地域と体験を共有する公立中学校/川崎市立日吉中学校 鈴木先生
「新川崎」駅から歩いて15分、目抜き通りを少し入ったところにある「川崎市立日吉中学校」は、先生も生徒も全員の顔がわかるというアットホームな小規模の学校。1小1中で日吉小学校からそのまま日吉中学校に進むため、生徒たちは9年間の長い付き合いになり、大人になって街を出てからもまた戻ってくる生徒が多く、親子三世代で通う家庭もあるとか。そんな「川崎市立日吉中学校」の鈴木校長先生に、日頃の生活から特徴的な教育活動までいろいろとお伺いしました。
コミュニケーションを大切にする教育
――川崎市立日吉中学校の歴史と概要を教えてください。
鈴木先生:本校は1950(昭和25)年、地域住民の強い希望が叶って市内17番目の中学校として開校したと聞いております。昨年、川崎市内の16の中学校が揃って創立70周年を迎えるなか、本校は少し遅れて再来年の2020年度に創立70周年を迎える予定です。
合計346名の生徒が在校しています。「新川崎」駅周辺の集合住宅建設もあり、生徒数増が見込まれておりますので、新しい校舎を建て、受け入れ体制を整えました。現在は規模的にこぢんまりとした人数で、生徒も先生も全員の顔と名前が一致しますので、文字通り生徒の1人1人に目が行き届くアットホームな雰囲気の学校です。
――力をいれていらっしゃる教育活動などはありますか?
鈴木先生:この地域は1小1中、つまり「川崎市立日吉小学校」の児童がそのまま本校に入学します。他の小学校の児童と交わることなく、合計9年間一緒に過ごしますので、良い意味で兄弟のように安心してのびのびと育ち、マイナスの意味でいえば少し緊張感がないかなと感じることもあります。お互いがお互いを理解して、助けあったり高めあったりする雰囲気はありますね。
2008(平成20)年から総合的な学習の時間・保健体育科・特別活動などの研究に取り組んでいらしたそうです。外部講師を呼んでの研修会を開いたり、研究授業などを行いながら先生方も全員で力を入れて取り組みました。子どもたちも自分の考えや思いを伝え合う地道な話し合い活動を通じて、「自分の意見を言う」「自己肯定感を持つ」といった目標を着実にクリアしました。研究10年目を迎えたことで一度この研究には区切りをつけますが、この取り組みの成果を土台にした教育活動は継続していきたいと考えています。
学校の教育活動を盛り上げ・支える地域・おやじたちの力
――秋の文化祭も特徴的だと伺いました。
鈴木先生:どの学校でもやっていらっしゃる行事だとは思いますが、毎年10月の土・日曜日2日間を使って、1日目は成果発表会と合唱コンクール、2日目にはステージ発表とフェスティバルを行なっています。
1日目午前中の成果発表会は普段の勉強の成果を保護者の方々や他の生徒たちに見てもらう会で、“見せるため”の特別な展示物などは作らず、日頃積み重ねたものを見てもらう機会と考えています。午後の合唱コンクールはクラス対抗で、全校合唱もあります。中学生くらいの年頃ですと照れしまう生徒も多いように思いますが、この学校の生徒は歌うのが好きな様子で皆楽しそうに取り組んでいますね。
2日目のステージ発表は、吹奏楽部の演奏や弁論大会、保健員会の発表を行います。午後のフェスティバルはPTA主催のお祭りで、校庭にやきそばなどの出店が出たり、バザーがあったりと賑やかな催しです。PTAや地域の方々もご協力くださり、卒業生も訪れたりとこの地域を象徴するような楽しく温かな雰囲気のイベントです。
――地域との交流について教えてください。
鈴木先生:地域の要望で学校が創立したという成り立ちにもあるように、本校は地域の方々との関わりが非常に強い学校です。例えば「おやじの会」というお父さんたちの会は珍しい活動ではないと思うのですが、本校の「おやじの会」は桁違いの活発さです(笑)。子どもが卒業したら終わりではなく、卒業後も残る方々が多く、歴代PTA会長の方たちも現役で在籍していらっしゃいます。
毎年5月には学校やその他施設にある梅の木から梅を収穫し、梅干しをつくり、毎年10月開催のフェスティバルで販売。その収益を毎年3月の紅白餅づくりに充てて、卒業生に手作り紅白餅をプレゼントしているそうです。また9月上旬には校内美化活動(清掃)を実施していますが、参加した生徒やPTAボランティアの方々に「流しそうめん」を振る舞うのが名物イベントになっています。この流しそうめんに使う竹も、おやじの会所属の元PTA会長のご自宅から伐採してくるものだそうです。
このほか川崎市主催の駅伝大会にも応援に駆けつけてくださるなど、何かと学校と子どもたちを気にかけてくださり助かっています。「地域活性」ということを軸にいろいろと考えて活動されているということで、学校だけでなく地域にとって大切な「おやじの方々」です。本校には三代で通っているご家族も多いのですが、この地域への深い愛着を持った地域の人たちと、そんな方々が住む温かな土地柄なのだと思います。
――学校生活を通してどんな生徒に育ってほしいと思いますか?
