五味醤油 6代目五味仁さん、五味洋子さんインタビュー

先代の活動を引き継いで広める発酵兄妹の取り組み/五味醤油(山梨県)


「五味醤油」発酵兄妹こと仁さん、洋子さん
「五味醤油」発酵兄妹こと仁さん、洋子さん

城下町として栄えた山梨県甲府の街では、城東通りにある、かつて敵の侵入に備えたクランク状の街路など、城下町としての名残が随所に残されています。 また、鹿革を加工した甲府印伝など伝統工芸が残るほか、老舗が点在していることも特徴です。

そのうちの一つ、明治元年創業の『五味醤油』は、名前には「醤油」が入っていますが、40年ほど前に醤油の醸造は中止し、現在はこの地域特有の甲州味噌の醸造のみを行っている地域に根差した老舗です。

近年、丁寧な暮らしやライフスタイルを志向する人々が増え、塩麹ブームなど“発酵”食品にも注目が集まっています。
そんな中で、『五味醤油』の6代目五味仁さんと妹の洋子さんは“発酵兄妹”という名前で、甲州味噌や味噌づくりを広める活動もおこなっています。その活動は、味噌づくりワークショップの開催、味噌づくりのための歌「てまえみそのうた」の制作(その後、平成26年(2014年)にグッドデザイン賞を受賞)を中心に、ラジオ番組『発酵兄妹のCOZY TALK』(YBS山梨放送)のパーソナリティなど多岐にわたります。

WEBメディアや雑誌などさまざまなメディアに取り上げられ、東京でもワークショップをおこなう発酵兄妹のお二人に、五味醤油の取り組み、郷土食に対する想いや甲府地域の魅力について伺いました。

五味醤油のつくる「甲州味噌」とは

――五味醤油さんが現在行っていることを教えていただけますか?

仁さん:『五味醤油』では、味噌と麹、調味料の販売を行っています。40年ほど前には醤油や酒の醸造も行っていましたが、父の代で味噌に絞りました。

「五味醤油」外観
「五味醤油」外観

――甲州味噌の特徴について教えてください

仁さん:味噌は、大豆と麹、塩から作られていますが、麹の種類によって分類されています。甲州味噌は、米麹と麦麹を組み合わせているのが特徴です。

洋子さん:甲州味噌が合わせ味噌になったのは、甲府の土地が関係していて、甲府は狭い盆地になっていて、稲作に適した平らな土地が少なかったこともあり、田畑の裏作で麦を栽培するようになりました。味噌も、米麹だけでは足りなかった分を麦麹で補ったのではないかと思います。

――『郷土食』としての甲州味噌をどのように考えていらっしゃいますか?

仁さん:歴史あるものですし、山梨の食には欠かせないものだと思います。
そもそも、地味噌と郷土料理がしっかり残っていること自体、数えるほどしかないとても貴重な文化なので、大事に守っていきたいと思っています。
ただ、「珍しいから、貴重だから」というだけではだめだと思いますし、伝え方を考えながら今後もやっていきたいと思います。

五味洋子さん
五味洋子さん

――甲州味噌のおすすめの使い方を教えてください。

洋子さん:甲州味噌には、いりこ出汁があうのでシンプルにお味噌汁ですね。料理で言えば、なんといっても山梨の郷土料理の『ほうとう』がおすすめです。
オンラインショップでは、ほうとうも販売しています。

――パッケージやWebサイトの雰囲気もとても素敵ですよね。

洋子さん:テーマは「まぬけポップ」です。なかなか伝わりずらいのですが、かっこよすぎず可愛すぎず、愛着のもてる感じが私たちっぽいなと。

仁さん:売っている味噌の袋はどう頑張ってもきれいに撮れないと噂です(笑)

素敵なHP。オンラインショップでも商品を販売している。
素敵なHP。オンラインショップでも商品を販売している。

五味醤油HP:https://yamagomiso.com/

 

先代から引き継いだ味噌づくり教室

――味噌づくり教室や“発酵兄妹”としての活動について教えてください。

仁さん:味噌づくり教室は、手ぶらで味噌づくり体験ができるもので、平日は地元の方が多いですが、休日は東京や神奈川から多くの方にご参加いただいています。いらっしゃる方の年齢層も子ども連れから90代のお年寄りまで幅広く参加してもらっています。

もともと先代から、地元の小学校で味噌づくり教室を担当していたのがきっかけです。私がサラリーマンを経て実家に戻った時に、最初に担当したのがこの味噌づくり教室でした。
その後、市内で機会が増え、今では東京などでも開催しています。

発酵兄妹の屋号が書かれた看板
発酵兄妹の屋号が書かれた看板

ワークショップやラジオ番組を“発酵兄妹”としてやっていますが、二人や仲間で仲良く楽しんでやっていることが、そのままつながっています。「てまえみそのうた」も同様で、もちろん家業でもあるので本気ですが、特に戦略があったわけではありません。

――味噌が売れることと、味噌づくりを広めることは相反するように思えるのですが、どのように考えていらっしゃるのでしょうか?

