出澤忠利さんインタビュー

甲府市発の老舗ブランドが伝える“ものづくり”への想いとは/印傳屋 上原勇七(山梨県)


甲州印伝総本家 印傳屋 上原勇七 甲府本店
甲州印伝総本家 印傳屋 上原勇七 甲府本店

山梨県甲府市の中心地、城東通り沿いにある『印傳屋(いんでんや) 上原勇七』は、甲州エリアで四百年もの間受け継がれる伝統工芸・甲州印傳を施したアイテムを全国展開する老舗で、国内のみならず世界中のファンからも愛される人気ブランド。甲府市に拠点を構えた歴史やブランドの特徴、街の魅力について、出澤忠利さんにお話を伺いました。

戦国時代から現代へ受け継がれる、唯一無二の存在。

「甲州印傳」を使った様々な商品を展開
「甲州印傳」を使った様々な商品を展開

――甲州印傳の歴史を教えてください。

出澤さん:ものづくりのルーツは、天正10年(1582年)の戦国時代にまで遡ります。四方を山に囲まれた山梨県は古くから鹿革や漆を産出していました。また、甲府盆地は高温多湿の気候で、漆の乾燥に適していたことから、甲州印傳が生まれ育つのには格好の地でした。
鹿革はもともと水に弱い性質を持ち、それと同時に吸水性の高い素材です。革に撥水性を持たせるために漆をベタ塗りし、揉んで乾燥させる作業を繰り返すことで、表面がクラック状になる独自の技法を、遠祖・上原勇七が創案しました。
江戸時代ごろには、型紙を用いた漆付技法が行われ、小紋をはじめとする様々な模様付けが可能になり、現在に至るまでの長きに渡りその技を継承し続けています。戦後、甲州印傳は様々な困難を乗り越えて、昭和62年(1987年)には通商産業(現、経済産業)大臣指定伝統的工芸品に指定。新しい模様や製品の開発、他業種とのコラボレーションを通じて伝統を守りつつ、革新に挑戦しています。

戦国時代から続く老舗
戦国時代から続く老舗

魅力溢れるデザインは400パターン以上!

店内の様子
店内の様子

――商品のこだわり、特徴をご紹介ください。

出澤さん:『印傳屋』では、甲州の風土に育まれた伝統技法を継承するとともに、新時代の感性を映す革の美を創り続けています。
武士の間で「勝虫(かつむし)」とも呼ばれ武具や装束に多用された「蜻蛉(とんぼ)」、桜の持つ神聖な美に喜びやあはれを感じ、年代を問わず愛される「小桜」、同心円の一部が扇状に重なり合った幾何学的な連続模様で、大海原を意味し、無限の海の広がりを表す「青海波(せいがいは)」など、自然の力や四季の美しさを想う日本人の心から生まれた、様式美溢れる模様は400パターン以上あります。

「印傳博物館」に展示されている「蜻蛉(とんぼ)」の模様
「印傳博物館」に展示されている「蜻蛉(とんぼ)」の模様

出澤さん:ここ本店フロアには、常時200~250種類の商品をディスプレイしています。弊社の製品は「革色」「漆色」「柄」の組み合わせで構成され手作りのため、模様の多彩性が生まれるのと同時に、常に同じ模様の表現が難しいことも特徴。来店の度に新しい模様の商品に出会うことができる楽しみや希少性も人気の理由です。

お気に入りの柄を見つけ出せるという楽しみがある
お気に入りの柄を見つけ出せるという楽しみがある

毎年生まれる新デザイン。お気に入りを見つけて欲しい。

使い方に合わせて、いろんな種類のカバンが選べる
使い方に合わせて、いろんな種類のカバンが選べる

――初めて買われるお客様向けの商品などもあれば教えてください。

出澤さん:財布や名刺入れ、バッグなど、同じ模様のものでアイテムを揃えると長く楽しめると思います。印傳の伝統文化を守り伝えるだけでなく、常に新しい感覚の模様、意匠の開発にも取り組んでいますので、直営店では新しい模様の商品を毎年販売しています。「今年はどんな模様があるかな?」と商品との出会いを楽しみに度々来店いただき、お気に入りのデザインを見つけていただければと思います。

生活習慣の変化に適した商品展開がされている
生活習慣の変化に適した商品展開がされている

出澤さん:服装や生活習慣の多様化にも対応して、ペンケースやスマホポシェット、携帯ストラップ等も多数ご用意していますので、普段使いはもちろん、贈答用としても喜ばれると思います。

