シニアも通いやすい大学キャンパスの総合型地域スポーツクラブ/「帝京平成スポーツアカデミー」桂川保彦先生
年齢やレベルに関わらず、誰もが身近な地域でさまざまなスポーツに親しめる場を提供しようと、全国で育成が進められてきた総合型地域スポーツクラブ。美しい街並みが広がるニュータウン、ちはら台では、健康医療スポーツ学部を擁する「帝京平成大学」が千葉キャンパスとちはら台キャンパスを拠点に「帝京平成スポーツアカデミー」を創設、総合型地域スポーツクラブの先進事例として地域のみならず全国から注目を集めているという。専門性を生かした多彩なプログラムへの参加は、健康づくりはもちろん、スポーツを通して豊かなライフスタイルを築く絶好の機会だ。創設に関わった帝京平成スポーツアカデミー運営委員長の桂川保彦先生に、大学ならではのプログラムの詳細についてお話を伺った。
大学の知的財産をフル活用して地域に貢献していく
――大学を拠点に総合型地域スポーツクラブを創設された経緯についてお聞かせください
桂川さん:今日の大学にとって、「いかに社会とともに生きていくのか」ということが大きなテーマとなっています。そもそも、大学は教育・研究機関であるという観点から、地域の拠点であるべきです。そこで、大学の知的財産をフルに活用して地域に貢献していきたいと、2013(平成25)年3月に「帝京平成スポーツアカデミー(以下、THSアカデミー)」を創設しました。
住民主体の総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型)は、国によって1995(平成7)年度から育成事業が始まりました。中学校区にひとつというのが国の方針ですが、全国に約3,500、千葉県には約70あるのみというのが現状です。そんな中で、THSアカデミーは、地域の方々に大学が提供する知的財産の意義をよくご理解いただき、国・県・市のバックアップを受けています。運営面では、地域住民を代表する委員と大学側とで運営委員会を組織し、月1回クラブ運営について協議を行っていることが大きな特徴です。
――現在実施しているプログラムの数、会員数はどれぐらいですか?
桂川さん:千葉キャンパスとちはら台キャンパスを合わせ、文化講座プログラムを含めて約40種のプログラムを開催しています。レベルアップを目指す方のためのプログラムもありますが、健康増進を目的に無理なく利用できるのが特徴です。会員数はトータルで900名余り、そのうち700名弱が毎週利用されています。年齢層は幅広く、小学生が約50パーセント、60歳以上の高齢者が約30パーセントという割合です。シニア会員は、ご自分の健康を毎日管理されているような、健康意識がとても高い方が多いですね。
――会員の方はキャンパス周辺にお住いの方が多いのでしょうか?
桂川さん:ちはら台キャンパスは、千葉市緑区との境界にあるので、緑区の方とちはら台の方がどちらも来られています。車のご利用はありますが、電車を使わずに、多数の方が徒歩や自転車で来られる距離からお越しになっています。「ちはら台」駅からちはら台キャンパスまでは、「かずさの道」という緑にあふれた遊歩道を歩いて来られるので、四季折々の風情を感じながら通えます。
スポーツ学専門の教員が指導、体力測定でさらなる健康増進へ
――「ラージボール卓球」の様子を拝見しましたが、みなさんが生き生きとプレーしていらっしゃる様子が印象的でした。
桂川さん:「ラージボール卓球」は、シニア対象のプログラムのひとつで、クラブ創設当初から続く人気のプログラムです。ボールが大きいため、見やすく、ラケットに当てやすいことから、全国的にシニア層に普及しています。THSアカデミーでは、ライセンスを持ち、長年卓球の指導者として活躍されてきた方に指導をお願いしているので、楽しみながら競技にも対応できるというプログラムになっています。やはり、楽しくないと、毎週続かないですから。学生時代に卓球をされていて、お勤めなどで中断していたけれど、シニアになって再開されたという方も多いようです。
――シニア向けには、他にどんなプログラムがありますか?
桂川さん:簡単なエクササイズやストレッチを取り入れた「エクササイズ&コンディショニングストレッチ」、身体に負担がかからない歩き方を学ぶ「シニアウォーキング」などがあります。一般向けでシニアの方にも適したプログラムとしては、ゆったりとした動きと呼吸法とともに体のコンディションを整えていく「太極拳」、自重を使って筋力を取り戻したい方向けの「かんたん筋力トレーニング教室」、幅広い年齢の女性に人気の各種ヨガ教室など、さまざま用意しています。中には、複数掛け持ちされている方もいらっしゃいます。
こうした健康増進を目標にしたプログラムが多い一方で、フルマラソンへ出場して記録を伸ばしていこうというプログラムもあります。そちらに参加される会員の中には、実際にいろいろな大会にエントリーして、フルマラソン、ハーフマラソンに挑戦されているシニアの方もいらっしゃいます。まさに、“アクティブシニア”ですね。
――大学にある総合型ならではの特徴はどんなところでしょうか?
