良い伝統と新しい教育方針を融合し、 時代に合った幼稚園のカタチを目指す/浜松中央幼稚園 園長 大野純平先生
1931(昭和6)年から営む「浜松中央幼稚園」。戦前からの老舗は浜松中心部に位置し、近隣住民をはじめ、「浜松」駅周辺で働く親たちの強い味方として支持されている。そんな「浜松中央幼稚園」は、現在三代目。2015(平成27)年に若い園長として、新しい幼稚園の形を模索する大野純平さんにお話を伺った。
幼少期から子どもへ教育の場をと、昭和初期に開園
――浜松中央幼稚園の沿革および、概要について教えてください。
大野園長: 「小学校へ上がる前の子どもたちへ教育の場を与えたい」という志のもと、1931(昭和6)年12月に、現在の地へ私の曽祖父が開園しました。1944(昭和19)年には戦災を受けまして、存続の危機に合いましたが、戦後の1946(昭和21)年に再建復興。紆余曲折がありながらも志を貫き通し、1982(昭和57)年に学校法人の認可を受けまして、「大野学園 浜松中央幼稚園」として歩みを進めてきました。定員数200名のうち、現在の園児数は150名弱。2歳半から受け入れており、6クラス設けています。
人としてのマナーをしっかりと身につけてほしい
――教育目標について、教えください。
大野園長: 開園当初から変わらずに目指すところは、「明るく元気な子供」を育むということ。重点目標としては、「やる気のある子・がまんのできる子・思いやりのある子」をテーマにしています。大人にとっては簡単なことのように思われますが、園児は本能のままに過ごしている世代ですから、言葉で伝えるだけでは理解ができません。よって、大切にしていることは「挨拶」です。「おはようございます」「いただきます」「いってまいります」「おやすみなさい」「ごちそうさまでした」「ただいま」という基本的な6つの言葉を重点的に教え、加えて「ありがとうございます」「ごめんなさい」の2つの言葉をプラス。まずは挨拶を通じて人間関係を円滑にできる子を育み、対人関係から園児自身に「やる気・がまん・思いやり」を感じてもらいます。ほか、生活面におき、食事のマナーや整理整頓など、卒園しても困らないように、人としての基本的な教育をほどこしていきます。
厳しさの時代から親しみやすさの時代へ
――教育者として職員の方たちが心掛けていることを教えてください。
大野園長: 「しつけの浜中幼」という職員同士の合言葉があります。こちらも開園当初から、曽祖父や先代の祖父である二代目まで、徹底したテーマとして行っています。1982(昭和57)年に学校法人となってからは、特にしつけや教育について厳しく指導をしてまいりました。よって、現在の親世代の方々にとってみると、「浜松中央幼稚園は厳しい」といった印象をお持ちだと思います。戦時中に2年間の休園がありながらも、開園からの年数は85年目、学校法人になってからは34年目です。開園当初から代々において大切にしてきたことが、果たしてこの平成の時代にフィットしているのだろうかということも考えます。私自身が三代目として担うこの幼稚園の園長として、開園当初から大切にしてきたことに加え、時代に合った「親しみやすさ」もテーマにプラスし、模索していきたいと考えています。
生き生きと過ごす、若手の先生たちと元気な子供たち
――職員たちや園児たちの雰囲気・特徴について教えてください。
大野園長: 臆することのない、積極的な子どもたちが多く見受けられます。きちんと挨拶もでき、教職員たちへ自分から声掛けができる。この幼稚園の教育方針が、子どもたちにきちんと伝わっているのではないかなと嬉しく感じています。
職員たちは20代の若手の女性が中心であることも特徴的です。開園当初の昭和初期から、女性が長く働くこと自体が難しかった時代を経てきました。結婚や出産のために、離職しなくてはならなかった時代であり、当園としては特に若手を強く希望していたわけではありませんが、自然と若手採用になっていた、というのが実情です。それが今の時代にも継がれている形となり、現在でも若手職員が中心であるという流れです。
また、子どもたちへ挨拶の指導をしているわけですから、教職員同士や外部から訪れる業者のみなさんへも自然と会話が生まれるような雰囲気になるよう、心がけています。外部の方から、「浜松中央幼稚園の職員さんたちは、いつも笑顔ですね」と言ってくださることを、嬉しく思っています。
ボランティアで行う「延長保育」が好評
――「浜松中央幼稚園」ならではの特徴について教えてください。
大野園長: 先に述べたように、まずは教育方針がしっかりとしているということ。そして、他校に比べ、比較的リーズナブルな入園費用を設定しています。特徴的なのは、保育時間は8時から15時までなのですが、17時まで延長保育としてお預かりを可能にしており、プラスの費用をいただかずに、ボランティアとして当園が行っていることです。理由としては、働く親たちの味方でありたいという気持ちからです。浜松街中という立地におき、駅周辺に勤務されている親御さんたちのお子様をお預かりするケースが高い幼稚園です。在住は遠方にもかかわらず、勤務する会社が駅周辺のために送り迎えがしやすいということで、ご利用いただくご家族も多くお見受けします。仕事先から慌てることなく、きちんとした教育者のもとで預かってもらっているといった安心感を与えてあげられたらと、先代からの方針です。
卒業生である園長が客観的に感じること
――園長ご自身も、「浜松中央幼稚園」の卒業生なのですね。ここで過ごしたことが、大人になってもプラスになっていると実感することはありますか?
