校長 小林佳世先生インタビュー

生徒達が夢中で“気になる”の解決に取り組む訳とは/世田谷区立明正小学校


世田谷区の喜多見、成城、砧エリアの一部を通学区域とする「世田谷区立明正小学校」。周辺には野川や仙川が流れ、校舎裏には里山としても活用される自然豊かな「成城三丁目緑地」が広がり、同校の児童たちにとっても恰好の遊び場であり、学び場にもなっている。今回は、そのような恵まれた環境に位置し、地域からも愛される「明正小学校」を訪ね、2018(平成30)年から着任している小林校長先生に、同校の取り組みや、周辺エリアの環境の魅力などについてお話を伺った。

恵まれた環境を活かして、多様性を学ぶ

小林校長先生
小林校長先生

――まずはじめに、「明正小学校」の今日までの歩みや学校概要を教えていただけますでしょうか。

本校は今年で創立から67年目を迎えています。1951(昭和26)年の開校当時、児童数がかなり増えてしまっていた近隣の「世田谷区立砧小学校」と「世田谷区立祖師谷小学校」両校の2・3年生に在籍していた児童と、新たな1年生とで、計8学級の編成でスタートしました。「明正」という校名は、“明るく正しい子どもたちに育つように”という地域の方々の願いも込められて付けたられたそうで、そうした経緯も地域があってこそ誕生した学校だと感じますね。

現在、本校への通学区域は、小田急線の「喜多見」、「成城学園前」、「祖師ヶ谷大蔵」の3つの駅の周辺にまたがり、たいへん広い範囲になります。2020(令和2)年度現在の児童数は、844名です。通常学級が各学年が4クラスずつあり、ひまわり学級(知的障害特別支援学級)が3クラス、そのほか「すまいるルーム」という特別支援教室の拠点校にもなっております。

「世田谷区立明正小学校」正門
「世田谷区立明正小学校」正門

――貴校が掲げる教育目標と、その目的や実現に向けた取り組みについて教えてください。

「明るい子、正しい子、たくましい子」というのが本校の教育目標です。その目指すところとしては、単にイメージとしての“ニコニコ明るい子ども”や“決まりを守る子ども”といった抽象的なものではなく、現代の教育観に合った具体的な教育上の取り組みを心がけています。

例えば、「明るい子」に関しては、日々の授業などの学校活動において、あることを習得・活用するだけではなく、自ら“新しく作る”探求的な学びも実践し、子どもたちが自己発揮できるようになることを大事にしています。「正しい子」についても同様で、自ら明るく前向きに“生活を作る”力を。「たくましい子」は、身体的なものだけではなく、例えば困難を力を合わせて乗り越えて達成を目指すことができる力、といった心を育むことに重点を置いています。

また、本年度から世田谷区が『せたがや11+(イレブンプラス)』という新たなプログラムに基づいた教育も始めています。こちらは、乳幼児から大人になるまでの「縦」の繋がりと、家庭・地域・企業などの「横」の繋がり教育活動にプラスし、子どもたちの未来を実現することをテーマに、具体的にはキャリアデザイン教育や、学校以外の周辺施設や地域の方、企業などに支援や活動場所を広げた多様な教育活動を進めていくものです。

本校としては、今までの「どう指導するか」ということから「子どもたちがどう学んでいるか」ということをより重要視し、先生が“指導したつもり”で終わらないこと、“だれ一人置き去りにしない教育”を実践すること、そうしたことを実現できる“環境を整備すること”、この3つを中心に考えおります。更に先ほどの「明るい子、正しい子、たくましい子」を具現化するため、「課題解決的な学習」と「多様性を理解する」ことが必要になると思っております。

世界の様々な側面を学習し、子ども達の“気になる”を引き出す

授業の一環として、持続可能な開発目標(SDGs)についての取り組みも行う
授業の一環として、持続可能な開発目標(SDGs)についての取り組みも行う

――特色ある教育活動などをご紹介いただけますでしょうか。

前述の教育方針を踏まえ、「SDGs・ESD(持続可能な開発目標・その実現のために発想し行動できる人材を育成するための教育)」の理解・推進することに取り組んでいます。

例えば、身近なところでは、本校の裏にある「成城三丁目緑地」も大事に活用させていただいています。同緑地には、サワガニが1年中生息しているような整った自然環境が保たれています。こうした緑地での体験を題材に「全国子どもサミット」で発表させていただいたり、里山の保全活動のボランティアの方々と一緒に学習活動を行ったりもしています。

――学校行事などはいかがでしょうか?

