「銀座」という名前を唯一許された学校の誇りを胸に教育に取り組む /中央区立銀座中学校 加藤譲司校長先生
「銀座」という世界に名の知れた街の名前を冠し、その地域の特色を活かした教育に注力する「中央区立銀座中学校」。子どもたちは主に築地や京橋、八丁堀など下町の地域から通学し、街の雰囲気そのままの優しくて温かな校風へとつながっている。そんな魅力ある銀座中学校の校長・加藤先生に普段の教育活動から地域のお話まで、詳しく伺った。
しなやかで骨太な子どもたちを育成する「自ら鍛える学校」
――学校の沿革と概要を教えてください。
本校は1947(昭和22)年に開校した「中央区立明石中学校」「明正中学校」「文海中学校」が1968(昭和43)年に統廃合で第一中学校と第二中学校になり、さらに1984(昭和59)年にこの2校がひとつとなり発足した学校です。一昨年の2015(平成26)年には「銀座中学校」として開校30周年を迎えましたが、実際には60年以上もの歴史があり、2万人を超す同窓生を有し、その先輩方には政治・文化・芸能・産業など様々な分野で活躍している方々が多くいらっしゃいます。「銀座」という輝かしい地名を学校名にすることを唯一許された本校は、現在通常学級9クラス(3クラス×3学年)と特別支援学級3クラス、合計12学級で275名の生徒たちが在籍しています。
「銀座中学校」として開校した際に建てた校舎は、30年の歴史を刻んではおりますが、L字型につくられた校舎の廊下は広く、恐らくみなさんが想像するよりもずっと余裕のあるゆったりとした環境です。
――どのような教育目標を掲げていらっしゃるのでしょうか?
本校では「自ら鍛える学校」という教育目標を掲げ、自らを管理し、しなやかで骨太な子どもたちの育成を目指しています。そのためには、まず基礎学力を身につけ(1.自ら考え、進んで学ぶ人になろう)、体を鍛えて(2.心身を鍛え、たくしい人になろう)、人の気持ちが分かる人権感覚のある人間になる(3.情操を高め、心豊かな人になろう)、この3つをバランスよく身につけることを目標としています。
これからの社会に求められるのは、絶対的な答えを一つ出すのではなく、状況に応じて最適な答えを辛抱強くひねり出す人間性だと考えます。そのためには身も心も健康でなければ難しい。人の痛みが分かる、柔軟な人間性を育むには知・徳・体のバランスが取れた人材育成が求められると考え、私たちの教育活動もその考えに基づいて行っています。
子どもたちが受け継いだ“下町の温かさ”が校風にも生きる
――「銀座の地域特性を活かした教育」というのは具体的にどのような取り組みですか?
歴史と文化の街・銀座からも「浜離宮恩賜庭園」などの名勝地からもほど近く、立地条件が良いということで、海外からのお客様や教育視察団などもよく訪れます。最近ではドイツのメルケル首相が来日し、「朝日新聞東京本社」を訪れた際、本校の生徒たちも出迎えました。中学2年生の生徒が取り組む「職場体験」では、「松屋銀座」などの日本を代表するデパートから、築地の場内外のにぎやかなお店まで様々な職種を体験できます。どの職場でも海外からのお客様が多いので、自然と国際交流になるようです。
また「歌舞伎座」が近いこともあり、毎年3年生を対象に歌舞伎鑑賞教室を行っています。歌舞伎に関する仕事に携わっている保護者や卒業生に来ていただき、歌舞伎の基礎知識を教えてもらったり、和楽器に触らせてもらったり、事前授業を行うことで、より理解を深められているようです。
中央区には小学生有志が参加できる「子ども歌舞伎」があるのですが、毎年八丁堀の「鉄砲洲稲荷神社」で公演をしています。中学生になると舞台には出られない代わりに鼓や太鼓などでサポートスタッフとして活動しているのですが、本校の生徒にもそんな風に歌舞伎に関わっている生徒も多くいます。
築地、京橋、新富町、八丁堀、新川のあたりまで本校の学区域なのですが、下町特有の温かく世話焼きでやさしい気風が今もまだ残っていて、学校から相談したりアドバイスを求めると自治体や町会の方々が実に親身になって対応してくださいます。「銀座」というと今はファッションや文化の街という印象が強いかもしれませんが、もともとは下町。このような雰囲気も本校の特徴だと思っています。
――銀座ミツバチプロジェクトにも参加されていると聞きました。
銀座ミツバチプロジェクトとは、都市と自然環境の共存を目指して2006(平成18)年から銀座にあるビルの屋上で養蜂をスタートさせた取り組みです。このプロジェクトに協力して、現在は校庭の隅にミツバチの巣を置き、ミツバチたちが「浜離宮恩賜庭園」や皇居から集めてきた蜜を生徒たちが機械を使って採蜜しています。防護服も40名分用意してありますので、作業をするときは必ず着用し安全に配慮して行っています。
飼っているのはニホンミツバチで、彼らは性質が大人しく余程のことがないと人を刺さないそうですが、環境が悪くなるとすぐによそへ引っ越してしまうので環境整備も大切です。ミツバチが一生に集められる蜜の量はスプーン一杯といわれ、普段何気なく口にしている蜂蜜がどんなに一生懸命集められたものか、自然環境や生物、そして人間との共存など、生徒たちも色々と考えるところがあるようです。
この銀座蜂蜜は、本校の30周年記念行事の際に「銀座文明堂」のカステラに練りこんで、お客様への手土産にしました。なかなか洒落た、そして特徴のあるお土産ですよね。
――「がん教育」にも積極的に取り組んでいるそうですね。
日本人の2人に1人ががんになるという時代において、がんの知識や予防を少年期から学ぶことは重要との考え方で、文部科学省でも推進している教育です。
特に本校では「国立がん研究センター」がすぐ隣にありますので、先日院長先生に来校いただき、モデル授業を行いました。現在は授業づくり、教材づくりの段階ではありますが、がんにならないための予防や「もし自分がなってしまったら」「身近な人ががんになったら」といった様々なケーススタディを学びました。子どもたちも想像以上に真面目に話を聞いていて、それぞれが真剣に考えた様子でした。よりがんに関する理解を深めるために、よい授業がつくれたらいいと考えています。
――銀座中ならではの先駆的な取り組みもあるのだとか。
これは「ICT環境整備支援事業」と呼ばれるもので、9月から1年間「NTTデータ」とタッグを組んでICT機器を活用した授業に取り組みます。タブレット60台を貸与してもらい、学校内に無線LANを引いてデジタル教科書を利用した授業を実践しています。デジタル教科書は写真や動画が随所に埋め込まれていてナレーションでの説明もあるので非常に分かりやすく、現代の子どもたちにフィットした教材です。それだけでなくICT授業では先生が黒板を書く板書の時間が大幅に削減でき、その代わりに子どもたちが考え、話し合う時間をたっぷり確保できるので、これからの子どもたちに大切な「考える力」「人の意見を聞く力」「意見の違う人とすり合わせる力」を養うことにもっと力を入れられると考えています。
日常的な交流から、人の気持ちに寄り添う経験を
――特別支援学級も3クラスあるんですね?
