“地域の人たちと一緒に街の未来をつくる”五反田のまちづくり/品川区都市環境部都市開発課(東京都)
現在、「五反田計画(仮称)」と称される「旧ゆうぽうと」の跡地開発や、総合流通の拠点として知られる「TOCビル」の建て替えを機に、まちづくりへの機運が高まっている五反田エリア。近年は「五反田バレー」に象徴されるITベンチャー・スタートアップ企業が集まる街などとしても注目を集め、この街がどのような未来像を描きまちづくりを進められていくのかという点に関心が高まっている。
今回は品川区役所を訪ね、都市開発の視点から、五反田エリアのこれまでのまちづくりや今後のビジョンについてお話を伺った。
五反田エリアを含む〈大崎地区〉のこれまでの変遷
――五反田駅周辺エリアのまちづくりの歴史や取り組みについて教えてください。
都市開発課 多並さん:まず品川区では、2013(平成25)年2月に策定された『品川区まちづくりマスタープラン』という、まちづくりの方向性についてまとめた計画に基づき、まちづくりが進められています。
品川区のホームページからもご覧いただけますが、各地区ごとに方向性を整理をしており、本日は五反田エリアを含む〈大崎地区〉のまちづくりからお話いたします。
そもそも〈大崎地区〉は、現在の「目黒」駅、「大崎」駅、「五反田」駅がある一帯を指します。この辺りは、明治から大正にかけては、鉄道駅の開業と目黒川の水運の利便性もあり、機械、金属、化学工場などが多くあった場所です。またその周辺にも町工場が集積し、ものづくりのまちとして発展してきた歴史があります。
昭和に入ってからは戦災復興の流れの中で土地区画整理事業が行われ、街並みを整えたり、国道や大きな幹線道路が整備されたりしました。その後、1959(昭和 34)年に工場の新設や増設を規制する法律が制定されたことによって工場が郊外へと移転し、昭和50年代に入るとその跡地にマンションなどが建設されるようになりました。
品川区としては、そのような土地利用の動きに対して無秩序な開発が行われてしまうことを危惧し、再開発事業等による計画的なまちづくりを進めていくことを「品川区長期基本計画」に位置付けて、これまで事業を進めて参りました。
都の副都心の形成から、五反田に新たなまちづくりが広がる
――品川区において、五反田や周辺エリアはどのように位置付けられているのでしょうか?
多並さん:1982(昭和57)年に東京都が策定した「東京都長期計画」において、大崎・五反田エリアが都の副都心のひとつ(大崎副都心)に位置付けられました。 それを受け、品川区としてはまず「大崎」駅周辺の再開発事業に着手し、1987(昭和62)年竣工の「大崎ニューシティ」を皮切りに、「ゲートシティ大崎」や「大崎ウエストシティタワーズ」の完成など副都心の形成に向けた市街地整備が計画的に進められ、以前は工場しかなく閑散としていた駅周辺に、道路や公園等も整備され、賑わいの雰囲気が感じられる街へと一変しました。
その大崎から五反田にかけて広がりを見せるかたちで現在まちづくりが進んでいます。品川区としては、商業の街としても発展してきた五反田をさらに活性化させようという想いで、地域の方と一緒にまちづくりを進めているところです。
なかでも注目すべきは、「五反田」駅の南側の地区で「ゆうぽうと」と「TOCビル」という、これまでこの地区を形成してきた主要な2つの施設に関連するまちづくりです。どちらも建て替えの時期を迎えていたこともあり、これを契機に地域の特性に応じたまちづくりを計画的に進めるため、2011(平成23)年10月に『五反田駅周辺にぎわいゾーンまちづくりビジョン』をまとめました。
約30ヘクタールにおよぶ「五反田」駅周辺のまちづくりビジョン
――『五反田駅周辺にぎわいゾーンまちづくりビジョン』の概要について教えてください
多並さん:『五反田駅周辺にぎわいゾーンまちづくりビジョン』は、地元の町会や商店会、企業によって構成された「五反田地域街づくり協議会」と品川区が協働してまちづくりの方向性をまとめたものです。
対象となる地域は「五反田」駅から「TOCビル」にかけての約30ヘクタールの区域で、駅周辺と「ゆうぽうと」の跡地、「TOCビル」の3つの賑わいの拠点を繋げるかたちで計画的にまちづくりを進めて行こうという内容です。
「ゆうぽうと」跡地については、「五反田計画(仮称)」として既に新しい複合開発ビルの建設が進められており、2023(令和5)年12月に竣工を予定しています。また「TOCビル」も2022(令和4)年4月に都市計画決定され、まちづくりの手法を使って整備する方向で進んでいます。
まちの将来像としては、「人が集い交流を育むにぎわいづくり」「地域資源を活かした環境・景観づくり」「安全安心のまちづくり」「まちづくりを担う人づくり・しくみづくり」の4つの柱を基本方針に掲げて、地域全体に五反田らしい魅力と賑わいをもたらす構想です。