2月に「明正フェスタ」という学校全体でのイベントがあり、今年度で3回目の開催になります。全学年の生徒が、1年間を通じての学んだことを、思い思いに発表します。今年は1・2年生は生活科で学んだ事の中から、各々やりたい事を見つけています。3~6年生と「ひまわり学級」は、総合的な学習の時間で、1年間を通して学んだ事を題材にする予定です。

たとえば3年生は地域の方々と関わる機会から得られる内容を題材にしたり、4年生は自然環境の学びから「海洋プラスチック問題」や「ゴミ問題」、5年生は多様性の学習から「LGBT」や「食品ロス問題」など。昨年度の6年生は「自分たちでできるSDGs」について発表しました。そうした様々な学びを、学校中を使って表現する催しです。

こうした学習や発表までの準備の過程として、子どもたちの思いをよく聞き、それを実現できるように助けながらも、ある程度の時間を与え、任せてみて、それを見守る、というファシリテーターとしての教師の役割を大事にし、今年で3年目の取り組みとなりました。各々のやりたいことを引き出すのは難しいことですが、子どもたちが本気で夢中になっていく様子がよく分かり、やりがいのある活動だと感じます。

総合学習での学びを、「エコプロ」に出展した際の様子
総合学習での学びを、「エコプロ」に出展した際の様子

――そのほか、ユニークな活動などはございますか?

有明にある「東京ビッグサイト」で「エコプロ(持続可能な社会の実現に向けて)」という環境に配慮した製品やサービスに関する一般向け展示会が毎年開催され、様々な企業が出展します。そこに我々は学校としてブースを出展をし、4・5・6年生の生徒たちが数日に渡って交代で参加しました。

子どもたち自身で環境に関して学んだことを説明するのですが、ただブースを出して待っていても誰も来てくれませんので、チラシを持って「話を聞きに来てください」と声を掛けたり。台本なども無いですし、来てくださった方に他の学年の展示物に関して質問されたりもしますが、これまで学校内で体験してきた内容から一生懸命に説明を行います。反対に、子どもたちが企業が出している他のブースも回るなどして、様々な環境問題についての取り組みを実際に見て・感じることもできます。

また、普段は出来ない交流ができ、そこで生まれたつながりから後日、学校の授業協力に来てくだったという例もあります。展示会で頂いた企業の方の名刺を持って子どもたち自ら私のところに来て「この人と会いたいです」と言うので、そこから実際にコンタクトをとり実現しました。子どもたち自身で課題を見つけてくることが大事な学びだと思いますので、こうした出会いは大切にしたいと思っています。

実際に多摩川に足を運び調査を実施した様子
実際に多摩川に足を運び調査を実施した様子

またほかのエピソードとして、「海洋プラスチック」のゴミ問題を学んだあるクラスの生徒たちが、台風19号の後、近くにある野川や仙川ではなく「多摩川に行きたい」と。なぜ多摩川なのかと聞くと、「海に直接入っている大きな川だから、多摩川で調査をしたい」という理由でした。そこで、2週の授業連続で、このクラスは多摩川に行き学びを深めました。その際には、「ESD」の学びという視点から、国土交通省・京浜河川事務所の「水辺の楽校」というネットワークの狛江エリアの担当者様をご紹介いただき、実際に調査活動のアドバイスを頂戴したりもしました。

そうして実施した調査では、大きな木の根っこが流れていたり、大きな鯉が土手まで打ちあがっていたり、子どもたちもリアルな影響を肌で感じることが出来たようです。また調査内容を「エコプロ」に出展した際には、多摩川に行ったクラスとは別のクラスの子でもこの活動の説明ができ、各々のやりたいことやクラス毎の学びが、みんなの共通の学びへと広げることができている実感があり、この取り組みのいい点・成果だと感じました。

