副館長・総務部部長 阿部和広さん、地域コミュニティ部次長 寺田達也さん、事業部部長 山本江里子さんインタビュー

多彩な学びの体験と地域コミュニティへの入り口に!/日野社会教育センター(東京都)


「豊田」駅北口から駅前通りをまっすぐに進んだ左手側に広がる、「多摩平の森地区・A3街区」は、多摩平エリアの福祉・医療、教育などに関する施設が集積したエリアです。その一角にある「公益財団法人 社会教育協会 日野社会教育センター」は、生涯教育や子ども向けの自然学校の開催などを中心に、市民の教育や健康増進に関する、さまざまな取り組みを行っています。センターの開設は今から半世紀以上前と歴史があるが、建物は2017(平成29)年にリニューアルし、快適な環境となっている。
今回は、日野社会教育協会副館長の阿部和広さん、地域コミュニティ部で主に野外事業などを担当する寺田達也さん、生涯教育や地域連携を担当する山本江里子さんの3人にご出席いただき、センターの活動内容と、人気のプログラムやおすすめの使い方、多摩平地区の魅力などについて、幅広くお話をお聞きしました。

(左から順に)副館長・阿部さん、地域コミュニティ部・寺田さん、事業部長・山本さん
(左から順に)副館長・阿部さん、地域コミュニティ部・寺田さん、事業部長・山本さん

年間延べ10万人が多彩なプログラムに参加するコミュニティ拠点

――まずは、「ひの社会教育センター」の概要についてお聞かせください。

阿部さん:多摩平地域は昭和40年代に大規模な開発がなされ、大型の団地が造られた地区です。その当時、日野市では一気に市民の数が増えるため、市民同士のコミュニケーションをどのように取るのか、ということが課題となっていました。そして、私達の本部である「財団法人社会教育協会」に、日野市のほうからお声掛けをいただいたそうです。土地は日野市が用意するので、建物と職員を協会から出し、運営が出来ないか、と。そういったきっかけで、1969(昭和44)年に「日野社会教育センター」がスタートし、2019年に創立50年を迎え、今日まで続いているという状況です。今でこそ、官民共同での地域コミュニティ拠点事業はよくありますが、当時は珍しい取り組みだったと聞いています。

2017(平成29)年にリニューアルした「ひの社会教育センター」の建物
2017(平成29)年にリニューアルした「ひの社会教育センター」の建物

――年間の利用者数や会員登録数はどれくらいいらっしゃいますか?

阿部さん:年によっても変わりますし、ここ1,2年は感染症の影響もあったため少ないのですが、例年は延べ10万人程になります。

会員の登録人数は、自然学校などの子どもたち向けのプログラムの会員が1,300名程、そのほかの生涯学習などに関して、成人が400名程と、子どもが200名程です。

――どういった方が会員登録をされているのでしょうか?

阿部さん:割合としては幼児・子どもの会員が圧倒的に多いですが、最近の傾向としてはシニア世代の方が増えています。習いごとなどを長く続ける方も多いので、その関係もあるかと思います。逆に少ないのは、30~50代くらいの働き盛りの世代の方です。ただ、その世代の方も、幼児・子ども向け事業にお子さんと一緒に参加いただいていますので、実際は年代を問わず、幅広くいろんな方に関わっていただけていると思います。

お話し中の阿部さん
お話し中の阿部さん

――定期的に行われているプログラムはどれくらいあるのでしょうか?

山本さん:現在は130~150種類くらいのプログラムを行っています。講座のジャンルは「健康・ダンス」「音楽」「文化・アート」「語学」「子ども向け教室」、野外事業の「ひの自然学校」などさまざまですので、ぜひ館内の掲示やパンフレットを見てみてください。参加条件など詳細も一目でわかるようにまとまっていますよ。

「子どもクッキング」の教室
「子どもクッキング」の教室

――長く続いている恒例のものと、毎回内容が変わるものとどちらのプログラムが多いのでしょう?

山本さん:比較的長くやっているものが多いですね。中には40~50年続いているものもあります。新規講座を開設する際には、まずは体験講座を何回か開いてみて、参加者のニーズや反応を見て通常のクラスにしていくような流れもあるので、新しい内容の実施も積極的に行っています。

多彩なプログラムがまとめられたパンフレット
多彩なプログラムがまとめられたパンフレット

――中でも人気が高いプログラムはどういったものですか?