鈴木先生:学校教育では「心・学・体」の3本柱がよく話されますが、私はやはり「心」を育てたいと思います。ぐっと力が加わったときにポキリと折れてしまうような強さではなく、“しなやかさ”“柔軟性”を身につけて、自信を持ち自己肯定感を感じられるような強さを兼ね備えた人に育ってほしいと思います。
小さなことではありますが、朝会や集会で人前で話す機会や部活の壮行会で1人ずつ目標を発表する機会など、とにかく自分の言葉で自分の思いを話すチャンスを多く作っていこうと思います。そこで頑張ったことを褒めてあげれば小さな自信になり、それを積み重ねていけば大きな自信になる。少し先の目標を設定して、一歩一歩到達していく。そんな地道なことの先に、しなやかな強さがあるような気がします。
9年間一緒に育つ子どもたちは本当に仲が良く、全校生徒350人ほどの小さな学校ですから、部活動もギリギリの人数でやっています。そのため吹奏楽部の楽器運びは野球部が率先して手伝い、野球部の応援には吹奏楽部が駆けつける。そんな支え合い協力し合う関係は意識せずとも自然にできています。世の中は全て「人と人」、その人を育てるのが学校の役割ですから、先生方がちょっとしたアドバイスを与えることで、それをヒントに自ら成長できるような環境をつくりたいですね。
地域の「子育てを応援したい」思いから生まれたユニークなイベントも
――この地域の子育てをするうえでの魅力はどんなところでしょうか?
鈴木先生:毎年10月上旬に、本校体育館で「赤ちゃんハイハイあんよのつどい」というイベントが行われ、親子と本校の3年生が交流会を開いています。これは幸区の保険福祉センターが、「子育て中の親が子育てを支えてくれる近隣・地域の人と出会い、地域で子育てをするのだと感じてもらい安心して子育てできるようにする」という目的で開催しているもので、毎年200組前後の親子が参加しているそうです。当日は地域のボランティアの方々が参加し、体育館全体が大きな遊び場のようにセットされ、3年生はお母さんとお話ししながら抱っこさせてもらったり、赤ちゃんと一緒に遊んだりとふれあいの時間を過ごします。
そこで私が驚いたのは、多くの生徒がこの「赤ちゃんハイハイあんよのつどい」に、自分が赤ちゃんの時にお母さんと参加していることなのです。長い教師生活の中で、こんなに心温まるイベントを学校で実施しているところはとても貴重だと感じます。このイベントに象徴されるように、この幸区は非常に子育てに力を入れていて、地域の人たちもそれを助けようという雰囲気が潜在的にあるようです。この「赤ちゃんハイハイあんよのつどい」を通じてお友だちを作ったり、子育てボランティアさんと知り合いになったり、子育てをしている保護者たちが孤独にならないような工夫が行き渡っていると感じます。そんな地域で子育てをできるのは、親子双方にとって幸せなんじゃないでしょうか。
――暮らしやすさや生活の利便性についてはいかがですか?
鈴木先生:歩いて行かれる「新川崎」駅にはJR横須賀線とJR湘南新宿ラインが通っていますし、南武線の「鹿島田」駅もすぐ隣です。また東急東横線「元住吉」駅や「川崎」駅行きのバスも頻繁に出ていますので、どの線を使うにも非常に便利な地区だと思います。そのせいか私立中学校に進学するお子さんも少なくないと聞きますが、アットホームな本校にもぜひ進学してもらいたいですね。
――先生の個人的なおすすめスポットを教えてください。
鈴木先生:学校の斜向かいに「コトニアガーデン」という商業施設が新たにできたのですが、その中にある「地産マルシェ」がおすすめです。地域の野菜だけでなく、様々な地域の農産物が販売されている直売所で、質のいいものを安く購入できるので便利だと思います。お子さんを遊ばせられる芝生広場やクリニック、カフェなども併設されているので、お友だちと一緒にちょっと遊びに行くのもよいかもしれませんね。
川崎市立日吉小学校
校長 鈴木理恵子先生
所在地:神奈川県川崎市幸区北加瀬2-3-1
電話番号:044-588-4551
URL:http://www.keins.city.kawasaki.jp/3/ke301401/
※この情報は2018(平成30)年10月時点のものです。
地域と体験を共有する公立中学校/川崎市立日吉中学校 鈴木先生
所在地:神奈川県川崎市幸区北加瀬2-3-1
電話番号:044-588-4552
https://kawasaki-edu.jp/3/104hiyosi/