大規模な土地転換を契機に、関内の新たなまちづくりに挑戦/横浜市都市整備局 都心再生課(神奈川県)
旧来から横浜都心部の中心的な都市として重要な役割を担ってきた関内エリアが、今大きな変化の時をむかえている。2020(令和2)年6月に横浜市庁舎が関内駅前から北仲通南地区に移転し、同じく「横浜文化体育館」「教育文化センター」など老朽化した周辺施設も併せて、複数の大規模な建て替え再開発事業が進行中。行政が事業者や地域組織と連携しながら、多様な観点から魅力的で新しい都市形成を検討・実施している。今回は、当該地区のまちづくりを推進する横浜市都市整備局を訪ね、都心再生課の担当者に詳しくお話を伺った。
横浜都心臨海地域の開発促進のなかで、地区の個性を活かした魅力的なまちづくりを
――まずは、関内エリアを含む「特定都市緊急整備地域」について教えてください。
高井様:もともとは、平成14年に「都市再生緊急整備地域(規制緩和や税制上の特例などによる民間プロジェクトの支援などを通じて開発を促進する国の制度)」を受け、横浜駅周辺やみなとみらい21地区を中心とするエリアでまちづくりを進行していましたが、関内駅周辺地区や関内・関外地区や山下ふ頭周辺地区などのまちづくりが本格化することから、これらの地域のまちづくりを強力に推進するため、2018(平成30)年10月に「特定都市再生緊急整備地域」のエリアを拡大しました。
これによって、都市計画の特例や、税制の特例、国の補助金の導入などにより、横浜都心臨海地域における民間開発の促進や、インフラの効率的な整備などがより一層強化できるようになりました。
――横浜市、および都心臨海地域において、関内エリアはどのような存在・位置づけなのでしょうか。
高井様:横浜市において、都心部・郊外部のまちづくりはもちろん両輪ではありますが、やはり関内を含む都心部は経済活動も活発で、観光や集客も多様性があり、「横浜」の価値や都市のプレゼンス(存在感)を高めていくための重要なエリアです。
そうした都心臨海部の将来像をしっかり考えていこうということで、2050年の未来の横浜を見据えた「横浜市都心臨海部再生マスタープラン」を2015(平成27)年に策定し、横浜駅周辺地区、みなとみらい21地区、関内・関外地区の従来の横浜都心部に、新たに東神奈川臨海部周辺地区、山下ふ頭周辺地区の2地区を加えた5つのエリアを軸にしながら、観光、ビジネス、エンターテイメント、歴史、文化、教育、行政などいろいろな要素で、5地区を切れ目なく繋いでいくまちづくりを考えました。
そうした中で、横浜駅周辺はターミナル性が高く横浜の玄関口として、みなとみらいは埋め立て地として、新しいまちづくりで業務商業やパシフィコのようなMICEなどを集積させてきました。
一方、関内は開港から横浜の歴史をつくってきた街です。“もののはじめ”の街としても表現されたりしますが、関内はさまざまなものの発祥の地でもあります。それゆえ、他のエリアが発展するなかで、業務や商業の視点からみると課題も生じているため、そこをしっかり解決して、歴史と魅力ある“横浜の顔”を前面に出したまちづくりを進めていくエリアだと考えています。
2020年の市庁舎移転を皮切りに再整備事業が続々。業務・商業や観光機能の誘導促進で再活性を目指す「関内駅周辺地区」
――関内駅周辺地区におけるまちづくりのこれまでと、現在、今後についてお聞かせください。
① 「関内駅周辺地区のまちづくり」のコンセプトについて
中尾様:2017(平成29)年の教育文化センター跡地、2019(平成31)年の市庁舎跡地の公募時に、横浜市として新たな土地利用に対して求めるものや、まちづくりの方向性などを示した「関内駅周辺地区エリアコンセプトブック」を策定し、両地区の事業者決定を経て、この新たなまちづくりの方針を「関内駅周辺地区エリアコンセプトプラン」として、2020(令和2)年1月に改めてまとめ発行しました。
まちづくりの大きなコンセプトとして、「国際的な産学連携」「観光・集客」の2つをテーマに進めてきています。