また近年、「五反田バレー」とも称されITベンチャーやスタートアップ企業が五反田エリアに集積し、まさに新しい時代の流れが出てきたところでもありますので、地域のみなさんと話し合いを重ねながら、次世代の五反田をどのようにしていくべきか、五反田駅周辺の市街地だけでなく池田山・島津山といった山の手側の歴史ある地区も含めて、この街にふさわしいまちづくり検討を進めていきたいと考えています。
「旧ゆうぽうと」「TOCビル」の建て替えは、地域の課題・ニーズをふまえた都市計画と共に
――ゆうぽうとの跡地開発やTOCビルの建て替えにおいて、品川区と連携・協力している点などがあれば教えてください。
多並さん:「ゆうぽうと」は1982(昭和57)年に開館した日本郵政株式会社の複合施設で、ホテルや結婚式場、フィットネスジムのほか、名門バレエ団が公演するなど“バレエの聖地”としても知られたホールを併設していました。
地域の方も長年親しまれてきた施設だったので、郵政さんから建て替えのお話があった際、品川区としては地元の方から「にぎわいの機能を残して欲しい」という要望があることをお伝えしました。それにより、新しい施設の一部を区が運営する多目的ホールとし、ビジネスから興行まで地域の方々が使いやすい賑わい拠点となるよう整備が進められています。
また「TOCビル」の建て替えについては、これは地域の課題としても挙がっていたことですが、この地区にはまだまだ公園や緑地が少ないため、敷地の中に大きな緑の公共空間を設けていただくことを都市計画の中で位置付けています。
地域の思いが主体となる、五反田らしい魅力ある街の姿へ
――そのほか、五反田ならではのまちづくりや注目すべき点はありますか?
多並さん:五反田エリアで進行中のまちづくりは、よくある駅前再開発事業とは違い、街全体でまちの魅力や賑わいをもたらす計画のため、いくつかある賑わいの拠点を繋ぐことや、ビジネスや商業など多様なニーズに対応した都市機能を強化すること、またその背部に居住空間を設けたりと、バランス良く街の機能を配置していくことが示されています。
また新しい五反田の象徴として、目黒川沿いの桜を活かしたまちづくりを展開することなども盛り込まれており、地域資源を活かしたまちづくりにも取り組みます。
余談ですが、目黒川沿いの桜は「品川区水辺千本桜計画」(2018~2020年度)によって植えられた桜もあり、ふるさと納税で寄付いただいたお金をもとに、区民などと協働しながら植栽整備に取り組んだものです。以前は考えられなかったのですが、水質浄化対策によって目黒川が舟運できるような観光資源になり、春は目黒川沿いに咲き誇る桜を眺めながら遊覧するお花見クルーズも好評です。
また10回目の開催を迎えたイベント「目黒川みんなのイルミネーション」も、冬に桜を楽しんでもらおうというアイデアから始まった取り組みで、「五反田」駅前のリバーステーションから「大崎ゲートシティ」の辺りまで、両岸合計で総延長約2.2キロメートルものイルミネーションが冬の桜を演出します。地域の方が、いかに目黒川の桜に愛着を持っているのがわかりますね。
このように五反田と大崎は徒歩圏にあり、それぞれの機能をうまく分担しながら、さらに発展していく地区だと考えています。また品川区としては、五反田、大崎、大井町を、それぞれの街の特色を生かしながら有機的に繋いだ都市軸の形成も考えています。
――今後の五反田のまちづくりについての思いや、未来に向けてのメッセージなどがあればお聞かせください。
五反田は商業の街として発展してきた歴史があり、五反田の活気が品川区全体の活気にもつながる部分があります。また多様なものが自然と集まり地元の方々が形成してきた街でもあり、品川区の中でも特色ある街のひとつです。
時代のニーズに合わなくなってきたところがあれば、品川区としても計画的にまちづくりを進められるよう誘導をしていかなくてはいけませんが、五反田の街に合うまちづくりのスタイルは、区が主導するというより、地域の方々とお話をさせていただきながら、みなさんが思い描く街の未来を一緒に考え実現していくことだと思っていますので、五反田にさらなる賑わいをもたらせるよう一緒に取り組んでいきたいと思います。
品川区都市環境部都市開発課
(右)今回お話を伺った 多並知広さん
(左)取材にご協力頂いた 片山武志さん
所在地:東京都品川区広町2-1-36
電話番号:03-3777-1111(代表)
URL:https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/
※この情報は2022(令和4)年6月時点のものです。
“地域の人たちと一緒に街の未来をつくる”五反田のまちづくり/品川区都市環境部都市開発課(東京都)
所在地:東京都品川区広町2-1-36
電話番号:03-3777-1111(代表)
開庁時間:8:30~17:00(一部業務:火曜日19:00まで)
休庁日:土・日曜日、祝日、年末年始(12月29日~1月3日)
※一部業務は日曜日も開庁
http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/