イラストレーター ai sayamaさんインタビュー

「西調布一番街」から世界にワクワクを届ける/イラストレーター「ai sayama」さん(東京都)


西調布駅の北口ロータリーから左手側の横丁を入ると、昭和レトロ感があふれる細い商店街が伸びている。ここは地元の方を中心に飲み屋街として親しまれている「西調布一番街」で、もともと、昼間にシャッターを開ける店は少なかったが、数年前から昼間に開けるお店が増え、にわかに注目されている。

その内の一つが、イラストレーターai sayamaこと佐山愛さんのアトリエだ。佐山さんは昨今、いろんな雑貨の原画や書籍カバー、挿絵等を手掛けている売れっ子で、シンボルとなっている「ねこだらけ」シリーズをはじめ、動物、少女、花や木など、子ども心あふれるモチーフをカラフルににぎやかに、敷き詰めるように描く作風で知られている。そして佐山さんという人自体も、笑顔をいつも絶やさない太陽のような方だ。

そんな佐山さんだが、実はプロとして本格的に活動を始めたのは数年前のこと。西調布がスタート地点だったという。今回はアトリエを訪ね、作品に乗せた思いと調布エリアの魅力についてお話をうかがった。

笑顔が素敵な、イラストレーター ai sayamaさん
笑顔が素敵な、イラストレーター ai sayamaさん

「清水の舞台を飛び降りる」気持ちで西調布へ

――まずは、佐山さんの経歴とイラストレーターになったきっかけを教えてください。

佐山さん イラストレーターとしての活動は4年前からやっています。西調布に引っ越してきてからですね。実はその前は10年くらい、普通に会社員をしていました。ITに関係する仕事を10年ほど、もちろん色々な勉強もして頑張っていて、それなりに評価もされたんですけれど、「その先に自分がしたいこと」が見えなかったんですね。今はこんなに笑ってばっかりいますけれど、当時は仕事に行くのが毎日毎日、本当につらくって。

そんな中で、昔からなんとなく絵を描くことは好きだったので、「もうちょっと絵がうまくなったらいいなー」くらいの気持ちで、仕事が終わった後にイラストの私塾に通い始めたんです。その時は「プロになろう」なんて気持ちはまったく無かったです。

でも、この塾が有名なところだったので、講師に実際に活躍されているイラストレーターの方がたくさんいらっしゃって、そういう先生方に作品を講評して頂いたり、活動のやり方を聞いたりしている中で、「憧れ」が生まれてきたんだと思います。イラストレーターになったきっかけという意味では、この出会いだったのかなと思います。

「西調布一番街」にある「ai sayamaアトリエ」外観
「西調布一番街」にある「ai sayamaアトリエ」外観

ただ、それからすぐに行動に移したわけではなく、仕事を辞めるのは数年後でした。その間に塾の友達といろんなイベントに出て展示をしたり、そこでお客さんから反応を頂いたり、中には私の絵を「買いたい」と言ってくださる方もいて、実際に販売もしたり。そのうちに「雑誌の挿絵を描いてみませんか」という依頼を頂いたり、コンペで入賞したり、みたいなこともちらほら起きてきて、「あれ?これ、何か形になるんじゃない?」みたいな勘違いをし始めたんですよ(笑)。

もうその頃には仕事もしんどくてしんどくて仕方なかったので、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、仕事を退職したんですね。「ダメなら多摩川に入ればいいや」って思ってました、本気で(笑)。それから4年、何とかここまでやらせていただいているという感じです。

――プロになってからは、どんなお仕事をされていますか?

佐山さん 今メインに行っているのは、メーカーさんと一緒に商品を作らせて頂くというものになります。私の描いた絵をメーカーさんに提供して、そこから商品を作っていただき、雑貨のお店などで販売される。私はデザイン料やライセンスフィーを頂くというお仕事です。

カラフルでにぎやかなイラストが特徴的
カラフルでにぎやかなイラストが特徴的

――具体的にはどんな商品が展開されていますか?