山本さん:成人向けでは、コロナ禍以前は「歌声サロン」や「童謡をうたう会」といったみんなで集まって一緒に歌うプログラムが人気でしたが、今はこういう状況ですので、「太極拳」や「ピラティス」「ヨガ」といった、運動不足解消のためのプログラムへのニーズが高くなっています。また、最近は語学のクラスも人気が高いです。海外旅行に行くチャンスがなくなっているタイミングとしては意外性もありますが「時間がある今のうちに英語を勉強しておこう」という方も増えたみたいです。特に「英会話」と「韓国語」に関しては、最近新たにクラスを立ち上げたくらい人気です。

過去開催のおとな向け教室の様子
過去開催のおとな向け教室の様子

山本さん:最近はコロナ禍でもあり在宅ワークの方も多くいらっしゃるので、そういった方からのお問い合わせが増えていますね。「初心者ですが、自分もやれるヨガ教室はありますか」とか、「楽器を演奏してみたいのですが、何かありますか」など。働き盛りの世代の方も環境が変わったことで関心を持ってくださっているのかな、と思っています。

お話し中の山本さん
お話し中の山本さん

――人とつながる機会を求められているのかもしれませんね。

山本さん:そうですね。人とつながる機会が減っていますし、自分の時間ができたので、改めて地域を見直して、自分の子どもが生活している圏内のコミュニティを見てみよう、自分もコミュニティに参加してみよう、という流れが生まれてきているのかもしれません。

阿部さん:やはり自粛ばかりですと、今までは通勤などで身体を動かしていたところが、一切無くなってしまい、先々の健康リスクが高くなってしまいますので、外出促進に向けた事業というものも、新たに立ち上げて行っています。

子どもたちには野外プログラム「ひの自然学校」が人気

――子ども向けのプログラムで、人気が高いものを教えてください。

寺田さん:最近すごくニーズが高まっているのは、「ひの自然学校」として行っている、野外活動系のプログラムです。多摩平は新しく住む方が増えている街で、中でも子育て世代の方が特に増えています。もともとこの街自体にも自然が多いですし、子育ての一環として、こういった野外活動に参加しようという方が増えている、ということだと思っています。

「ひの自然学校・森の冒険教室」の様子
「ひの自然学校・森の冒険教室」の様子

過去開催の「ひの自然学校・日帰りカヌー」の様子
過去開催の「ひの自然学校・日帰りカヌー」の様子
――具体的にはどのような野外でどのような活動をするのでしょう?

寺田さん:自然の中でキャンプやスキーを中心に、身体を使った遊びや、仲間と協力した遊びなどを行います。こちらである程度内容を設定したプログラムもありますし、子どもたちの「こういうことをやってみたい」リクエストを形にするようなプログラム、両方をうまくミックスして行っています。

過去開催の「スキーキャンプ」の様子
過去開催の「スキーキャンプ」の様子

――野外に出たりする中で、子どもたちの変化などは感じますか?

寺田さん:活動の中で必然的に自然に触れて関心をもちますし、私たちも「環境配慮」や「環境倫理」というものを最近は特に強く伝えているので、子どもたちがそれを自分なりに解釈している、というのは感じますね。

一例だと、野外活動の場所だけでなく、利用者の子どもが友達と近所で遊んでいたときに、ゴミを見つけて自らそれを回収しセンターまでもって来てくれたこともあります。他にも、学校の社会科で「ゴミを調べよう」というような授業があった時に、プログラムで学んだことを思い出して、まとめた記事を書いた、という話を聞いたりもしました。子どもたちのほうがそういったインプット、アウトプットの感度はいいですから、普段の生活の色々なところでも生かしてくれていると感じますね。

――楽しみながら、そういった感覚が無意識に身についていくんですね。

寺田さん:そうですね。子どもはとくに心を動かされるのが早いんです。僕らの仕事は「いかに彼らの心を揺さぶるか」ということですね。僕らが実施していることは、長期的な目線のことなので、即座に成果が見えにくいものが多いんです。でも、「人と一緒に何かをする」とか、「子ども同士で上手につきあう」とか、そういう言葉で伝えにくいものを感覚として身につけてもらうということは、すごく大切にしている部分です。今後どう花開いていくかはわからないのですが、まさに「種まき」をしている感じですね。

