「夢や希望を信じて生き抜く人づくり」を目指す足立区の教育施策/足立区教育委員会教育指導部教育政策課長 森太一さん
東武スカイツリーライン「五反野」駅周辺は、昔ながらの雰囲気が残る閑静な住宅街。駅の南側は「足立小学校」、北側は「弥生小学校」、「弘道小学校」、「弘道第一小学校」の学区にあたり、いずれも地域の人々に支えられながら、足立区の教育ビジョンである「夢や希望を信じて生き抜く人づくり」を実践する教育を行っている。具体的にはどんな取り組みが行われているのか。足立区教育委員会教育指導部教育政策課長の森太一さんに、区の教育施策について伺った。
――足立区の教育施策は、一番どういう点に力を入れているのですか?
足立区教育委員会教育指導部教育政策課長 森太一さん:足立区はこれまで長年に渡り、児童生徒の学力向上が大きな課題でした。同時に、貧困の世代間連鎖も問題になっており、「貧困の連鎖を断ち切るのは教育しかない」との考えに至って、近藤区長のリーダーシップのもと、特に子どもたちの学力向上に非常に力を注いできたという経緯があります。現在の足立区の教育振興ビジョンは、「夢や希望を信じて生き抜く人づくり」。ご家庭の経済格差が現実としてあったとしても、どんな状況でも足立区の子どもたちにはきちんと学んでもらい、中学を卒業するまでは、義務教育で学ばないといけないことをしっかり身に付けた上で、社会に出てもらおう。学んだ力でこの社会を生き抜いて、将来的にはこの足立の街づくりも担ってもらおう、という考えで進めています。
具体的には、子どもたち個々の状態に合わせた指導を行うことと、教員の授業力向上を進めることが2本柱です。本格的な取り組みが始まったのは、平成24、25年頃からですが、以前は全国でも下位だった小学校の学力テスト結果が平均付近に上昇。東京都の中でも真ん中ぐらいになるなど、徐々に成果が出てきました。
――「個に応じた指導」とは、例えばどんなことを行っているのでしょうか?
森さん:まず、理解が不十分と思われる子には、放課後にそれぞれに応じた補習を行って、わからない所を解消するようにしています。
また、小学校3、4年生の国語と算数に限ってですが、成績が平均より少し下ぐらいの子を対象に、授業中に別室で個別学習をするという指導をしています。授業で一度つまずくと、その先に習うものもわからなくなってしまうもの。すると授業中も身が入らず、ますますわからなくなってしまうので、個別学習で何につまずいているのかを分析し、解消するわけです。解消できれば教室に戻ってもらうのですが、つまずきが解消できると「自分はできるんだ」という自信もつくし、今まで小テストで40点前後しか取れなかった子が、100点を取れるようになったりするんですよ。
このために「そだち指導員」という非常勤の職員を雇い、それぞれの学校に配置しています。そだち指導員は教員免許のある人、教員のOBとか子育てのためにリタイアした元教員などにお願いしています。
――「わからない」をそのままにしない工夫があるわけですね。中学校も同様ですか?
はい。中学生になると、英語や数学でつまずいてしまう子が増えてきます。そこで、補習は補習として行う一方、例えば、つまずきを感じている子たちを集めて、中学1・2年の1~3月に「数学チャレンジ講座」を、中学1年の11~1月に「英語チャレンジ講座」を開いています。補習は学校の教員が行うものですが、これは民間の塾に委託して開いているもの。つまずいたところまで戻って、それこそABCから復習を進めていく講座です。その子がどこまでわかっているのか見極めて、わかっていないならきちんと手当をしていこうということです。
また、これは少し自慢でもありますが、中学1年生での夏季勉強合宿も行っています。 小学校で学んだ内容がわからないまま中学に上がると、勉強が格段に難しくなって、そのあと全然できないということになりがちです。そこで、夏休み中にそういう子を毎年80人ぐらい区が所有する自然の家に連れていき、教員も約80人連れて行って、缶詰状態で4泊5日間、マンツーマンで小学校の算数と中学1年夏までの数学のつまずきを解消するための合宿をしているんですね。 最初と最後に効果測定のためのテストをするですが、行く前は20、30点しか取れなかった子が、最終日には100点を取れるようになるんですよ。初めて100点取れた!と嬉しくて泣く子も多く、取れなかったと悔し泣きする子もいるんです。
――逆に、高い学力がある子、勉強する意欲がある子にも個別のプランがありますか?