佐山さん 多いのは食器、お皿、傘といったもので、ほかにも、手芸・雑貨の大型専門店さんと一緒に布も作っていたり、ポストカードや変わったものではボクサーパンツとか。あと、今後は某文具メーカーさんとのコラボも予定しています。書籍の挿絵や表紙イラストなども、依頼があれば描かせていただいていますね。

――ここにある手書きのダルマ、かわいいですね。これも商品ですか?

佐山さん やっぱり、プリントしたものではなくて、「アート作品」として欲しいという方もいらっしゃるので、ここにあるような飾るための絵だったり、ダルマだったり、そういった作品もちょこちょこ作りながら、販売もしています。こういったものは全部手塗りですね。

ai sayamaさんの世界観がダルマにも
ai sayamaさんの世界観がダルマにも

――下絵は鉛筆、塗りは絵の具という完全アナログ手法なのですね。

佐山さん 量産するものも、もともとはアナログで全部描いて、それを取り込んだものをプリントして製品化して頂いているので、「いちから全部デジタルで作る」という作品は無いですね。

イラストの下書き。どんなカラーリングとなるのだろう
イラストの下書き。どんなカラーリングとなるのだろう

子どものころの「ワクワク」を絵で伝えたい

――イラストのモチーフやテーマについて、意識していることがあれば教えてください。

佐山さん いちばん多いモチーフは猫なんですけれども、実は、そこにこだわりは無くて、ほかにもいろんな動物も描いていますし、花や木とか、自然にあるものがわりと多いし、妖怪なんかも描いています。ただ「描きやすいもの」というのはあると思いますけれど(笑)。

一番多いモチーフは猫
一番多いモチーフは猫

モチーフは多分なんでもいいんですよ。それよりも「そのモチーフを通じて何を伝えたいか」ということだと思います。それは「ワクワク」とか、「楽しさ」といったものですけれど、あるお客さんに「佐山さんの絵を見ると子どもの頃の楽しかった記憶を思い出す」って言われて、「あ、確かにそうなのかな」って思っています。

自然にあるものをモチーフにしているのも、「幼かった時に見た記憶をよみがえらせて描いている」みたいなところがあるからなんですね。大人になるとそういうものって忘れてしまうじゃないですか。だから私は、そういうものを提供したいと思っていて、表面的には「なんか猫ばっか描いてるな」って見えると思うんですけれど、その先にある「楽しさ」とか「ワクワク」が伝わればいいなって思いながら描いています。

――佐山さんの絵には「物語」があって、見ているといろんな想像がふくらみますよね。

佐山さん それは多分、絵本の影響が相当に大きいからなんです。カラフルな絵本が昔からすっごく好きで、レオ・レオニの『スイミー』とか『フレデリック』が特に大好きだったんですが、本当にたくさん絵本を読んだし、絵を眺めるのも好きだったし、そこに色がすごく鮮やかに入っているのも好きで。だから今もこういう作風なんだと思います。やっぱり絵の中に物語があったり、「こんなのもいる!」みたいな発見があると面白いじゃないですか。

だから私の絵でも、たとえば、「猫だらけの絵の中にひとりだけ女の子がいる」とか、「よくよく見たらこんなのもいるじゃん」というものが多いんです。それは私が絵を通して「楽しんでほしい」と思っているからなのですが、絵というのは多分、私にとってのコミュニケーションツールなんですね。お客さんと私のコミュニケーションツールでもあるし、お客さん同士のものでもあるのですが、絵を通して、そういったものも提供していけたらいいなと思っています。

ポップでキュートなイラストは、その空間も明るくしてくれる
ポップでキュートなイラストは、その空間も明るくしてくれる

地元の人とのゆるいつながりが心地よい

――ここにアトリエを置いたきっかけが「西調布つくるまちプロジェクト」だったそうですが、西調布の街との出会いについて教えてください。

佐山さん 最初のきっかけとしては、アトリエとして使える物件をあちこち探していた時に、たまたま、この「つくるまちプロジェクト」で入居者を募集していたので、面接をさせて頂いて、入居したということで、実は西調布にこだわりがあったわけじゃないんです。

――西調布に来るのは初めてでしたか?