先の話でもありましたが、関内・関外地区の業務・商業機能は、これまでの横浜駅周辺やみなとみらいなどと比べて、やや落ち込んできてしまっていました。そうした中、国際的な産学連携ということで、ビジネスが生まれるような人を呼び込み、そうした人々の交流のなかで新しいビジネスが生まれ、結果オフィスや業務機能が復活していくようにしたい。また多くの人が集まってもらうことで店舗面積を増やしたり、売り上げを伸ばしたり商業という点でも右肩上がりに再生していこうという中で、市役所の移転を契機に関内駅周辺にそうした機能をもってこようというのが狙いです。
② 関連する再開発事業について
中尾様:関内駅周辺地域の土地利用転換に際して、どの開発においても「国際的な産学連携」「観光・集客」に沿った機能を入れていただきたいと、事業者のみなさんにお伝えしながら誘導してきました。その結果すばらしいご提案をいただいて、例えば「教育文化センター」は一部市民にも開放される大学キャンパスに、市庁舎跡地はいろいろな要素がミックスした複合開発をして頂けるとのことで、まさにテーマに沿った機能が集まってくる見込みが立ったというのが今の段階です。周辺の開発事業としては、まず「横浜武道館」が今年7月に開業しましたが、事業者さんとの連携という面では、まさにこれから。もちろん事業者のみなさんそれぞれに頑張って頂くのは大事ですが、周辺地域で新しい街をつくりなおして、再活性化をしていこうという中で、どのような面白いことができるかなどを一緒に考えていきましょうというタイミングです。
今後としては、2023(令和5)年4月に「関東学院大学 新キャンパス」が、2024(令和6)年4月に「メインアリーナ」が、2025(令和7)年に関内駅前の旧市庁舎街区の高層の再開発ビルが(三井不動産他8社)オープン予定です。さらに隣接する関内駅前港町地区でも再開発が2029(令和11)年の完成を目指して検討されています。
「みなと大通りシンボルロード化」で地区内外の回遊性向上、歩きたくなる街へ。交通機能強化で多方面へ移動も快適に
③ 関内エリア内外の回遊性について
中尾様:また、「関内」駅周辺だけが良くなるのではなく、周囲の街全体に人が流れていくことを目指しているので、関内に来た方が中華街や港の方へと足を延ばしたり、人が多く集まる関内(港側)の方の賑わいを関外(街中)にスムーズに呼び込むなど、行き来しやすくなるようにさまざまな取り組みで回遊を促進していく予定です。
まず「みなと大通り」のシンボルロード化ですが、まだ設計段階なので未確定ではありますが、車道を四車線から二車線にして、その分歩道を拡幅し、歩行をしやすくするのはもちろん、自転車の利用を促進するための専用の通行帯も作ろうとしています。横浜市ではベイバイク(シェアサイクル)を横浜都心部に設置しており、関内エリアにもたくさんのポートを設置していますが、より安全・快適に自転車を乗れる街にしていきたいですね。また、道路空間自体の多様で積極的な活用として、飲食や休憩ができたり賑わいを生むような使い方も考えています。通りの工事は2021(令和3)年度からスタートし、「メインアリーナ」が開業する2024(令和6)年を見据え、その前年の2023(令和5)年度までに目の前の通りがきれいになるように完了させる予定です。また、通りの入り口として、旧市庁舎街区と「横浜スタジアム」を結ぶ歩行者デッキも新たに建設予定です。近々に、周辺の街並みの雰囲気もどんどん変わっていくと思いますよ。
「観光・集客」という面でも、開発に合わせていろいろな場所にアクセスできるさまざまな交通手段の拡充を計画しています。関内を含む横浜の都心部全体では、グリーンスローモビリティや水上交通についての実証実験を行い、関内周辺の通りや個性豊かな商店街などエリアの特徴に合わせて繋いでいく、街を楽しむ多彩な交通の検討を行っています。
また、今は空港や地方へ行こうとすると横浜駅のターミナルからのバスが多いですが、高速バス発着所など都市間交通の機能を関内にも設置し、羽田空港まで直接行けるようになったり、いろいろな観光地にも行きやすくしようと考えています。
多面的な機能拡充は、地域住民にも便利で住みやすい街空間へ
――観光・ビジネスの滞在者はもちろん、住民とっては今後の街の変化はどのようなメリットがあると思いますか?