桂川さん:いくつかのプログラムでは、大学の教員が指導し、その学科で学ぶ学生がサポートをしています。大学にとっては、学生が座学で勉強したことを実際に体験できる貴重な機会ですし、会員のみなさんにとっても、大学の専門性を生かした指導を受ける機会となります。今回のクールでは本学の理学療法学科の教授をはじめ教員、学生が、シニアプログラムに参加された会員を対象に身体測定をしています。前屈や継ぎ足歩行など、国が推奨する体力測定項目の中から10種目を測定して測定値の変化を確認し、足の痛みにはどんなリハビリがあるかといったワンポイントアドバイスまでしています。ここまでやっている総合型クラブは、なかなかないのではないでしょうか。
施設面でも、人工芝のグラウンドとテニスコート、空調を完備した体育館、全天候型走路など、ふだん学生が使用しているスポーツ施設をそのまま利用できます。空調のある体育館は珍しく、熱中症のリスクを減らすことができます。1周400メートルの全天候型走路は、雨が降っても水がたまらず凹凸がないのでケガをするリスクが少ないという利点があり、「シニアウォーキング」でお使いいただいています。千葉キャンパスの学生食堂やラウンジ、図書館なども開放しているので、プログラムに参加後、そうしたところで会員同士の交流も生まれています。
子どもから高齢者までがそれぞれのライフスタイルを実現できる街
――今後のクラブの展望についてお聞かせください
桂川さん:例えば体力測定など、THSアカデミーで行っていることについて、大学の教員や学生がデータをまとめて、専門領域で論文を発表していくという機会が増えていけば、総合型クラブがコミュニティの健康増進につながることに説得力が出てくると思います。国は成人が週1回30分以上の運動をすることをひとつの基準にしていますが、これぐらいの運動でも日本は実施率が45パーセントぐらいで、夫婦のどちらか一方がしているぐらいのレベルです。
ところが、市原市の調査では、THSアカデミーが開設してから運動する市民の数が確実に増えています。つまり、大学はそれだけの資産を持っているということです。しかし、大学が全面的に支援を行う総合型クラブは全国で26程度しかなく、事務所があって総合型クラブの仕事もする職員がいるクラブは私が知る限りここだけです。今後、将来の福祉の負担を減らし、また一人ひとりの健康維持のためにも、自分に適した運動を自分に適した方法で行えるような場を提供していくことが、大学の社会的使命だと思っています。
――地域の拠点として、住民の方にますます活用されていくことが期待されますね
桂川さん:日本の総合型のモデルとなったドイツには、およそ8万のクラブがあり、施設の中にプールやバー、結婚式ができるようなレストランがあるなど、クラブがコミュニティの中心として機能しています。ほとんどが宿泊施設を併設していて、よその街や国と試合などで往来がある。欧米では、そうしたクラブを地域の人が自ら運営しています。それは、多種多様な人と交わり、それを受け入れる文化があるから。日本でも、年齢や性別、言葉の違いなどを問わず、誰もが受け入れられる総合型クラブができたら素晴らしいですね。
――最後にキャンパスがある、ちはら台周辺エリアの街の魅力、暮らしやすさについてお教えください
桂川さん:とても暮らしやすい街だと思います。その証拠に人口が増え続けていて、小中学校も増設されています。隣のおゆみ野エリアと合わせてまだまだ発展の余地があるのではないでしょうか。周辺には映画館が入った「unimoちはら台」や「イオンタウンおゆみ野」といったショッピングモールがあり、ホームセンターやスーパーマーケット、医療機関も揃っています。住環境としても、公園がたくさんあり、遊歩道や運動広場があって、都市計画に沿って作られた街らしく、ゾーニングがきちんとされている。落ち着いた街でありながら、ほどよい活気があります。幼児から高齢者までが、それぞれの年代に応じて、自分に合ったライフスタイルを実現できる街だと思います。
桂川 保彦 先生
帝京平成大学 健康医療スポーツ学部医療スポーツ学科 客員教授
帝京平成スポーツアカデミー 運営委員長
http://www.thsa.jp/
※この情報は2017(平成29)年11月時点のものです。