佐山さん 調布はありましたけれど、西調布は初めてでしたね。今まではもっと都心に近いほうに住んでいたので。でも、その時も商店街の近くに住んでいることが多かったですね。私、出身が栃木県の田舎のほうで、自然に囲まれて育ったので、こういう静かな街のほうが好きなんです。

――これまで、地域と関わりながら行った活動があれば教えてください。

佐山さん もともと、この「西調布一番街つくるまちプロジェクト」が、商店街に昼間に開いている店が減って寂しくなってしまったのを、「昼に活動してくれる人を呼んで元気にしよう」ということで始めたもので、そのために、アーティスト向けに割安に物件を貸し出すという取り組みだったんですね。

「西調布一番街つくるまちプロジェクト」の看板
「西調布一番街つくるまちプロジェクト」の看板

なので、この商店街には私以外にもアーティストの方が入っていらっしゃって、アクセサリーの作家さんや、絵画を描かれる方、劇団の方が練習場として使っている建物などもあります。そういういろんな作家さんのいろんな活動を通して、活気あふれる街にしていこうという狙いがあったんですね。

なので、私のところでも月に1回「オープンアトリエ」という企画をやって、地域の方と交流したり、地域のイベントがあればそこに出たり、ここの商店街でやった「いっぴんいち」というイベントに出店したりもしていました。でも、そこでコロナ禍になってしまって、今はほとんど無くなってしまいましたね…。

――作家さん同士のコラボ、作家さんと地域の方のコラボなど、横のつながりで活動されていることはありますか?

佐山さん それは個々の話になってしまうんですが、私の場合は、商店街の中に人形劇の劇団に入っていらっしゃる方がいて、その方が市内でイベントを開催される時にフライヤー作りを担当させて頂いたり、というのはありました。お店の例だと、近くにある「イーチファンペストリー」というケーキ屋さんで、プレゼントボックスやポストカードのイラストを、お仕事として担当させて頂いたりもしています。

「イーチファンペストリー」で使われるイラスト
「イーチファンペストリー」で使われるイラスト

――「オープンアトリエ」ではどんなことをされていたのでしょうか?

佐山さん このスペースを開放して、近くにコーヒーを焙煎されている方がいるのでその方にお越しいただいて、コーヒーを飲みながらおしゃべりをする、といった事もやっていました。友達にタロット占いのセミプロがいるので、その方にも来てもらってタロット占いをしたり。すごくゆるい感じのイベントなんです。

近くに住んでいる方が「ただお話をしたいから」みたいな感じでも来られていました。今は休止中ですけれど、コロナが落ち着いたら、また復活させていきたいなと思っています。

でも、最近はそれがなくても、地元の方からけっこう声をかけてくださるようになってきていて、「けっこうみんな見てくれているんだな」って、ちょっと気が引き締まるものはありますね(笑)。

近所を散歩しながら、自然の中でネタ拾い

――商店街に住んで4年ということですが、「西調布の住みやすさ」はどんな点だとお感じですか?

佐山さん 私は田舎育ちなので、ここの「半郊外」っぽいところが気に入っています。裏手に行くと畑があって、公園があって、自然もけっこう残っていて。やっぱり、絵を描く時って自然に触発されるということが多いんです。私自身がそういう、人が作ったものではないもの、オリジナリティのあるものが好きなんです。だから散歩をしながら、自然の中でネタ拾いをしているような感じはあります。

でも、かといって都心から遠いわけでもなくて、絵を買いたいというお客さんもここまで来てくれるし、お仕事の打ち合わせでも、アトリエまで来て頂けることが多くて、活動をしていく中でもちょうどいい距離感だなと思っています。

 

アトリエ内には様々な展示がある
アトリエ内には様々な展示がある

――お休みの過ごし方、お気に入りの場所などがあれば教えてください。

佐山さん オフの時は調布に出ることが多いです。歩いて行っても15分くらいなので。あとは、このへんをぶらぶらしているかですね。

――調布では何をして過ごされますか?

