「地域の学校」を目指して/浜川小学校 校長 矢田雅久先生
品川区立浜川小学校
校長 矢田雅久先生
「地域の学校」を目指して
「浜川小学校」のユニークな取り組みとは?
全国に先駆けて学校選択制を導入した品川区。京浜急行電鉄「立会川」駅近くにある品川区立「浜川小学校」は、一流アスリートの授業などユニークな内容の特色ある教育活動を行っています。今回は校長を務める矢田雅久先生に、教育の方針やその狙いについてお話を伺いました。
学校の歴史や概要についてご紹介をお願いします。
「浜川小学校」は1934(昭和9)年に創立され、2014(平成26)年に80周年を迎えます。来年は80周年の記念式典や祝賀会を行う予定です。2013(平成25)年度は、普通学級各学年2学級に特別支援学級3学級を合わせて、全15学級があり、12月現在の児童数は346名になります。おかげさまで最近は生徒の数が増え、2014(平成26)年度の新入生から今まで2学級だったものが3学級になる予定です。
「浜川小学校」の教育方針について教えてください。
当たり前のことが当たり前にできる学校を目指しています。ところが、当たり前のことを当たり前にすることはとても難しいのです。私が赴任して、まず手掛けたのは学力の向上です。そのために重視したのが、学習習慣や生活習慣といった規範意識の向上と定着でした。
学力向上、規範意識の向上には、教職員が一丸となって取り組む必要があります。しかし、従来の学校では担任の教師がそれぞれの方法で教育を行い、教師によって差があることがよくありました。公立の学校として、それはおかしいと思います。そこで、全教職員に校長の学校経営方針を共通理解、共通実践、徹底定着することからはじめました。こうした取り組みを続けた結果、約2年で学力は全教科で向上しました。そこで、現在は、学力向上に加えて体験学習を中心とした「楽しい学校づくり」を推進しています。
規範意識の向上としてどのようなことを取り組んだのでしょうか。
今までは多くの学校で、担任がそれぞれの学級内において独自の生活や学習のルールを作っていました。ですから、子ども達は担任が変わるたびに新しいルールを覚えなくてはなりません。これでは子どもも大変ですし、学校全体として定着させていくことはなかなかできませんでした。ですから、浜川スタンダードとして、生活や学習のルールは勿論、掃除の方法や給食の配膳の仕方、教室掲示や整理整頓等、細かいところまで全校で統一したルールにしました。このルールを学校として全教職員で1年生から6年間をかけて、徹底して取り組ませることにより、徹底定着を図りました。
子どもを教えるのは教師ですから、教師は当然子ども達の見本となるような人間でなくてはいけません。教師の机が乱雑だったら、子ども達に机をきれいにしなさいとは言えません。ですので、「浜川小学校」の職員室は日本一きれいだと思っています。こうした人の師にふさわしい教師を目指して、教師としての人材育成も徹底的に行いました。
学力向上のためにどのようなことを行ったのでしょうか。
まず、カリキュラム全体を校長の経営方針の下に見直しました。例えば、朝と昼に実施している15分間の「浜川タイム」という基礎・基本の定着の時間の内容を、学年で統一するとともに、1年生から6年生までを子どもたちの実態に合わせて整理しました。次に、学力定着度調査の結果を徹底的に分析して、それぞれの学年で長中短期の目標を設定し、具体的な方策と計画を立てて校長が進行管理していくことにしました。これで、教師は今、何をすればよいのか把握できます。
さらに、人材育成のために、授業観察の仕組みや校内教師塾を作って若い教師同士で 切磋琢磨したり、中堅やベテランが若い教師の講師になるシステムを作り、教師の指導力・授業力向上に力を入れました。
