp/store/roan/
※この情報は2016(平成28)年9月時点のものです。
伝統を育む街で新しい懐石スタイルを。/「露庵 菊乃井 木屋町店」代表 村田喜治さん
所在地:京都府京都市下京区木屋町通四条下ル斉藤町118
電話番号:075-361-5580
営業時間:11:30~13:30(最終入店)、17:00~20:30(最終入店)
定休日:不定休(年末年始は休み)