「教育日本一」を目指すつくば市の取り組み/つくば市教育局インタビュー
「未来を担う子供たちの育成」を基本理念とした教育プラン
――つくば市では教育政策について、「教育日本一」というスローガンを掲げていらっしゃいますが、この言葉に込めた思いをお聞かせください。
つくば市では、将来を見据えた教育に関する基本政策を「つくば市教育プラン」として作成しています。平成23年度から27年度までの5年間の「第1期」でスローガンにしていたのが、「“教育日本一のまち”を作ろう、育てよう」というものでした。
どんな部分で「日本一」を目指すかと言うと、「学力」はもちろん、心も身体も、すべてにおいて、子供たちが「生き抜く力」を身につけるための、最高の環境にしていこう、という意図があります。また、高い目標を掲げることで、学校の先生方にも、個々の教育目標をさらに高く設定して、子供たちの教育に励んでもらいたい、そういった思いも込めています。
今回、平成28年度から32年度までの「第2期」のプランを新たに作成しました。1期の「教育日本一」という目標はそのまま引き継ぎながら、「夢・感動のある楽しい学校づくり」を達成するための、より具体性の高い基本プランとなっています。
内容について少しご説明しますと、この中では3つの「基本目標」と、そこから分岐した7つの「基本方針」を掲げています。基本目標の1つ目は、「社会を“生き抜く力”を育む」としました。これは、「知・徳・体」をバランスよく育み、将来、地域や世界で活躍する子供を育て、学校に通うすべての子供たちが輝くための教育を推進していくことを目標としています。
基本目標の2つ目は、「教育環境の整備を図り、質の高い教育を推進する」。これは主に、教職員の人材育成と、教材や施設環境の整備に重点的に取り組んでいくといった内容です。
基本目標の3つ目は「つくばの特性をいかし、社会全体で子供を育む」というものです。学校だけではなく、つくば市のいろいろな特性を活かして、地域社会と一緒に、子供たちを育んでいきましょうという方針を示したもので、学校、家庭、地域の連携、協働による教育を推進するとともに、つくば市ならではの特性を生かした教育を取り入れていくというものです。
――第1期から第2期にかけて、変わった点や重点としたのはどの部分でしょうか?
1期目から「小中一貫教育」を重点的に推進してきましたが、これをさらに進めていくということで、引き続き重点項目としています。2016(平成28)年4月からは、「義務教育学校」という新しい学校の種類もできて、「これから新設する学校については、施設一体型の義務教育学校にする」という方針も、新たに2期の計画の中に盛り込んでいます。
また、「地域とともにある学校づくり」として、「コミュニティスクール」の導入についても、今後5年間の中の重点事業の一つにしています。
学習の面では、子供たちの主体的・対話的で深い学びを推進するために、「アクティブ・ラーニング」の充実についても強調しています。その中で、「ICT(情報通信技術)」を、うまく活用することも、重点的な内容の一つになっています。ただし、ICTについては、これを使いこなすことが「目的」ではなく、あくまでも学習のための「ツール」ですので、全教科の様々な場面で、ICTを駆使しながら、効率よくわかりやすく学習を進めていきましょう、という位置づけです。
――つくば市の小中学校には、「つくばスタイル科」という独自科目があるそうですね。
2012(平成24)年度から始まった「つくばスタイル科」というのは、他の自治体ですと「総合的な学習の時間」と呼ばれる時間に、特活、道徳、生活科の一部の時間を加え、「つくばスタイル科」という時間に再編成しているものです。
この教科の中では、学ぶスタイルを「IN,ABOUT,FOR」という言葉にしていまして、自ら課題を見つけ、情報を収集し、何ができるかを考え、発信するという、一連の流れを繰り返す授業展開になっています。これを9年間を通して繰り返していくことで、いわゆる「21世紀型スキル」の定着を図っていこうという科目です。学習内容は、環境、キャリア、歴史・文化、健康・安全といった領域に加えて、外国語活動も「つくばスタイル科」の中に入っています。
他の地域の公立校では、「総合的な学習の時間」の内容は、学校ごとに異なっているのが通常です。一方、つくば市では、このスタイル科の中で、「必ずこの学年ではこれをやりましょう」という部分を市が定めているので、どこの学校でも同じことを学ぶのが特長です。その領域を「コア・カリキュラム」と呼んでいます。これがあることで、たとえば、複数の小学校で学んでいても、同じことを学んだ児童が中学校へと進学しますのでスムーズな接続ができます。これはつくば市が進める小中一貫教育の中でも、大事な柱の一つになっています。
さまざまな研究機関があつまるつくば市ならではの取り組み
――昨年度から、「学校情報化優良校」に、市内の全学校が認定されているそうですね。
「情報化認定」というのは、第三者機関による認定でして、市内のすべての学校が優良校に選ばれたのが昨年、2015(平成27)年度のことです。それを受けて、今年はさらに、「学校情報化先進地域」という、さらに一つ上の認定を、つくば市として頂くことができました。また、「竹園東中学校」については「学校情報化先進校」に、市内で唯一選ばれています。これは全国的にも数少ないものの一校ですが、ほかの学校にも広げていきたいと考えています。
これらの認定については、一度認定を受ければそのまま何年も継続できる、という性質のものではありませんので、我々としては、その水準の上をつねに保つように、継続して努力をしていきたいと考えています。
また、市内で唯一の施設一体型小中一貫校である「春日学園」については、マイクロソフト社が選んだ、世界中でも100校ほどしか無い、「ショーケーススクール」にも指定されています。これは以前、マイクロソフトの社長が来日した際に、生徒が社長の前でプレゼンを行い、そこで気に入っていただいて指定に至りました。その関係でマイクロソフト社から機材を寄贈していただきまして、それを使いながら、世界的にも最先端のICT教育を進めているという部分もあります。