洋子さん:うちの味噌づくり教室では、4kg分つくるのですが、自分で作ると簡単に美味しい味噌がつくれるので、今までよりたくさん食べるようになるそうです。そうすると、年々作る量も増え、買ってくれる麹の量も増えるので、作る人が増えたからといって売れる量が減るわけではありません。

今日も、以前に教室に参加してくれた人が、自分でつくった味噌は嬉しくてすぐに無くなってしまったので買いに来てくれました。その流れは想像していなかったので嬉しかったですね。

仁さん:発酵って、大枠は簡単にできるのですが、その道を極めようとすると、すごく難しい作業です。それをお客さんと共有できると、「こんなにデリケートなものを扱っていたのか」という気づきと同時に、「プロのつくった甲州味噌は美味しい」ということにも気づいてもらえるので、作る人が増えてもらったほうが業界とって結果的に良い影響があると思います。

仁さんは2017年に先代から「五味醤油」を引き継ぎ6代目となった
仁さんは2017年に先代から「五味醤油」を引き継ぎ6代目となった

仁さん:20年以上前から両親がやってくれていたことも大きかったですね。
事業の規模が小さくても、地域でずっと続いているものはとても価値があると思います。母から教室を引き継いだ時も、味噌づくりをちゃんと教えらえる人がいなかったし、やりたい人はいるはずなので、しっかり取り組めば成果がでるだろうと考えていました。

まさか、ワークショップのために建物(『KANENNTE』)を立てるとは思いませんでしたが…(笑)

新たな場づくりで広がる可能性

――その『KANENNTE』と『Tane』という店舗・施設について紹介いただけますか?

仁さん:『KANENNTE』は、平成28年(2016年)にオープンしたワークショップスペースです。名前は、1960年代の始め頃まで使われていた「金手(かねんて)」という町名から取っています。
味噌づくり教室のほかにも食に関するワークショップなども開催しています。

2016年にオープンした「KANENNTE」
2016年にオープンした「KANENNTE」

仁さん:『Tane』の方はもっと前から構想があり、3年前からちょっとずつ工事して、喫茶スペースのある『AKITO COFFEE Tane』として、令和元年(2019年)にオープンしました。

この建物は戦後に建てられたもので醤油を作っていたそうです。使われずそのままになっていたので、とりあえずきれいにして有効活用しようか、という考えていたところ、現在入っている『AKITO COFFEE』さんとタイミングが合い、一緒にやることになりました。

同じ敷地内に新しいものづくりをしている仲間がいることは、すごく刺激をもらえるし励みになりますね。

洋子さん:もともと味噌をつくるためだけの場所だった蔵(工場)を新しくして、Taneから味噌蔵を見られるようにしました。
これまで限られた人しかいなかった蔵とまちとの接点ができただけでなく、暗かった物置に多くの人が集まっているのを見ると、とても新鮮で面白いことだと思います。

仁さん:現役の味噌蔵が見える「Tane」は不思議な体験ができる場所になったと思いますし、作っている側のぼくらも背筋がのびるような感覚です。

それに、地域に若い人がお店を開いて成功することは、地域にいいことだと思うんです。最近、近くに新しくカレー屋さんができたりして、この流れが続いていくともっと楽しくなりそうな気がしています。

甲府の魅力は大人だからわかる都会と自然の良いバランス

――甲府エリアの魅力とおすすめスポットについてお伺いしたいです。

洋子さん:社会人になって戻ってきて感じたのは、街はコンパクトだし、新宿まで特急で1時間半ほどで行けるのでそこまで不便さは感じません。逆に、ちょっと行けば裏山があるなど都市と田舎のバランスがちょうど良いと思います。

仁さん:ぼくも歳をとるとともに、より甲府や山梨がいいと感じるようになりました。ちょっといけば大自然がある環境は子育てにもいいと思います。

甲府城跡地から見た甲府の街
甲府城跡地から見た甲府の街

洋子さん:360度山に囲まれているので、友達と会うと「今日の山、綺麗じゃない?」とか、日常的に山や自然の話になるのも良いなと思いますね。あとは、愛宕山から見下ろす甲府の街がおすすめです。

仁さん:近くのうどん屋さん『旭』さんもおすすめです。特に女将さんは、広い店内をメモも取らずに回している姿は甲府の人々に尊敬されるレジェンド的な存在です(笑)

あとは、市外になりますが市川三郷町の「四尾連湖」がおすすめです。キャンプもできるのですが、湖畔を歩くだけでも癒されます。
アウトドアは、自転車でもウォーキングでもランニングでも、山登りも楽しめる環境だと思います。

あとは、ワインやお米や野菜といった食の生産者さんが多いことですね。新鮮で顔の見えるものが簡単に手に入ることは、当たり前になりすぎて忘れがちですけど贅沢なことなんだと思いますね。

まとめ

いかがでしたでしょうか。武田信玄公のお膝元、山梨県甲府市へは、新宿からなら特急あずさ・かいじで約1時間半で到着します。盆地特有の山岳に囲まれた景観のなか、地元に根付く郷土料理や名物のほうとうを『五味醤油』さんの甲州味噌で食べてみるのも良い休日の過ごし方かもしれません。ワークショップでは、参加者自らが味噌をつくることができるので、地元の方々との交流とともに味噌づくりも学べる場はとても貴重ですね。これから山梨県甲府市への転居や移住、観光をお考えの方の参考になれば幸いです。

 

味噌づくりはコミュニケーション、先代の活動を引き継いで広める「五味醤油」発酵兄妹の取り組み
味噌づくりはコミュニケーション、先代の活動を引き継いで広める「五味醤油」発酵兄妹の取り組み

五味醤油

6代目 五味仁さん、五味洋子さん
所在地:甲府市城東1-15-10
電話番号:055-233-3661
URL:https://yamagomiso.com/
※この情報は2020(令和2)年5月時点のものです。

先代の活動を引き継いで広める発酵兄妹の取り組み/五味醤油(山梨県)
所在地:山梨県甲府市城東1-15-10 
電話番号:055-233-3661
営業時間:10:00~17:00
定休日:日曜日、祝日(お盆、年末年始)
https://yamagomiso.com/