佐山さん 調布は映画を目的に行くことが多いですね。私、「映画館で映画を見る」っていうのがすごく好きなんです。それまでの「ステップ」ってあるじゃないですか、チケットを買って、ポップコーンを買って、予告編を見て、「まだかなー」みたいな(笑)。それが大好きなんです。だから映画館が新しくできたのは、個人的にはすごく嬉しかったですね。

調布だともうひとつ、「たづくり」という調布市役所の横にあるホールによく行きますね。ここでは絵本作家さんとか有名なアーティストさんの展示もしていて、しかも無料なので、すごくおすすめです。

アトリエ内で作業する ai sayamaさん
アトリエ内で作業する ai sayamaさん

――西調布ではいかがでしょうか?

佐山さん 西調布だと「手紙社」さん(TEGAMISHA BREWERY)にはよく行っています。ここは女性に大人気のお店です。あと、この近くだと「クリスマス亭」という洋食屋さんがすごく美味しくって、デミグラスソースのオムライスとか、ハヤシライスとかが特に好きです。アトリエに人が来ると、そこに連れていっています(笑)。

この一番商店街の中だと、すぐそこにある「侘助」(わびすけ)さんという定食屋さんに名物ママがいて、「何か話したいなー」って思った時にはだいたいそこに行っています(笑)。

――西調布は飲食店関係のお店が多いんですね。

佐山さん 飲食関係は充実していると思います。調布だとチェーン店が多いんですけれど、西調布は個人店のお店が多くて、ラーメン屋さん、喫茶店、飲み屋さんなんかも、美味しいお店が多いんですよ。あと、「手紙社」さんの向かいにはすごく有名な料理系ユーチューバーさんのお店もあったりして。飲んだり食べたりしようと思えば、いろいろなお店がある街だと思います。

これからも西調布で、そして「西調布から世界へ」

――佐山さんの今度のビジョンを教えてください。

佐山さん 「世界をもっとワクワク」といつも言っているので、世界にもっと出ていきたいなと思っています。やっぱり「絵」って、「言葉に依存しない」というのが強みなので。「西調布から世界に!!」ですね(笑)。

染みついた色は、「ai sayama」さんの世界観を表している
染みついた色は、「ai sayama」さんの世界観を表している

――世界的イラストレーターになっても、西調布に住み続けますか?

佐山さん もしなっても、そうしていきたいですね(笑)。なんか、この感じが面白いじゃないですか。全然オシャレな場所とかからじゃなくって、敢えてここからっていうのが。

私自身、最近、「無理にオシャレにしなくても面白かったのになあ」って思うことがあるんですね。街並みとかにしても、「え、そういう方向じゃなくても良かったのに……」みたいなことって、結構ありませんか?

――ありますね。どこに行っても、国道沿いには同じお店があったり……。

佐山さん ですよね。「街自体の個性」みたいなものがすごく無くなってきていて、地方なんか特に顕著ですけれど、それってつまんないじゃないですか。その点、西調布にはちょうどいい感じに個性があって、個人経営のお店も多くって、そこが面白いところだなって思っているんです。

オシャレな場所に住んでいて、そこから世界に羽ばたくって、すごく「ありきたり」じゃないですか。でも、「海外と仕事しているのに、住んでいるの西調布?」って、意外性があって面白いと思っていて。だから当分、西調布にいると思います。もしお金持ちになったとしてもまだここに住んでいて、「こいつケチだな」って言われるくらいになりたいです(笑)。

楽譜の上にいる猫たちがとてもキュート
楽譜の上にいる猫たちがとてもキュート

――これから西調布エリアに住みたいという方に向けて、ひとことメッセージをお願いします。

佐山さん ここはいろんな「面白さ」とか「楽しさ」を「発掘」できる街だと思うので、ぜひ、自分だけの楽しみを見つけて、楽しんでいただければいいなと思います。アトリエにもぜひ遊びに来て下さい!

――佐山さん、今回はありがとうございました!

イラストレーター ai sayamaさん
イラストレーター ai sayamaさん

イラストレーター ai sayamaさん

所在地 :東京都調布市上石原1-27-31
URL:https://a-sayama.com/
※この情報は2022(令和4)年1月時点のものです。

「西調布一番街」から世界にワクワクを届ける/イラストレーター「ai sayama」さん(東京都)
所在地:東京都調布市上石原1-27-31 
https://a-sayama.com/