生徒の“気になる”を深めるのは、1つの教科学習からでも

英語の学習を通じて、コロナの歴史を学んだ
英語の学習を通じて、コロナの歴史を学んだ

――その教科教育の取り組みははいかがでしょう。

例えば、最近の英語の授業では、国際的なニュースにもなっている「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」について子どもたちが調べてみたり、そこでAET(英語指導助手)の先生から実際の差別の経験談を語っていただいたり、と単に語学の学習に留めずに、英語の学習を入り口に社会的な学びにつなげています。ほかにも、英語の授業内で「数字を読む」という事も行っています。例えば「世界の平均寿命を調べてみよう」と促した結果、子どもたちのなかで「なぜ国によってこんなに違うんだろう」という疑問が出てくるなかで、その背景には実は世界の水問題があるんだよ、というような一連の学びも英語学習の中で行っています。こうした社会的な話題を総合学習ではなく、外国語の授業で展開している事は、ひとつ特徴ではないでしょうか。

ほかには、「コーディネーショントレーニング(身体を使いながら潜在的能力に働きかけ、“学ぶ力”を引き出す脳のトレーニング)」というものを取り入れたりもしています。体幹をつくる運動なのですが、この取り組みを始めてみたら、昨年の運動会では転倒する子どもがいませんでした。東京都から表彰も受け、こちらも本校の特徴的な活動のひとつになってきているのではと思います。

この地域だからこそ実現する学びとは

開校以来、地域と共に歩み続けた「明正小学校」
開校以来、地域と共に歩み続けた「明正小学校」

――世田谷区の学校ならではの特徴や学びはありますか。

世田谷区は同性のパートナーシップ制度を設けており、本校も「LGBT」に関するの授業に取り組んでいます。当事者に来ていただいて直接お話を伺う機会なども設けています。その他、男性は青、赤は女性、などといった性と色彩の関連付けについても配慮し、低学年から自分の好きな色を選ぶ、ということに気を付けています。

また文部科学省から、幼児教育が終了するまでに身につけてほしい「10の姿」というものが発表されていますが、例えば小学校に入学したての1年生でも、入学前の保育園・幼稚園では年長さんだったわけで、既にできることがたくさんあるのです。それを、入学後にまるでゼロからスタートのような視点で教育しがちだったということを反省し、子どもたちができるだけ早く自己発揮ができるよう、スタートカリキュラムで、心配しない、不安にならないように取り組んでいます。

そして、周辺の保育園・幼稚園との連携も強化しています。例えば、事前に先生同士で連絡をとりあって、「成城三丁目緑地」の里山で、本校の子どもたちと近隣の保育園の子どもたちと同じ時間に会うようにしておきます。最初のうち、子どもたちはどんぐり拾いなど自分のことに夢中なんですが、繰り替えすごとに、小さい子とも一緒に遊びたいなという気持ちが芽生え、徐々に交流を深め、本校に保育園の子たちを招いて一緒に活動をしましょうというように。生徒たちに「自分が幼稚園・保育園の年長さんだった時に、小学校に上がること前どんな気持ちだった」と聞くと、「不安だった」「心配だった」と言うので、では「それが無くなるようにするにはどういうふうに迎えてあげればいい?」などと考えさせます。そうすると、学校の席に座らせてあげようとか、ランドセルを背負わせてあげよう、教科書を見せてあげよう、といった相手意識に立って考えた行動が出てくるようにもなるのです。

また、本校から「砧中学校」への進学を見据えて、同中学校と駅伝チームを組んで一緒に「せたがやこども駅伝」に出るというような取り組みもしていますね。

地域の現状から、子ども達が気づく学び

地域の問題として、外来種についての学び
地域の問題として、外来種についての学び

――周辺地域を通じた学びなどはありますか。

実は、今年は近隣エリアの外来種について問題になったのです。今まで「成城三丁目緑地」の里山でいうと、植物を持ち出さない・持ち込まないというルールを守ってきたのですが、外来種のノハカタカラクサだけものすごく増えてしまって。生徒たちが減らすために抜いたりもするのですが、ほかのものと混ぜないようにしないと持って行ったごみ捨て場でまた生えてきてしまいます。