大野園長: 当園は世襲制で、一代目の曽祖父から二代目の祖父へつないできました。父は会長ではありますが別の職業を営んでおり、私が三代目として祖父の後を継いだ形です。私が幼少期の頃にこの幼稚園へ入園したわけですが、園長の孫ということで、おそらく先生たちに非常なる気遣いをさせたのではないかと思います。私自身は子どもでしたので、そんな先生たちの思いはつゆ知らず、やんちゃに過ごさせてもらいました。
「やる気のある子・がまんのできる子・思いやりのある子」というこの幼稚園がテーマは、私の中にも息づいていると感じます。自我に目覚める前の幼児期に、「がまんのできる子」というテーマはとても難しいことだと思うのです。当時、上手にコントロールを先生がしてくださり、「まず、人の話を聞こう」といった、譲る行為は大人になっても自然にできていると思います。ここで過ごしたおかげの部分であるようでしたら、在校生や卒業生たちにも息づいていたらいいなと思います。
伝統行事で日本を感じ、自然ともたわむれる
――特別な行事について教えてください。
大野園長: 子どもたちに楽しんでもらえるよう、さまざまな年間行事をしています。5月に行う「節句の会」や7月の「七夕の会」、10月の「お月見の会」など、日本の伝統に触れる機会を設けています。
自然の恵みに感謝する心を養ってほしいと、秋には「いもほり遠足」が行なわれます。契約農園の閉鎖に伴い、今年からは遠州名産のさつまいも「うなぎいも」を生産する農家へ足を運ぶ予定です。浜松市はうなぎの養殖地として全国的にも名をはせておりますが、廃棄されるうなぎの骨や頭の部分を肥料として育てられたさつまいもを「うなぎいも」といいます。自然の力を見て触れることにプラス、地元浜松市の生産者の努力も、どこかで感じてもらえたらと考えました。
また、当園は屋上に遊具とプールを備えています。毎年7月にプール開きをし、水とのふれあいを園児にしてもらっています。建物が密集した立地のため、敷地の狭さから屋上へ設置したわけですが、街並みを眼下にのぞみながらの遊ぶのはなかなか気持ちが良さそうだと好評です。
さらに、放課後には定期的に講師を呼んで英語教室を行っておりますので、別の場所への塾に通わせることなく、興味のある子たちが園内で安心して勉強ができる機会を与えています。
地域の人たちに、温かく見守られて
――地域とのかかわり、この街の魅力について教えてください。
大野園長: 建物が密集した浜松中心エリアに幼稚園を構えておりますので、周辺住民の皆様へのご理解をいただくことは、とても気を使っています。どうしても賑やかな園児たちの声が響き渡ってしまいますから、問題にならないようにお声掛けを普段からさせていただいています。この街の魅力は、人同士のコミュニケーションが活発であるということです。良い意味で「うるさい(おせっかい)」です。ちょっと“乱暴な遠州弁”なのですが、「うるさい」というのは面倒見が良いという意味です。地域住民が臆することなく、意見を発してくださるうえに、一緒になって面倒を見てくださる。浜松市の下町文化が残る場所に位置しているので、地域住民の皆さんが人情味にあふれているのです。街中になればなるほど人間関係が希薄になりがちですが、この地域の人たちは密やかに陰口をたたくような気質ではありませんので、職員も園児たちものびのびと過ごすことができ、とてもありがたいと思っています。
育児に一息つける場になっていけたら
――これからの「浜松中央幼稚園」の目標を教えてください。
大野園長: 私が園長に就任したのは2015(平成27)年で、まだ一年目です。二代目の祖父のもとで勉強をしながら過ごしておりましたが、他界したために引継ぎました。園内には祖母もおりますので教えてもらうことも多く、まだまだ未熟ではありますが、経験を積んだうえで目標にしていることは、「浜松中央幼稚園」を「こども園」にしたいという思いです。現在でも延長保育を行っておりますが、これからの時代において、さらに共働きの家庭が増えるであろうと国の動きからも予測しています。「こども園」とは保育園と幼稚園が同じ施設にあるのが特徴で、保育時間が長く、0歳のお子様からお預かりできる認可を受けた施設のことです。先にも述べたように、当園の立地から働く親御さんのお子様をお預かりするケースが多いのが、当園の特徴のひとつでもあります。また、母親の産後うつや虐待なども社会問題です。真面目な親であればあるほど、育児をひとりで抱え込んでしまう傾向にあると私は捉えています。親御さんが仕事をするためにお子様をお預かりするケースもあれば、育児が辛くなってしまい、ほんの数時間でも素に戻る時間を持ちたいという時だってあるでしょう。子どもを預けることに罪悪感を持たず、事情はどうであれ、気軽に利用していただけるような「こども園」を作りたいと、各方面のみなさんからアドバイスを受けながら模索しています。
浜松中央幼稚園
園長 大野純平さん
所在地 :静岡県浜松市中区尾張町127-7
TEL :053-453-0249
URL:http://www.hamachuuyou.ed.jp/
※この情報は2016(平成28)年5月時点のものです。
良い伝統と新しい教育方針を融合し、 時代に合った幼稚園のカタチを目指す/浜松中央幼稚園 園長 大野純平先生
所在地:静岡県浜松市中央区尾張町127-7
電話番号:053-453-0249
保育時間:1号認定10:00~15:00、2・3号認定7:30~18:30
https://kurahashi.ed.jp/school/preschool..