つくば市がこの学校情報化に関して、特に先進的な取り組みができている背景には、「つくば市総合教育研究所」の存在も大きいのかと思います。こちらは2010(平成22)年度に、教職員のための研修の場として設置されたもので、研究所ではこれまでの取り組みの事例集を作ったり、教員研修を実施したり、子供の状況、先生の状況など、様々なことについての調査研究を行い、共有化する、ということを行っています。
――つくば市の学校では最先端の研究者による出張講義もあるということですが、いくつか事例を教えてください。
「研究学園都市」というとおり、つくば市には世界でも最高レベルの研究所が沢山集まっています。市ではそのような研究所の方々に、学校までお越しいただいて、最新の研究内容について講義をしたり、実験をしていただく「つくば科学出前レクチャー」という取り組みを行っています。
こちらには市内にある15の大学や研究機関が登録をしてくださっていて、150の講座を、メニューとして用意しています。その中から、各学校からの要請に応じて、研究者が招かれて、レクチャーをする、というもので、内容としては非常に高度なものが多いのですが、子供たちは積極的に参加してくれています。
また、秋には「つくば科学フェスティバル」という、子供たちの科学に対する興味関心を高める企画も行っています。そこでは「出前レクチャー」の成果を発表したり、子供たちが自分たちのブースを持って、科学の体験講座を出展する側に回り、来てくれる子供たちに対して、子供たち同士で教える、ということも行っています。また、夏休みには「つくばちびっ子博士」という、各市内の研究機関を巡るスタンプラリーも企画しています。
こういったさまざまな取り組みを通して、つくばでは特に、科学への興味・関心が高い子供たちが育っていると思います。こういった部分は、ほかの自治体ではなかなか真似ができない部分でしょう。
児童生徒、教職員にとっても優れた設備を備えた新しい「義務教育学校」
――みどりの地区に新しく建設されている、「(仮称)みどりの学園」について教えてください。
こちらは既存の「谷田部小学校」の児童増加にともない、分離をして、施設一体型の一貫教育校を作るという事業です。2018(平成30)年度の開校を目指しています。先ほどお話した通り、施設一体型の小中一貫校は今後「義務教育学校」とする方針ですので、こちらは「みどりの義務教育学校」となるかと思います。義務教育学校としては、既存の「春日学園義務教育学校」、2017(平成29)年度開校予定の「秀峰筑波義務教育学校」に続く3校目となります。
規模については、小中合わせて普通教室が22クラス、合計が640名程度での開校を予定しています。当初は1学年3クラス程度、そこにプラスαぐらいに対応できる設計なので、将来的な生徒増にも対応できるかと思います。
校舎の特徴としては、H型の校舎配置になっていまして、その中に3つの中庭があるという造りになっています。子供たちは1か所の昇降口から入ってきて、屋根の付いている中庭を通って、各教室に分散していくという流れになります。体育館の脇の部分は「イベント広場」という、人工芝のスペースがあり、そこではちょっとした集会や、運動ができるようになっています。
グラウンドも非常に広く作られる計画で、200mのトラックのほか、サッカーコート、野球コート、テニスコートが、重ならず配置できるという広さになっています。既存の学校よりはかなり広いグラウンドになります。また、「学習の庭」という、低学年を対象にしたサブグラウンドが用意されているのも特徴です。体育館については、小中の体育館を合体させたような大きな建物になっていますので、中を区切っても、一つの大きなスペースとしても使うことができ、さまざまな使い方ができるかと思います。
図書室は学校の真ん中に配置され、図書室とコンピュター教室が隣接しているので、図書の閲覧室としても、メディアルームとしても使えるような構造になっています。これ以外にも、もうひとつコンピューター室が用意されるなど、ICT環境も充実する予定です。
教室と廊下が一体化したオープンスペースの造りになっていますし、子供たちがいる教室の近くに「教師だまり」という教師のためのコーナーを作りまして、そこで教材開発などができるようになっています。通常、専科の先生以外は、授業が終わると職員室に戻っていたわけですが、新しい学校では教室の横で準備ができるようになりますので、先生と子供たちの距離感も、今まで以上に近くできるのかと思います。
――最後に、みどりの地域の魅力についてお聞かせください。
みどりの地区は市内でも首都圏に近い場所ですので、都心へのアクセスも良いですし、それに対して、自然環境も非常によく残っている地域です。新しく開発されている地域ということで、敷地環境なども広めで、のびのびと暮らせる場所だと思います。
つくば市は教育環境をまず第一に考えている街ですから、その街に暮らせる、教育を受けさせられる、ということを魅力に思って移住して来られる方も多くいらっしゃいます。特にみどりの地区については、近い将来に、施設一体型の義務教育学校ができるというのは大きな魅力かと思いますし、教育のカリキュラムの一貫性がとられた中で、長い目で育ててもらえる義務教育の環境というのは、ほかに無いものかと思います。そういう意味では、やはり、教育が一番の魅力かと思います。
つくば市教育局、つくば市教育局総合教育研究所
■つくば市教育局
所在地 :つくば市研究学園1-1-1
TEL :029-883-1111
URL:http://www.tsukuba.ed.jp/
■つくば市総合教育研究所
所在地 :つくば市大形1333-1
TEL :029-867-1080
URL:http://www.tsukuba.ed.jp/~souken/
※この情報は2016(平成28)年12月時点のものです。
「教育日本一」を目指すつくば市の取り組み/つくば市教育局インタビュー
所在地:茨城県つくば市研究学園1-1-1
電話番号:029-883-1111
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