夏休み期間のプログラムも人気が高い
夏休み期間のプログラムも人気が高い

学びの中で自然と生まれる人とのつながりやコミュニティへの意識

――家庭で出かけるのとは違う、他人同士の交流によって育まれるものもありますよね。

寺田さん:だからこその少し面白い傾向もありまして、最初はプログラムの内容を見て参加する、という動機の方が多いのですが、何年か続けていると「このリーダーと行きたいからこれに参加する」というような参加動機が増えてきます。保護者のみなさんとも長く付き合い続けていますから、だんだんお互いにプライベートの話をするような仲にもなって、コミュニティに自分たちが溶け込んでいく、という形になっています。そういう意味では、この「日野社会教育センター」には、「学ぶ」ということのほかに、「コミュニティ作り」という要素もあるとは思います。

阿部さん:そして、今寺田が話したように、最初はプログラム目的で参加していた人達も、そのうち「自分もリーダーみたいになりたい」とか、「うちの子もリーダーさんみたいに成長してほしい」と言ってくださったり。小学生の頃にここに参加していた子どもたちが、大学生になった時にまた戻ってきて、「一緒に手伝いたい」なんて言ってくれたりもします。そういったことは、僕らにもすごく励みになりますね。

センター内の様子
センター内の様子

山本さん:夏休みの期間だと、「自分が昔参加していて楽しかったので手伝いに来ました」という子もいますし、そうやってうまく循環している事が、この野外プログラムの特性になっています。これは申し込んでくれる親御さんも同じなんですよね。「自分が子どもの時に参加して楽しかったから、自分の子どもにも参加させたい」と。50年事業を続けているので、3世代で「孫にも」という方までいらっしゃいます。

講座の講師についても、もともと習っていた生徒さんが、いろんな資格を取得して「初心者クラスを立ち上げてみよう」と言って持ち込んでくれるケースや、ほかの地域で活躍をされていた方が、定年などで日野に移り住み、「講師をやってみたい」と声をかけてくださったり、いろんなきっかけで新しい講座が増えています。

新しい学びの場も生み出していく

――新しく企画している取り組みや今後のビジョンを教えてください。

寺田さん:いまひとつ企画をしているのは、11月の末に、「未来へのバトン」というタイトルで、気候変動など環境に関する内容のサミットを開きたいと思っています。要は環境に関する学習会ですが、それをオンラインを駆使して全国規模の形で開催したいと思っています。日本国内の49の団体、企業にコラボレーションしてもらう予定です。一般の方にも参加できて、少しでも関心のある人であれば、すとんと入ってくるような話にしたいと思っています。

――その先の展開も考えていらっしゃるのでしょうか?

寺田さん:今回はたまたま、テーマを気候変動にしましたけれど、そもそも、うちは「日野社会教育センター」という名前の組織ですから、社会課題をみんなで学ぶ機会を提案していければいいなと思っています。この施設はある意味、SDGsを横断するような施設になっています。今後も色々なテーマを取り上げて、広げていきたいと思っています。

お話し中の寺田さん
お話し中の寺田さん

――ほかにも最近スタートした新しい企画として、デンマークとのオンライン講座を開かれると聞きました。

阿部さん:これは、私と学生時代に一緒にここでボランティアをしていた女性が現在デンマーク在住でして。もともとこのセンターとデンマークとも交流が深く、当時、縁があってデンマークの介護施策の視察を何十年か続けていたのですが、そこに参加した彼女が、デンマークに移住して結婚もし、長年暮らしているんです。

山本さん:そこで、今は実際に行くことはできませんが、逆にオンラインで繋げば交通費などの負担をかけずに学べるのでは無いかと。目指しているのは「キッチンにも届く学び」です。自宅に居ながらも、本当のデンマークの普通の暮らしを垣間見ることができ、対話の中で考え、じぶんの暮らしを変えていくきっかけが見つかるような学びの時間を提供できればと思っています。