また、公立学校では、全体的に学力を引き上げてあげなくてはいけません。それに一番有効なのは、子どもひとりひとりをどれだけ手厚く見ていくかに尽きます。「浜川小学校」 では、補習授業としてパワーアップタイムやサマースクールを行っています。ところが、こうした補習授業をすると、勉強が好きな子ばかり来ることが多いのです。そこで、「浜川小学校」では、保護者の皆様に協力をお願いして、本当に来てほしいお子さんに声をかけるようにしました。もちろん、そのほかのお子さんも参加することができます。内容も、こちらから呼んだ子を中心に基礎を徹底的に教えるコースと、その他の子ども達を中心に反復学習をするコースの2つを用意しています。
楽しい学校づくりの内容を具体的に教えてください。
私は、学校は楽しくなくてはいけないと思っています。楽しい学校づくりのひとつとして、木曜日は掃除の時間をなくして昼休みを35分に延長しました。35分あれば子どもたちは思いっきり遊べるでしょう。 また、学校に来たくなる楽しい授業にするには体で学ぶ体験学習が一番だろうと考え設定したのが、「わくわくドキドキ体験学習」です。オリンピック選手の短距離走教室や読売巨人軍の野球教室といった内容ですが、年間指導計画にカリキュラムとして組み込むことで、毎年継続的に行うことを可能にしました。
また4年生では生活指導宿泊体験学習を設けました。最近の子どもたちは布団の敷き方やお風呂の入り方が分からないのです。こうした基本的な生活の方法を楽しみながら身に付けてほしいという狙いで、代々木のオリンピックセンターでの宿泊学習を行うことにしました。
「浜川小学校」はどのように変化してきたのでしょうか。
各種の学力定着度調査の結果が向上したことは前にもお話ししました。その他に、保護者の方からは子どもが明るくなった、ルールが守れるようになった、授業が活発になったとご評価いただいています。保護者アンケートの結果でも、教育活動や教室内外の環境整備の満足度が大きく向上しました。この結果には、学校の経営方針を保護者にもしっかりと伝え、アンケートで書いていただいたご意見には 必ずお返事をするなど、保護者の方にありのままの学校の姿を説明し、校長がよいと思ったことは、即決で改善策を講じて対応してきたことが反映されていると考えています。
私が赴任した直後の「浜川小学校」は、学力が思うように向上しなくて苦しんでいました。そこで、学校の組織やカリキュラムを赴任1年目の夏休み終了までに大きく改めました。アンケートを採り、何が悪いのかを分析し、新たな施策を考え、進行をきっちり管理しました。すると1年目で、学力調査やいろいろな項目での保護者アンケートの結果等、様々な数値が前年度より大きく向上したのです。実際に学校が変わってきたことで、子ども達にできたという喜びを感じさせることができるようになりました。これは教師にとっても最大の喜びです。当たり前なことが当たり前にできる教師、児童を目指して、校長の経営方針を全教職員が「共通理解」し、「共通実践」して「徹底定着」させる。このことを一人ひとりの教師が確実にやっていくこと。この積み重ねがいい学校をつくることになると考えています。
保幼小の連携ではどのような取り組みが行われていますか。
「浜川小学校」には浜川幼稚園が同じ敷地内にあり、特別支援の固定教室もありますので、幼稚園との連携や特別支援との共生に力を入れています。特別支援の子どもたちは、籍は特別支援にありますが、普通学級の教室にも机や椅子があります。運動会や学芸会などの行事は全て通常級と合同でやりますし、朝読書や浜川タイム等も通常級で受けることが多くあります。また、算数や体育などの授業も子どもたちの実態に合わせて普通学級でいっしょにやります。こうして一緒の時間を過ごすことで、互いに相手を知り、受け入れるようになるので、自然に手助けができる心の優しい子どもが育ちます。
「浜川小学校」の連携園である「浜川幼稚園」や「大井保育園」はもちろん、近隣の他の幼稚園、保育園とも積極的に連携しています。幼稚園の子どもたちとは一緒に給食を食べたりしますし、 5年生が幼稚園に行って読み聞かせをすることもあります。運動会では5年生と浜川幼稚園の園児が一緒にやる種目もあります。保育園の子どもたちに運動会に見に来ていただいたり、低学年の子ども達と授業を一緒にやることもあります。