中尾様:地域に住む方へのメリットとしても、商業機能の再生という点から、新たな開発が進むことでより魅力的なお店になることや、周辺に利便施設が増えるなど、住む方にとっても便利な街になるのではないでしょうか。また、街中の回遊性の整備は、結果として住んでいる方も駅に行きやすくなる、歩きやすくなるなど住みやすい街になると思いますし、交通機能が強化されれば、関内から旅行に行く方や、出張で羽田を使う方にとっても便利になる効果があると思います。
――街の安心・安全などについての取り組みはいかがでしょう。
高井様:行政としては、これまでも警察や消防と連携したパトロールの取り組みなどを行っています。関内をはじめ横浜は国際色豊かで多様な街ですし、新しい住民、新しい企業やテナントの方も入ってきて、街の中で経済活動も市民活動も一緒にしているなか、多言語の対応も含めてなかなかマナーなどを紙だけで啓発するのは難しいので、実際に足を運んで地道にひとつひとつ取り組んで、街の魅力を高めることが大切です。例えば、建物の管理・食品衛生なども実際に立ち入って是正するなど、身近な範囲で直接足を運んでそういった課題を解決していくようにしています。
また、今回の大規模な拠点整備と併せて、それに見合った消防の機能強化や配置・整備なども行っていきます。もちろん、住民や企業の方々が主体となり、住民組織やまちづくり組織を作っていくことに注力することが一番ですが、自助だけで大変な部分は、公として立ち入って、バランスを見ながら、そうした治安や美化の面を含めた街の魅力付けを行っていくのが我々のやるべきことだと考えています。
市民・事業者・行政一体が強みの「関内・関外地区」。マイナスもプラスに転換し、未来を見据えたまちづくりを進める
――関内駅周辺のまちづくりへの思いや意気込みをお聞かせください。
中尾様:市庁舎がいなくなることや、周辺の建物の老朽化を契機とすることをネガティブに言われることもあるのですが、逆にこれだけの大規模な土地が一遍に動くことは、長いまちづくりの中でもなかなかない機会ですので、大きなチャンスととらえ、最大限に活かしたいと思います。
市役所がずっと在ったこともあり思い入れもあるエリアですし、これまで長く行政機能が中心のエリアでしたが、また違う形で横浜の魅力を発信できるエリアにしていけたらと思います。
大学やオフィスができれば、学生が平日に街を歩いていたり、新しい業種で働く方が増えたりと街に来る方も変わりますし、そういった方々に合わせたサービスが新しく生まれるなど、街が変わる、そしてそれはおそらく良い方向への変化だと思います。街に新しい活気や賑わいが生まれるでしょう。また景観としても、駅前にシンボルタワーが生まれ、遠くからでもあそこが関内の街だ、と一目で分かるようになるといった変化もありそうですね。
高井様:関内駅周辺を含む、関内・関外エリアのまちづくりとしては、「関内・関外地区活性化協議会」というとても大きな協議会があります。町方の代表者や、まちづくりの点で重要な存在である鉄道会社、規制の緩和・強化などを進める上で神奈川県治水事務所などの許認可部局などに参加いただき、多様な主体が街の課題にしっかり向き合って協議していくような座組みの組織です。横浜中華街、元町、イセザキモールなどそれぞれの地域団体なども大きい組織ですが、この協議会では現在36の団体がワンテーブルで議論しています。年3~4回程度の大会議があり、執行部で月に1回程度は会議をして、街の最新の情報や課題など、特に今年はコロナの状況もあり地域間連携をしっかりして危機に立ち向かえるような話もしています。各々のまちづくりでの課題解決はもちろん大事ですが、関内・関外地区全体をこういう協議会の中でしっかり繋ぎ、課題を共有し、一緒に事業をやっていこうという議論をすることで、良い効果が出てきていると感じます。拠点整備だけでなく、こうした地域組織の連携は重要だと思います。
2020(令和2)年3月には、「横浜市」と「関内・関外地区活性化協議会」が連名で、「関内・関外地区活性化ビジョン」を作りました。行政が主体となり、地域の方に委員に参加して頂いたり、意見を聞いたりというかたちでマスタープランを作るというのはあるかと思いますが、連名型は珍しいと思います。街のみなさんと一緒になって地域の課題を出し合い、将来どういう街にしていきたいかという点を書き込み、今後10年間の目指す道しるべをこういった形で作れたことは、一緒に目指していこうという活力にもなりますし、行政だけではまちづくりはできませんから、そのように取り組んでくださる方々がいらっしゃることは大変意義があり、関内・関外地区の強みであると思います。
また、「関内駅周辺のまちづくり」事業も同様に、事業者となる新しい企業、地域の代表者も、行政の許認可部局や規制部局も一体となって課題に向き合い、今まさに実現に向けて取り組んでいることは、同じく大きな強みだと感じます。
――現在のコロナの影響や、今後についてはどのように考えていますか?
高井様:まちづくりをしていく部署としては、当然ここ半年~1年感染症対策などはしっかりと対応していきますが、明けない夜はない、ということで収束していく時期をにらみつつ、5年10年先の中長期的な観光・経済活動・暮らしをちゃんと見据えたまちづくりをしていかなければいけないと考えています。ただ、いろいろな変革は求められており、こうした暮らしもある部分は定着化していくと思いますので、観光施設やオフィスにおいてはその作り方や規模などの新たなニーズは念頭におきながらも、観光MICE都市としての目指す大きな軸は変わることはありません。
また、インバウンド的な部分は、ビジネスは多少緩和されていきそうですが、誘客はまだ時間がかかりそうではあります。ただ、観光産業の8割は国内旅行であり、マイクロツーリズムとも言われていますが、商店街なども地元のお客さんを大切にしてリピートを増やすなど、改めて足元をしっかりと見直す良い機会や気づきもあったと思います。こうして立ち止まって考えることで新しく生まれてくるものや、新しいまちづくりができるとポジティブにとらえています。
横浜市都市整備局 都心再生部 都心再生課
課長 高井様
担当課長 中尾様
所在地:横浜市中区本町6丁目50番地10 市庁舎29階
電話番号:045-671-2673
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※この情報は2020(令和2)年10月時点のものです。
大規模な土地転換を契機に、関内の新たなまちづくりに挑戦/横浜市都市整備局 都心再生課(神奈川県)
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