国立で58年、子どもたちに寄り添う教育を続けてきた小学校/桐朋学園小学校 教務主任 有馬先生、小学部長 磯部先生
1941(昭和16)年に前身である「第一山水中学校」を創立して以来、国立の歴史とともに歩んできた私立「桐朋学園」。現在は、男女共学の「桐朋学園小学校」と、中・高一貫の男子校「桐朋中学校・桐朋高等学校」が国立に拠点を置く。「桐朋学園小学校」は1959(昭和34)年に開校し、2016(平成28)年で創立58年目を迎えた。また、同年7月には新校舎も完成し、12月には全体工事が完了する。今回はそんな「桐朋学園小学校」を訪れ、小学部長の磯部先生、教務主任の有馬先生に、学園の沿革や教育方針、周辺地域の魅力などについてお話を伺った。
“辿り着いた”創立の地 文教都市・国立
――まず、「桐朋学園」が国立に設立された経緯や、学園の歴史についてお教えいただけますでしょうか?
磯部先生: 1941(昭和16)年に「桐朋学園」の前身である「第一山水中学校」ができたことが始まりです。西には富士山が見え、北には「一橋大学」「国立音楽大学」があるという、文教都市らしい環境からこの国立の地に開校したと聞いております。この地を“選んだ”というよりは、学園を開校するのにふさわしい街を求める中で“辿り着いた”という方が正しいかと思います。
終戦後の1947(昭和22)年には新しく財団法人桐朋学園を設立し、「桐朋第一中学校」として再発足、そこで“桐朋”という名が付けられました。1948(昭和23)年には「桐朋中学校」と改名し、新学制に伴い「桐朋高等学校」も設立されました。中学校と高等学校は、2016(平成28)年でちょうど75周年ということになります。小学校はそれから11年後の1959(昭和34)年に開校し、1年生から3年生までの児童が100名、専任教員が4名でスタートしました。規模としては非常に小さな学校ですが、年数を重ねるごとに少しずつ経験を積み重ね、2016(平成28)年に創立58周年目を迎えました。
学年を超えたつながりから学ぶ、学園の精神
――大切にされている教育理念について教えていただけますか?
磯部先生:「一人ひとりの子どもの心の隅々にまで行きわたる教育を」ということを大切にして教育を行っています。「桐朋学園小学校」には、教育目標などを書いたものはありません。「一人ひとりの心の隅々まで」というのは“精神”です。その精神に基づいて子どもに寄り添い、一人ひとりの子どもをよく見ながら育て、情操を養うことを中心として教育を行っています。そういった中で子どもの心身を鍛えたり、遊びの中で人間関係を広げたり、基礎学力を身につけたりということをしています。
有馬先生:「一人ひとりの子どもの心の隅々まで行きわたる教育を」は、開校以来大切にされてきた言葉です。教員一人ひとりが常に立ち戻るための大切な“拠りどころ”なのだと思います。
磯部先生:一人ひとりの人格を尊重し、自主性を伸長する、ヒューマニズムに立つ教育を「人間教育」と考え、縦の学年のつながりをとても大事にしています。例えば、1年生は入学後の6日間、5年生とペアになり、1年生を自宅最寄りの駅まで送っていく「1年生送り」という伝統的な行事を行っています。ほかの学年でも2年生は1年生に学校案内をしたり、飼育担当の4年生は、ウサギを1年生に抱かせてあげたりして交流します。このような縦のつながりが子どもたちを育て、言葉では表現できないような人間教育がされていきます。
もちろん、勉強もしっかりとしているのですが、卒業生に話を聞くと学校で遊んだ思い出を話す子が多いんです。そして、その遊びの中で発見していることがとても多いと私どもは考えています。そのような環境の中で得られたものは、大人になるときに必ず生きていくとも考えています。本当の教育とは、そういうものではないかと思っているんです。知識は知識として語れますが、それを知恵にしていき、生きていくためにどうやって使っていくかが一番大切なのではないでしょうか。
小中一貫だからこそできる、お互いが尊重しあう教育環境
――小中一貫教育を行うメリットや一貫教育の具体的な取り組み、特徴についてお教えください。
磯部先生:「桐朋学園小学校」には内部進学というシステムがありますので、卒業生がそのまま中学校に進む際には、中学校の先生に児童一人ひとりのことをしっかりと伝えるようにしています。また、卒業前に6年生の様子を伝えたり、中学校に行ってからも、情報交換の場を取るようにしています。
磯部先生:教科ごとにも、中学校の先生と話す機会があるのですが、小学校ではこういう考えで教えていましたと伝え、中学校ではそれに対してこういう見方で教えていると情報交換することができます。中学校の先生が小学校の教育をとても尊重してくれていますので、安心して子どもたちを送り出すことができています。
五感で感じ、生きる力・考える力を育てる
――力を入れている教育や独自のカリキュラム、ユニークな教育方法があればお教えください。
磯部先生:1年生から6年生まで「生活科」という教科があります。この教科では、具体的なものを直接体験させるということをとても大事にしています。体験させることで、生きていくのに必要な知識や技能を身につけ、最終的に生きる力・考える力を育てるということを目標としています。
たとえば、5年生は林間学校の際、尖石の考古館で縄文土器のスケッチをします。その後、10月くらいになると自分たちで粘土作りをして、それを使って土器作りをします。11月の終わりには畑で土器を昔ながらの方法で焼くのですが、焼く時も火おこしから行います。そうして「昔の人たちはこう作っていたんだ」と道具ができるまでの工程を知ることができます。やはり、最初から最後までということがすごく大事だと思うんです。