浜川中学校との一貫教育の内容について教えてください。
品川区では小中一貫教育が行われていますので、「浜川小学校」でも「浜川中学校」と設備分離型小中一貫教育として、9年間を通じたカリキュラムにしています。その他に、小中の教師が一緒に授業研究をすることもありますし、サマースクールに中学生が来て答案の丸付けをしたり、簡単な算数だったら教えてくれることもあります。また、運動会では中学生が係りとしてお手伝いをしてくれたり、共同で地域清掃をしたりするなど、さまざまな連携をしています。
校内に「すまいるスクール」があると聞きました。
「すまいるスクール」は「浜川小学校」だけでなく、品川区すべての小学校で行われているものですが、放課後から午後6時までお預かりするものです。学校外の児童館に行くのと違って、交通事故の心配がないこともメリットでしょう。日曜・祭日はお休みになりますが、夏休み、冬休み、春休み期間中も行っています。
「浜川小学校」では「すまいるスクール」の職員とのミーティングを頻繁に行い、「昼間学校で、この子とこの子がケンカしていた」などの児童の状況を相互に伝え合うなど、連携を密接にしています。学校の要望として宿題をやってから遊ぶことにしてもらっていますし、「浜川小学校」のルールは「すまいるスクール」でも守ってもらっています。
≪すまいるスクール≫
【登録費用】 1200円/年(平成25年度)
【勉強会参加費】 週1回の学年は500円/月、週2回の学年は800円/月
地域との連携について教えてください。
「地域の学校、浜川小学校」をキャッチフレーズにして、あらゆる面で地域と連携しています。例えば、地域清掃や地域防災訓練には子ども達はもちろん教師もできるだけ参加するようにしていますし、子ども達の名札には町会名と避難所を入れています。ボランティアクラブも作りましたので、子ども達が何らかの形で地域にボランティアできる機会を増やせたらと思っています。さらに、教師は、地域の行事には何らかの形で1年に5回以上必ず参加させています。
「浜川小学校」の隣にある浜川公園には浜川街角ギャラリーというのを区の公園課と共催で設置しました。ここには「浜川小学校」の子ども達の絵を飾っています。これもひとつの地域貢献でしょう。また、体験学習の龍馬に関する授業では、地元の龍馬会の人にお話ししていただいたり、地域の伝統工芸を体験したりすることもあります。学校の図書館でも 地域のボランティアの人が大勢協力してくれています。
南大井エリアの子育て環境としての魅力をお聞かせください。
品川区は、プラン21による学校改革により、学力定着度調査や学校選択制、外部評価制度の導入、そして、区独自の小中一貫指導要領に基づく小中一貫教育やジョイントカリキュラムによる保幼小の連携等、日本の最先端の教育を行っており、また、教育予算も潤沢に確保されています。南大井エリア周辺は小学校がたくさんありますから、学校選択制では激戦区となりますが、こうした背景から、学校ごとに切磋琢磨や協力し合ったりして、公立学校全体の質を向上させていこうという機運が高まっているエリアでもあります。また、このエリア周辺はウォーターフロントの再開発で多くのマンションや商業ビルが建ち、人口も増えつつあり、活気も出てきています。
今回、話を聞いた人
品川区立浜川小学校
校長 矢田雅久先生
住所:住所:東京都品川区南大井4-3-27
電話番号:03-3761-0530
URL:http://school.cts.ne.jp./~hama-e/
※記事内容は2013(平成25)年12月時点の情報です。
「地域の学校」を目指して/浜川小学校 校長 矢田雅久先生
所在地:東京都品川区南大井4-3-27
電話番号:03-3761-0530
http://school.cts.ne.jp/~hama-e/