自然環境やライフスタイルの見直しと、ICTなどの新しいツールの活用など、時代の流れや利用者のニーズをとらえた面白い取り組みをしていければと思っています。

施設や国境の垣根も超えた学びの機会を提供
施設や国境の垣根も超えた学びの機会を提供

新しい住民をウエルカムな人柄も、ハード面も暮らしやすい「多摩平」

――多摩平の魅力について教えてください。

阿部さん:「日野社会教育センター」のある「A3街区」は、日野市の医療・教育・福祉を発信していく場所として整備された土地ですが、土地利用の企画をしていく過程において、関わる事業者さんが、企画の段階から一緒になって街づくりのことを話してきたという経緯があります。そういった事業者間の連携がしっかりしているのは、多摩平ならではの魅力なのかと思います。

また、そこに呼応するような形で、多摩平の自治会さんも、イベントを開催する時に協力してくださったり、色々な方がこの多摩平の中で役割をもって活動しているというのは、すごく面白いところなのかなと思います。

寺田さん:多摩平は非常に居心地がいいところです。困ることが何もないですよ。公園も多いし、夜には車も少ないですし、日本でも有数の緑地率ということで、緑も非常に多いですし、住環境はかなりいいと思います。

ハードの面でも、医療や福祉が充実していて、児童館も多いし、学校の距離感も理想的だし、交通についても「豊田」駅始発の電車もあってすごく便利です。繰り返しになりますけれど、本当に、「困ることは何もない街」だと思います。そこが魅力です。

多摩平の魅力を教えてくださる3人。
多摩平の魅力を教えてくださる3人。

山本さん:私は学生時代からこの近くに住んでいますけれど、緑が多いんです。伊豆に住んでいる家族が遊びに来た時に「緑が豊かなところだね」とびっくりしたくらい。また、ここ数年は駅前が賑やかになってきて、若い世代の方も増えましたよね。私自身も、実際に子育てをここでしてきましたけれど、これから自分が老後を過ごすということをイメージしても、やっぱり、住み続けたいと思うし、多摩平っていい街だなあと思います。

――最後に、これからこの街に住みたいという方に向けてメッセージをお願いします。

阿部さん:ここに引っ越してこられて、いろんな不安を抱えていたりする方もあるかと思いますが、日野の人たちはすごく優しくて、迎え入れるのが上手な方が多いですから、安心して地域のコミュニティに参加していただければと思います。当然、私達もウエルカムでお迎えしたいと思っています。面白い市民活動をされている方が、あちこちにいっぱいいらっしゃる街なので、夢中になれる何かを見つけてみてください。

幼児向け教室の様子。初めてでも参加しやすい、多彩な学びとコミュニティの入り口になっている。
幼児向け教室の様子。初めてでも参加しやすい、多彩な学びとコミュニティの入り口になっている。

寺田さん:そうは言っても、けっこう最初に参加するって、難易度が高いと思いますが、このセンターは良い意味で“中途半端”な施設だと思っています。そんなにディープな活動をしているわけじゃないので、最初の入り口としては丁度いい。ですから、子どもがきっかけでも、自分の趣味がきっかけでもいいのですが、どこかで一つつながりを作って、それが次につながって、また新しいところに飛び込んでいける、ということになればいいのかな、と思っています。ここはそういうきっかけにしやすい施設だと思うので、困ったらとりあえず、ここに来てみてください。

山本さん:私達は「学ぶ+楽しむ」というテーマを掲げていますが、本当に、暮らしに寄り添って、学びもいろんな形に変化できると思っています。私達が提供したいのは、決して“決まりきった学び”ではないので、一緒にいろんな形に変化をしていけるような方がどんどん来てくだされば、もっと面白くなっていくと思うので、皆さんと出会えるのを楽しみにしております!

公益財団法人 社会教育協会 日野社会教育センター
公益財団法人 社会教育協会 日野社会教育センター

日野社会教育センター

副館長・総務部部長 阿部和広さん(左)
地域コミュニティ部次長 寺田達也さん(中央)
事業部部長 山本江里子さん(右)
URL:https://hino-shakyo.com/
※この情報は2021(令和3)年9月時点のものです。

多彩な学びの体験と地域コミュニティへの入り口に!/日野社会教育センター(東京都)
所在地:東京都日野市多摩平3-1-13 
電話番号:042-582-3136
https://hino-shakyo.com