有馬先生:一見遠回りに見えることも一から作っていく中で、自分の手で作り出せるという実感を得ることや、土器作りで野焼きの熱さを肌で感じたり、燃える音を耳で聞いたりと、五感を使い、本来持っている感覚を養い、それと感情がつながっていくような経験を積むことで成長していくというのが生活科の考え方です。
磯部先生:ほかには、5年生になると「東天狗岳」での登山、6年生になると7月に「遠泳」があります。「遠泳」では、千葉県の「岩井海岸」で、全員が遠泳に挑むのですが、1時間泳ぎっぱなしです。もちろん泳ぎが得意な子ばかりではありませんので、不安な気持ちを抱える子もたくさんいます。しかし、それをやり遂げることによって、“頑張ればできる”というような自己肯定感が生まれていきます。
ほかにも、自己肯定感を得ることにつながっていると思う取り組みは、日記を書くことです。1年生の2学期から日記を書き始めるのですが、最初は「バッタを捕まえました。」というような、簡単なところから始まり、各教員がきちんと返事を書きます。基本的には、その子を認めたり、励ましたり、時には考えさせたりしていますが、その教員との日記のやり取りを通して得ていく自信というのも、自己肯定感につながっていると思います。
有馬先生:社会科ではレポート形式で新聞を書かせたり、グループワークでもレポートを書いたりもしますし、考えてまとめるという機会は多いと思います。教員も内容を添削し、作文のルールなどは教えますが、その子の書きたいものをできるだけ尊重します。書くという表現の中でそれぞれの自己表現を尊重するようにしています。
自主性を大切にしたクラブ活動
――活発なクラブ活動、そのほかユニークな課外活動などはございますでしょうか?
磯部先生:クラブ活動は授業内で行います。特徴的なのは6年生がクラブをつくるというところです。運動部だったら何人以上、文化部だったら何人以上という基本的な決まりがあり、場所はどこでこういう活動をしますというように、子どもたちもそれぞれクラブについて考えるわけです。同じような活動内容のクラブでも毎年少しづつ内容が違っていたり、奇抜なクラブができたりと、とても面白い活動になっています。
有馬先生:たとえば、野球部なら、野球部をやりたい人が集まり、どこで何をするかを教員に提示します。そして教員が会議でできるかどうか検討します。希望者の人数や場所の関係で、活動の許可が下せないクラブもあります。そんな時は、ほかのクラブに合併を提案したりします。
子どもたちの思いが尊重され、楽しく過ごせる居場所
――子どもたちにとって、どのような学校だと思いますか?
磯部先生:きっと面白い学校だと思います。子どもたちはみんな学校が好きで、学校に行けないので長い休みが嫌いという子もいるほどです。学校に行きたいと思ってくれるのは、教員にとっても本当にうれしいことです。
有馬先生:居心地もそうですが、居場所づくりにも気をつけています。「遊ぶ」という言葉がたくさん出てきましたが、休み時間ごとに「外に遊びに行け」ということはなく、中で遊びたい子ももちろんいますし、1人で本を読みたい子もいるので、その選択を尊重するようにしています。
有馬先生:図書室や音楽室もずっと開室しています。理科室や調理室も開いていることが多いです。教員が見守りながら実験をやったり、調理室でお月見団子を作ったりしたこともあります。そのようにして、可能な限り子どもたちが興味を持っていることができる居場所をつくり、自分自身で選択をしながら過ごしてゆく日々を送ってほしいと考えています。いろいろな経験をしないと自分に何が合っているのかもわからないですから。こちらから引っ張ったり、君はあれをやったほうがいいと決めつけず、場を整え、来た時にはしっかりと見守る、それが大切だと思います。
自然や文化が豊かな心を育む街
――子どもたちが学び育つ環境や、暮らす街としての国立エリアの魅力とは?
有馬先生:私自身も国立市民なのですが、登下校の道で四季を感じられることはとても魅力的だと思います。歩道も広くスペースがとられており、人にやさしく作られていて、助かっています。「大学通り」の風景も綺麗で、本当に素敵な環境だと思います。
磯部先生:文教都市に指定されてお店の種類なども規制されているということもあり、住んでいる方々の意識も高く、とても文化的な街だと思います。
有馬先生:子どもたちの中には、小学校から国立に通い始め、桐朋学園の男子だと中学・高校まで、さらにそこから「一橋大学」に進学する生徒もいたりと、思春期の長い期間を国立で過ごし、育っていきます。そうなるときっと国立を離れられないですね。大人になってもここにいたい、そういうのもうなずいてしまうような魅力が国立にはあると感じます。
桐朋学園小学校
教務主任 有馬先生・小学部長 磯部先生
所在地:東京都国立市中3-1-10
TEL:042-575-2231
URL:http://www.tohogakuen-e.ed.jp/
※この情報は2016(平成28)年12月時点のものです。
国立で58年、子どもたちに寄り添う教育を続けてきた小学校/桐朋学園小学校 教務主任 有馬先生、小学部長 磯部先生
所在地:東京都国立市中3-1-10
電話番号:042-575-2231
http://www.tohogakuen-e.ed.jp/