もうひとつ、子どもたちが大事に育てていたひまわりが、合計100本以上無くなってしまうという事が起きました。ある日、校長室に来たある生徒が「先生、なんでインコがいるんですか?ひまわりが食べられている。」と言うんです。最初は「え、インコ?」と思ったのですが、実はもともとどこかでペットとして飼われていたインコが逃げて繁殖し、喜多見エリアでも増えていたようなんです。

こうした事から、子どもたちも初めは「外来種が悪い」というような視点でとらえるのですが、突き詰めれば、私たち人間の過剰な物質消費社会で連れて来られたことが問題なのだ、と学びを深めていっています。先ほどの多摩川の調査の話もそうですが、こういった物事の実態や本質と向き合う事で、本校を卒業した後でも何か役立つものが得られるのではないかと思っております。

温かな地域と恵まれた自然環境に育まれる

インタビュー時も明るい声が響いていた「世田谷区立明正小学校」
インタビュー時も明るい声が響いていた「世田谷区立明正小学校」

――周辺地域の方との関わり・交流などはいかがでしょうか?

地域や保護者の方はとても協力的です。地域で盆踊りやお祭りを企画されている方にお話を聞きたいといった、細かな依頼にも喜んで来てくださったり、少人数のためでもラジオ体操を教えてくださる方がいたり。地域の方がいろんな場所に見回りに立ってくださっていたりと、本当に地域に愛していただいている学校だと思います。卒業生も多く、現在の成城の自治会長さんは本校の同窓会長も務めていらして、実は開校時の最初の3年生でもあったりまします。

――喜多見地域の雰囲気や魅力を教えてください。

喜多見方面の子どもたちは、野川に沿って通ってきている子も多いのですが、野川沿いには「世田谷トラストまちづくりビジターセンター」という施設があります。そこには里山でボランティア活動をしている方々がいらっしゃったり、野川の清掃活動などを実施されている方もいらして、子どもたちはそういった活動を身近に感じながら、一緒に取り組みも行っています。ビジターセンターの向かい側には、川を挟んで「喜多見ふれあい公園」という大きな公園もありますし、自然にも恵まれた環境にあると思いますね。

野川緑道
野川緑道

それから、喜多見・成城・祖師谷の各地域に本校の元保護者や、元PTAの役員だった方その方々も多くいらっしゃるのですが、いろいろな教育活動に協力してくだり、非常に協力的なのは本校の地域の魅力だと思います。

例えば、みなさんお花を植えたり、清掃をしたりといった、街を良くする取り組みをなさっていて、各地域の「まちづくりセンター」で行われている会議などを、小学生が覗きたいと言えば入れてくださったりもしますし、子どもたちと一緒にお祭りを企画したりもしてくださいます。また、保護者の方々に募ると本当にいろんな専門性のある方がキャリア教育について語ってくださり、働きがいなども話をしてくださいます。

 

喜多見商店街
喜多見商店街

エリアとしては、小田急線が学区域の中心を走っているのですが、駅前や商店街の方々にも本校の卒業生という方が多く、駅での子どもたちへの声掛けなども許可してくださっています。「喜多見」や「成城学園前」の駅前についても、商店会などで新しいイベントを作って、若い親御さんを巻き込むような雰囲気もありますし、「明正おやぢの会」という団体が、喜多見の駅前のお祭りなどでヨーヨー釣りの出し物を出してくださったり、「成城さくら児童館」という駅前の児童館でのお祭りにも「おやぢの会」がボランティア活動をしてくれています。

お店の豊富さという点も非常に便利だと思いますし、スーパーマーケットなども多くて、学校の近くにある「オーケー 成城店」さんなどは、授業でバックヤードの見学などもさせてくださって、本当に協力的でありがたく思っています。他にも長年の歴史があるお店も多く、そういったお店も卒業生や卒業生の親御さんがやっていらっしゃったりと、本校が培ってきた歴史が地域にも根付いているのではないかと感じます。

校長 小林 佳世先生
校長 小林 佳世先生

世田谷区立明正小学校

校長 小林 佳世先生
所在地:世田谷区成城3-1-1
TEL:03-3415-5591
※この情報は2020(令和2)年11月時点のものです。

生徒達が夢中で“気になる”の解決に取り組む訳とは/世田谷区立明正小学校
所在地:東京都世田谷区成城3-3-1 
電話番号:03-3415-5591
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