森さん:意欲がある子には、更なる学習機会を提供しています。例えば、中学1~3年生の希望者には「英語マスター講座」といって、年間30回、1回当たり約2時間で週1回のオンライン英会話や英語の授業を受けるコースがあります。年の最後には、これは宿泊代がかかってしまいますが、福島県にある全館英語のホテル「ブリティッシュヒルズ」での力試しにも参加できます。日頃から英語を使う機会を持つことで、会話力はもちろん、総合的な英語力を伸ばすことができるわけです。
中3で成績が高く、学習意欲は高いけれど、経済的理由から塾に行く機会が少ない子どもたちを対象にした「足立はばたき塾」という支援もあります。これは塾に委託して行っている高校受験対策で、期間は1年間。区としての運営コストはかなり高いのですが、毎年80~90名が参加し、都内でも有数の進学校や私立難関校に入学する子も少なくありません。
――教員の授業力向上のための取り組みの方はどうでしょうか?
森さん:子どもたちが授業内容をしっかり理解するためには、わかりやすい授業が不可欠です。そこで、毎年150人ほど入ってくる教員たちを鍛えるために、教員OBを非常勤「教科指導専門員」として雇用し、指導に当たってもらっています。若い教員たちの授業を1時間分見て、良かったところ、悪かったところを伝えて改善していくマンツーマン指導を、半年ぐらい繰り返す仕組みを作ったことで、かなり教員の授業力は向上が達成できました。
――「夢や希望を信じて生き抜く人づくり」の理念の下、数々の取り組みが行われているのですね。
森さん:はい。以前は一つひとつの施策がバラバラに行われている状態でしたが、今は令和2~6年度の足立区教育振興ビジョンに基づいて大目標を設定し、大目標を達成するための戦略目標、戦略目標を達成するための具体的取り組みの設計図ができた上で、一つひとつの施策を展開しています。ここで紹介しきれない施策の数々についても「足立区教育振興ビジョン」に出ていますので、こちらも見ていただけるといいですね。
――新しい取り組みも、いくつか始まっていると聞きました。
森さん:令和2年度から始まったものとしては、まず特例課程教室「あすテップ」の設置があります。これは、既存の学校2校の中に不登校生徒を対象とした校内型の適応指導教室で、学校復帰に向け学習支援や寄り添い支援を行いながら、増えてきている不登校の子どもたちを支援していく試みです。不登校の子どもたちに対しては、今まで「チャレンジ学級」という学校外施設で支援をしてきたのですが、学校の中に不登校の子の居場所を作って指導するという選択肢が増えたことで、より幅広いニーズに応えられるようになりました。
――最後に、五反野エリアの魅力を教えてください。
森さん:区内の他のエリアと比べて特段「これ!」という特徴が思い浮かびませんが、落ち着いた街であり、教育熱心な地域かなという印象が強いです。足立区内は、どの学校でも「開かれた学校づくり協議会」という、地域の人たちが学校を支えようという仕組みがあるんですが、五反野エリアはとても熱心な人が多いですね。子どもたちの見守り活動を行ったり、ある小学校では、英語検定や漢字検定に取り組むために、地域の人たちが廃品回収をして、その収益をテキスト代にと提供してくれたこともありました。親御さんが働いていることが多い今、地域の方々の子どもたちへの支援があると安心ですし、子どもたちにとっては親と先生以外の大人を見る機会にもなります。地域の人たちが学校に積極的に関わってくれるのは、足立区全体のいい傾向なのかなと思っています。
足立区役所 足立区教育委員会教育指導部教育政策課
課長 森太一さん
所在地 :足立区中央本町1-17-1
電話番号:03-3880-5111
URL:http://www.city.adachi.tokyo.jp/
※この情報は2020(令和2)年4月時点のものです。
「夢や希望を信じて生き抜く人づくり」を目指す足立区の教育施策/足立区教育委員会教育指導部教育政策課長 森太一さん
所在地:東京都足立区中央本町1-17-1
電話番号:03-3880-5111
開庁時間:8:30~17:00 ※第4日曜日9:00~16:00に一部窓口を開庁
閉庁日:土・日曜日、祝日、年末年始(12/29~1/3)
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