現在、特別支援学級に通っている生徒が17名、3クラス編成です。体育大会や宿泊行事など、通常クラスの生徒との交流学習や同じ係を一緒に行うことで、お互いに刺激をし合ってるようです。特に通常学級の子どもたちにとっては、特別支援学級の子どもたちができること・できないことを理解し、サポートしたり思いやる気持ちが生まれ非常に成長すると感じます。部活動も一緒にしていますし、給食の時間に特別支援学級を訪れて一緒に食べる交流給食にも取り組み、自然と交流ができるようにしています。
――2020年のオリンピック・パラリンピックに向けての取り組みなどはありますか?
中央区では1校1国運動を推進していまして、本校でもどの国を応援するのかのアンケート調査を行いランキングを出しているところです。現在のところアメリカやオーストラリア、ブラジルなど10カ国が候補国として挙がっていますが、各クラスでプレゼンを行い学校としての応援国を決定していきたいと思っています。
また体育大会では、1964(昭和39)年に開催された東京オリンピックのときのファンファーレを吹奏楽部が演奏したり、オリパラ・クイズを演目に入れたりと2020年に迎えるオリンピック・パラリンピックに向けて、生徒と職員、保護者たちがワクワクした気持ちで待ち望んでいます。
このほか柔道の山下泰裕選手や義足の陸上選手・村上清加さんなど、多くのオリンピアン・パラリンピアンに来校していただき、「スポーツの持つ力」「挑戦することの意味」など彼らにしか語れないお話を生徒たちにしてもらっています。
地域や保護者に支えらていると実感する学校
――地域との交流や保護者との連携などについて教えてください。
職業体験では築地をはじめ八丁堀など地域のお店などにご協力いただいていますし、生徒たちは京橋や八丁堀などの地域のお祭りなどにも積極的に参加しています。また町会や自治会が学校を非常に大切にしてくださっていますので、周年行事や体育大会、発表会などにも頻繁にご参加くださっています。
そんな下町の温かな地域性のせいでしょうか、保護者の方々も学校の教育活動には非常に協力的で、PTAの係決めなどにも苦労したことはありません。「おやじの会」と称するお父さんたちの集まりも盛んで、学校屋上に畑を作る屋上菜園の活動などもされており、いつも楽しそうに集まっていらっしゃいます。
――進学先の傾向などはいかがでしょうか?
特に私立志向、公立志向が強いということもなく、毎年半々くらいで決まるような気がします。このあたりは都内にはもちろん、八丁堀から京葉線に乗れば千葉までも30分足らずで着きますし、JRや京急直通の都営浅草線などを使って横浜までも30分ちょっと。埼玉へも同じくらいの時間で到着しますので、通学の負担が少なく学校選びが幅広くできるのは子どもや保護者にとってもプラスでしょう。
――校長先生が思う周辺地域の魅力とはどのようなところですか?
「銀座」は言わずも知れた文化・芸術・ファッションのリーダー的街ですし、京橋は日本橋と銀座を結ぶ街として、美術館や画廊が多く立ち並ぶアートの街。八丁堀は江戸時代から庶民が多く暮らす街で、今なお下町の人情と温かみが残るやさしい街です。京橋・八丁堀・築地といずれも銀座まで歩いて行かれる便利な立地にも関わらず、横丁に入ると台所の匂いがしてきたり、猫がゆっくり歩いていたり、人々が暮らす息づかいが聞こえてくるような場所。この両面性がこの地域の大きな魅力ではないでしょうか。
中央区立銀座中学校
校長 加藤譲司先生
所在地:東京都中央区銀座8-19-15
電話番号:03-3545-8011
URL:http://www.chuo-tky.ed.jp/~ginza-jh/
※この情報は2017(平成29)年9月時点のものです。
「銀座」という名前を唯一許された学校の誇りを胸に教育に取り組む /中央区立銀座中学校 加藤譲司校長先生
所在地:東京都中央区銀座8-19-15
電話番号:03-3545-8011
https://www.chuo-tky.ed.jp/~ginza-jh/