眼鏡ケースなどもある
眼鏡ケースなどもある

国内外の新たな客層への訴求につながった革新的な取り組み。

――海外ブランドとのコラボレーションも積極的ですね。

出澤さん:『印傳屋』では、「グッチ社」や「ティファニー社」など世界的なブランドとのコラボレーション商品を製造してきました。平成29年(2017年)には、世界中の卓越した素材や技術といったプロダクトソースを探求し続ける英国王室御用達ラグジュアリーブランド「アスプレイ社」が、伝統を革新し続ける弊社のものづくりの姿勢に共鳴してくださり、クリエーション・コラボレーション・パートナーに日本企業で初めて指名されました。企画・開発から製造まで1年をかけて「印傳屋×アスプレイ コレクション作品」の制作が実現、販売しました。これまでは国内のみの販売でしたので、これらのコラボレーションにより、伝統を守りながら新しさを取り入れていくことの重要性を再確認するとともに、『印傳屋』のものづくりの歴史と実績が世界に選ばれたことは、企業全体や職人の自信と誇りにつながりました。

「東京オリンピック」とのコラボ商品も並ぶ
「東京オリンピック」とのコラボ商品も並ぶ

ものづくりの力と伝統を後世に伝えたい。

展示品の数々
展示品の数々

――『印傳博物館』の概要や特徴についてご紹介ください。

出澤さん:時代の流れと共に貴重な品々も散逸しつつある現状、時代がものづくりを後押しするパワーと日本の鹿革工芸文化を後世に伝える目的で、平成11年(1999年)に『印傳博物館』をオープンしました。館内は第1室と第2室に分かれていて、江戸時代以前から昭和初期に至る古典作品をはじめ、復原模造品・現代作品・参考資料や道具などを所蔵していて、資料保全のために年4回の展示替えも行なっています。
技を磨き、美を求める、時代時代の職人たちの限りない夢をじっくりとご覧いただき、鹿革工芸や甲州印傳という伝統工芸品を知っていただきたいと思います。館内では展示に合わせてレファレンス業務も行っていますので、お気軽にご質問をいただければと思います。小学校の社会科見学等にも幅広くご利用いただいています。

「印傳博物館」内の様子
「印傳博物館」内の様子

――技術の継承や、若年層に向けた取り組みなどがあれば教えてください。

“見て教える”方法で伝承される技術
“見て教える”方法で伝承される技術

出澤さん:職人の技術の伝承は、今も昔も“見て教える”というやり方。ある程度のデータベースはありますが、マニュアルは存在しません。染色した鹿革に型紙を用いて色漆で模様を付ける「漆技法」、藁を燃やした煙を当てて革を茶褐色系の色合いに染め上げる「燻技法」、型紙を用いて鹿革に多色の模様を型染めする「更紗技法」など、一子相伝で受け継がれてきた家伝の技法は、職人たちの手により人から人へと着実に受け継がれています。

伝統的な技術についてじっくり学べる
伝統的な技術についてじっくり学べる

甲府の歴史・文化を感じる暮らしやすい環境。

――甲府中央の周辺エリアの魅力を教えてください。

出澤さん:『印傳屋』は城東通りに面していまして、この通りは昔の甲州街道になります。ここから通りを東に進むと、クランク状に屈曲した箇所がありまして、江戸時代から続く城下町特有のものです。
城下町との境を示し、城への見通しを悪くして敵の侵入を阻むために、このような形に作られたといわれています。
その他にも、ここから南側は坂になっていて、下った荒川の辺りは外堀があったこともあり川魚店・鰻店が点在しています。
今では地名でも使われなくなってしまいましたが、毎月8日に市場が開かれていた八日町や行商人が荷物を背負う際に使う「連尺」という道具を指した連雀町など、甲府中央エリアには城下町の名残りが多くあり、随所で歴史を感じることができます。古き良きが残された美しい街並みや温泉、「岡島百貨店」などの買い物施設、人気のレストランや和菓子店など、買い物環境や住環境も良好です。
私もそうですが…、地域愛があるおせっかいな住民も多く(笑)、市外から転入した方でもとても暮らしやすいエリアだと思います。ぜひ気軽にお越しください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。武田信玄公のお膝元、山梨県甲府市で400年もの間、その伝統の技と美を継承してきた『印傳屋 上原勇七』さんのインタビューでした。山梨県甲府市へは、新宿からなら特急あずさ・かいじで約1時間半で到着します。都内の百貨店などでも目にする機会はありますが、甲府の地で育まれたその匠の業と品を、実際に甲府で見てみるのはいかがでしょう。これから、山梨県甲府市への転居や移住、観光をお考えの方の参考になれば幸いです。

 

甲州印伝総本家 印傳屋 上原勇七 甲府本店

出澤忠利さん
所在地:山梨県甲府市中央3-11-15
電話番号:055-233-1100
URL:https://www.inden-ya.co.jp/
※この情報は2020(令和2)年7月時点のものです。

甲府市発の老舗ブランドが伝える“ものづくり”への想いとは/印傳屋 上原勇七(山梨県)
所在地:山梨県甲府市中央3-11-15 
電話番号:055-233-1100
営業時間:10:00~18:00
休業日:年末年始
https://www.inden-ya.co.jp/